とある科学の雄英高校   作:御餅勿々

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オリジン:垣根帝督
1話


「この紙に3つ候補書いて授業終わりまでに提出!終わり次第解散!」

 

 中学三年生の始業式が終わった後、進路相談の時間に垣根帝督は進学先をどうする考えていた。この時期になると、何かしらの選択肢を固めてる奴が多いが、白紙のまま提出した。そのことを担任の天気子(あまつきこ)に心配され、皆が書いている途中だというのに職員室で個人面談を強制されてしまった。垣根は机越しに対面している担任の目を見ず、頬杖を突き、貧乏揺すりをする。

 

「選択肢が多すぎてどうすりゃいいかわからねえ。やりたいことが無えんだ」

 

 嫉妬した目で垣根を見ながら、垣根の頭をなでる。

 

「私より頭いいしね。大学講師とかどう?」

 

 垣根はびっくりして貧乏ゆすりを止め、少し照れながら目を見据えて、呆れた声で話す。

 

「アホか。…俺だってアオハルする権利くらいあるだろ」

 

 担任は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし

 

「ごめんごめん冗談だよ。垣根君の顔が思い詰めてるように見えたからね」

「そりゃどうも」

「今の感じ、高校には行きたいんでしょ?アオハルがしたいっていうのがめっちゃ意外だったけど」

 

 それなら、とニヒルな笑顔を浮かべる。

 

「雄英高校とかどう?」

「雄英高校、なぁ…」

 

 私が作ったものじゃないけどねー、と呟く担任から渡された高校一覧のプリントに蛍光ペンでマーカーが引いてあった。

 

「学校のお偉いさんが何考えてマーカー引いたか知らないけどさ、ヒーローっていう“燃える”ものって青春向きじゃない?垣根君なら遊び半分で受験受けても受かるし!」

 

 ヒーローなんてモノに興味のない垣根は入ったところで学ぶものなど無いのだが、どうやら教師たちは”箔付け”のために俺を利用したいらしい。それにイラつき、ブランドとして使える雄英高校を選択肢から外すか微妙のところにいた。

 

「なんにせよありがとな先生。雄英高校の資料、明日のHRでくれよ」

「今じゃダメなの?」

「持って帰んの面倒くせえ」

「しょうがないな奴だな…。これくらいにして帰ろうか。垣根の進路とはいえ授業外のモンだったし、ジュースぐらいあげるよ。何がいい?」

 

 垣根は少し黙り、ふと思いついたものを挙げた。

 

「明日、授業前にプロテイン持ってきてくれ。ココア味な」

「わかった。家まで送ってやろう」

 

 ふふん、と鼻を鳴らしながら上機嫌に歩く天気子を横目に、「過保護だな、アンタ」と呟く。

 

「垣根君もまだ守るべきこどもだからよ」

 

 この人は信用できる大人と思い、垣根もまた上機嫌に笑う。

 

「はいはい、ありがとよ」

 

 垣根の暮らすアパートの前に到着した。天気子はねぇ、と垣根に体を向け、

 

「垣根君の心、絶対晴れるよ!」

「…そうかい」

「また明日も学校に来るんだよ」

「はいはいわかったよ」

 

                                           

 

 次の日、朝のHRが始まるチャイムで黒板側から教室に入る。垣根は担任に目を向けながら、

 

「おはようさん。今日も学校に来てやったぜ」

 

 担任は笑顔で応える。

 

「おはよう垣根君。ほれ約束の資料とプロテインだ」

 

 ガサガサ、とレジ袋特有のうるさい音が鳴った。垣根は腕を出してそこにレジ袋を通してもらう。

 

「あんがとよ、自分の授業行ってこい」

 

 ヒラヒラ、とあっち行けのジェスチャーをしている垣根を見て、「辛辣だなぁ…。行ってきまーす」と肩を下げてトボトボと教室を出た。

 

 廊下側から2列目にある自分の席に着くと、左隣にいる騒がしい奴…上条当麻が、よっ!と手を挙げ、チラッと資料に目を向ける。

 

「お前ヒーローなんかに興味がないとか言ってたくせに雄英高校行くの!?ていうか進学先あんだけ面倒くさがってたのに決めたんだ!?」

 

 上条はアホ面になっていた。

 

「決めたってわけじゃねえんだが…昨日先生に薦められてな」

 

 垣根は上条に目を向けながらもらったプロテインの蓋を開ける。

 

「あんだけトガってたお前が先生のいうこと聞いたの???」

 

 明後日の方向を見ながら、まじかー、とぼやいていた彼は、呆れつつも信頼している声を出した。

 

