「失礼します」
こうまで続くと最早、日課になりつつある応接室の訪問。私が訪れる時は絶対に雲雀さんが居る。そして、あの話題が出される事も無い。こっちが不安になる位、沈黙を保っていた。
だけど私を見ている目は
「あきらめてないから」
と語っていた。
私はてっきり、行くたびに
「入りなよ」
「入りません」
なんて事を言い合うのかとも思ったけど……。
千沙は最近『
ただ訪れて挨拶をして、プリントを置いて挨拶をして出て行く。そんな繰り返しが静かに流れていた。
やはり恐れていた通り、その静寂は唐突に崩れた。
その日は仕事が一段落したらしい千沙が居て、プリントを置いた私を雲雀さんがじっと見ていた。そう、じっと見ていた。そして『いつも通り』に出て行こうとして。
「ねぇ」
私に声を掛けてきた。とうとう長く続いた雲雀さんの沈黙が破れてしまった。
「何でしょうか?」
声をかけられたのでそう答え目を合わせ、ふと思う。雲雀さんってやっぱりイケメンだ、とか。笑ったら凄く綺麗なのに、とか。沢田君達もそうだけど、何所か皆もったいない。
「君が僕の話を断ったのは」
……っ!
『どんな話』がその言葉に無くとも『私が風紀委員に入る』話しかありえない。それ以来何も、一言も私達は話していないのだから。
「戦えないから。朝早い登校が出来ないから。放課後や休日は用事がある事がいから。それで委員会活動に参加できないから。誰の
で、いいよね?
言葉を告げずに、そう目で確認を迫り、目に見えて戸惑う私を見て
「………はい、そうです」
胸が騒ぐ。嫌な予感がした。
…まさか……そんなこと……そんな事あるわけ無いよね?
沈黙が続く。
「……他に何かありますか?」
「いや、何も。
「では、これで失礼させて頂きます」
応接室に居る間ずっと千沙は沈黙を保っていた。
応接室から出て歩くうち、緊張と動揺がましになってきた。
『幸、どうするの?』
いや、アレ抜いたら『風紀委員』じゃなくない?相当無理な条件だったよ?
あの時は思わず身構えていたものの、よくよく考えてみるとそこまで雲雀さんが私にこだわる理由が無い。それにあれでは雲雀さんの考えすらも捻じ曲げることになる。特に『戦わない』なんて『強さ』を求める雲雀さんの真逆を走っているから。と考えて明るくそう返してみる。
『……』
千沙の何かもどかしい様な沈黙の気配が余計に私を焦らせる。私がそう言い切ったのは強がりだなんて、もう一人の私と言った千沙には分かりきっていたと思う。胸の中にわだかまった嫌な予感は家に帰っても消える事はなかった。
最初は『死にたくない』と言う理由で沢田君達を避けていたけど、今は違う。正直、誰にも負けないと思う。
一人で『マフィア』をものの数分で壊滅させたり出来る子供達を、私はもう『加速』と『戦闘知識』だけで倒せたり出来るから。それほどまでに私は強くなった。
……なってしまった。
皆や千沙がほめてくれるのが嬉しくて頑張ってた。成長していくのが楽しくて『加減』を忘れてしまっていた。『人』と戦いたくない。『子供達』より遥かに弱い『人』を相手にするのが怖い。確かに戦って『自分』は無傷かもしれない。
でも『相手』は?
誰も傷つけたくない。子供達という強い相手になれすぎて加減を間違えてしまったらと思うと怖い。
だから、この『力』は大切なものを守る時に使うって決めた。守りたいと思う友達も居ないけど。家族は皆、私が守るほど弱くない、むしろ『人』より圧倒的に強いけど。
『力』を得てしまった私は、だからこそ『力』を求める人から、
私を戦いへ引きずる可能性のある人から、全力で隠れないといけなくなった。
リボーンはその『力』に目をつけて、私をファミリーに誘ってくるだろう。どんなに沢田君がいい人だったとしても、どんなに温厚なところだったとしても、所詮マフィアはマフィア。全く戦闘が無いなんてことは無いだろう。
それに沢田君達いい人だから、一緒に居たらいつか私が耐えられなくなる。目の前で傷つくであろう沢田君達を放っておけなくなる。助ける『力』があるならなおさら。
だから沢田君達はどんなことがあっても近づけない。
……なら雲雀さんは?
沢田君達ほどは雲雀さんを避けているわけではない。本当に避けるのだったら私も『応接室』に来たりしない。
それは草壁さんを見れば分かるように、雲雀さんの周囲に居るからと言って、沢田君達に関わる事も無く、巻き込まれる見込みがほとんどないからだ。
風紀委員だからと言って、雲雀さん本人のそばにずっと居る訳でもないだろう。『漫画』だって大抵雲雀さん一人だったし。沢田君達が接触した風紀委員なんて、草壁さん位では無いだろうか?
ただ、状況から私が風紀委員になればリボーンに目を付けられる可能性が増える。ただそれだけ。でも雲雀さんの気まぐれは今までにもあったらしいし、大したことでもないだろう。
雲雀さんは私と戦いたいって思っているわけでもないようで、私が強いことがばれた風な気もしない。なら雲雀さんからしてみれば私はただの弱い草食動物の……はず。
なら一体どうして私を調べているのか。
凄く聞きたい。だけど聞けない。聞いてしまえばそれは『私』が普通でないことを雲雀さんの前で認めてしまうことになる。
どうして貴方は楽しそうに笑いながら『私』を見てた?
もしかして……、あの時に『式』の光を見られたのかもしれない。それなら納得がいく。雲雀さんは
雪よりも白く。月明かりより儚く。
花よりも美しく。日だまりより優しい。
あの今にも壊れてしまいそうな白い光が映すあの子の心に、貴方も惹かれたんですか?
今日ももう一話投稿しようと思っています。そして次は雲雀さん視点になります。