大砂漠を一隻の船が大陸風に吹かれて駆けていく。船底から一人のハンターがのそりと甲板へ出てきた。色白で髪の色も白。瞳はルビーのように紅蓮の輝きを持っている。
このハンター、元ポッケ村の専属ハンターだったが、とある古龍を求めて村を飛び出し情報量の多いバルバレへと向かってきた。
いつもはリオレウス希少種の素材で作ったSソル・Zシリーズを好んで装備し、背には得物の太刀を背負っている。
ポッケ村から出立して10日間。ハンターは狩猟道具や装備など荷物がある程度あったため航路は使わず。家畜用ポポ1頭買い、小さな幌突きの荷台を小型マイルームとして車輪を付け改造し、曳かせてゆっくりのんびり旅をしてきた。
G級に昇格してポッケ村を震撼させたウカムルバスを討伐してからギルドからあれこれと汚れ仕事が多くなり、ハンター生活に少し嫌気が出てきた事もあり、村に訪れるハンターでは対処出来ない緊急の場合は、村に戻るという条件を村長に約束して村から飛び出した。
村にいるのは別に構わないが、ギルドのクエスト発注ミスで上位クエストなのにG級クエストクラスの個体モンスターだったと言うことが多く。ギルドのメンツを守るため、不祥事消化クエストを受けるのが馬鹿馬鹿しく思ったのもあり、姿を眩ますことにした。
他にはウカムルバスを討伐し必要以上に伝説化、英雄視されるのが嫌になった事もある。ポッケ村の村人たちはハンターの苦悩を理解していたので快く送り出してくれたが、ギルドの一部上層部が快く思ってはないらしい。
ポッケ村村長のオババとギルドマネージャーとネコートさんの計らいで、ハンターは突然旅に出た。何処に旅に出たかまでは分からない。と誤魔化してくれている。村人たちもどっか行ったの一点張り。ギルドもポッケ村から聞き出してハンターを捜索するのを諦めるしか無かった。
そんな一大決心には他に理由があるが、とにかくハンターは旅人を満喫していた。
今までは狩り場へ向かうため、ネコタクで通っていた道も旅人として自力で行くと真新しく感じ、新鮮だった。
狩りのための防具も着けずに生活したのも久方ぶりでどうも落ち着かなかったが、何とかバルバレ行きの連絡船に乗り込むことができた。
連絡船と言っても大海原を行くわけでは無く、大砂漠の上を進む船なので、土産屋で買った砂よけのスカーフを首に巻き、しばらく船底で惰眠を貪っていたが、間もなく到着だと気がつくと待ちきれず、ツマミと酒の入ったポッケ村とっくりをもって甲板へ出てきた。
どうやらバルバレに着くのを待つより早く先に一杯楽しむつもりらしい。
天候は文句なしの晴天。日差しは熱いが風が吹いていて気持ちが良い。心が躍り船首に居座って吞もうと決めるとハンターは歩を進めた。
ところが船首には先客がいた。ウエスタンな格好をした男性が一人。ハンターは船首に歩み寄ると右手に持ったとっくりを煽りながら訪ねた。
「もうそろそろ着きそうですかね?」
「ん?ああ、もうすぐだなぁ。《バルバレ》が見えてくる。……楽しみだなァ。もしかして、ハンターさんも待ちきれなくなったのかい?」
壮年の男性は気さくに応じてくれた。
「ええ。バルバレが見えるまでコイツで楽しもうかと。よろしければ一杯やりますか?」
「おっ!こいつぁ嬉しいねぇ」
男性はとっくりの酒をを受け取ると豪快に煽った。ツマミはポポのタンの燻製だ。吹き付ける砂混じり熱風が妙に心地良い。
「んっ……コイツは良い酒だねぇ、ありがとう。…はっは!いや、実は俺もなんだ。船底からついつい、はい出てきちまった」
「俺は大砂漠を走る船に乗るのが始めてなんでね、何もかも新鮮で。苦労して来た甲斐があったもんですよ」
「ほう、ちなみにハンターさんはどこから?」
「ポッケ村から陸路で」
「ハッハッハ!そいつはたいしたもんだ!ここまで長かったろう」
「ええ、それなりに」
「俺はこの大砂漠の船旅は慣れているが、人でもモノでも何でも集まる、にぎやかで鮮やかなあの市場が砂海に浮き上がるのを見たくてな。こうしている間にも到着が待ちきれなくて、血がザワザワと騒ぎたてるよ。……おっと、自己紹介がまだだったな。俺はキャラバンの団長をやっていてな。仲間と一緒に、世界中を旅しているんだ」
「俺はしがないフリーランスのモンスターハンターです」
2人は軽く自己紹介するとがしりと堅い握手を交わす。
「今は、俺達のキャラバンで一緒に旅をしてくれる3人の仲間を探している。そういう事で、仲間と一緒にこのバルバレ行きの連絡船に乗り込んだってワケさ」
「なるほど」
「なんせ、バルバレは人もモノも情報すらもなんでも集まる巨大な市場だ!何かを探すには、これ以上ないほどもってこいの場所だからな! はっは!」
そう豪快に笑い飛ばして言うと団長は遠くを見つめて呟いた。
「さて…。どんな仲間に会えるだろう?共に旅する愉快な仲間に、俺の夢を託せる仲間に、会えるかなァ」
その顔には不安は無く希望と期待に満ちていた。その表情に自然とハンターの口角も上がる。
(俺もあの子に会えるだろうか?)
