ただの人間やってました   作:書人

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骸視点になります。

切ったり貼ったりでここ数話、時系列が前後しています。



問36僕は理解する

コレは……思わぬ収穫ですね。

 

一目見てすぐに和田幸が天人の呼ぶ『母』と解りました。この世界にもまれにまぎれている天人は、結構すぐに解ります。ですが、どうしてこの少女が『母』だと解ったのかは自分にも良く分かりません。

 

()いて言うなら、天人達と近い気配がした上で、不思議な……温もりを、感じる事でしょうか。ですが、天人たちは自分達は会う事は無いと言っていたはず。違う世界に生きているから、と。一応、鎌を掛けてみますか。

 

そして彼女は目を見開いてこちらを見ていた。触れた場所から直接『(オーラ)』を送り込む。

 

どうやら当たりの様ですね……。マインドコントロールに少々違和感を感じますが。相手が相手ですから、マインドコントロールにかけれた事を喜びましょう。時間はまだありますし、戻ったら確認しましょうか。

 

完全に力の抜けた和田幸を横抱きにして、僕は機嫌良く黒曜ランドへ戻った。

 

 

 

 

「骸さん、その女が例の人質れすか?」

 

犬が覗き込んできた。

 

「それもありますが、彼女にはそれ以上の価値がありそうです」

 

計画の変更もあり得るかもしれませんが、それはまだ言わないでおきましょう。相手が相手だ。万が一の可能性がありますし、ぬか喜びさせるのも良く無いでしょう。

 

「少し探りたいので、部屋に誰も入れないでください」

 

「任せるら!!」

 

僕は部屋に入った後、ソファーに彼女を眠らせてから精神世界にに潜り込んだ。

 

 

 

 

……ここが、和田幸の精神世界ですか。

 

マインドコントロールの影響も有るのだろう。意外にもあっさりと入れた。そこはさっきの家と同じ様子だった。

 

「……」

「……!!」

 

何か声が聞こえます。僕は幻覚で自分を隠し、リビングの方へと向かった。

 

二人居る!?

 

そこには彼女と彼女に似た誰か。そちらは、身長がもう少し高く髪も長い。

 

「まぁ、本人に聞いてみようか」

 

そう言って正体不明の少女はこちらを見た。

 

「クフフ……気が付かれてましたか」

 

……誰か分からないが、それなら暴けば良いだけの事。和田幸の方は驚き、こちらを警戒しているようだ。

 

……それに対して彼女の方は何処か余裕が伺えます。

 

「それで、どこで『母』の存在を知ったの?」

 

その言葉は、明らかにこちらに選択肢を与え無い命令。全身を凍り付く様な『死』を思わせる風が纏わり付く。……冷や汗が背中を滑り落ちた。

 

 

 

 

「!?」

 

彼女の記憶を見る為にマインドコントロールを強めて、失敗した。これは……一体どういう?いや、何かに揺さぶられて行く事が出来る状態では無くならせれた?

 

「忘れたの?」

 

『なんで』

 

彼女(ちさ)の声が二重になった。

 

「ここは幸の中。つまり世界(わたし)の中」

 

『お願い、お願いだから……』

 

彼女(ちさ)の姿が彼女(さち)になった。

 

『お願いだから死なないで!!!!』

 

「貴方が見るのは私の記憶、私の思いだよ」

 

僕自身の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

ただの記憶だと、見せられている最初から分かっていたはずだった。いや、ただの記憶と僕は侮っていました。

 

「ねぇ幸。今日は何所に遊びに行く?」

 

僕の目の前に映るのは何でも無い日常。目の前には『千沙』が。いや、全く同じな『和田幸』が居た。そんな日常を少し離れたところから、ただ温かく見守っていた。

 

僕は『千沙』(彼女)だった。

 

誰よりも優しい彼女(幸)が好きで。彼女が泣くと自分も悲しくて。全ての幸せを願った彼女が誇りで。彼女が笑っていたら自分も幸せで。

 

だから彼女の笑顔を絶対に失わせたくなくて。

 

それと同時に何度も何度も写る。彼女がバイクに引かれ、死んでいく……。どれだけ運命を動かしても、どれだけの犠牲を持って生かそうとしても。

 

激しく胸が痛む。

 

今、この瞬間にも命が助かっていく。動かされた運命は、彼女の願いは、命を助けていく。皆を幸せにしていく。

 

どうして…どうして幸だけが救われないの!?救うことが出来ないの!?

 

理解する。いかに彼女が強くて、真直ぐで、優しくて。どれだけ運命が理不尽を彼女に強いたのか。強い悲しみを。

 

深い、深い、深い愛情を。

 

その千沙(おもい)の全てを僕は理解した。

 

「っ!!!!」

 

僕はものすごい量の汗を書きながら、現実世界へと戻った。まだ少し痛む頭を抑える。

 

千沙、貴方は全く恐ろしい事を考える……。

 

あんなものを見てしまったら、理解してしまったら。彼女を傷付けられるわけが無い。幸せを願わずには居られない。ただ笑って欲しいと…………。

 

誰にさえ、彼女の不幸を願う資格など存在しないのだから。

 

「……」

 

横を見ると、ソファーで眠ったまま彼女は泣いていた。そっと、涙を指で掬った。

 

バンッ!!

 

「君、何してるの?」

 

……さて、どうしましょうか。

 

彼女をこれ以上、こちらに巻き込むわけには行きません。ですが……ここを引く訳にも行かない。

 




次は千沙視点になりそうです。
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