17話
「雪音クリスは?」
「相当疲れてたらしくすぐ寝ちゃった」
「そう……ねぇ、未来。ここに風鳴翼のライブの関係者席チケットが2枚あるんだけど……行かない?」
学校の鞄から、昼休みに受け取った小包を開ける響。
「関係者席のチケット!?……そういえば弦十郎さんって」
「叔父だってさ。でもこれは本人から直接もらった」
スッとチケットを取り出し未来に見せた。
「響……あ、そういえばいつ?」
「明日」
「明日!?」
響はなんでもなさそうに言うが、未来はいくらなんでも急すぎる言葉に驚いた。
「何か予定あった?」
「ないけど……関係者席なんでしょ?私が行っても大丈夫なのかなぁって」
「二課の特別協力員になったんだから全くもって関係者だよ?」
その通りである。だが、今日その立場になった未来からすればただ書類を書いただけなので実感が薄いのだ。
「……確かに。……うん、響が誘ってくれたことは嬉しいけど、今回はいいかな」
「……そう」
目に見えて落ち込む響。さらに未来は……
「でも、代わりにクリスを連れて行ってあげて」
「え……なんでアイツ?」
「歌、大好きみたいだから」
「はぁ……?でもアイツ確か……」
響はネフシュタンを纏い、イチイバルも纏った時のクリスの発言、『あたしは歌が大嫌いだ』と言っていたのを思い出し、顔を顰める。
「さっきお風呂に入っていた時、無意識そうだったけど鼻歌を歌ってたの。それもすごく楽しそうに」
「……ふぅん。無自覚ねぇ……まぁいっか。了解、引き摺ってでもアイツを連れてくよ」
「な、仲良くね?」
〜翌日〜
「……で、なんでアタシはこんな所に来てんだ?」
「今の聞いてなかった?」
「聞いてたから、余計わかんねぇよ!!」
ショッピングモールへと来た響とクリス。響はどうやら前書きの内容をクリスに伝えたらしい。だが、クリスには伝わらなかったようだ。
「そんなドレスじゃ目立つから、わざわざ……わざわざ!!私が昼から買い物に付き合ってあげているのにその言い草は、なかなか挑発的じゃない?精神に異常をきたす程の『呪い』でも打ち込んでやろうか?」
「いちいち言動が怖いんだよ!!アタシは別にこの服で問題ねぇ!!大体アタシはなぁ、今日フィーネの屋敷に行く予定だったんだぞ!!」
「あっそう。じゃあ行けばいいんじゃない?そうなったら私、帰って未来に、服もいらないと言って颯爽とどっかに逃げて行った恩知らずとして伝えないといけないんだけど……まあ仕方ないよね〜」
「うぐッ!?……それは」
脅しである。完全にクリスは黙った。しかし本日はよく喋る響であるが仕方がない。響にとってクリスは初めて出会った、極上の『呪い』を自ら宿す人間。さらに今日は風鳴翼のライブだということもあってテンションが高いのだ。
「冗談。さっさと買いに行くよ。私は服とかよく分かんないから店員に選ばせるけど、覚悟しといて」
「お前……女としてそれはどうなんだよ……ていうか覚悟?」
クリスにもブーメランだが境遇が境遇なので割愛。
作者にはファッションのセンスがないので分からないが、女友達曰く「一度店員に聞いて30分ほど着せ替え人形になってた」らしいのでそういう事なのだろう。
〜数時間後〜
「……逆に目立つかも?」
「きゃあ〜〜!!お客様、すごくお似合いです!!あ、でもこっちも良いかも!!」
「これで良い!!だからもうこっちくんなぁ!!」
1時間ほど響がクリスを服屋に放逐し、同じような状況だったので1時間おきに様子を見に来てまだこれだ。今クリスが試着している服は所謂、【雪音クリスanother】というアプリ版のイベントで並行世界のクリスが着ていた私服だ。(決して作者が私服を考えれなかったわけではない)
いったい何着の着たのだろうか。響はその光景にゾッとしながらも一度クリスを店員から引っこ抜き尋ねた。
「会計は私が。いくらですか?」
「ああ、ええと……×××円になります。あら……貴方もなかなか……ちょっと試着して行きまs……「いいです」……あっはい」
会計を終え、クリスを連れて店を出た響とクリス。買った服はそのまま着ている。
「なんか落ちつかねぇ……その、視線が……」
「気のせいだよ。堂々としてろ(……そりゃあ目立つだろうね。こんな美少女が街中にいたら)」
いろんなところから注目を浴びているクリス。何故かその視線は男性が多い。いったい何故だろうか?……いったい何故だろうか!!
