「もしもし……未来?」
『響?……大丈夫、もう終わったの?』
「うん、余裕だった。それでさ、お客様が1名いるから窓の鍵を開けておいてくれない?」
「え……いいけど、お客様がいるのに……窓?」
「今日、未来に攻撃しかけた白い鎧の女だよ」
「…………あぁ!!あの子のことね。分かったよ響。あんまり遅くならないでね?」
「うん!!」
16話
〜二課〜
響がクリスの元に現れる少し前、二課の本部では職員達が慌ただしく動いていた。
「◯◯町にノイズの反応あり!!少数ながらも、速いスピードで移動しています!!」
「なんだとッ!?誰か翼を呼んでこい!!くッ……響君が帰ったばかりだというのに……なんていうタイミングだ」
藤堯からの報告を受けすぐさま司令は指示を飛ばす。あまりにも唐突なことであったため、弦十郎が焦っているのが分かる。ノイズの出現を見逃すような立花響ではないという事を失念しているからだ。
「……ッ!?ノイズの反応についで、アウフヴァッヘン波形……この形は……イチイバルの反応も捉えました!!おそらく交戦しているものだと思われます!!」
「イチイバル……雪音クリス君が……何故!?」
その疑問は最もだ。彼女は自らノイズを使役していたのだから。今更ノイズに襲われる道理がない。
「イチイバルの反応が、薄くなっていく!?司令、これは……」
「おそらく……苦戦しているのだろうな。翼はまだか!!」
「先ほどから連絡をとっているのですが……あっ、今レッスン中です!!」
「ッ……緒川に連絡し「司令ッ!!ノイズの反応……ロストしました。ついでイチイバルもロスト」……倒したのか……?」
友里と翼について話したいた弦十郎は、藤堯からの報告に再度唖然とした。
「いえ……ほんの一瞬ですが、別のエネルギー反応がありました。おそらく……」
「響君、か……」
未知のエネルギー反応が有ればだいたい響の能力である。それが今の二課の認識だ。国の組織としてはどうか、というような判断だが仕方がない。異端技術の最先端である櫻井了子でさえ響の力を理解できていないのだから、世界中どこを探したって響きの力を理解できるような人間は表舞台にはいない。
「調査隊を送れ。おそらく塵すらも残ってないだろうが、出向かなければお上様が煩いからな。それと、翼への連絡も無しだ」
「「「「「「了解!!」」」」」」
二課の連携速度は速い。司令官が優秀な上、よく訓練されているエリートの職員たち。さらに拍車をかけているのは、ここ最近起こっているノイズ以外の異端技術による事件の数々によって鍛えられた実戦経験に基づく精神力の賜物だろう。普通、無い方がいいのだが……
〜リディアン音楽院寮〜
コンコン
夜の寮舎に小さく響く音。それに気付いたであろう部屋の主、小日向未来は、笑顔を浮かべて窓を開けた。
「お帰りなさい響」
「ただいま。先にコイツを入れるから少し避けてくれる?」
「あ、うん」
未来は少しだけ後ろに移動した。
「よいしょっと……コイツ、ちっこい癖に重たそうなものぶら下げやがって……世の女性が見たら泣くレベルだよ」
響きの手によって室内に放り込まれたのは、銀髪の少女、雪音クリス。割とひどい扱いだがもともと響は、彼女に対する興味など持ち合わせてはいない。しかも数時間前まで戦っていた間柄だ。特に問題はない。
「ちょっと響、女性には優しくしなきゃ」
「いいよ別に、さっきまで殺し合ってたんだから」
「ッ……それは、そうだけど……」
響から告げられる事実に思わず顔をしかめてしまう未来。
「あ……ごめん。そういうつもりじゃ……」
「ううん、いいの。私だってもう一般人じゃないから。さあ、この子の服を着替えさせましょう。ずぶ濡れじゃない。響も濡れてるし……寒くなかったの?」
「うっ……それは、大丈夫だった。……ていうか多分、ソイツ私達と同い年か少し上だと思う」
「…………え?」
新たな衝撃の事実に驚かされながらも、気を失っているクリスの世話をする2人。服を脱がせ身体を拭きサイズ的ブカブカなようなキツキツのような響のジャージを着せ、普段誰も寝ていない2段ベッドの下に寝かせる。
