20話
それは突然現れた。半透明だが、この世界に生きる誰もが知っている災厄。
ノイズである。
「落ち着いて!!シェルターはこっちです!!落ち着いて避難してください!!」
彼らに対抗する手段はない。触れられれば人間の体は炭素へと変換され死亡する。自然災害と認識されるヤツらは人間の身を目標とし、壁も障害物も全てを擦り抜けて人を炭素に変える。
リディアンに現れたノイズ達は、やはり見境なく人間を襲っている。その中でも、二課の協力員となっている未来は懸命に生徒達を逃そうを声を張っている。外では一課の隊員達がノイズへ向けて攻撃し時間を稼いでいるがやはりただの人間。ノイズへの射撃は一向にダメージを与えることができずただその身を穿たれるのみだ。
「こっちは終わった……私も早く行かなきゃ!!」
手に持つ携帯には響からのメールが来ていた。『ノイズが出るから二課本部に逃げて』と言う趣旨の内容だったが、昔の響に似たのか正義感に富んだ未来は先に生徒達を逃すことを優先したのだ。
しかし、無情にもヤツらは来る。校舎の壁を擦り抜けた3体のノイズが未来を発見。突撃してきた。
「危ないッ!!」
「きゃっ!?」
間一髪、廊下から飛びついてきた男性……緒川慎二によってノイズの攻撃を躱した。
「緒川さん!?」
「大丈夫のようですね……でも、次上手く行く保証はありませんよ。さあ早く!!」
「ッ、はい!!」
2人は教員室がある中央棟まで走る。そこまで行けば二課本部へと通じるエレベーターシャフトがあるからだ。しかし、そんな2人を逃すノイズではない。体勢を立て直しさらに追撃を仕掛けてきた。
「未来さんッ!!」
「えっ……」
元々陸上部で走ることには自信のある未来だが、後ろから迫ってくるノイズを避け切る事は難しい。緒川の声で後ろを振り向くと、すでに未来の背中に触れるか、という距離までノイズが迫っていた。
ギャリィンッ!!
「「ッ!?」」
その瞬間に、金属音のような音と共に未来の体から出てきた白い膜が未来からノイズを弾き消滅させる。
「これは……一体……」
「これって……あの時の?」
以前、響が寝ていた時に会話をした魔剣ダインスレイフ。彼は未来に『呪い』を凝縮した球体を渡した。その後の流れで白く染まってしまったが、未来のピンチに反応したのだ。その膜は、少しずつ形を変えていき、小さな球体になった。
「ダインスレイフさん……ありがとうございます……行きましょう!!」
「え、ええ…」
そのまま未来の中へと戻っていった球体。未来はダインスレイフに感謝しながら、本部へのエレベーターに乗ったのだった。地下で待ち受ける……最悪の敵がいるとも知らずに……
〜十数分後、響〜
「どこ……どこにいるの未来ッ!!」
最高速で飛行しいち早くリディアンに駆けつけた響は、未だ炭化させる人間を探し続けていたノイズ達を瞬殺。先ほどの疲労などまるで感じさせないような気迫で未来を探していた。
走り回っていれば嫌でも見えてくる炭素の山に響は少し目を細めるが、そんなことはもはや気にしていられない。たった1人の親友がこの山に紛れていない事を切に祈りながら、自分の記憶を頼りに二課へのエレベーターシャフトへと駆け抜ける。
そして……
「案外遅かったな、ガングニール」
「……貴様……フィーネッ!!」
校舎へと辿り着くと上から降ってくる声。黄金の鎧を纏った美女……フィーネの姿がそこにあった。
『…………チッ』
「未来は何処だッ!!」
「あの小娘か……ふっ、私の知ったことではないな」
煽るようなフィーネの言葉が、響を更に苛立たせる。
「未来に……未来に何かあったら……私は貴様を許さない……」
「許さない?ハッ!!笑わせてくれる……消耗した今のお前に何ができるというのだ?」
フィーネの言う通り、先の戦闘で響は馬鹿にならないほどの消耗をしている。今はダインスレイフが補助をしているため多少持ってはいるが、本当なら今すぐ体を休めなければいけない。『呪い』の行使は、響が思っている以上に負担がかかるからだ。もはや雑魚としか見ていないノイズとの戦闘では、響の……ダインスレイフを扱う者の弱点とも言える『継戦能力』の無さを自覚することはできなかったのだ。