ふとそう思っていると団長は聞いてきた。
「ところで、ハンターさんはなぜバルバレに?」
「俺も貴方と似たようなものですよ。とあるモンスターを探していてハンターになったんですが、ポッケ村だとどうしても情報に限界があるので、飛び出したってわけですよ」
「なるほどな。彼処はこの前までは飛行船が通るまで陸の孤島となっていたからな。温泉があって良いところだがね。まぁバルバレは集会所もあるし、ハンターも山ほどいるからハンターさんの捜し物も大丈夫、見つかるさ」
できるできる、と頷いた団長はふと空を見上げた。
「しかしハンターさん、気にならないか?上空にいるガブラスの群れだ。さっきから奴ら、妙にザワついている」
ガブラス。塔や火山に出没し毒を吐くモンスター。ハンターも訳あって幼い頃からよく見ていたモンスターだ。上を見上げると4匹20メートル程上を飛んでいる。こいつがいる時は何かしら強力なモンスターだったりいたりするものだ。
しかしここは大砂漠。しかも大砲2台、バリスタ2台。おまけに船首には撃龍槍と完全装備の戦闘艦だ。しかも砂の流れも激しく、それなりに船も速度があるので、モンスターに襲われる問題は無いだろう。
しかしハンターは何か異変を感じていた。長年の生死をかけた戦いの中で鍛えられたハンターとしての勘が警鐘を鳴らしていた。
なにか心当たりがあるか?そうハンターが訪ねようとしたその時だった。
大きく船が揺れると同時に前方の砂海が爆発したかのように爆ぜ、乗っている船よりも二廻り大きいモンスターが現れた。
その衝撃で船が揺れ、ハンターも団長もバランスを崩す。
立っているのがやっとだった。
「なんだこいつは!」
「ガブラスは古龍のさきがけ…!やはり《ダレン・モーラン》だったのか…!それよりマズイぞ!船から落ちるな!しっかり踏ん張るんだ!」
巨大な龍は船首を横切り砂海に潜ると、船の左側後方から浮上しそのまま船に体当たりを仕掛けた。
船は大きく右に傾きハンターは転げ落ちそうになるものの、二本足で踏ん張りこらえた。
するとハンターの目の前に何かが通り過ぎた。見ると船の大砲の砲門に団長の防止が引っかかっている。何とかふらつきながらもハンターが砲台に近づき手に取ろうとするが強風に吹かれて飛んでいった。そのまま風に流され砂海に埋まるかと思いきや、モンスターの背中に引っかかっている。
「クソッ!あんなとこに!」
「収まったか?だが……なんてこった、俺の帽子が!!あの中には、大切な……!!いや、今はそれどころじゃ無い!!聞いてくれ、ハンターさん!このまま進めば、ダレン・モーランの腹でバルバレがペシャンコだ!俺は、周囲の船に救難信号をあげる!ハンターさんは、それまで時間かせぎを…、」
早口で指示を出す団長の言葉を遮りハンターが言った。
「待った。帽子、大切な物なんだろ?俺が取ってくる」
「なんだって?俺の帽子を取ってきてくれるってのか?!だが、いくらハンターさんでも装備も無しは危険だぞ!」
「大丈夫、太刀があれば何とかなる。こう見えても元村専属G級ハンターなんでね。それなりに修羅場は潜ってきている」
「G級?!ポッケ村のG級ハンターっていったら聴いたことがある。伝説の崩竜を討伐したって言う。……ハンターさん、アンタもしかして。……かぁ~畜生!憎いねェハンターさん!!よ~し、ならばお前さんに託そう!ヤツの腕から背中によじ登れるぞ!いいタイミングで声をかける!そのまま甲板で、待機してくれ!」
団長はそう言うと腰に差した小さな拳銃を抜き取ると天に向かって打ち出した。ピンクの煙が爆ぜて応援信号が空に漂う。
ダレン・モーランは船の側面にピタリとくっついて並走している。ダレン・モーランは巨体を船にぶつけ体当たりをする。船は大きく傾くが、大破することも無い。モンスターとピタリと密着したことにより腕から帽子までの道のりが出来た。
「今だハンターさん!」
その言葉と同時に腕を伝い巨大な背中に駆け上がる。
鋭利な岩のような背中の棘に引っかかていた帽子を取り、飛ばないように背中の太刀の鞘に括り付けた。太刀の名前は鬼哭斬波刀・真打。
太刀は何本も持っているが、たまたま持っていたのがこれだったのと、船底から装備を変える余裕もないので、とりあえずこれで対応するしか無い。抜刀して構えてみる。
