私は呪われている   作:ゼノアplus+

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半年もお待たせして申し訳ありませんでした。


鞘など無い、しかし抜かれた魔剣は止められない

22話

 

 

時は少し遡る。響がリディアンに到着する10分ほど前の事、二課本部へのエレベーターに乗り地下へと到着した2人は待ち構えていたフィーネに出会う。

 

 

「待っていたぞ小日向未来、緒川」

 

「貴女はッ!?」

 

「了子……さん?」

 

「了子はもう死んだ。ここにいるのは、5000年を生きるフィーネだ」

 

 

フィーネはその身に纏うネフシュタンの鞭で緒川を縛り上げた。

 

 

「ぐぅっ……!!」

 

「緒川さん!!」

 

「未来……さん、にげ…て…」

 

 

緒川は締め付けられながらも未来に声をかけるが、彼女は一般人。足がすくんで動けない。しかし覚悟を決めたのか動き出そうとする未来にフィーネが声をかけた。

 

 

「辞めておけ。たかが人間がどうにか出来るものではない。それに……貴様には後ほど役に立ってもらうぞ」

 

「役に立つって……」

 

「なに……ただの保険だ。科学者らしくいうなれば、0,1%を考慮するということだ」

 

「何を、言って……」

 

 

動けない未来に近寄ったフィーネは、右手の指で未来の唇に触れる。矮小な存在、ペットに対する感情を感じているのだろう。

 

 

「立花響」

 

「ッ!!」

 

「ヤツは異常だ。完全に封じ込める手段があるとは言えその身に宿すは呪われし魔剣ダインスレイフ。負の感情を糧とするヤツらは本当に底が見えない。いや、底などあるのか?人間が、争いが、感情がある限りヤツらは止まることはないだろう。今までの契約者のようにな。『イーカロスの翼』を行使したラース、『ゴルゴンの瞳』を宿したクイン、『ヌアザの剣』を吸収したクラウン……その全てを、間接的に私が処してきた。だから手折る!!絶望に絶望を重ね、0,1%を0に変える!!」

 

「ぐあっ!!」

 

 

フィーネの感情がこもった語りに鞭の締め付けが強くなり緒川さんがさらに悲鳴を上げた。

 

 

「フン……まあいい、貴様らの相手をしているほど私も暇ではないのでな」

 

「あぁ!!」

 

 

緒川が壁に叩きつけられ地面を転がる。フィーネはその横を歩いて通る間に、未来が緒川の元へ駆け寄った。

 

 

「そこまでにしてもらおうか、了子」

 

「ッ!!」

 

 

爆発。フィーネ前方の天井が突如崩れ去り、土煙の中から人影が現れた。

 

 

「私をまだ……その名でよぶか……!!」

 

「おうとも!!」

 

 

二課司令風鳴弦十郎、又の名を世界最強の人間OTONAである。

 

 

「そうか、響君の力はダインスレイフというのか」

 

「今更知ったところで、貴様には何も出来まい!!」

 

「女に手をあげる主義ではないんだけどな……一汗かいた後に話を聞かせてもらう!!」

 

「チッ……!!」

 

 

フィーネが鞭を向けるが弦十郎は軽い動きで躱し拳を突き出した。フィーネはもう片方の鞭でガードするとそのまま後方へ飛び懐からソロモンの杖を取り出した。

 

 

「人外がッ……なれど、人の身であるなれば!!」

 

「させるかッ!!」

 

「なっ……ぐぅっ!?」

 

 

ノイズを召喚しようとした瞬間に床を粉砕した弦十郎は砕かれた残骸を蹴り飛ばしフィーネの手に直撃させた。それによりソロモンの杖は天井に刺さってしまった。

 

 

「このっ……!!」

 

 

恨めしそうに弦十郎を見れば、すでに目の前まで踏み込んできていた。

 

 

「弦十郎君!!」

 

「むっ!?があっ!?」

 

 

フィーネは咄嗟に櫻井了子の口調で弦十郎を呼び攻撃を躊躇させると、鞭の刃で腹を貫いた。

 

 

「油断大敵、相変わらず甘いなぁ?」

 