「お前なら余裕だろ、垣根」

「当たり前だバーカ、死ね。むしろ推薦させてくださいって来るべきだろ」

 

 プロテインを一気に飲み干し、能力を使ってゴミ箱へ放り投げる。

 

「流石東大A判定持ちは違ぇなー。俺は地元の公立高校で迷ってるわ。選び放題ってうらやましいぜ?」

 

 垣根はニヤりと笑いながら自分の頭をトントンと人差し指で叩く。

 

「ここが違うんだよ、ここが」

 

 上条は悔しそうに自分の頭をわしゃわしゃしながら、悔しそうな顔で少し声を張り上げた。

 

「かーっ!相変わらずムカつくなその表情!確かに頭の出来も確かにそうだけど、お前のわけわからない個性だよ。お前と12年間一緒になるけど、結局教えてもらえずじまいだったぜ」

 

 垣根は少し面食らった顔をしながら目線を反対に向ける。

 

「あ?個性把握テストの結果、毎回見せてるだろうが。『念動能力』(サイコキネシス)って書いてあんの忘れたのか」

 

 そう言って垣根は授業開始のチャイムを無視し、頬杖を突きながら資料を読み進めた。

 

 資料を見て進路にするかどうかを考えている中、垣根は上条の洞察力に驚いていた。今まで『念動能力』(サイコキネシス)として周りを納得させてきたが、上条はどうやらそれが違うと気づいているらしい。このアホがどうやって気づいたかどうかに少し興味がある。

 

 垣根はいつの間にか配られていた授業プリントの端をちぎり、

 

≪授業後誰にも言わずに俺の家に来い。この紙は俺の家につくまで捨てるな≫

 

 と書き記し、丸めて上条に投げた。

 

 上条はそれに気づくと、丸めてあった紙を広げた。誰にも知られたくない内容なんだな、と察し、視線を黒板に向けたまま手を椅子の高さまで下げ、サムズアップする。垣根はそのジェスチャーに気づくと、持ってきたもらった資料を能力で音を立てずにゴミ箱へ入れ、職員室へ行くために席を立ち、他の人の邪魔にならないように後ろから教室を抜けるために移動する。教師は垣根にどこへ行くのかと尋ねるが、垣根は手をヒラヒラとしただけで返事はない。教師はいつもの子かと思い授業を続ける。

 

 向かう垣根の足取りは、どこか軽い。昨日の天気子(あまつきこ)とのやり取りを思い出して、やっと信頼に足る教師に出会えたことを嬉しく思っている。職員室についた垣根はノックもせずにドアを開け、目についた適当な教師へ伝える。

 

「3年の垣根帝督だ。雄英高校を受ける。天気子へそう伝えといてくれ」

 

 ピシャーン、と思い切りドアを閉め、彼は通学路にあるコンビニへ赴く。たしか上条はポテチとオレンジジュースが好きだったな、と思いそれらをカゴへ突っ込んでいく。ついでに昼夜の飯もかってっちまうか、と垣根は麻婆弁当、唐揚げ弁当、サラダチキンの三つに手を伸ばした。

 

 家に着いた垣根は自分のスマホを確認しながらガチャと家の鍵を開ける。現在の時刻は9時23分とディスプレイに映っているのをチラっと見た後、靴を脱いで洗面所に向かい、部屋着である黒いジャージに着替える。コンビニで買ってきたポテトチップス以外の食品を冷蔵庫に入れた後、垣根はベッドに座った。ふぁ…と欠伸をした垣根は少し寝ることにした。

 

「あいつのことだし、電話かかってくるだろ」

 

 起こせとポテトチップスの上にメモ書きを残し、微睡んだ。

 

                                           

 

 上条は授業が終わった後、誰の目もくれずダッシュで垣根のアパートに向かった。今までこんな慎重に上条を誘ったのはなかったからだ。何かを抱え込んでるのかもしれない。心配になった上条は垣根宛てに電話をする。

 

 Trrrr,Trrrr,Trr…

 

『垣根!今どこにいる?』

『…んぁ?家にいるよ』

『わかった。鍵開けといてくれ!』

『…ん』

 

 上条はスマホをズボンのポケットに突っ込み、あれ!?寝起きだったんじゃね!?超レアじゃん!と先程までの心配をよそにあほなことを考えていた。

 

 寝起きの垣根は少しぼーっとした後、「顔洗うか…」と洗面所に向かう。蛇口を捻ったあたりで、上条がノックする。

 

「開けるぞ垣根ー!」

 