揺れるは揺れるが、踏ん張れば普通に武器を振り回せることができる。攻撃が出来る!そう判断するとハンターは声を張り上げた。
「団長殿、俺は救援が来るまでこのまま暴れて怯ませる!団長殿は危ないから避難してくれ!」
そう言うと、大きく振りかぶって太刀を踏み込み切り落とす。突き、切り上げ。確実に背中の比較的手応えのある岩のような部位を切り刻んでいく。
練気が溜まると大きく腕を振るい気刃斬りをぶちかます。左右に切り刻んで大上段から振り落とし、体を回転させ遠心力を加えて大回転斬りまで繋げた。鬼哭斬波刀の刀身から紫電が弾け甲殻が砕けていく。ダレン・モーランは大きく背を仰け反らせ怯んだ。
「ハッハー!こいつは凄い!なんて腕前だ!う~む、我らの団に来てもらいたいものだが」
団長は船縁にしがみつきながらハンターの健闘ぶりに目を見張る。太刀使い特有の練気が大砂漠の熱風に煽られ火柱の用に天へと昇っていく。ハンターの白い髪と肌がが太陽光を反射し、雪原のように輝いて、まるで古龍を鎮める巫女のような何処か幻想的な物にも見えた。ハンターの狩りをするところは双眼鏡を使って遠目で見たことはあるが、ここまで間近で、しかも私服に武器は愛刀1本のみで狩りを行うハンターは見たことが無く興奮で体が震えた。
「ハッハッハー!!ハンターさん!酒をごちそうして貰った礼だ、俺も援護するぞ!」
団長は甲板に揚がってきた一匹のデルクスを砂海に蹴り飛ばし、船尾にある大砲の玉を抱え砲台に詰め込み発射した。始めて会った2人は長年の付き合いがあったかのように息がぴったりだった。
砲撃支援を行う団長を尻目にフッと笑うハンターは、団長の援護に奮い立ち、負けまいと振り落とされないよう踏ん張り、さらに攻撃を畳みかける。
船底からは他の乗客として乗っていた別のハンターたちも大砲に玉を詰め発射し、拘束用バリスタを発射しダレン・モーランの動きを鈍らせる。その隙にハンターは大回転斬りを重ね、刀身には赤いオーラを纏わせてダレン・モーランの背中を斬り刻む。
「せいやぁぁああ!!」
裂帛の気合いとともに大回転斬りをたたき込むと、目の前が大きく砕けた。ダレン・モーランからは体を大きく揺らし苦悶の雄叫びが上がる。
部位破壊が完了したと判断し、ハンターは太刀を鞘に納め、ダレン・モーランの背中から甲板へ飛び降りた。空中で体を捻り回転着地することで落下の衝撃を和らげる。
「ハンターさん大丈夫か?!」
「ええ、何ともありませんよ」
「そうか、良かった」
しかし喜んでもいられない。ダメージはしっかり与えたが、以前ダレン・モーランは依然バルバレに向かっているし何とか進行を逸らさなければならない。
「いい調子だ!だが、バルバレが近い!最後の手段を使おう!」
「最後の手段?」
「ダレン・モーランは、砂中から地上の音を探る、とても耳のいいモンスターだ!突然の大音量を苦手としている!ヤツが最大限に近付いた瞬間、船に備えた《銅鑼》を鳴らしてドカンとひるませてやろう!」
「分かった、それで行こう」
「だが、銅鑼の準備が完了するにはもう少しだけ、時間がかかる!準備ができたら声をかける!ハンターさんは銅鑼のスイッチの前で待機してくれ!」
「了解!」
ハンターが船の帆の根元に行くと巨大なスイッチがある。側にはピッケルがありこれでスイッチをぶっ叩いて起動させる仕組みだ。ただ蒸気を使い圧力をかけて起動させる大掛かりな仕組みなので団長の言ったとおりすぐ何度も使えるものでは無い。
一方ダレン・モーランは拘束用バリスタから抜け出し1度砂海に潜ったと思うと勢いよく飛び出し船の頭上を飛び越え反対側の右側へと飛び込んだ。
「凄い…な」
「ハンターさん、見たか!?ダレン・モーランのジャンプを!何ともすさまじいな!いや、見とれている場合じゃない!準備が整った!ダレン・モーランが船に攻撃してきたところを狙って銅鑼を鳴らして怯ませてくれ!」
「ああ!」
ハンターはチラリと進行方向を見るとバルバレの街並みがハッキリと見えている。1キロも無いだろう。これがラストチャンス、しくじれば大災害が起こるだろう。
