19話
「せっかく来てやったのに開口一番それかよ!?」
「当たり前だ。あのババァが屋敷に居ないんだからお前がノイズのところに来るのは分かってた。もうちょっと早く来れると思ってたんだけどなぁ……?」
「ぐぅ……渋滞のせいで時間がかかったんだ!!」
「シンフォギア奏者が渋滞に巻き込まれるってなにさ」
ドヤ顔で登場したクリスを若干キレた様子で追及する響。しかし、その怒りで『呪い』が少しずつ増えて行っているのでもっとガッツリ責めきれないのが響にとって面倒な部分だろう。
『……俺の契約者って感情が豊かじゃねェと向いてないなァ……』
ダインスレイフの声は響にも届かないが、誰かに聞いてほしい愚痴のような口調だった。
「立花……彼女は……一体?」
『助っ人だ。翼、クリス君と響君の2人と協力してノイズを殲滅してくれ』
「ッ…司令。助っ人、というのは分かりましたが……しかし彼女は!!」
今まで何度も敵対していた雪音クリスをそう簡単に信じることはできない。口には出さなかったがそういうニュアンスが含まれている。
「はん、あたしはあたしで勝手にやらせて貰うぜ。仲良しこよしはてめぇらだけでやってな」
「……ねぇクリス。食費、光熱費、水道代、宿代、未来と2人きりの時間代……忘れてないよね?」
「げっ……」
スッと、目から光を消した響がクリスに問い掛けた。若干おかしなものが混ざっている気もするがきっと気のせいだろう。面倒だというような声を上げたクリスが響を見て一歩引く。
「……大丈夫そうですね」
『そうだろう?』
2人のやりとりを見て、翼は少し不満ながらも納得。とりあえず敵対する事はないだろうと考えを改めた。
「後にしろ!!ああ、それとほらよ。あの赤いシャツのおっさんからだ」
「なにこれ……ああ」
クリスから投げ渡されたものを響は受け取る。未来やクリスも受け取った二課の通信機だ。一時期は響ももらっていたので、その形や手触りを少し懐かしみながら懐へと納めた。そして、弦十郎と話しているであろう翼の方を向いて翼越しに本部へ告げる。
「『しつこいですね』って言ったら『性分だからな』って返されるのは分かっているので敢えて言いません。都合の良いクレジットカードとして使わせて貰います」
『構わない。何かあればいつでも連絡してきてくれ。出来る限り力になろう』
「……ふっ」
自信たっぷりの声が聞こえる。これほど気持ちの良い人間は久しぶりだ、と響とダインスレイフは考えるが今はその時ではない。すぐに眉間にシワを寄せ空を飛ぶノイズを見上げた。
「クリス、お前の武器でアレを潰せる?」
「当然ッ」
ニヤリとしながら答えるクリス。どうやら虚言ではないらしい。
「そう。じゃあ私が地上のゴミ共を片付ける。翼さんはクリスのカバーに入って下さい。そろそろ限界でしょう?」
「え、ええ……任せて。それより立花、今私のこと……」
「はぁ?……あっ……ほら、さっさと動くッ!!」
簡易的に指示をした響だが、いつのまにか翼のことをフルネームではなく名前で呼んでいたことに気付いた。少し気まずくなった響だが、急に後ろを向くと地上に蔓延るノイズへと掛けて行った。どうやら気恥ずかかったらしい。
「立花……認められた、ということで良いのかしら……」
「アンタの歌を聴いてアイツ、泣いてた」
「ッ……そう……あの子の心に何かを残せたのなら、歌って良かったわ」
「まぁ……あたしも、良かったと思う」
残された2人は話す。だが、その雰囲気は戦っていた時のような険悪なものではない。
「ありがとう。私の歌を聴いてくれて」
「ッ!?……うっせ。さてと、いっちょやるかッ!!アイツにこれ以上デカい顔されるのも気に食わねぇ!!」
「ええ。あの子の前で、みっともない所は見せられないわッ!!」
響は意図していない、彼女の嘘偽りない本音が翼とクリスという2人を繋いだ事を。2人にはとある共通点がある。それは響によって『呪い』を撃ち込まれたことだ。トラウマを抉るような『呪い』を乗り越えた2人に宿っているのはすでに単純な『呪い』ではない。試練を乗り越えた2人へ贈る響とダインスレイフからの『祝い』だ。
「「ッ!!」」
「なに……これは?」
「力が湧いてくるみてぇなこの感覚……だけど」
「「暖かい!!」」
その言葉を皮切りに2人は動き出す。
「後ろは任せなさい。貴女には指一本触れさせないッ!!」
「デカブツは任せな!!あたしの本気を見せてやるッ!!」(繋いだ手だけが紡ぐもの)
イチイバルの伴奏が始まりクリスが歌う。背中のパーツが拡張され肥大化する。それはまるでなにかの発射台のようだ。続くように腰のアーマーが展開。小型のミサイルが大量に収納されているのが見える。腕のアームドギアの形状をも変化させながらクリスはさらに歌う。
ーーー立花響からは失いかけた命を
小日向未来からは人の優しさを
風鳴翼からは歌の楽しさを
風鳴弦十郎からは大人の在り方を
フィーネからはイチイバルをーーー
(いろんな人からいろんなものを貰って、あたしは何を返せるんだろう。特にフィーネだ。例えあたしを裏切っていたとしても、フィーネはずっと私を育ててくれた。フィーネがくれたイチイバルが無かったらあたしはアイツらと出会えなかった。でも……あたしはフィーネに何が出来る?)