『……ラースのバカはそれに気付かず、自分をかのイカロスのように全能だと思って逝ったんだっけなァ……クソッ、嫌なことを思い出す』
「出来るさ……今の私なら」
「魔剣ダインスレイフは万能ではない。一度鞘から抜かれれば血を吸うまで鞘に収まることはない……故に魔剣。限界を超えた貴様が使えばその対価は……クククッ、分からないほど阿呆ではないだろう?小賢しく私の邪魔をしてきた貴様ならなあ?」
ダインスレイフを握る響の右手が強く握られる。そんなことはわかっている、と顔に憤怒の表情を浮かべながら響は構え直した。
「ダイン……初めてだけど、使うよ」
『……仕方ねェ、そうでもしないと止まらねェもんなァ……お前も……
「フィーネ……貴様はここで……殺すッ!!ばっk……「させるか」……なッ!?」
響がダインスレイフを天に突き上げ、何かを叫ぼうとしたと同時に……目の前が闇で染まった。
「そうだな……私は少し舐めていたのかもしれない。計画の副需品に過ぎないシンフォギアはともかく、不完全とはいえその身に宿すのはダインスレイフ……万が一にも私の計画が崩されてはたまらん」
得意げに、しかし憎しげにフィーネは言う。響は、戯言を聞く暇はないと攻撃を仕掛けようとするがフィーネの纏う雰囲気が変わったことに気づき動きを止めた。
「だから私は……貴様を排除しよう……顕現せよ【コスモス】ッ!!5000年の研鑽……その集大成を貴様と言う個に刻みつけるッ!!無限とも言える世界で余生を過ごすといい……立花響ッ!!」
そして、銀河の様な柄をした卵が響の目の前に現れ……弾けた。
「ダイン……ッ!!」
『響ッ!?』
フィーネが見たのは、響と彼女の手から離れる魔剣が闇へと飲み込まれていく姿だった。
「ふふふ……ふははははははは!!!!」
「そん……な……立花ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ウソ……だろ……」
高笑いするフィーネに聞こえてくるのは聞き慣れた2人の声。翼とクリスだ。
「クククッ……やっと来たか……シンフォギア。お前達の信じる者は……消えたぞ?」
「「ッ……許さないッ!!」」
フィーネの煽りに、目の前で消えた少女を見てしまった翼とクリスは……憤怒の表情を浮かべながら
そして……世界から立花響とダインスレイフが消失した。
〜響〜
「…………ここは?」
ただ広いだけの空間の中で、響は目覚めた。キョロキョロと周りを見渡して少し惚けている。
「確か私……ッ!!ダインッ!!……契約は……切れてない、大丈夫。『呪い』は……使える。錬金術も……うん」
薄れゆく意識の中でダインスレイフを手放してしまったことを思い出した響は、両手から『呪い』を吹き出させたり、『イーカロスの羽』が使えることを確認し安堵した。
「あのババァ……なにしたの?あの街にこんな場所は無かった。それに……」
不審に思いながら響は空を見上げた。美しい……なんとなくだが、響はそう思った。いつも眺めていたあの星空に近い。しかし、何故か星一つ一つがはっきり見えて、距離が近いように感じる。
「アイツが作った空間……大きな宇宙。それに比べて私は……なんて小さい存在なのか……なぁんて、似合わないことは言わない方がいいね」
立ち止まっていても仕方がない、そう考えた響は警戒しつつ少しずつ前に歩き出した。
そのまま歩くこと数分、全くと言っても良いほど変わらない景色に響は立ち止まった。
「…………キリがない。だったら、ッ!!」
掌に『呪い』を纏わせ地面を触る。すると『呪い』が360度に広がり始めた。目を瞑って何かを感じ取っている響は10秒ほどで手を離す。
「いつまで経っても端につかない。本当にここ、なに?」
立ち上がって天を仰いだ響はため息をひとつ吐き……眉を潜めた。
「Balwisyall nescell gungnir tron」
