ただの人間やってました   作:書人

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今回は長くなった……はず。


問49私は屋敷に着く

強すぎる日差しを木々が遮り、どこからとも無く聴こえる水音が涼しげで、町独特のアスファルトが焼ける暑さの無い森の奥。

 

「でっかい……」

 

『本当に大きいね』

 

ジッリョネロ邸(?)も中々に凄かったけど、こっちも中々……。と言うかこっちは完全に個人のものらしいから、もっとすごいんじゃ……。

 

「と言うか私も普通に外に出て大丈夫だよね」

 

「そうですね。基本この中には身内しか居ませんから」

 

私達の目の前には贅沢の髄をこらした様な……と言う訳では無いが、程よくアンティーク感が出た緑の屋根の屋敷があった。

 

「大きいね……掃除とかどうしてるの?」

 

「機械でやってます。パラレルワールドにはそう言う世界もありましたし、搭載する人工知能に関しては自分達のを元に創ればいいですから」

 

「なるほど」

 

そういえば彼らは、分類的に人工知能搭載の人造人間(ホムンクルス)に近いのか……。

 

 

 

 

「「「お帰りなさいませ『母様』」」」

 

ジョイルが門を開けると、一糸乱れぬタイミングで礼をするメイドさんがずらりと並んで居た。息が合いすぎて、一瞬一人がしゃべっていると錯覚しかけた。かろうじて音程がずれていたが。

 

「………」

 

って言うか何これ!?まさか、メイドさんも機械?リアルすぎる。そしてどうやって私を認識できるように作った。と言うか『母様』とかなんて事をプログラムしてるんだ!

 

「幸、この子は『子供達』だよ」

 

「え?」

 

「『母様』の世話役として雇われたんです」

 

一番手前に居たメイドさんが話しかけて来た。

 

いや、だって皆社長とか会長とか、何か偉いイメージしか……。そういえば、さっきジョイルさんが執事役してたか!

 

「と言うか別に、普通のサラリーマンしてる子も居るんじゃない?」

 

「え?そうなの?」

 

「「居ますよ」」

 

いや、寄付金とか寄付金とか寄付金とか………。てっきり皆金持ちばかりなんだと……。

 

「あっ、あと私の事『母様』じゃなくて普通に和田って呼んでほしいです」

 

「私も『千沙』でお願いね」

 

「分かりました。和田さんと千沙さんの部屋はどうされますか?」

 

「寝るときは中に戻るし一人部屋で構わないかな。ただ、食事は私も一緒に食べたい!」

 

「それでは、私はその旨を厨房に伝えてきます」

 

そう言って一番手前のメイドさんが厨房へ向かい、ジョンと新しいメイドさんに部屋へ案内してもらった。

 

 

 

 

道すがら、千沙が私と子供達の認識の違いを指摘して来た。『子供達』の間でパラレルワールドと言うのは、運命選択をする際に産まれる、余分な演算の事を言うんだとか。まぁ要するに、ここと言う世界は一つしかないらしい。

 

それじゃあ白蘭の能力は?と聞いてみた所。

 

「あぁ、彼のは演算のゴミを覗く能力と言うべきかな」

 

と千沙は言っていた。

 

選ばれなかった可能性、つまりパラレルワールドは、映像の様な形で今後の参考のために一定期間保存されるんだとか。白蘭はそれを閲覧する能力があったり。自分視点限定なのと、現在視点限定なのは、彼の能力の手がそれ以上届かないから。ちなみに本人は気がついてないが、数時間なら未来も覗くことが出来るらしい。もっともそれを想定した上で未来編の演算(ただし私が居ない場合の)がすでに出来て居たと言うのだから末恐ろしい。

 

「ほら、GOSTって居たでしょ。アレをさ、骸が『現象だ!』とか言ってたでしょ?世界は一つしか無いからGOSTは元から存在してないって訳で、中途半端に演算結果を引っ張ってきたからああなるんだよね」

 

「……もっと分かりやすく!」

 

「『物質創造』と『式』の違いと似た感じで、エネルギーが切れればGPSTは消える。ただ存在している分だけは、自己生産でエネルギーをまかなえるから勝手には消えないけど」

 

 

 

 

それからは結構慌ただしかった。部屋を軽く覗いてすぐにお風呂に入り、料理を食べる事となった。……ちなみに料理人も子供達だった。大皿に乗った料理をメイドさんに取り分けてもらう形式だったんだけど。「いや、そんなに沢山食べれませんよ?」って思わず言った位、沢山の種類作ってた。だいたい一通りは食べたし、美味しかったけど。さすがに完全制覇は無理だったり。残りは皆で食べるらしい。ご飯はゴミにならない様に、残さず食べましょう。うん。

 

ちなみに千沙は全種類完全制覇してた。

 

『私は具現化にエネルギーが無駄に要るから』

 

とは本人の談。

 

ジョイルが何かを話しているけど、視界がだんだんぼけて来た。

 

「千沙、眠い?」

 

「今日は色々ありましたし、仕方がありません。もう部屋に戻って寝ますか?」

 

「うん、ごめんね。部屋に……」

 

立ち上がろうとしてふらついて千沙に支えられた。話から抜けづらくて、我慢しすぎたらしい。

 

「良いよ幸、このまま寝て?上にちゃんと運んであげるから」

 

千沙が頭をなでてくれている。背中に感じる温もりに沈む様にして、私はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

眠る幸の頭をなでながら、二つのリングを軽く手で遊ぶ。……これは一体何なのか。いや、それ自体は分かる。これは『封印具』だ。それもかなり強いと見ていい。ただ、今のこの子が使うにはかなり強すぎる。これを幸が付ければ本当に『普通の人』まで押し下げてしまうし、そうなるといざという時に自分の身を守れなくなる。とりあえず今は普通に付けるのだけは止めておかないと……。

 

明日何をするか軽く予定を決め、幸の中へと戻った。

 

ざわつく胸を感じながら。

 

 

 

 

何かある。それだけは分かる。

けど、私は自分から先を見たりしない。

もしも知らなければいけない事なら『世界』が見せてくれるから。

 

そう言う風に私がプログラムしたのだから。

 

たとえ何が起こっても、私は私に出来る精一杯をするよ。

それが先につながると信じて。

 


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