ダレン・モーランは巨大な槍のような角を向け船の横腹を、いや、正確には先程まで背中で暴れていたハンター目掛け突っ込んできた。
どうやら怒らせたらしい。しかしハンターは動じずダレン・モーランの動きを見る。
100メートル。
80メートル。
40メートル。
間合いを測りタイミングを見極める。
「今だ! 銅鑼を鳴らしてくれ!」
接触まで後数メートルとなったところで団長が叫ぶ。ピッケルでスイッチを押すと銅鑼が轟音を立てて鳴り響く。ダレン・モーランは音に驚き、大きく後ろに仰け反りそのまま倒れ船から遠ざかっていく。勝利の歓声がドッと甲板に広がった。
「ハンターさん!やった!!撃退成功だ!」
団長は笑いながらハンターの肩を叩いた。
「ええ、やりましたね。団長殿、援護ありがとうございました。男惚れしましたよ」
「いや、ハンターさんの攻撃がなかったらヤバかった。G級ハンターの名は伊達じゃ無いな。ほら見ろ、バルバレから出撃した応援の船がダレン・モーランを攻撃している」
ダレン・モーランが逃げたその先に待ち構えていた複数の撃龍船に囲まれ砲撃を受けている。その光景は何とも圧巻だった。
「討伐するつもりか?」
「いや、撃退目的だろうな。討伐は厳しいかもな。もしハンターさんがあの船に乗っていたら討伐出来たと思うかい?」
「やれましたね」
団長の質問にハンターはいとも簡単に答えた。いくら巨大な龍ともいえども、血が抜ければ死んでしまう。ラオシャロンも独りで討伐したことがあるからこそ、実感できる。嘘偽りのない言葉だった。
「ハーッハッハッハ!こいつは凄いな!本当ハンターさんには驚かれっぱなしだ」
「やれないと思っても、やるしか無いのがハンターの性なので。それとこれを」
ハンターは鞘に括り付けていた帽子を外し団長に渡した。団長は帽子の中から手の平サイズの光り輝くアイテムを確認すると、帽子に入れそしてかぶった。
「本当にありがとう。もし良かったらバルバレで呑もう」
「ええ、その時はよろしくお願いします。それでは荷下ろしの準備に掛かるので俺はこれで」
「ああ、事故の無いようにな」
今だ歓声が湧き上がる甲板からひっそりと去って行く英雄の後ろ姿を団長は冷めやらぬ興奮とともに見送った。こうしてハンターたちの活躍で船は無事目的地のバルバレへと着くことが出来た。
船から降り立ったハンターはS・ソルZ装備に身を包みポポと小型マイルームを引き連れバルバレの空き地に拠点を作った。バルバレでは古龍の背中で太刀を振るったハンターの話題で持ちきりだった。
パンツ一丁でダレン・モーランを撃退したハンターがいる。
何でパンツ一丁なのか。誰がそんなことを言い出したのか疑問に思ったが、とりあえず私服でいるとバレて面倒なことになるのでフル装備着用した。事実に尾ひれ背びれが加わりあり得ない話になっているうえに、自分がその本人だとバレればドンドルマギルトからの監視も着いてしまう。そんなオチは嫌だった。
「長旅ご苦労さま。ゆっくり休んでくれよ」
ポポに餌と水をやり自分はバルバレの集会所へと向かっていく。
バルバレに到着する際、古龍から手厚い歓迎を受けたせいでどうやら旅人の気分からハンターの気分へと変わってしまった。どうも私服で彷徨くより、装備を装着していた方が妙に落ち着いてしまう。どうやら職業病は10日の旅では治ってくれないらしい。
バルバレの集会所へと続くメインストリートは多くのハンターと買い物客。そしてパンツ一丁の無名のハンターの話題で賑わっていた。
(さて、どうしたものか。ギルドカードを新しく作るか、今のギルドカードで素材ツアーにでも出てみるか)
ポッケ村から飛び出した際のいざこざのせいでそのうちギルドの監視も着くと思うとG3級の証明と言えるプラチナ製のギルドカードを提出するのは些か気が引ける。
(折角自由の身になったことだし、買い物しつつ観光でもするのが一番かな?)
ギルドカードは旅の際、古龍に襲われ砂海で落として無くしたので新規登録と言えば良いだろうと思いのんべんだらりと人並みの中へと歩いて行く。
そんなハンターを見守る影が一人。
「約束、覚えているみたいだね。ふふふっ待っているわハンターさん」
白いドレスの少女か呟いたが、その声は人々の営みの雑音にかき消されハンターに届くことは無かった。