 ガチャりと開いた先にいたのは、息も絶え絶えの上条当麻だった。

 

「なんで肩で息してんの?」

「お前のせいだよ!!!」

 

 顔を洗った垣根は、上条へ冷蔵庫に昼飯とジュースがあることを伝えた。

 

「マジ!?唐揚げ弁当いただくわ。垣根のそういうとこ好きだぞ、俺」

 

 垣根は少し照れくさそうに、「そうかよ」と呟いた。

 

 上条は電子レンジを開けてW数とタイマーをセットする。

 

「どうしたんだよ、垣根。いつもならもっと傲慢ちきで、自信たっぷりに俺と話すじゃん」

 

 垣根はふーっと息を吐き出し、目をつぶり、如何にも緊張してますという声色で告白する。

 

「…俺、天気子(あまつきこ)に恋したかもしれねえ」

 

 上条は目を見開いて、金魚のように口をぱくぱくさせながら、少しの思考と口の遅延後に、今日何度目かの強い声で驚愕する。

 

「天気子…?はぁ!?担任の先生じゃん!まだ出会って一週間たって

ないだろ!?」

 

 垣根はぷっと軽く噴き出して

 

「ははは!ははははははっ!嘘、うーそーだー。本題はそれじゃない。上条が俺の個性が『念動能力』(テレキネシス)じゃないと気づいたか聞きてえんだよ」

「なんの話…?俺そんな話したっけ」

 

 本気でなんの話覚えていないらしく、垣根はやれやれと肩を竦めた。

 

「俺が雄英高校の資料持ってるときに言ってただろ。俺のわけわからない個性の正体を教えてもらえなかったって」

 

 ツンツン頭のバカは、頭の上にビックリマークが見えそうなくらいに思い出したぜ!という表情をし、

 

「あぁ、あれか!実はさ、1年の時の個性把握テストあっただろ?あの時に垣根の後ろにいたんだけどさ…」

 

 自分が気づいていなかった事が上条によって齎される。

 

「背中に、白いもやもやが見えたんだよな」

「待、て。白いもやもやって何だ?俺の何を見た?なんなんだよそれは!?」

 

 バレたのが『念動能力』ではありえない挙動をしただとか、個性を使ってるのを見られただとか、そういう次元の話じゃない。自分の個性に知らない部分があった。自分の個性である『未元物質』(ダークマター)は、その素粒子を操り、他の原子と組み合わせて既存の物理法則を塗り替える個性としか知らなかった。

 

 なら、上条が見たのは、な、んだ?俺の個性は、なんだ?知らなきゃいけない。俺の個性はなんなんだ。

 

 垣根は、思わず感情が昂ぶって上条の胸ぐらを掴んでしまった。

 

 上条は狼狽える。怒鳴る垣根を、まぁまぁ落ち着けと宥めるようにその腕を手のひらで優しく叩くと、垣根はバツの悪そうな顔をして目をそらしてしまう。

 

「背中のもやもやの存在を知らなかったのか!?それを考えるのは後にして、そもそもの元の個性を知らないんだ。そこから話をしようぜ。」

「…そうだな。まずはその話が最初か。元の個性というよりかは、俺がそうだと思っていた個性になる」

 

 それじゃあ、と溜息めいて垣根は語りはじめる。

 

 個性は『未元物質』(ダークマター)で発動型ということ。

 

 『未元物質』は分子より小さい素粒子だという話をし、それを操ること。

 

 『未元物質』は論文にも教科書にも存在していない未知なる物であることを説明する。

 

 上条は何かを思い出したように眉を緩める。

 

「だーくまたー?それって宇宙にありそうななんとかかんとかーって奴じゃないのか?」

「能力の名前の由来はその通りだ。宇宙の方は質量として存在してても光学的に直接観測できねえって奴だな。だが、俺の『未元物質』はこの世界には本当に存在しない物質だ。過去に研究したレポートが書いてあるが、見てもわからねえだろ」

「よくわからんけど、わかった。でもそれをどうやって『念動能力』(テレキネシス)のように扱ってたんだ?」

「窒素が大気中の8割くらいを支配してるってのはわかるか?」

上条は苦虫を噛み潰した後にハバネロを丸かじりしたような顔をして、首がガクっと折れるように頭が下がった。

「この前赤点補習の時にやりました…!クソ…!ちくせう…!」

 

 次赤点取ったら手伝ってやるよ、と垣根は呟いて頭をチョップする。

 

「その窒素に『未元物質』を紛れ込ませて、透明な箱のようなものを作って動かしてた」

「『念動能力』だけでもインチキなのにさらにインチキだと…!?」

「ところでお前、今日暇か?」

 