「……性分…だからなぁ…」

 

 

夥しい量の血を吐いた弦十郎は、貫かれた腹を押さえながらフィーネに話しかけた。

 

 

「ククク……アッハハハハ!!!私は甘くないぞ風鳴弦十郎。消化試合だと多少舐めていたが……5000年の時を経てようやく我が想いが届くのだ。ここからは本気だ。ではな」

 

 

倒れ伏した弦十郎に声をかけ、横を通り過ぎていくフィーネ。その顔は笑顔に歪んでいる。

 

 

「ッ……響も頑張ってるのに……行かせません!!」

 

「小娘が……私に歯向かうのか?」

 

「未来君、ダメだ!!…ぐぅ……」

 

 

いつのまにかフィーネの前方で両腕を広げていた未来が立ち塞がるが、フィーネは嘲笑う。

 

 

「ッ……!!」

 

「チッ……多少痛い目を見れば大人しくなるだろう。生きていればの話だがなァ!!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

「未来君ッ!!」

 

「響なら……響なら……逃げないっ!!」

 

 

完全聖遺物から放たれるエネルギーの球体が未来を襲い爆発。通路は煙で何も見えなくなってしまった。先程から気絶している緒川、負傷で動けない弦十郎は助けに行けない。

 

 

「……消し飛んだか。まあ良い、コスモスさえあれば立花響を封殺できる。他の2人は遊びにもならん……鎌倉の介入には遅すぎる。そして風鳴弦十郎は手負い……ククク……順調すぎて欠伸が出るわ!!」

 

 

高笑いしながら立ち去ったフィーネは気づかなかった。煙の中から生じる一筋の白い光に。

 

そしてこの時のフィーネはまだ知らない。この高笑いが、後に憤怒と驚愕、そして恐怖に塗りつぶされることになろうとは………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファウストローブ ダインスレイフ……!!」

 

「ファウストローブ……?ッ!!パヴァリアの玩具か!!なぜ貴様が……」

 

 

外装としてダインスレイフを纏った響は、倒れている翼とクリスを一瞥すると左腕を突き出した。

 

 

「薬品工場の時の貸し……お前が死ぬことで返せ」

 

「何を言って……ッ!?」

 

 

鮮血が宙を舞う。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

地面に大量の血液を垂れ流したフィーネは、左腕を切り取られた事を認識するのに数十秒の時間を要し痛みに悶絶して膝をついた。

 

 

「うーん……触媒としてはなかなかいい代物。でも腕自体は普通の人間と変わらないなぁ……?」

 

 

呑気な響の声を聞いたフィーネは射殺す様な視線で響を睨みつけるが……自らの左腕を興味深そうに眺めているその姿に一瞬恐怖を覚えた。

 

 

「貴様……今何を……がぁ!?」

 

 

ピキピキピキ……と肩から金色の粒子が生えてきた。ネフシュタンの鎧を人体と融合させた事で肉体すら修復しようとしているのだ。

 

 

「ああ……でもまあこんな状況だし要らないよね。四大元素の発動くらいなら触媒に事足りてるし。ん?あれ、どうしたの年増、そんな苦しそうな顔して。ただ左腕もいだだけじゃん?()()()()()しでかして無傷で済むと思ってたの?はは、おもしろ」

 

「は、破綻している……!!これがダインスレイフの力だとでもいうのか!?」

 

 

ぽいっと左腕を投げ捨てた響は何も感じていないかのような視線でフィーネを見ている。

 

 

「速く動いただけじゃん、何驚いてるの?ダインスレイフだったらどういう性質なのか……5000年も生きてりゃ知ってるでしょババァ」

 

「ああ、しかし立花響……貴様、抜剣と言ったな?ダインスレイフを抜く……それがどういうことを表すか知らぬわけではない!!」

 

「一度鞘から抜かれれば必ず誰かを死に追いやり、その一閃は的をあやまたず、決して癒えぬ傷を残す……お前が死ぬだけの話だよ。それに、癒えぬ傷って言ってもどうせその聖遺物がどうとでもするじゃん」

 