突然聖詠を唱え全身にガングニールを纏った。腰を下げ右腕を引く、一度もしたことがない構えのようなものをしながら響はバイザー越しにある一点を見つめている。
『『『『『『%%*¥z%#』』』』』』
「ノイズッ!!」
空間が歪み、現れた地上型ノイズに顔を歪ませた響は思い切り地面を踏み込みノイズへと突っ込んだ。
「はぁっ!!」
最前列の一体を殴り飛ばし後ろにいたノイズ達を巻き添えにして消滅させる。そのまま垂直にジャンプした響は両腕のハンマーパーツを思い切り伸ばして落下のタイミングで地面に叩きつけた。
「消えろ……ッ!!」
衝撃波が次々とノイズを消滅させていく。2、3体残ったようだが、すぐさま響が掌から『呪い』の弾丸を射出し風穴を開けた。
「炭化してない?」
ノイズを倒し切った響は改めて辺りを見渡し、倒したノイズが炭素になってないことに気づいた。それどころかチリ一つ残っておらず、響が破壊した地面の陥没だけが残っている。響はノイズの気配が残ってないことを確認してシンフォギアを解いた。その瞬間……
「ッ……意識が……」
急に眠気が響を襲い瞬く間にその場に崩れ落ちた。
…
……き
………び……き
…………ひびき……
………もう……ひびき!!
「ッ!!(未来の声!?)」
聞き覚えのある声に響の意識が覚醒し体を起こした。
「……私の部屋?」
「全く……早く起きてよ響。今日は買い物に行くんでしょ?」
「未来、何を言って……?」
いつも自分が寝ているベッドで目を覚ました響は、キッチンへと歩く未来の姿を見て目を開く。
(さっきの空間は?リディアンは?そもそもなんでウチに……?)
全く状況が分からない。響は目の前の光景に疑問を抱き思考を続ける。しかし、
「響……ぼうっとしてどうしたの?熱でもある?」
「ッ……何でもないよ未来。ちょっと寝ぼけてるだけ」
「そう。体調が悪かったらすぐ言ってね?」
「うん(いつもの未来……特に違和感はない)」
普段の未来と変わらない様子で話しかけてくる彼女に思考を中断し、2段ベッドから降りる。不審な点しか見当たらないが何も行動しないよりはマシだと思ったからだ。
「ほら、ご飯出来たから食べよう?」
「りょうか〜い」
2人はいつも通りに椅子に座り向かい合う。一汁三菜が守られた健康的な食事を前に未来らしい、と思った響は少し笑いながら返事をした。
「それじゃあ……」
「うん」
「「いただきます」」
グサッ
「…………は?」
不快な音が聞こえ、響が目を見開いた。
「あぅ……ひ……びき……?」
「あぁ………ぁぁあぁ……あぁぁぁぁぁっ!!」
響の目に映るのは、突然現れたオレンジの人型ノイズが未来の胸を後ろから穿ったこと。そこを中心として少しずつ未来の体が黒く染まる。ノイズの能力である炭素変換だ。
「…………ひ、びき」
「あ……………え、み……く……?」
ありえない、信じられない、そんな感情が響を支配する。しかしそれを自覚するにはもう遅い。伸ばされた未来の手を響が掴んだ瞬間……未来が完全に炭素の塵と化した。
『#%@:&$€〒}%@%#¥』
「……あーあ、きひっ……アァァァァ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!!」
悟ったような目をした響は突然壊れたように叫んだ。人の言葉すら発することができないほどの怒りと悲しみ、そして何よりの憎悪を込めて。
そして、壊した。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!」
目の前のノイズが消滅した。未来と過ごした部屋が消滅した。寮が、リディアンが、町が、人が、市が、県が、国が……
……世界が、響から放たれた『スベテキエテシマエバイイ』という個人単位ではありえないほどの【オモイノチカラ】が彼女の否定する全てを消滅させた。
世界と呼べるものはない。何もないただの
彼女の心の支えとも言える一振りの剣は……側にいない。
ラストスパート……なお投稿頻度(受験生)