 上条はいつの間にか取り出されていた唐揚げ弁当のフィルムを開けながら応えた。

 

「あ、サンキュ。暇だけどなんで?」

 

 垣根は上条の目を真剣な眼差しで見つめ、ふぅ、と決心したように溜息をつくと、

 

「…『未元物質』の性能テストがしたい。お前の個性が無いと万が一暴走したときに止められる奴がいない。だから、頼むよ上条。」

 

 上条は垣根にここまで頼まれたことがなかった。今日は垣根がデレッデレな日なのか!?そうなのか!?と内なるアホ条がウェイウェイと酒盛りをはじめているが、真剣な眼差しの前に、こちらも真剣に応える。

 

「レポートでまとめてたんじゃないのか?…あ、背中のもやもやがどうなってるのか知りたいのか。動画はとるか?」

 

 垣根はニヒルな笑みを浮かべる。

 

「そういうことだ。動画はいらないし、そもそも記録を残さない。俺の『未元物質』の記録はどこにも残したくねえんだ。悪いがお前の見たまんまを伝えてくれねえか。」

 

 上条はいつになくシリアスな表情で垣根を見据える。

 

「垣根がそこまで言うなんて珍しい。俺を頼ってくれるんだな、垣根。俺のしょうもない『個性殺し』(イマジンブレイカー)が役に立つんならドンと来いよ。」

 

 垣根は心の底から思ったことを伝える。

 

「ありがとう」

「今日の夕飯は焼肉がいいなぁ!?」

「…二度とお前に感謝しねえ」

 

 断れなかった垣根はせめてもの仕返しに、と夕飯に超高級焼き肉店(ふたりで3万円)に連れて行って、上条に旨さを覚え(食放に行けなく)させた。

 

                                           

 

 焼肉を食べ終わった二人は、町はずれにある大きな公園を目指して川沿いを歩いている。その最中に、垣根は性能テストの概要を説明する。やることは一つ。全力で『未元物質』(ダークマター)を噴出させることだ。

そのテストに疑問を抱いた上条は、楊枝で歯をつつきながら左隣にいる垣根に顔を向けて質問する。

 

「性能テストなのにそれだけでいいのか?」

 

 垣根も同じく楊枝で歯をつつきながら、前を見据えてニヤりと笑う。

 

「いいんだよ。今まで個性を全力で使ったことがなかったから、それだけで十分なパラメーターは入手できる。あとはそれをどうやって背中の白いもやもやに関連付けられるかだ。そこは俺のするべき作業だから上条は気にしなくていい」

 

 上条はそんないつもの垣根を見て、安心する。

 

「自分の理解できていない物にニヤりとするの、変わってないんだな。てっきり不安になってるのかと思ったけど、心配はいらなさそうだな」

「ったりめーだクソボケ、俺を誰だと思ってやがる」

「いつもの調子、出てきたじゃん」

 

 目的地のグラウンドについた二人は、ゴミ箱に楊枝を捨てた後、二手に分かれた。周りに誰もいないことを確認できると、互いに合図を送る。垣根は上条にグラウンドの中心に来るようジェスチャーし、上条もそれを受け取った。中心についた上条に、垣根は背を任せる。

 

「上条、俺の背中から5mくらい離れて右手を構えててくれ」

 

 足を肩幅に広げ、左腕で右手首を支えながら上条は応えた。

 

「おっけ、もう準備はできてるよ。いつでもこい!」

「最初から飛ばして行くから、絶対に踏みとどまれよ!!」

 

 垣根はズボンのジャージのポケットに両手を突っ込み、ふぅー、っと一度息を吐き切り、一気に酸素を身体に取り入れる。垣根は全力で個性を噴出させる。『未元物質』は空気を切り裂き、体中が響くような轟音を出し、烈風が起こる。烈風には、ダイヤモンドダストのようなものが混じっているのが見える。

 

「垣根!能力から雪っぽいのが見える!まだ続けるか?」

 

 垣根は「続ける」と一瞬だけ振りむいて返事をすると、力むような姿勢を取った。その瞬間、白色の粘質めいた『未元物質』が噴出される。上条はそれを気持ち悪がると、垣根に叫ぶ。

 

「なんかネチョネチョしてないか!?どうすんだよ!?」

「ま、だ!あと一段階で全力だ!」

 

 垣根は雄叫びを上げる。すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今までのやつ、背中に集まってきて」

「ォォォォォオオオオオオオオオ!!!」

 