「ふぅ……あとはコイツが目覚めるのを待つだけ。全く、お姫様かっての」
「まあまあ、少し前までは響だってよく人助けしてたじゃない?久しぶりってことで、ね?」
「……まあ、未来がそういうのなら」
多少の愚痴を言いながらも2人はテーブルの方へ向かう。
「「いただきます」」
いつも通り向かい合って座る2人は、少し遅めの夕食をとり始める。今日は肉じゃがだ。
「ん〜、今日のご飯も美味しい。流石未来だね」
「良かった〜。少し煮込みすぎたかなって思ってたの」
「柔らかくて食べやすいよ」
そうして2人が食事を続けていると……
「ッ……こ……こは?」
「……やっとお目覚めかな、お姫様?」
「立花……響?それと……」
目を覚ましたクリスは、声の方向を見て響がいることを確認した。
「小日向未来っていいます。あの時はありがとう」
「……あの時?」
「お前が、一般人がいるって攻撃を逸らした相手だよ」
「……ああ、あの時のやつか。悪かったな……その、巻き込んで……」
「ううん。気にしてないから大丈夫」
「……そうか」
少し重い雰囲気となってしまった部屋だが、とある現象でそんな空気も霧散する。
グゥ〜
「ッ!?!?」
茹でダコのように顔を赤くしたクリス。今の今まで何も食べていなかった上に戦闘での疲労、そして響と未来が食べている夕飯の匂いがダイレクトにクリスの鼻を刺激していた。
「ふふっ……ちょっと待ってて。すぐに用意するから」
「図々しいにも程があるお腹だね〜?クフフ……」
「……るせぇ。……あたしの服じゃない?」
「私のだよ。お前が来てたやつはずぶ濡れだったから洗濯してる。朝までには乾くから、感謝して待ってろ」
「……あぁ」
「ところで、倒れる前のこと覚えてる?」
「ッ!!そうだ、あたしh……いッ!?」
響の言葉で何かを思い出したらしいクリスは、勢いよく立ち上がろうとして頭を2段ベッドの天井でぶつけた。響は悶えているクリスを少しの間眺めてから言う。
「今日は泊まっていけばいい。未来もその方が嬉しいみたいだし、お前だって体調が悪くてフィーネに負けました、なんて言い訳したくないだろ?」
「……そうだな。その、ありがと……な」
クリスは照れ臭そうに響に礼を言った。……しかし悪魔には聞こえない。
「んん?なんだって……いやー私聞こえなかったなー。ちょっともう言ってよ。いや、言え」
「ああん!?やっぱりテメェはキチg……いってぇ!?」
響の煽りが予想以上だったのか、クリスの煽り耐性がなさ過ぎるのか、クリスはまた頭をぶつけてしまった。
「ふっ……ベッドから出ればいいものを……んにゃ!?」
「こ〜ら、あんまり苛めないの。ほら、クリス?も来て一緒に食べましょう?」
ダインスレイフとの契約で肉体が強化されている響は、今し方くらった未来のチョップに痛みはない。しかし衝撃は消えないわけで、ばたりと床に倒れた。もちろん、未来だからこそするオーバーリアクションだが。
「……小日向だったな。その、食っていいのか?」
「そのつもりで作ったから。クリスが食べてくれないと余っちゃうの。だからクリスに食べて欲しい。ダメ……かな?」
「……分かったよ」
流石のクリスでも、未来の視線には耐えきれなかったようだ。
「むぐむぐ……御馳走でした!!私、先にお風呂入ってくるね〜」
「え……ふふ、行ってらっしゃい響」
いつのまにか復活していた響は、夕飯を食べ終えると颯爽と風呂に向かっていった。
「……なんだアイツ?」
「いいから、食べましょ?」
「いただきます」
実際は2つしかない席を開けるために響が気を使っただけなのだが……クリスは気づかない。
「ッ……」
「どう?」
「………ッ!!」
少々……いやとても食べ方だ汚いが、一口食べた後は勢いよく食べ始めるクリス。
「ふふ……そんなに勢いよく食べたら喉に詰まるよ……」
「むぐッ!?ッ〜〜!!」
「ああ!!ほらクリス、水飲んで!!」
案の定であった。
「……ぷはぁ。……めちゃくちゃ美味ぇ。こんなの、いつぶり……だろうな」
黄昏れながらクリスは呟く。それから十数分かけて食べ切ったクリスは、懐かしい一言を口に出した。
