8話
「こ、ここだ……」
「ふぅーん……趣味の悪い屋敷だねぇ……」
響による蹂躙から数刻経ち、脅されて命令した上司の下まで案内させられた男はこの後どうなるのかと不安になっていた。
「もういいだろ……正直意識を保つのも精一杯なんだ」
「あっ、そうだった。うーん……もう一仕事頑張ってもらうよ」
「えぇ……」
無駄に豪勢な屋敷の前で、響の死刑宣告のような言葉に男は絶望する。
「今から御役所様の所に行ってこの事を報告してもらおうかな。その後はどうぞご自由に」
「はぁ……?それだけでいいのか?」
「なに?不満なの?」
少し不機嫌そうな声音で響は言う。
「いや……滅相もない。……後ろからぐさりとか無いよな?」
「チッ……早く行け」
「……ああ」
男は新たな目的地に向かう。未だ激痛が走るその腕に悶えながらも、行かねば同僚達と同じ運命が待っているからだ。
『解放してよかったのかァ……?アイツも、
「本音を言えば私の手で潰してやりたいけど……先に私に手を出したらどうなるかどこぞののバカにしっかりと学習させてやらないといけないし、何より……」
『何より……?』
響はダインスレイフからの問いに少し間を空けてから口元を歪ませて答える。
「主犯格だっていうことを忘れて自分から捕まりに行ってるのに気づかないのさぞかし滑稽だなぁ……って」
『……お前、性格悪くなったなァ』
「なんか言った?」
『いや、なんでもねェよ……(これ俺のせいかァ?)』
このことがきっかけで、政府に今回の事件が露見するという事態が発生した。そして、男は政府で情報を吐いた後安らかな顔で気絶。国営病院の隔離病棟で治療と拘束、そして尋問を同時に受けることになる。もちろん、響の知るところではないが。
響は男を見送ると、屋敷の方を振り返り……扉を蹴破った。
「……お邪魔しま〜す。うっわ……中までこんなに豪華……」
『昔の契約者が出向いた屋敷にもあったなァ……いかにもクソ野郎がいる屋敷っていうのはいつの時代にもあんのかァ……』
大きなシャンデリアに絵画、ところどころに金の装飾がなされている内装に、思わず口に出してしまった響。
「ここの主人を出して。10分以内に連れてこないと……ね?」
人の姿が見えない空間に、響は少し大きめの声で語りかける。すると、どこからか物音が聞こえてきた。おそらく隠れていた者が呼びに行ったのだろう、と響は判断しその場で待つ。6分ほど待つと、大きな階段より1人の肥満体型の男が出てきた。
「貴方が今回の主犯?」
「立花……響……」
男は驚いたように響の名前を呼ぶ。
「全く……自己紹介もできないんだ……そう、私が立花響。お前が捕らえるはずだったただの高校生だよ」
「くっ……奴らめ……しくじりやがったのか!!護国の恥さらしどもめ……」
男は悔しそうに、先ほど響が倒した男たちを貶す。
「ねぇ……なんでわたしだけを狙わないの?一般人まで巻き込んで何がしたいの?」
「はんッ!!一般人だと?我々が護るべきは国だ。国がなければ民も存在し得ない。国のために死ねるのなら本望だろう?」
まだ、私欲のためと言いださないあたりマシだがそれでも響は不機嫌そうにしている。
「国ためなら……人をも殺すの?ノイズみたいに?」
「ノイズゥ?知ったことか、あの忌々しき突起物がまともに動かないから人が死ぬだけのことだ。……あぁ、そういえば貴様、2年前のツヴァイウィングのライブ会場に居たんだったなぁ……」
『おい、ヒビキ聞くなッ!!』
「……」
「風鳴の血を宿す防人があのザマだ。それと……天羽奏もなぁ……護国の鬼となることも叶わずに死にゆくなど……全く持って役に立たない連中だ」
「……」
男は饒舌に、なおかつ響の反応など見ずにただただ喋り続ける。
「護国の役にも立てなかった女共のせいで貴様も被害を被ったのだろう?そして手に入れたそのチカラ……突起物なんぞではなく我々とともに護国のために尽くそうではないか」