 垣根の背中に1()()()()()()が生えたのを上条は見た。グラウンドの砂は巻き上げられ、小石は上条に雨のように当たるが、おとぎ話にしか出てこないようなものを間近で見て、上条は目を輝かせる。しかし、見ていることを垣根に報告せねばならない。

 

「翼が出た!翼が出てる!片側で6mくらいある!!」

 

 垣根は一瞬だけ意識が飛ぶ。

 

「…上条!止まらねえ!()()()()()!!消せ!!!」

 

 上条は急いで垣根の白い翼に右手を当てた。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「上条!?な、何が起こっていやがる!止まれ、止まれよ!!」

「俺は大丈夫だ!個性が暴走してるのか!?」

 

 上条の個性は『個性殺し』(イマジンブレイカー)()()()()()()()。右手首より先に宿っている。そんな個性が、『未元物質』を消しきれていない事に驚いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、気づく。

 

 『個性殺し』には処理限界があるのかもしれない。

 

「あぁ、暴走してるよ畜生。『個性殺し』で『未元物質』を掴めるか!」

 

 上条は『未元物質』を掴み、叫ぶ。

 

「こっからどうすんだよ!」

「わからねえよ!」

 

 軽いパニックに陥った二人は、どうにか落ち着きを取り戻すためにふーっと息を吐き、言い合いをやめる。垣根は数秒黙った後、『未元物質』が暴れださないように注意しながら、考えている言葉を口にする。

 

「とりあえずわかったのは二つ。『未元物質』が未知数なのと、『個性殺し』には処理限界がある」

 

 上条も少し黙ったあと、ちょっと邪悪な笑みを浮かべて提起する。

 

「それが暴走して勝手に反撃しているなら、わざと俺を攻撃してみればいいんじゃないか?」

「あ?」

「つまり、久しぶりに俺と喧嘩しようぜってことだ。バカキネ」

 

 上条が掴んでいた右の翼を掴み直し、思い切り下に引っ張る。垣根はバランスを崩し背中から倒れそうになるも、掴まれていない左の翼を使い地面を叩く。爆風が起こり、上条は思わず両腕で目を庇ってしまう。その隙に上条へ振り向いた。喧嘩の意図を察した垣根は思わずニヤけながら、「全力でやるからな、テメェ」と呟いた。

 

 一つの戦闘(けんか)が始まった。

 

 垣根は1対の翼を後方の地面に叩きつけて爆風で突進し、右足で右足払いを仕掛ける。しかし、垣根の足が出る前に上条の左足に踏みつけられ、上条の右手がその勢いで顔面に迫る。自分が加速するために使った空気が仇になり、上条が吸い込まれてきた。

 

「お前の個性はそんなもんかよ!!」

 

 垣根は足を踏まれたまま左の翼を上条の右手目掛け、鞭のようにしならせる。

 

「うるっせぇよボケ」

 

 右手を弾いた。上条の左足の力が弱まった隙に、垣根は左足で上条にヤクザ蹴りを当てる。その勢いで後方に飛んだ。

 

(遠距離から『未元物質』を当ててりゃ倒せるが、そんなのは喧嘩じゃねえ。目的に合わねえんなら、相手の得意距離だろうが殴り合いに行くよなぁ!!)

 

 右手に拳を作り、加速する。その勢いで上条の顔を殴ろうとするも、その腕を上条が左手で掴み、右後ろに引っ張る。体勢を崩させた垣根の顔面に拳を入れ、そのまま地面に叩き付けようとする。

 

 が、垣根が1対の翼を地面に刺し、そのままバネのように起き上がった。その力を利用して上条の右手を顔で弾き、再び距離を取ろうとする。

 

 しかし上条は咄嗟に左手で垣根の胸ぐらを掴む。弾かれた勢いでまた右腕を構え直し、逃げられない体勢を作った。

 

(テメェはそういうタイプだったよなぁ!)

 

「昼間のっ、お返しだ!」

 

 垣根は上条を空から振り落とすために両翼をはたいて飛ぶ。しかし、上空10メートルを過ぎても上条の手は離れない。苦い顔をした垣根を見て、上条は振り子のように下半身を揺らし、垣根のバランスを崩す。振り落としを先読みされた垣根は、翼を使って上条を叩き落そうとしたが、遅かった。

 

「ク、ソがっ!!」

 

 上条は、振り子の勢いを使って垣根の腰に両足を絡ませ、空中で馬乗りになる。

 

「お前が自分の個性を扱いきれないってんなら」

 

 垣根は「勝てなかったか」と聞こえぬよう呟きながら舌を噛まないように口角を上げた。この距離じゃ翼を使ったとしても自分に当たりかねない。

「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」

 

 ゴン、と一つの戦闘(けんか)が終わる音が垣根の頭の中に響いた。

 

                                           

 

 喧嘩の勝者上条当麻は、今ピンチに陥っていた。空を飛んでいるのは垣根の個性のおかげであり、彼の身体能力のおかげでは無い!!むしろ個性を消し続けているのだ!!