「ごちそう……さまでした」
「はい、お粗末様でした」
ピピピピ……
「あっ、洗濯出来たみたい。干してくるから、適当に寛いでて」
「え、あ、おい……なんなんだ」
洗濯機の方へ走って行ったらしい未来を見ながらクリスは呟く。
「なんでここまでする?あたしは、何も返せないのに。アイツらのことだって、傷つけようとしたのに……」
「だったら手伝って」
「ッ!?……立花響」
風呂上がりで頬を赤く染めた響は、タオルで頭を拭きながらクリスに話しかけた。
「別に、未来は何かお返しが欲しいなんて思っちゃいないよ。自分の手の届く範囲に助けられる人がいるなら助ける。全く……いつかのただのバカな私みたいだ」
タオルを首にかけながら台所に向かう響。どうやら皿を洗おうとしているらしい。クリスから響の顔は見えないが、声音からいい表情はしていないだろうということが窺える。
「あ、あたしも……やる」
「んじゃ、よろしく」
台所に立った2人は黙々と皿を洗い、拭き、乾燥機に入れる。
「あたしの事……二課に言ったのか?」
「いや?私、別に二課に所属してるわけじゃないし。報告義務なんてないね。未来は特別協力者っていう立場だけど」
「……そうか」
皿洗いを終えテーブルに戻ると、未来が微笑ましそうに2人を見ていた。
「……なんだよ?」
「響が私以外の人と親しそうに話してるの、久しぶりだな〜って思って」
「そう?…………確かに」
「お前、どんな生活してんの?」
見られていることに気づいたクリスは未来に尋ねられるが、予想外の言葉で返された。
「ああ未来、お風呂いいよ。後は乾かすだけだから」
「分かった。あっ、クリスも一緒に入ろ?」
「なッ!?なんであたしが!!……ひっ」
(未来がせっかく誘ってくれてるのに邪険に返すとは……いい度胸じゃないか白髪ロリ巨乳さんよォ……?羨ましい……)
『響、口調が俺みたいになってるぞ?というか、言えないからって俺に向かって言うんじゃねェ』
ヒトを殺せそうな目線をクリスに送る響。クリスが小さく悲鳴を上げるが未来は気づかない。
「わ……分かったから。い、一緒に入ればいいんだろ?」
「じゃあ早速行きましょ?」
「お、おい。って手を引くなッ!!」
「……未来も、変な奴気にいっちゃって。……はぁ、今更じゃん」
クリスの手を引きトコトコと風呂場に向かう未来。そんな彼女を横目に響はカーテンを開け夜空を見る。
「ねぇダイン。もしかして私……変わった?」
『そうさなァ……変わったのかァ変えられたのかァ……少なくとも、悪い方向には進んじゃいねェ。強いて言うなら……お前、コミュ症治ってきたよなァ……』
「……ダインって私のこと、コミュ症だと思ってたの?」
1人だからこそ、声を出してダインスレイフと会話をしている。
『まァな。それよりもだァ響、わざわざ1人きりの時間を作ったってことはァ……忘れていないようだなァ?』
「もちろん。で、アレの何がいけなかったの?」
アレ、と言うのは、二課のトレーニングルームでの翼との模擬戦、及びネフシュタンの鎧を纏ったクリスとの戦闘で使った『呪い』の羽のことだ。ダインスレイフは知らないが、『呪い』の一部となっているラースとの修行で手に入れた力でもある。
『お前、あの翼をどうやって形成している?』
「え、普通に『呪い』で作ってるけど?」
『そう言うことじゃねェ。『呪い』に何をして作っているかという問題だよォ』
「う〜ん、感覚的な問題だけど……まず『呪い』がどういうものか改めて【解析】する必要があると思ったんだ」
『おう』
「だから、内側のさらに内側……それこそ、人間では見えないレベルまで【分解】した」
『……アァ』
「そこからは簡単で、分解した『呪い』に私の考える……いや、感じる『羽』もしくは『翼』っていうものの形に【再構築】して作ってる」
『なるほどなァ……
(錬金術における必要事項をクリアした上で、無意識で【錬成陣】まで展開して【錬金術】で擬似的に『イカロスの羽』を再現してるっていうのかァ?ありえねェ……ていうか世界中の錬金術師共が発狂しそうだなァ)』
「だから特に問題はないと思うんだけど……?