「……12874人」
「……あぁ?」
「この数字が何か分かる?」
「……知らんな」
男は興味がなさそうに吐き捨てる。それを見た響は『呪い』を可視化させながら少しづつ放出する。
「……死者、行方不明者合わせて12874人、これがあの日に失った命の数。なんで覚えてないの……」
「覚えて何になる? まさか一人一人に冥福を祈れとでも?……時間の無駄だ」
『ヒビキ、聞くだけ無駄だァ。早く処理しろ!!』
「ダインは黙ってて。……護国護国って、そんなに国だけが大事?この国にはそんなのしかいないの?」
響は憤怒に顔を歪ませ、震えながら聞く。
「知ったことか。腑抜けた政府の奴らなんぞはなぁ。奴らが行動しないからこそ、我々が成し遂げるしかないではないか。護国をッ!!」
両腕を広げ天を仰ぎながら叫ぶ男。その顔は響とは違った方向に歪んでいる。
「こんな奴が……未来まで巻き込んで、知ったことかだなんて……あぁ……時間の無駄だったじゃん。……イっちゃえ」
響の全身から出ていた『呪い』が幾つにも枝分かれして様々な方向に向かって行き……ナニカを穿った。
「なッ!?我が精鋭部隊がッ!!」
「……なんで最近ロクなことがないんだろう。出て来るんだったらノイズだけにしてよ……本当にもぅ……ふざけやがってッ」
黒服の男たちが10人単位で転がる。全員等しく響の『呪い』によって意識を刈り取られた者たちだ。
「何故……何故理解できない!!その力は、我らが国のために振るわれるべきものであろう!!」
「さっきの奴とおんなじ事言って……語彙力ないの?」
「ヒッ、ヒィィィ!!!!」
さっきまでの威勢のいい態度は一体どこへ行ったのか、男は腰を抜かし己の運命を悟っている。
『ヒビキ……落ち着け』
「落ち着いてるよ……もう激情がどっか行っちゃった。未来、ちゃんと部屋まで行けたかなぁ……もし未来に何かあったら私、コイツら殺してたかも」
響もそんな男の様子を見て興味をなくしたのか、地面のタイルをダインスレイフで一枚ずつ剥がして遊んでいる。
『ヒビキ……?できれば俺をこんな事に使わないで欲しいんだがァ……』
「あっ、確かに。じゃあ……こうしよ」
響は『呪い』を器用に使ってまたタイルを剥がし始めた。もはや、第3、第4の腕のようなレベルの練度である。
「な、何が目的だ……?わざわざ私の屋敷まで来たのだ……何か目的があってのことだろう!?」
「……目的ねぇ。もうすぐ、果たされるからそこでおとなしくしてれば?」
「……私はこのような場所で終わる人間ではない!!まだ、護国は果たされていないのだ!!」
「うるさいなぁ……んっ、来た」
「はぁ……?貴様いったい何を……「響くんッ!!」ヒィ!?」
響が何かに気づき扉があったはずの場所から外を見る。すると……
「待ってましたよ、風鳴弦十郎さん。きっとあなたが来ると思っていました」
赤いシャツを着た、筋骨隆々の男……二課の司令である風鳴弦十郎がやってきた。後ろには、政府の特殊部隊と思われる人員までいる。
「響くん……剣を納めてくれないか?俺は君と戦いに来たわけじゃない」
「それは、展開次第です。私には……コイツの処理もありますから。風鳴翼さんは来なかったんですか?……いや、今私と対面させるのは得策ではないですね」
「そういうことだ。だからこそ、俺がここまで出張ってきたんだからな」
響と翼、そしてネフシュタンの少女との三つ巴とも言える戦いで、翼は響からトラウマ級の精神的ダメージを受けた。回復こそし、本人も乗り越えたと言って聞かないが本能的な部分では分からない。弦十郎は、それを危惧して翼を呼ばなかったのだ。
「そういえば、私が送った黒服さんの1人は無事到着しました?」
