「あっはは、ははははっ!ひーっ!!引いてやんの!ハズレ引いてやんの!!」
「んーーーーっ!!ん゛ーーーーーーーーーっ!!かっ…辛い!!」
右手で口を抑え、長い息を吐き、悶える上条を横目に腹を抱え、膝を叩き、指をさして笑う垣根。
「ほ、ほんひひへひずをはわへへくははい《コンビニで水を買わせてください》」
「1分過ぎたら置いてくぞ」
「ひゃい」
通学路にあるコンビニについた二人。垣根は店のドアの前でスマホをいじり、上条は店内へ小走りで進む。目的である水を抱え、レジに向かい歩く。
「あれ、財布がない」
太もものポケットにも無いし、学ランのポケットにも無い。いつもの不幸か、と上条は溜息をつく。
「外で待ってる友達から借りてきます!!すぐ戻ります!!」
またもや小走りをし、垣根のいる店外へ向かう。その途中、自動ドアで
「これは君の財布ではないのかね?中身を見たら学生証があってね」
「ありがとうございます!!銀髪天使美少女ちゃん!!」
「ははは、構わんよ。早く会計を済ませたまえ。店員さんが待っている」
上条は会計を済ませるために、レジへと歩く。その足取りは、『美少女に財布拾ってもらってどっちの意味でもうれしい』みたいな動きではない。決して。
「おーっす、待ったー?」
垣根はスマホから目を上条にスライドさせ、静かに怒る。
「2分経ってるぞウニ頭」
「でも置いてかないってことは待っててくれたんだぁ、素直じゃないな垣根く」
待たせていたはずの男を煽るために紡ぎかけた言葉は、その男の叫びによって遮られた。
「右手構えろ!!」
左腕を掴まれて引っ張られる。その時の垣根の視線はコンビニの中に向けられていた。そこには、
右手を構えた上条より後ろは被害がない。しかし、当の本人の右腕はあり得ない形にひしゃげてしまっていた。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「…上条!?」
上条は叫びとともに失神し、そのまま垣根の方へ倒れこんだ。垣根は上条をゆっくりと地面に下ろし、この惨状をどうするか考える。
全力で止めないと地獄がここに作られてしまうのを嫌でも考えてしまい、
(この爆発音がしてもすぐ来ねえってことは…クソが、こいつは俺が戦うしかないみてぇだな!!)
全力で使用しても周りに被害が及ばないか調べるために辺りを見渡す。悲鳴を上げる人、スマホを構えて映像を撮りだす人、腰を抜かす人、と散々な光景が出来上がっているが、文明の利器を耳にあてている人間は誰一人といない。
「おいクソボケ共が!!さっさと110番と119番に電話かけやがれ!!ここから逃げろ!!」
悲鳴を上げていた、腰を抜かしていた人々が逃げ出し、電話をかけるのを見た垣根は、その翼を使って指向性のある竜巻を生みコンビニを襲撃する。
コンビニに飛び込む垣根は叫ぶ。
「何してんだテメェら!!」
上条当麻に財布を渡した
「初めましてだな、ヒーロー殺し」
「…何の用だ?」
「君は今、三つの殺人事件を起こしているだろう?被害者に共通するのは、敵に賄賂を渡されたヒーローということだ。そしてその死体発見場所を戦で繋げると五芒星になるかもしれない、という新聞記事の憶測が出ていてね。私の個性である『五芒星』と、殺人事件を関連付けられては困る。だから私は君を倒す」
「ハァ…?そもそもお前は誰だ。俺はそいつらに手をかけてない。
長い銀髪の美少女は呆気にとられる。犯人の動機、殺害対象、どれをとってもヒーロー殺しに合致する。が、本人は本当に知らないように振る舞う。しかも、手をかける予定だったってことは、