「もうお昼過ぎてるし……体質的に食べられないものは?」
「そんなもん気にして生きる余裕なんてなかったから、なんでもいい」
「あっそう、じゃあ適当に買ってくるからそこら辺で待ってて」
「おう」
数分後、本当に適当に響が一階の食料品売り場から選んだパンを持ってクリスがいた場所に戻ってきた。しかし……
「いいから行こうぜ。俺たちがもっといい場所に連れて行ってあげるからさ」
「そうそう。君も絶対楽しいと思うし!!」
「うっせぇ!!あたしは行かねぇって言ってんだろ!!しつこいんだよテメェら!!」
(ナンパされてる……)
響はそう思うと同時に、クリスのもとに駆け寄りクリスをナンパしていた男2人に話しかけた。
「あの、私の連れなんでやめてもらえます?」
「……お前」
「ああ?……って、君もすごい可愛いじゃん。この子の連れ?だったら一緒に遊ぼうぜ!!」
「話聞いてます?今日はこの後予定あるんで。失礼します」
声のトーンの変わらない、まるで機械音声のような感情のない声で言う響。そのままクリスの手を引き連れて行こうとするが……
「ちょっと待てよ。せっかく俺たちが誘ってあげてるのにその態度はなんなの?もうちょっと嬉しそうにしてもいいんじゃない?」
「ッ……私に触るな」
「いってッ……あーあお前、出しちゃったね?」
(面倒……ノイズの相手をしてる方が楽だな。さっさと終わらせよう)
「そっちに構ってる暇はない。さっさと他のやつでも探しに行けば?」
「この女……調子に乗って!!」
「私がここで、悲鳴をあげたらどうなるんだろうね」
「ッ!?」
ここはショッピングモールの一階。食料品売り場の近くとあって客は大きい。少しでも騒ぎが起きればすぐに警備員が来るだろう。
(……あきらかにナンパされてるのが見えてるのに、他の人は誰も何もしないんだ。……あの時と一緒)
他の客の視線が響達に向いている。しかし、皆が見て見ぬ振りだ。
「おい、こんな奴らもうほっといて行こうぜ」
「……チッ。分かったよ」
そう言って男2人組は去っていった。
「……だっさ」
「お、おい、お前なんで……」
「さっさと行くよ。無駄な時間だった。あ、コレ適当に食べて」
「え、あ、おいちょっと……って、あんぱん?」
そして、少し早足でライブ会場までの道のりを歩く。
「お前、飯は?」
「別に食べなくても問題無い」
「……聖遺物との融合、か」
「分かってるならいちいち言わないでよ。自分で望んだ結果だから後悔もないし」
響の言葉を聞いてクリスの顔が強張る。だが響はなんともなさそうだ。
数十分ほど歩いた2人は、ライブ会場へと到着した。受付でチケットを見せると係員が驚いた様子で関係者席へ案内してくれた。随分と待遇がいい。
「……驚く程あっけなく通してくれるんだな」
「私たちは一応、日本で唯一ノイズに対抗できる存在。邪険に扱って機嫌を損ねて別の国に行っちゃいました、とか冗談にもならないから当たり前だよ」
途中で二課らしき人間もちらほらといたから、おそらく雪音クリスに警戒をしているんだろう。響はそんなことを考えながら目を瞑って開演を待っている。
「…………ッ」
「どうした?」
「……少しお手洗いに行ってくる。二課っぽい人が来たら、立花響を敵に回したいのか?って言えば大丈夫だから」
「お前やっぱ怖いわ」
ピクッと響の眉が動き、目を開けた響はクリスに一言告げてから席を立った。
(ダイン……なんか散らばって出てくる?)