(ごめんダイン。ラースから錬金術について学んだし、あの世界時間の経過が遅いらしいから1年分修行して来たんだ……流石に起きたら6時間ちょっとしか立ってなかったのには驚いたけどね)」
2人……人?の会話には色々とかくしごとが含まれている。しかしこれは互いを信じていないからではなく、信じているからこそ言わない方がいいという判断をしている。
『問題大有りだバカ。緊急事態以外ではあの方法で絶対にアレを使うな。詳しくは言わないが、使い過ぎると死ぬぞォ』
「……そうなの?私、一応ダインと契約して体も強くなってるし大丈夫だと思うんだけど……
(錬金のエネルギーはいつもより多めに『呪い』を焼却してるから私自身には影響ないんだよなぁ……ていうか、自分の大切な何かを焼却するわが無いじゃん。そんなことしてノイズへの『呪い』まで焼却したら本末転倒だし。錬金術を使ったら自分の全部が吹っ飛びました。なんて錬金術師いるわけもないし)」
どこかの未来の誰かさんのHPが0になりそうな響の胸中だが、ツッコミを入れる者はまだいない。
『肉体的な強さでどうにかなるもんじゃねェ。いいから絶対に使うんじゃねェぞ』
「……了解。ノイズみたいな雑魚との戦闘じゃ使わないよ」
『……それならいい』
一応、2人の間で結論は出たようだ。そんな時、風呂場の方からも声が聞こえてくる。
「クリス、髪を乾かすからじっとしてて」
「それくらいあたし1人でできる!!ッッこっち来んな未来!!」
もう風呂から上がるような時間が経ったのか、2人は心の中で驚き声を発さずに会話を始める。
(ダイン、話はもういいの?)
『アァ、充分だ。お前も不審に思われねェ程度に誤魔化せよォ……』
(もちろん……それにしても随分とまぁ仲良くなっちゃって。いつの間にか呼び捨てだし)
響は少しばかり……割と嫉妬の感情に駆られながらも就寝準備に向かった。
(いざとなったら、ガングニールを焼却してしまえばいいか。決戦用錬金術を使うにはちょうどいい火力が出そう)
〜風呂〜
「何も言わねぇんだな。あたしの体を見て……」
「ん〜、その大きなものが羨ましいくらいかな?」
「なりたくてなったわけじゃねえから諦めな。……そうか」
背中を流してもらっているクリスはその背中の電撃痕を気にしていたが、何も言わない未来の言葉を聞いて思わず笑ってしまったようだ。
「はじめて笑った……」
「あぁ?」
「クリスがウチに来てから初めてだな〜って思って」
「……そうかよ。あたしだって、人前で笑うのは久しぶりだ」
「どうして?友達と遊んだりしなかったの?」
「……友達いねぇんだ。地球の裏側で両親を殺されたあたしは、ずっと1人で生きてきたからな。生きることに必死で、友達なんて……作ってる暇なんかなかった」
「……その、ごめんなさい」
「別にいい。まず話すら聞かなかった奴もいるからな」
「あぁ……響には、後でちゃんと言っておくから……」
重い話をしていたのに、響の話になった瞬間、重苦しかった空気が霧散した。
「ねぇクリス」
「なんだ?」
「私と友達になって欲しい」
「はぁ……?別に、同情ならいらねぇ」
「同情じゃない!!私がクリスと友達になりたいと思ったから!!」
「お、おう……(急にテンションが上がったなコイツ)」
「で、ダメ……かな?」
「うぐッ……はぁ、分かった。だが勘違いするんじゃねぇ、仕方なくだからな!!(この上目使いは卑怯だろ……)」
未来の上目使いはシンフォギア奏者でさえ圧倒するらしい。
「「へくちっ!!」」
「「…………」」
「お風呂……はいろっか」
「……そうだな」
オリジナル聖遺物で最もヤバイ能力は?
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