「…君ではないというのかね」
「殺された贋物はいずれ俺が粛清する対象ではあったな。俺は贋物と徒に個性を振り回す敵は殺すが、そこに宗教的な意味は全くない」
「そして、話をしていてわかったことが一つある。…貴様は自分のために個性を振るう贋物だ。ここで死ね」
ヒーロー殺しはいつの間にか手に構えていたナイフを長い銀髪の美少女に突きつける―――――――――――――――――――――――――その瞬間に、腕を掴まれた。
「なぁなぁ!取り込んでる途中だけどいい?いいよな?な?」
会話に割り込んでくる軽薄な男の声。その声を発する人間の図体はあまりにも筋骨隆々としていて、長い黒髪。その隣にいるもう一人の男も、筋骨隆々とした短い金髪。
「その犯人って実は俺っちたちなんだよね!!最近俺たちを追ってるって奴の個性がわかったからさ、足止めみたいな感じ?っつーわけで、ステインを
金髪で筋骨隆々とした男は個性を全身に発動させ、誕生日プレゼントが待ち切れない子供のような声色で叫ぶ。その男の姿は剥き出しの筋繊維に包まれ、攻撃的な笑みを浮かべ。
「俺は血が見れればなんでもいい!!早くやろうぜ!!」
長い銀髪の美少女はヒーロー殺しにこの男たちを倒すのを協力してくれないか、と提案をしようとした矢先に、ヒーロー殺しは長い黒髪の筋骨隆々とした男に、右足で蹴りを放つ。靴に仕込んだ針が飛び出し、腹部を貫く凶器と化した。しかし、長い黒髪の筋骨隆々とした男は見下した目で軽薄に嗤う。
「俺の個性ってのは
隣にいる短い金髪の筋骨隆々とした男と同じ個性を振るい、そのまま筋繊維で足を絡めとる。
「じゃ、バイバイ!!やっていいよマスキュラー!!」
「おう!!きたな!!ようやく!!血を見せろ!!遊ぼうぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」
浮かべていた攻撃的な笑みをさらに歪め、愉悦に浸り、叫ぶ。目には涙すら浮かび、殺人の悦びを精一杯噛み締めている。
長い銀髪の美少女はいつの間にか取り出した捻くれた銀の杖を取り出し、雷光を筋骨隆々とした男たちに浴びせた。二人の行動が止まる一瞬、ヒーロー殺しの襟をひっぱり、長い黒髪の男に絡めとられていた足を引っこ抜き、もう一度個性を発動する。五芒星を一つ空中に描き、男たちにだけ向けて爆発させ...気づく。
(奴らの後ろに五芒星…!?カウンターってことはまだ見えてたのか!!金髪の筋肉男の個性が解除されてないことに気をやるべきだった!!)
轟音と爆風が鳴り響く。長い銀髪の美少女は、ヒーロー殺しの体を盾にして五芒星を長い黒髪の筋骨隆々とした男に見えないようにし、個性を発動させ、店内にいる人を守るように地面を盛り上げた。
店内は振るわれた個性によって滅茶苦茶になっていた。
(つ、通報しなきゃ。非常ボタン押さなきゃ。ヤバい。今の光は何!?えっ爆発…?耳痛っ…嫌だ。もう嫌だ。あれ、なんで生きてる?見る限り銀髪の子が守ってくれた…?じゃあ、カラーボールは3人の男に投げればいい…?)
コンビニ店員の男は震え、足が竦んでいるが、レジコーナーのテーブルに手をついてギリギリ立っている。目の前でいきなり始まった個性のぶつけ合い。その衝撃は半端なものではない。普通なら気絶したり、腰が抜けたりするだろう。
(俺だって元ヒーロー志望だ。こんなのっ…!!誰かが襲われてるこんな時に立ち上がれなきゃ昔の自分を殺しちまう…!!せめて、せめてカラーボールを投げて…!!)