「……ッ!!そうか、そういうことか立花響!!貴様、人を捨てたか!?」

 

 

激痛に苛まれながらも思考をやめなかったフィーネはついに正解へと辿り着いた。以前より調べていた聖遺物との融合率、感情がないかのような今の言動、人間が出せば必ず反応があるだろう速度……あらゆる証拠を並べた結果、フィーネがそう判断するのに時間はかからなかった。

 

 

「人である立花響が消滅すれば、対としてあったコスモスも自然消滅する……!!だからとて、自ら人を捨てるなど……気でも触れたのか」

 

「随分と好き勝手に言ってくれる。でもその通り、だけどこうして抜剣の決心がついた。ありがとうフィーネ……人を辞めたからここまで強くなれた」

 

 

いくらダインスレイフへの適性があろうと人間は脆く儚い。高密度の『呪い』は契約者を蝕み侵蝕していく。侵蝕を錬金術における再構築と解釈すれば……等価交換により()()()()立花響としての意識を失わずに済んだ。2年前の契約時に響の胸を刀身が貫いた時は『契約』であったため出血はしなかった。しかし今回は違う、生の刃をその身に受ければ当然、心臓にも刃は到達し致死量の出血は免れない。しかし響は何事もなかったかのように耐え、あまつさえファウストローブとして力を纏った。全身余すところなく聖遺物へと置き換わったからである。しかもフォニックゲイン製の聖遺物ではなく、錬金術と『呪い』の合作……エネルギーとしてフォニックゲインを必要としないその体は凄まじく自由度が高い。

 

 

「さあ、約束の時だよ、フィーネ……今度こそお前だけは殺す。そのためにも……おい、起きろ……へぇ?まだ嫌なんだ。そんな気力が残ってたとはね」

 

「誰に向かって……」

 

 

響は目を瞑り両手を自分の胸に当てて独り言を呟き始めた。

 

 

「お前の本来の姿を使ってやる。いいから黙って私に従ってよ。じゃなきゃ……ね?…………うん、良い子だね()()()()()()

 

「なに……?」

 

 

響がその名を呼ぶと同時に、胸元から黒く輝く光が溢れ槍の形を形成し始めた。

 

 

「呪槍・ガングニール……私にとっての呪槍、そして今から……お前にとっては聖槍ロンギヌスとなる必殺の槍。まずは手始め」

 

 

なんでもないように響が槍を振るう。音は無い、むしろ音すら置き去りにしたかのような無音状態にフィーネは構えた。しかし何も起こらない。

 

 

「今何をした!?」

 

「さてね」

 

 

自分が認識していないだけでまた体を切断されたかもしれない、そうしてフィーネは自身を見たが何も変化はなく左腕の再生がピキピキと進むだけだ。

 

 

「とりあえず、お前の絶望を啜りたい」

 

「私の……絶望……?まさかッ!?」

 

 

バッとフィーネが振り返った。背後にはカ・ディンギルがあり、自分の希望となる存在と言えばそれしかない。しかし原型をとどめている巨大な塔の存在に安堵しもう一度響の方を見ようとして異音に気づいた。

 

ゴゴゴ、という地鳴り音。どうやら先程から続いていたらしいソレを何故自分は聞き取れなかったのか、フィーネは大量の冷や汗を流しながら考えた……しかし分からない。だが、理由がわからなくともたった一つだけ理解できたことがあった。

 

 

「嘘だ……」

 

「嘘じゃない、これが現実……5000年生きてるんでしょ?夢見がちな少女でもあるまいし、そろそろ現実見ようよ」

 

「いいや、嘘だ、嘘に決まってる……そうでなければ悪い夢だ……ハハッ……何故だ、何故この時代なのだ!!ダインスレイフッ!!!!」

 

 

フィーネが半狂乱で叫ぶ。血走った目で響を睨みつけていた。

 

刹那、カ・ディンギルが崩壊を始めた。

 

 

「『良い絶望、良い【呪い】、良い感情、それら全てが我が糧となる』」

 

 

フィーネが自らが生み出してしまったも同義の圧倒的な理不尽の権化は、最悪な形で今存在を歴史に刻み始めた。


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