ただの人間やってました   作:書人

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一話新しく書き下ろしました。


第五章 変化
問27私は贈ってみる


二月入ったばかりの金曜日、皆が少し浮き足だっていた。より正確に言うと女子がこそこそと何かを話していて、それを一部の男子が何とも言えない表情で見ていた。

 

『まーねー。ほら女の子だから?』

 

千沙は理由が分かるらしい。と言うか千沙、私も女の子だよ。

 

「和田さん!」

 

体育の更衣が終わった後、突然笹川さんに話しかけられた。

 

「何?笹川さん」

 

「和田さんは誰かにバレンタインあげるの?」

 

「あ!」

 

バレンタインデーか!全く気が付かなかった。

 

「「和田さん?」」

 

私がいきなり声を上げたからか黒川さんと2人で驚きの声をハモらせていた。

 

「あ、いや、皆なんか浮き足立ってるから、なんでだろう?って思ってたから。なるほどバレンタインデーか……」

 

「和田さんは雲雀に渡すんじゃないの?」

 

「黒川さん。私別に雲雀先輩の事、恋愛的な意味で好きって訳じゃないよ?」

 

「付き合ってないの!?」

 

「うん」

 

そういえば、付き合ってるって噂たってたっけ。

 

「それじゃあ何であの(・・)雲雀恭弥がわざわざ側においてる訳?」

 

「……さあ?」

 

「和田さんは誰にも渡すつもりは無いの?」

 

笹川さんにそう聞かれた。

 

「笹川さんは?」

 

「私はね、沢田君達にあげるつもりなの」

 

そういえばそんな話あったな。

 

「和田さんはお世話になってる人達に送ったりしないの?」

 

「あぁそっか、そういう考え方もあるのか」

 

そういえばこの『世界(じだい)』って女同士の『友チョコ』がまだ無いみたいなんだよね……。バレンタインデーは男がチョコをもらう日である。

 

「というかさ、和田さんと雲雀ってどんな関係な訳?」

 

「……同じ委員の先輩後輩?」

 

「……自分で言ってるのに疑問系なのね」

 

「むしろ仕事仲間の方が近いかな?」

 

「そういえば、普段雲雀と何話してるの?」

 

「何も」

 

「え?何も?」

 

「むしろ草壁さんとの方がよく話す」

 

「え……えー」

 

そのまま何とも言えない空気でこの話が終わった。

 

 

雲雀先輩と私の関係って何なんだろうか?

 

 

小さな疑問を私に残して。

 

 

 

 

その日こっそり草壁さんに。

 

雲雀先輩(・・・・)はバレンタインデーに学校にチョコを持って来るを容認しているんですか?」

 

と聞いたら。

 

「一度禁止する話も出たが、こればかりは禁止してもしょうがないと言う事で、学校内で食べない事、ゴミを出さない事を守っている限りは風紀委員で手を出さない事にしている」

 

……まあ絶対破る人でますよね。禁止しても。

 

 

 

 

「先輩……大量ですね」

 

まあ予想はしていたけど。

 

「って食べないんですか?」

 

目の前で回収されたチョコが草壁さんの持つゴミ袋へと消えていた。

 

「差出人が特定できない物を食べるほど、僕は不用心じゃないよ。自分で渡す度胸も無い草食動物には興味無い」

 

……怖くて直接渡せないんだろうな皆。

 

『それって直接渡したら良いのかな?』

 

……どうだろう?

 

「昔、薬品を仕込まれた事がありまして。仕事上恨みを買う事も多いですし。調べるのでこうして自分が回収しているんです。それに検査に掛けた後で安全だと分かっていても、検査薬に浸けたものを食べて頂く訳にも行きませんから。後は風紀で秘密裏に処理します」

 

まあ、雲雀先輩自身で回収するのはせめてもの好意に対する善意なのかもしれない。風紀委員に回収させても良い訳だし。

 

「そうですか」

 

……一応、私も食べ物を用意していたんだけど。……和菓子を。沢山チョコをもらうんだろうなとは思っていたから、あまり甘過ぎないチョイスにしたんだけど、そもそも食べないとは……。

 

雛達皆(こどもたち)と分けて食べる?』

 

……そうしよっか。

 

そういって傍らに持っていた紙袋を握った。

 

「……それ何?」

 

雲雀さんに紙袋の存在に気が付かれた。

 

「いえ、特に大した物は入って居ないので」

 

「『風花堂』のだよね、その紙袋」

 

『風花堂』は子供達が経営するいつしかの大福の和菓子屋さんだったり。

 

「……えっと、先輩方にお世話になっていたので、教えてもらって作ったんですが……。食べてもらえないなら、家に持って帰って皆で食べます」

 

「草壁、茶を」

 

「分かりました」

 

「え?」

 

「食べても良いんでしょ?」

 

「それはそうですが……良いんですか?」

 

「差出人はハッキリしてるけど?それに君は風紀委員だ。それより……君、よく差し入れ持って来るよね。今更何を言っているのさ」

 

半分呆れた様子で先輩に言われた。

 

「あ……」

 

皆が、お仕事頑張って下さい。ってくれるから、それを時々応接室に持って行っていた。……先輩も普通に食べてた。

 

「こちらが委員長のですか?」

 

「あっ、はい」

 

草壁さんは先輩の分と何故か私の分のお茶と付け合わせを用意すると、委員達に渡してきます。と応接室を出た。(私のは元々おいてあったお茶菓子)

 

「「……」」

 

とりあえず小さく頂きますと言い、後は黙々と食べた。

 

「……甘く無いんだね」

 

チョコを食べる事を前提に甘さ控えめで作ったから、チョコを全く食べていない人からしてみればな……。

 

「まあ美味しかったよ。ごちそうさま」

 

「!?」

 

それだけ言った先輩は席に戻っていつも通り(もくもくと)書類をさばき始めた。

 

「……お粗末さまでした」

 

小さくそういって席に戻ると、私もいつも通り(もくもくと)書類をさばき始めた。

 

 

 

 

あれ?『子供達』ならこう言う事知ってたんじゃない?

 

 

 

 

恋人、先輩後輩、仕事仲間

きっとどれも違うと思う

近くも無く遠くも無く

 

ただ一緒に居る

 

そんな関係

 




もちろん子供達は雲雀さんが貰ったチョコを捨てているのを知っています。
ただ、幸の渡した物は受け取ると確信しているので何も言いませんでした。

雲雀さんが甘く無い和菓子を、普通に美味しいと言ったのは、学校に持ち込まれたチョコの甘い空気にやられていたからです。
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