彼は憧れを捨てたくなかった。誰かを守れるヒーローに。誰かを助けるヒーローに。テーブルの下をまさぐり、非常ボタンとカラーボールを見つける。非常ボタンをすぐに押し、あとはタイミングを見計らってカラーボールを投げようとしたその矢先に、学ランを着た少年が白く輝く翼を広げて店内に突入してきた。自分をレジコーナーから救い出し、店外で気絶しているツンツン頭の少年の近くに移動する。
「店員さん。通報と救急車は呼ばせたが、店内は今どういう状況だ?短く頼む」
「銀髪の女の子が襲われてる!!赤いマフラーの男は女の子の味方!?あぁでもナイフ突きつけられてたし」
「わかった。とりあえず女の子が危ないんだな!?」
学ランの少年は再び店内に戻ろうと、店内へ顔を向けた。コンビニの店員は、自分の思いを託す。
「待って、カラーボールを持ってってほしいのと、長い黒髪の男は見た個性をコピーできるらしい!!死ぬなよ!!」
コンビニ店員の男は震えた手で握っていたカラーボール二つ、垣根に渡す。
「ありがとなおっさん。そこで伸びてるツンツン頭を守ってくれよ!!」
カラーボールを受け取った垣根は、見た個性をコピーする男の個性をどう対処するか思い巡らす。
(見た個性をコピーする、なぁ。なら、俺の『未元物質』も存在自体はこいつにコピーされるかもな。ただしそいつが使い方まで理解できるとは限らねえ。コピーしたところで使えるかはそいつの個性強度や科学への理解次第だ。一応だが念には念を入れて、翼は見せないように戦うか)
「銀髪ちゃん、舌ぁ噛むなよ!!」
叫ぶ。
垣根は空気を蹴るように右足を何度か動かし、爆風を生み出す。その爆風は二つに別れ、一つは長い銀髪の美少女を敵のいる場所から弾き出すために。一つはカラーボールを乗せて敵に当てるために。
「ひぁっ!?な、何!?」
長い黒髪の男は吹き飛ばされる長い銀髪の美少女をボケーっと見ながら呟く。
「おいおいどこに飛ばされるんだお嬢ちゃ…うわ!最悪だぜマスキュラー。俺っちたち、カラーボール当てられちまったみたいだし、トンズラすっか!」
短い金髪の男に長い黒髪は話しかけるが、既に短い金髪の男はトんでいた。
「チッ、誰だ邪魔したのは!!クソが!!俺の楽しみを!!奪いやがってえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
(この筋肉ダルマ、もう血を見ることしか考えてないねぇ。そういやヒーロー殺しはどこいった?アイツで我慢させるしか無いかなぁ)
いつの間にか視界から消えていたヒーロー殺し。店内を一瞥するも、やはり姿は見当たらない。
「…ちぇっ、ステインも乗じて逃げやがった」
「おいアイツ!!アイツを殺っていいか!!いいややるね当然!!」
誰の事だよソイツは、とふとコンビニの入り口を見ると、学ランを来た少年がこちらを睨みつけている。
「んーまぁ、いいんじゃない?姿見られちゃったわけだし、カラーボール当てられたし、
少年はゆっくりと二人の男に向かい、両手を広げて煽るように言葉を紡ぐ。
「正解だクソ
「じゃあ俺っちは先にアジトに帰ってるから任せたよ~」
「っしゃあ!!遊ぼうぜ!!血を見せろ!!」
「おいおい、何逃げようとしてんだ?両方ともここでブタ箱行きだ。身体強化如きで俺の血が見れると思うなよ」
速報です。今朝XX市のコンビニで、現在指名手配中の
XX市総合病院。世間が入学式と件のニュースで騒ぎ立てた次の日の正午を少し過ぎたあたりに、警察官と思われる人と部下である雰囲気を纏わせるゾンビのような大男は、とある病室へ入った。
ゾンビのような大男は、悔しそうに、悲しそうに呟く。
「…私が来た時にはもう遅かった。彼は倒れていたし、
「いいんだ。君だけのせいじゃない。君には活動限界があるし、なにより君の家から遠いじゃないか。彼が二人の
しばらくの間、場を静寂が支配した。
声を絞り出すように、ゾンビのような大男は口を動かす。
「ところで、塚内君」
「どうしたんだい八木君」
「