歌いながらふと周りを見渡せば、漆黒のエネルギーの奔流が吹き荒れ、蒼き斬撃が飛ぶ。チャージ中のクリスにノイズを近づけさせないような攻撃に思わずクリスは笑いが溢れた。
(戦争は嫌いだ。でも……誰かが守ってくれて、こうやって頼られて……悪い気はしねぇな)
ついに目を瞑ったクリス。その直後チャージが終わったのかクリスの背中に巨大なミサイルが4機出現した。
「嗚呼ッ……二度と…二度と!!迷わないッ!!」
『MEGA DETH QUARTET』
展開した全部装から放たれたミサイルとガトリングの雨は空中を飛行する小型ノイズを木っ端微塵にしていく。ついに発射された大型ミサイルは残り3体となった大型ノイズへ向けて1、1、2ずつで票的へ突き進む。途中それに気づいた小型ノイズ達が邪魔を試みるも、全く違う方向から飛んでくる大量の『呪い』の弾丸や空からミサイルだけを器用に避けて降り注ぐ『千ノ落涙』によって壊滅した。
「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」
奏者3人の想いが一つになった瞬間、3体の大型ノイズに同時にミサイルが命中しその体を炭素へと変えていった。殲滅完了だ。
それを見届けた3人は一か所に集まった。翼は走って、響は飛んで来たのだ。
「やるじゃん」
「よくやってくれたわ」
「お、おう……ったりめぇだ!!」
響と翼からの素直な賛辞に思わず強がってしまったクリスだが、拗れていたはずの関係を思い出し、気に障ったのではないかと少し眉を潜めた。しかし2人はなんて事はないという表情だ。
「さて……んじゃ、私は帰りますね。もう用はありません。クリスはまだ宿が無いんだったらウチに来い」
「もういい。仕方ねぇからコイツらのとこに行くからな」
「それはありがたいけど……立花、私達に何かしたかしら?」
「え、特に何も?」
「ああ!そういやそうだったぜ。急にこう……体が熱くなってよ、力が湧いてくるような感覚になった。あんな変なことが出来るのはお前しかいねぇだろ」
「……いや、知らない」
『…………なるほどなァ。やるじゃねぇかァ』
響には身に覚えが無いようだが、ダインスレイフは理解した。だとしても響には伝えないらしい。
「あー疲れた……」
響が寮に向かって歩く。いつもなら『呪い』を使って帰る響だが、どうやら歩いて帰るほどに『呪い』を消費したようだ。
と、その時……
「『ッ!?!?』」
ガバッと、勢い良く響が別の方向を向いた。
「……どうしたんだ?」
「立花?」
翼とクリスは、側から見れば変な動きをしている響に問いかける。そしてその瞬間響が動いた。
「未来ッ!!」
『ッ、仕方ねェ……俺もちょっと出すかァ』
響の背中に現れる錬成陣。そして完成したのは、錬金術を用いて作った『イーカロスの羽』だ。ダインスレイフからストップがかかっていたものだが、2人だけが知る危機にダインスレイフも使用を許可した。
そのまま、先程までとは比べられない勢いで飛び出した響は真っ直ぐ空を駆けた。
「……いや、結局なんなんだよ」
「あの方向……ッ、まさかリディアン?」
「あぁ?」
「本部……本部?応答して下さい……ダメね。急ぎましょう!!もしかしたら二課が、学校が襲われているかもしれない!!」
「んなッ!?早く言え、行くぞ!!」
「ええ!!」
響を追うように2人も走る。翼のバイクはすでに爆散しているため2人とも走っての移動だ。
「未来……無事でいて……」
オリジナル聖遺物で最もヤバイ能力は?
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