 

「あぁああぁああ落ちる落ちる落ちるやばいやばいってうわぁぁぁぁあああ!!!!!」

「なら早く右手を顔からどけろ翼消えてんだよ!今お前の右手のせいで消えてんだよ早くしろ!!!!」

 

 ぺちぺちと垣根は上条の右腕を叩いてアピールをするが、本人は恐怖のあまり気絶してしまったのである!!

 

「あぁもうバカ条!」

 

 垣根は一度上条を振り落とし、自らの個性を使い、落ちていく上条の身体を翼で支え、そのまま立たせる。垣根はそのまま翼を利用して降りた。

 

 あわわわわ、と立ったまま震えている上条に対し、垣根は溜息をつく。

 

(さっきまであんな度胸あったのに、終わったらこれだからなぁ…)

 

 そんな彼も落ち着きを取り戻どし、グラウンドを見渡し、気づく。

 

「垣根さん。グラウンド、ずいぶん荒れてません…?というか木々が倒れてますけど!?」

「あっ」

 

 垣根は『未元物質』(ダークマター)を使い、上条を浮かせる。

 上条は先ほどの落下の時に消していた『未元物質』に浮かされていることを流石に疑問を抱いたらしい。

 

「あれ?なんで俺浮いてんの?」

『個性殺し』(イマジンブレイカー)は個性そのものを消す個性だ。なら個性で枠を作って、空気をクッションにして上条を囲めばいいだろ?『念動能力』(テレキネシス)の時の応用だぞ?アホかお前」

 

 さも当然のことのようにいう垣根に、学歴コンプの上条は吠えるのであった!!

 

「これだから天才は!常人にわけわからんことを平気でやる!!」

 

 と言ってから上条は思い出す。個性の無断使用は禁じられていて、尚且つそれが戦闘という規模の大きいことをしてしまったと。

 

「こんだけ飛んでたら流石に目立つというか法律違反で少年刑務所行きじゃないの俺たち!!おろせ!おろせ!!」

「…光の反射を『未元物質』で移動する空間ごと弄って周りには何も見えないように調整してあるから安心しろ。グラウンドに散らかしっぱなしだった『未元物質』そのものも全部消してきた。証拠があったとしても木々が爆風でなぎ倒された事実しかないから俺らにはアシつかねえよ。」

「わかってたことだけど、『念動能力』よりインチキだな!?」

「もう本題に戻っていいか?」

「はい」

 

 上条は性能テスト中に起こった全てを伝えた。

 

 烈風には雪のような白いものが混じったこと。

 

 力んだ後に粘質のものになったこと。

 

 ()()()後にそれらが背中に集まって、1対の白い翼の形を為したこと。

 

 それはおとぎ話のような質のものだったことが伝えられた。

 

 はぁ?と一度呟いて、怪訝な顔をしながら上条に顔を向けた。

 

「…俺、叫んでたのか?」

 

 上条は垣根よりも怪訝な顔をして返す。

 

「めっちゃ叫んでました。これまでに聞いたことない叫び声?叫び声ってより雄叫びだったんだけど」

 

 垣根は見当がついたようで、上条に伝える。

 

「性能テスト中…お前が言ってる雄叫びのタイミングだと思うんだが、頭の中がパキりと割れるような音が聞こえたし、実際割れたような錯覚が一瞬あった。恐らく、()()()()()()が翼を使えるようになった要因だと思う」

「頭の中が割れ…ッ!?大丈夫なのかよそれ!?」

「錯覚っつったろバーカ、死ね」

「ちくせう!!!!」

「あ、感情の昂ぶりってどんな昂ぶりでせうか?」

「………………………………黙れ」

「はぁ!?おい逃げるな垣根!!散々頭の出来をバカにしておいて追及されたら逃げるなんて事許さないぞ!!」

 

 あまりにも理不尽な黙れという発言に、上条当麻は支離滅裂なことを言っている。

 

「もう家の上空についてんだよ。近所迷惑だうるせえ」

 

 そういって垣根帝督は、何も言わずに上条当麻を落とすのであった!!