「本当だとも。むしろ彼が意識不明になっている理由が個性の反動によるものとしか考えられない、というのが医者たちの意見だ。が、精密検査はできない状態らしいから、彼の肉体疲労が回復したら詳細はわかるらしい」
「そうか…。しかし彼はすごいな…。ネームド
「…
少年は長い悪夢から目覚める。病衣が汗でぐしゃぐしゃになって気持ちが悪い。風通しを良くするために上半身をベッドから起き上がらせようとするが、うまく動かせない。仕方なくナースコールを押すことにした。
しばらくして、医者と看護師が病室に入ってくる。体調に関する問答をしばらくした後、自分のベッドから彼は二人に目をやり、不安そうに呟く。
「…なぁ。上条当麻はどうなった」
「…君と一緒にいた子の名前かい」
「そうだ。あいつはどうなったんだ」
看護師はどこか悲しそうに伝える。
「…彼は、彼はね。行方不明なの。誘拐、されたんだ」
少年は、イライラで八つ当たりしそうな自分を抑えるため、ふーっとため息をつく。
「何月何日だ?」
医者はゆっくりと答える。
「今日は…10月だよ。10月の3日。君が倒れてから、半年くらいの年月だよ」
少年は目を静かに伏せ、血が出るほどに唇を噛む。
「君…じゃなくて垣根君。少ししたら警察の方と、到着予定だったヒーローが取り調べをしにくるから、ちゃんと受け答えをするんだよ。何か欲しいものがあるなら持ってくるけど、何か欲しいかい」
「…2Lの水と濡れたタオルをお願いします。汗を掻いて気持ち悪いんで」
少年…垣根帝督は身体を無理やり立ち上がらせようとする。約半年間動けなかった彼の肉体は、非常に衰えている。立とうとするのに身体を起き上がらせるだけで息が上がってしまうため、仕方なく個性で身体を支え、ベッドから立ち上がった。その後はベッドの柵を掴んで支えにし、解除する。その瞬間、自分の肉体を支え切れなくなってしまい、倒れこんでしまう。その音によって、病室に人が入ったことに気づかなかった。
「クソが。
世間にとっては半年という期間でも、彼にとっては襲われたのはついさっきの事だ。イライラが募る。
「おはよう垣根少年。リハビリをするのは良いことだが、焦りすぎることもよくないぞ?」
インターネットなどで聞きなれた声が病室に響く。目を見開き、口をぱくぱくさせ、驚愕する。到着予定のヒーローが来るとは聞いていたが…こんな大物のヒーローが現れるとは思いもしなかった。
「ア、アンタが間に合わなかったヒーローなのかよ。オールマイト…」
「間に合わなくて申し訳なかった。私が遅れたせいで…君はもちろん、上条少年が…!」
隣の警察官と思しき男性は、本題に入るために話を遮る。
「話の途中にすまないが調書を取りたいんだ。警察官の塚内直正だ。よろしく」
オールマイトに抱えられてベッドに戻された垣根は、警察の取り調べに対して、
「なんて事だ…ネームド
「塚内さん。一つ言っておくが少なくとも銀髪ちゃんは悪じゃねぇ。赤いマフラーのおっさんに詰め寄ってたように見えたし、俺が戦った二人と敵対してた」
塚内は手帳にメモを殴り書き、書き終えたところで垣根に目を向ける。
「そうか。ありがとう。最後に質問したいんだが、
少年はさっきの事のように思い出し悔しさで口を歪めながらも、言葉を紡ぐ。
「短髪マッチョもロングのマッチョも、強かった。なにしろ俺は周りに被害が出ないように考えなきゃならねぇし、避難誘導もしてた。あいつらの攻撃を叩き落としたり、衝撃波が行かないようにも頭をフル回転させてたんだ」
「個性の出力をあそこまで高めたのも初めてだったし、あの日の前に上条…行方不明になったアイツと俺の個性について調べてた。その時に全力で個性を使ってたから、脳の疲労があったな」
「ロングのマッチョの個性が厄介で、俺の個性を使われたくなかった。だから個性を光学的な擬態で隠すために頭で演算していたし、あいつらに攻撃する時も周りに被害が行かねえように演算をしなきゃだめだった」
「ストレス高体温症…要するに、知恵熱のようなものだ。あれと極度の肉体疲労…たぶん演算で糖分をたくさん使ったからだ。朝食を食って10分も立たない内に遭遇したから、そこまで糖分が回って無かったし、限界を超えて演算していたから鼻血が吹き出てたはず」