『そのようだなァ……目的を持った感じの出現の仕方じゃなねェ』
(……無粋なババァだよ全く)
どうやらノイズの出現を感知したらしい。響は人の波をスルスルと通り抜け、人目につかないところから大きく跳躍しライブ会場で一番高いところへと登った。
「今日は……風鳴翼の、本当の絶唱の日だ。私はそんな彼女の覚悟を知りたい……なのに……お前はいつも邪魔をする!!ライブの日も!!流星群の日も!!今日も!!……出てきた瞬間に終わらせてやるよ木偶人形」
響は空に向かって吠える。そして右腕にダインスレイフを出現させ空に向ける。
『BLOOMED METEOR』
切先から放たれた『呪い』のエネルギーは響の前方の街の至る所、その上空に飛んでいった。
「…………戻ろうかダイン」
『あァ……』
それを尻目に、響はダインスレイフを納め観客席に戻る。
「遅かったじゃねえか」
「混んでてね。もうすぐ始まるから席に着け」
ぶっきらぼうに返す響。しかしクリスは特に気にしていないようだ。
程なくして会場の全ての電気が消える。ステージ前方に照明が集中し、翼が出てきた。会場は音もなくすべての人間が、ライブが始まるのを待っている。
(……聞かせてもらいましょうか。貴女の歌を)
「…………」
不意に響と翼の目があった。翼は響とクリスの姿を見て目を細めるが、すぐに前を向いた。
(それでいい。今はただ……歌って。どうしようもないゴミ処理だけは私がやるから)
前奏が始まった。クリスは少し眉を潜めながら聞き始めているがその口元は笑っている。
『〜〜〜♪』(FLIGHT FEATHERS)
「Deja -vuみたいなカンカク 制裁みたいなプラトニック
かさね合うメモリー 届いて wishing」
(…………………あぁ……やっぱり好きだなぁ……この人の歌。嫌いにはなれないや)
翼の歌を聴きながら、響は思う。辺りを見渡せば青いペンライトが至る所で振られていて2年前の光景を思い出させた。
(今の私はあの頃と違って力がある……だから)
「……?」
響は翼の歌に耳を傾けながら右腕を肩の高さまで上げた。クリスが怪訝な目で響を見る。
(………消え失せろ)
人差し指を伸ばし、手首を曲げて腕を下ろさずてだけを下に向けた。
『…………全滅だ。流石だぜェ響』
(当たり前だよ……私がノイズを逃すわけないじゃん)
響が行ったことは単純だ。予めノイズが出現するであろう座標の上空に『呪い』を待機させておき、ノイズが出たと同時に全てを破壊し尽くしただけだ。一瞬現れて一瞬で消えたノイズに、二課本部は今頃大パニックだろう。まあこういうことは誰のせいなのか分かっているだろうが。
「多分それだけの 物語なんだ信じて My road」
曲が終わった。クリスに至っては頭を揺らしてリズムをとっている。
「……お前、なんで泣いてんだ?」
「へ……?あれ……私、泣いて……?」
クリスが響を見るとその瞳からツーっと涙の筋が出来ていた。なんだかんだ言って響はツヴァイウィングのファンだ。当時のライブでは本当に心躍ったし、事件後のリハビリだってツヴァイウィングの曲を聞いたから頑張れた。響の変化はその後に起こったことであり、その根本までは変わっていないのだ。今の響は、心の底の底から感動している。
「……ごめん、見ないで」
「わあったよ」
響の声にクリスは手をひらひらと振りながら翼の方を見た。どうやら海外進出のことについて話しているようだ。
(……明日にでも出ていこう。世話になったけど、あたしは……フィーネに)
クリスは翼を見ながら己の決意を新たにした。
「……んじゃ、帰ろうかクリス。もう用はないから」
「あぁ?まだアイツの話は終わってないぞ?」
どうやら涙が止まったらしい響は落ち着いた声でクリスに告げた。
「興味ない。私は風鳴翼の歌を聞きにきただけだからね……ゴミ処理もいい感じに出来たし」
「素直じゃねえのな」
「お互い様」
軽口を叩き合いながら2人は会場を後にする。どこかの町では、所々で炭素の塊が発見され一時期大騒ぎになったとかなってないとか。しかし、人的被害は全くなかったらしい。
(次に会うのはいつかな。戦場の歌も楽しみにしてるよ翼さん)
〜???〜
「素晴らしい!!天羽奏がいない中でここまでフォニックゲイン……やはり正規適合者は逸材か」
とある空間で虹色に輝くソレを見ながらその女は叫ぶ。
「さて……あとはデュランダルのみ。これについては問題無い。懸念材料の立花響さえ封じてしまえば残りの奏者はたわいもない。ようやく……ようやくこれで……ッ!!」
両腕を広げて喜びをあらわにする女。
「もう一度……会うために……エンキ……※※※※※※様」
決戦の時は近い
オリジナル聖遺物で最もヤバイ能力は?
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自在に姿を隠す
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空気操作
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純粋な身体能力向上
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視界の共有
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空間作成