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ不幸だあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 パキポキ、と木々が折れる音がする。その音源は、木に落とされた上条当麻が出していた音だった。そして彼は、半泣きになりながら呟く。

 

「容赦がなさすぎませんこと…?」

「早く家に入れよコラ」

「んもーっ!!はいわかったわかりましたわかりましたよコンチクショーっ!!」

 

 家に入った上条は、垣根が翼を使って飛んでいたことを思い出し、左拳を突き出して垣根に伝える。

 

「扱えるようになってよかったな、垣根」

 

 上条が垣根と喧嘩をふっかけた意図は、全力で喧嘩をして、抑える方向でなく力を行使する方向で『未元物質』(ダークマター)の制御を試みる、というものだった。垣根はそんな解決方法を思いつかなかった、というより、一瞬意識を失ったこと、突如生えた1対の翼にびっくりしたこと。上条の『個性殺し』(イマジンブレイカー)が効かなかったことに意識を向けてしまい、パニックに陥ってしまった。

 

 それでも扱えるようになったのは、幼馴染の上条が俺と全力でぶつかってくれたからだ。上条はどんな奴でも対等に立ち、真正面からぶつかってくれるし向き合ってくれる人間(ヒーロー)だ。

 

 こいつと一緒にいると、どんな悩みも解決しちまう。俺のバケモノじみた個性でも対等に向かってくれて、今の関係がある。

 

 先に家に入っていた垣根は上条に表情を見せないように左拳を突き出して、コツンと合わせる。

 

「ほんと、よかったよ」

 

 そこには、年相応の幼い顔で笑う垣根の顔があった。

 

                                           

 

 上条は靴を脱いで、「オレンッジジュ~ス~」とはにかみながら、昼間の残りを探しにリビングへ歩く。片膝をつきながら冷蔵庫を開けて取り出した上条は、その間に垣根はコップを二つ、台所から持ってきていた。

 

「おっ、サンキュ~。そういうとこ学校で見せりゃいいのに。っていうかまず学校に来いよ」

「…明日からちゃんと行くよ。今まであった『個性』へのわだかまりも、少し消えたしな」

 

 えっ、と呟いた上条は思わずフリーズしてしまう。

 

「そんなインチキ個性にわだかまりがあったの…?やだ、この子アタクシの敵…?」

 

 およよよ、と音が聞こえてきそうな体勢の崩し方(しかもオカマ口調に対応するようにオネエ座り!!)をしているし、右手の甲を上へ向けながら左頬に当てている。

 

 そんな上条を見た垣根は思わず心の底から言葉がでてしまった。

 

「きっしょ」

「うるせえ!」

 

 上条はそんなやり取りをして、アハハと笑う。

 

「どうしたよお前…頭イカれちまったのか…?病院紹介してやろうか…?」

「違うよ違う。あんな事二人でいつものやり取りに戻ってんのが嬉しいんだよ」

「いつもこんなんだろ?俺らはよ」

「それもそうか」

 

 二人はオレンジジュースを飲みながら喋る。二十歳過ぎてもこんなバカがやりてえな、と垣根はふと思った。上条の顔をぼーっと無意識のうちに見つめていたらしい。

 

「おーい、どしたー、どしたー垣根ーおーい。アホんなっちゃったー?」

「ごめん、多分疲れてるんだと思う」

「うんごめんなんてお前は言わないきっと疲れてる絶対疲れてるすぐ寝よう今もう寝ちゃおう」

 

 時計の針は、両方の針が真上を向いていた。

 

「あっ、最後に一個聞きたいんだけどさ。あっ違う言いたいこと?」

「んだよ上条、人が寝ようってのに」

「っつーかお前が言ったことだろ」と呟きながらベッドに身体を投げる。

「能力が攣りそうってなんだったの??」

「アレより先に行けると思ってさらに踏ん張ったんだが、個性が攣るって表現しかできないような挙動をしたんだ。これ以上先に行ったらヤベエと思って消してもらうしかなかったんだよ」

「上条さんから見ても筋肉が攣るようなピクピクした動きは確認できませんでしたのことよ?」

 

 垣根はまた知らなきゃいけない事が増えたな、と思いつつも眠気には抗えないらしく瞼が落ちていく。

 

「ぁみじょぉ、シャワぁ適当につかえぇ…布団はベッドのしたぁ」

「あーはいはい、おねむの時間ですねおやすみなさーい」

 

                                           

 

 へっくし!!と上条のファッキン爆音くしゃみを聞いて起きてしまった垣根は、ベッドから起きて上条の背中を軽く蹴る。んがっ、と上条は声を上げるが、起きる気配は無い。昨日付き合わせた自分に負い目を少し感じて、腹いせキックを一発でやめた。