少年の話を聞き、メモを再び取っていた塚内。メモを取り終わるとオールマイトに目配せをし、彼に喋らせる。
「垣根少年。捜査が捗りそうな情報をたくさんありがとう。塚内君と話し合ったんだが、君には感謝しきれない。民間人への被害も最小限にしてくれたし、君には立場を関係なくお礼をしたいと思ってるんだ。何か欲しいものはあるかい?」
顎に手を当て、目を伏せて考える。一分も経たない内に目を開け、やがて決意した面持ちでゆっくりと喋りだす。
「金で買えるものはいらねぇ。…オールマイトに頼みたいんだが」
…私からの個人的なサインかな?と思い至ったオールマイトは、何処からか出したサインペンを可愛く両手でアピールする。垣根少年。どこだ。どこに欲しいんだい。
対して垣根は眉を下げ、呆れた目つきで睨む。
「違ぇよおっさん。しかもキツいわ」
人知れず落ち込むオールマイトをよそに、話を続ける。
「雄英高校のヒーロー科に一般入学、推薦入学と関係ない枠を一つ作ってくれるか?」
垣根は…唯一無二の親友を拉致した奴らから救うために、ヒーローライセンスを得られる手段を欲した。ヒーローならば、個性を振るうことだって合法になる。そもそも、
「俺は俺が優秀なことも、俺の個性が類稀だってことも、自覚はある」
「すまないが垣根君。君のその願いは流石に僕たちの権限から逸脱してる」
そんな塚内の厳しい声を無視して続ける。
「そんな奴が夢を持つ奴らを突き落としていいはずがねぇ」
「肉体のリハビリ、頭脳のリハビリも含めてやらなきゃだめだ。受験に使うはずだったリソースを全部そこに注ぎ込みたい」
元から
彼は敵
「切り口を変えてこう言わせて貰うぜ。遅刻した警察とヒーローさんよ。他には何も要らねえから、雄英高校の枠を作って寄越せ」
彼らは持ちうる権力を全て使って、異例となる枠を一つ作るための交渉をせざるを得なかった。
垣根帝督が見た悪夢は、ツンツン頭の親友がひしゃげた右腕を左腕で支えながら自分を守っている姿。彼が気絶する前に見た最後の光景だった。
惨いの一言だ。ただでさえ気絶するような痛みを抱えている癖に、気力一つで俺を…周りの人々を傷つけないように戦っている。疲弊しすぎて肩で息をしているし、脚も震えている。短い金髪の男の個性を抑えていた右手は、長い黒髪の男に背を蹴られ、男の体から外れてしまった。二人の筋骨隆々とした男に腹を殴られている。既に二人の男は疲弊しきっているが、筋肉のある成人男性に何度も殴られていたら、流石に血反吐が出ていた。
金髪の男の左腕、黒髪の男の右脚を
動け。動けよ俺の体。動けよ俺の頭。何度そう願っても、両方とも動かない。
彼が唸っていると、長い黒髪の男が上条当麻のズボンのベルトを持って動き始める。奴はスタスタと歩いて行ってしまったが、短い金髪の男はこちらを見て嗤う。俺に向かって何か叫んでいたが、口の動きを見る限りこう言っていたはずだ。
ま・た・あ・そ・ぼ・う・な
時計の針が真上を向く頃、病室の窓を明けて彼は夜空を眺めていた。
「情けねぇな…。本当に」
情けないのは警察とヒーロー。そして、自分。
オールマイトと塚内が帰った後に考えたことを反芻する。
あの場で殺さなかったということは、何かしらの利用価値があるはずだから生きているはず。ヒーローライセンス取得を目指しながら、上条当麻の行方を追う。もし可能ならば、ヒーローライセンスを取得していなくとも必ず救い出す。そこで俺は退学になったって構わないし、警察に捕まろうとも関係ない。寧ろ使い物にならない警察やヒーローなんかに頼ろうとは思わない。半年も経っていてあいつの手がかりすら見つからないってことは、あいつらの関わっていたものはこの社会の最果てにある闇なんだから。
「個性の反動で親友すら守れなかった。今度は守るんじゃなくて、必ず救い出してやる」
少年の目に宿る危うげな光は、世界を温かく照らす光にも、世界を冷たく切り取る光にもなれる。心のバランスが取れていない。それほど彼にとって上条当麻という少年は大切な人間だった。
英雄