「ああ、状況をひとしきり伝えた後気絶し治療と拘束を受けたと情報が入ってきた。全く……厄介なことをしてくれたな?」
「仕方ないじゃないですか。私1人だったらまだ気絶で済ませますけど……未来も……私の親友も巻き込まれましたから。腕の一本や2本……それから普通の生活くらいは覚悟してもらわないと」
男の末路を聞き、少し機嫌がよさそうに喋る響。ただし……その声には、明確な怒気がこもっていた。
「大体の事の顛末は聞いている。……だからこそ響くん、君に政府からの言伝を伝える」
「ええ、それを待っていました」
弦十郎は少し響に近づき、喋り出す。
「今回の事件は明らかに我々政府に問題があった。これからは役人全体によく言い聞かせておく。情報は粗方抜き出し、原因も把握したので今回の主犯である
「……わぁ〜お。思ってたより破格ですね」
「正直なところ、俺もそう思う。上層部は君の扱いになかなか揉めたようだ。その結果が……」
「放置して安寧を得ようというわけですか。ついでに用済みの役人の始末も任せると。……調子がいいですねぇ。私的には願ったり叶ったりですけど」
下手に突っついてさらなる被害を生むよりも当たり障りのない位置から監視するだけに留めたようだ。しかも、主犯の扱いを響に委ねることによって政府の手間を一つ減らし、政府の膿を一つ間接的に排除する……響にとっては好条件の内容のようだ。
「……二課としても、君とは良好な関係を築いていきたいと思っているのだが」
弦十郎は少し遠慮気味に響に言うが……
「却下です。そういうのはあの剣に任せればいい……それで、貴方はどうするんですか?」
「ああ、伝えることは伝えたからなぁ……此処は一課に任せるとしよう。ただし、君の行いを見届けさせてもらおう」
「……コイツの処理ですか。そうですね、見てもらいましょう」
「ヒィ……!!」
弦十郎は腕を組み、響にそう言った。響も了承し、腰を抜かしている男を睨みつける。男は悲鳴をあげながら、這うように後退していく。
「この人なんか、護国護国ってうるさいんですけど……なんか知りません?」
「護国……?まさか……すまない響くん、もしかするとウチの家系が一枚噛んでいるかもしれん……いや、確実に関わりがあるだろう」
「家系というと……風鳴?」
「ああ、少しややこしい事情があってな……二課にもう一度所属することを考えてくれるなら、答えようと思うが……もちろん君はそんなこと興味ないだろう?」
「ええ、私はコイツさえ壊せればそれでいいので(……二課に関わりはなさそう。別にどうでもいいけど)」
弦十郎は眉間を抑えながら憔悴した顔で話している。よほどの大事があったのだろう。
「わ、私をどうするつもりだ……?」
「ん〜?うーん……あっ、実験台になってもらう」
「実験台……だと?」
響は、男からの問いに狂気の笑顔で答えた。
「強いて言うなら……技をね。私のはじめての、ちゃんとした技。ノイズにも通用するものだから、運が悪かったら死ぬかもね」
「ヒッ……ヒィィ!!!!」
明るい声で放たれる死刑宣告に、男の恐怖心は限界を迎えた。いつのまに治ったのか、男は屋敷の奥に向かって走り出す。
「さぁ!!綺麗な花を咲かせようじゃないか……ダインッ!!」
響の握るダインスレイフより、普段より遥かに大きくドス黒い『呪い』が溢れる。
『任せなァヒビキ。俺としても、嬢ちゃんを巻き込むのは良くねェからなァ……俺の分も持ってけェ……』
「未来を巻き込んだんだ……処罰は行わねばならない!!」
「むっ……これは……全員退避だッ!!巻き込まれるぞッ!!」
響は叫ぶと、床に向けてダインスレイフを突き刺す。すると……『呪い』が床から広がり逃げる男を凌ぐスピードで追いかける。『呪い』の広がり方を見た弦十郎は、特殊部隊の面々と共に外へ退避した。
「いやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」
「イっちゃえ♪」
『PETASITES JAPONCUS 』
「ぎゃあぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」
男に追いついた『呪い』は、足元から全身へ駆け上り……男をその内側へ取り込んでいく。
「だれか……たすけ……t」
男が完全に『呪い』に取り込まれるとその『呪い』の蕾のような形をとり、まるで花が開花するかのように……爆ぜた。
「クフフッ……♪ アッハッハッハッハッ!!良いねぇ!!最高だよダインッ!!また一つノイズを殲滅する楽しみが増えたよ!!」
『……そりゃア、良かったなァ』
「一体……何が……」
『呪い』の爆心地とも言えるその場所は、ドス黒い靄がかかりよく見えない。しかし弦十郎は、響の声やその身に纏う雰囲気より
「おっと……結果も最後までちゃんと見ないとねぇ……?」
少しずつ靄がダインスレイフに戻っていく。響が意図的に戻しているこの『呪い』は、一度ダインスレイフの中に戻して仕舞えば再使用が可能なのだ。
靄がその場から消えるのを確認した響は、改めてその場所を見つめる。そこにいた……いや、あったと言う方が正しいだろう。そこにあったのは……
「あーあ、あれじゃ戻っては来れないね」
「……これほどとは」
髪が白く染まり、皮膚も蒼白、その目は焦点があっておらず口からは唾液が垂れている。明らかに異常な状態だ。逆に、あれだけの衝撃を受けて五体満足であることが奇跡だと言える。この男の意識はもう現世には帰ってこれないだろう、そう弦十郎が思ってしまうほど、響の『呪い』の出力は凄まじかった。
「……んふぅ。んじゃ、私帰るんで後片付けはお任せしますよ」
「なッ……いや、引き止めるべきではない……か。響くん、その内二課の地下深くにある完全聖遺物『デュランダル』を輸送する手はずになっている。もしかすると、このあいだのネフシュタンの少女が現れるかもしれない。参戦するのであれば……翼を頼む」
弦十郎は、玄関から出ようとする響に向かってまだ決定されたばかりである重要機密を話す。単に心強い増援が欲しいだけなのか、響や翼の関係を案じているのか……風鳴弦十郎の人となりを知る者ならば答えはすぐに導き出されるだろう。
「……あんな事があったのに私にそれを頼むんですかぁ?意味がわかりません」
「フッ……今は分からなくてもいつかわかる時がくるさ。それを提示してやるのも、大人の務めだ」
「……馬鹿みたい。その甘さは、いつか足元を掬われますよ」
「性分だからなッ!!掬われないよう鍛錬もしてきた……映画でなッ!!」
腕を組み、ドヤ顔で弦十郎は言い放つ。響は困惑しながらも、興味がなさそうに返す。
「映画……?ふん……勝手にしてください」
「またなッ、響くん」
「ッ……」
響は何も返さない。また会おうという気がないからだ。そのまま……響は走り去って行ってしまった。
「反応はしてくれた……それだけでも、一つ進歩だろう」
昔、救えなかったバルベルデの少女の事を思い浮かべながら弦十郎は独りごちる。
「響くん……君が歩むのは修羅の道か……それとも……」
弦十郎の言葉は……少女には、届かない。
「未来未來ミクみくみくみくみくみくぅーーーーーー!!!無事でよがっだ〜〜!!!」
「えっ……ちょっ……響?……きゃっ!?」
寮の自室に戻った響は、一足先に創世、詩織、弓美の部屋から戻っていた未来に向かって飛びついた。その勢いで共に倒れてしまった未来は……驚きながらも、響を抱きしめ返した。
「響が無事で……本当に良かった……」
「みぃ〜ぐぅ〜〜!!!!」
オリジナル聖遺物で最もヤバイ能力は?
-
自在に姿を隠す
-
空気操作
-
純粋な身体能力向上
-
視界の共有
-
空間作成