 

 垣根はキッチンへ向かう。朝食のサンドイッチを作りながら昨日の事を思い出して、『未元物質』(ダークマター)がどういった能力か考える。

 

(昨日の喧嘩で判明したのは背中に出ていた白いもやもやが何かって事だが、ありゃあ『未元物質』だ。制御しきれてなかった分を上条に見られてたんだな)

 

 だが、と垣根は無意識のうちに呟いて

 

(粘性の『未元物質』なぁ…。上条が雪っぽいっつってたのは理解できるんだが、こっちは想像がつかねえな。それが背中に集まって翼が出るのも『未元物質』の謎を増やしただけだ。そもそも何かを形どるなんて思いもしなかった)

 

(上条に『未元物質』がネチョネチョしてる、って言われた時は、まだこの先に行きたいし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思ってた。止めてくれる奴がいるって思って全力を出せた)

 

(その感情が最高点に達したとき、意識が飛んだ挙句に俺は叫んだみたいだな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その時に『未元物質』が攣りそうだと感じたのは一体なんだ…?)

 

(上条の『個性殺し』(イマジンブレイカー)で莫大な量の『未元物質』の噴出が収まってやっと落ち着いた。『個性殺し』で消しきれない個性があるのにも驚きだが、もしかしてあれ以上に『未元物質』は進化すんのか?今だってこの個性は手に余るってのによ)

 

 いつの間にか作り終えていたサンドイッチを包む。上条が起きるまでコーヒーを飲むことを決めた垣根は、スティックコーヒーをコップに開け、お湯を注いでいた。なんか面白い記事は無いかな、とスマートフォンでネットサーフィンをしはじめている。ページを適当にスクロールしていると、なにやら興味の無い記事を誤タップによって開いてしまっていたらしい。

 

(連続殺人の死体発見場所をつないだら、五芒星の形になるかもしれないだぁ?このご時世にそんなオカルトマークって馬鹿じゃねえのか)

 

 自分がメルヘンな個性を使っていることは棚に上げて、さらに記事を読み進める。

 

(4つ目の頂点は…俺の住むこの町のコンビニだぁ?…昨日行ったところじゃねえか)()()()()()()()()()()()()()()、ふとスマートフォンの時計を見ると、いつの間にか結構な時間が経っていた。そろそろ起こさないと遅刻するな、と思った垣根は、バカ面さらして寝ている上条を蹴り起こす。

 

「よう上条、後30分で学校だぞ」

「んがっ痛ぇ!」

 

 上条当麻は幼馴染の垣根くん家に止まっていることを忘れて、爆睡してしまったのである!!

 

 そんな彼は頭をぐしゃぐしゃ掻きむしって飛び起きた。

 

「あああああやべえやべえ朝ごはん食う時間ないじゃん不幸だああぁぁ!!」

「そうだな。朝ごはんは大事だよなぁ?サンドイッチ作ってあるから歩きながら食うぞ。家から15分で着くから支度しろ」

「垣根最高!いただきます!!」

 

 はぁ、と溜息を着きながらも悪い笑顔を浮かべて垣根は学ランに手を通す。

 

「俺とお前の分、つまり二つ作ってあるんだが」

「うんうん」

「2分の1でタマゴサンドに超辛いマスタードが入ってる」

「…上条さんの不幸を知ったうえでの狼藉でございまして?」

「お前に選ばせてやるよ。どっちがいい?」

「ん~~~~~~」

 

 上条は考える人のポーズを取る。

 

「置いてくぞバカ。早くしろグズ」

「あぁもうわかったこっち持ってくよ!!」

 

 なんやかんやで家を出た二人は、学校に向かいながらサンドイッチを開けて食べ始める。

 

「しかし垣根って器用っていうか一人暮らしに慣れすぎているというか、すごいよなー」

「あぁ?サンドイッチとかそういう面倒じゃないモンしか作れないし、包丁使うのは上手じゃない。皮なんて剥こうもんなら手が血まみれだわ」

「あーそうなの?それでもすごいと思うけどな。んじゃ、いっただっきまーす」

 

 ガブ、と思い切りサンドイッチを噛んだ上条は、笑顔でもぐもぐと食べ進めていた。しかし、だんだん咀嚼する速度が遅くなっていく。そんな様子をニヤニヤしながら垣根は眺めていた。

 

 ()()()を引いた上条は顔をくしゃくしゃにしながら、辛すぎるせいか少し涙ぐみながら咀嚼した分を飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

☆アタクシ、辛いの引いちゃった                           !

 

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