白き龍を倒す旅   作:アイスラッガー

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日本語って難しい。妄想を文章にするのは大変だなと実感する日々。


入団試験と素材ツアー

ハンターとお嬢は平原遺跡のベースキャンプにいた。

「さて、入団試験を終わらせるついでに、ここのフィールドを一周して下見をしようと思う。お嬢、付いてくるのだろう?」

「ええ、勿論ですよハンターさん!」

元気な笑顔で返事をするお嬢。バルバレから遺跡平原まで来る間、ネコタクでハンターは彼女と話をした。どうやらモンスターが好きなようで他のハンターなどから狩ったモンスターの特徴や様子など聴いては自分なりに纏めているのだそうだ。フィールドに出て色々と調べてみたかったそうで、それが思わぬ形で叶ったので喜んでいた。

ハンターとしては危険なのでベースキャンプで待機をして貰いたいのだが、彼女の情熱に押され一緒にフィールドに出るのを許可した。

彼女の背中には荷物の入ったリュックが大きく膨らんでいる。それを背負ってモンスターが跋扈するフィールドに出るのだろうか?ハンターはそれが気になって聞いてみた。

「お嬢、あんたその背中には何が入っているんだ?」

「あっ、これですか?ピッケルや虫網とか入ってます。はい」

「置いていけ」

太刀を背中に装備しながら言った。今日の太刀は龍刀【紅蓮】G。ポッケ村の鍛冶屋が開発したG級1発生産で作った太刀。試し切りを兼ねて持ってきた。

「えっ、採取するには必要ですけど?」

「そうだが、ピッケル虫網は1本あればいい。もし、大型モンスターに出会ったら逃げるのに邪魔だ」

君はハンターではないしな。そう言ってハンターは歩き出す。お嬢はリュックをテントの中に放り込むとハンターの側に駆け寄った。

「えっ~と、下位の素材ツアーなので大型モンスターは出ないと思いますが」

その一言を聞くとハンターは歩みを止め、お嬢に向かって振り返り、指を指しながら強調するように言った。

「良いか、覚えておけ。大自然に一歩足を踏み入れたら、人間のルールは通用しないんだ。モンスターが、『このハンターは下位の素材ツアーに来てるから襲うのは辞めよう』とか気を遣うわけじゃあないからな」

真剣な口調にお嬢は口を閉ざしてしまう。

「勿論、ギルドが万全を尽くして作った環境だから安全だと思うが、大自然は人類の味方という訳ではない。ふとしたきっかけで牙を剥く。油断は命取りになるぞ」

「油断大敵ですね、分かりました気を引き締めて行きます。はい」

「よろしい。さあ、行こうか。まずは……そうだな、こんがり肉から用意しようか」

2人は肩を並べてベースキャンプをあとにした。

 

 

遺跡平原。

名前から分かるように遺跡があちこちに埋もれている。

ベースキャンプから続く坂道を下って行くと、エリア1と呼ばれる少し開けた場所に着いた。

フィールドの特徴は瓦礫と岩石に囲まれたような形状をしており、枯草が黄金色に輝いている。辺りの風景を見渡すと遠くに白い岩肌の山脈が連なっているのが分かる。日差しは温かく優しいが、自然の厳しさを物語っているような大地。時々ベースキャンプ方面へ風が吹いており、草が舞う風景には何処か一抹の寂しさを感じる。

モンスターはアプトノス3頭。親子なのだろうか、大きめの個体2頭と幼体1頭が仲良く草を食べている。

 

「アプトノス、いましたね」

「ああ、肉はあいつらから頂くとしよう」

ハンターは周りを見渡しゆっくりと歩いて距離を縮める。するとハンターの存在を気がついて身の危険を感じたのか。慌ただしく逃げていった。

「ハンターさん、逃げてしまいます!追いかけましょう!」

お嬢が言うがハンターはどこ吹く風。

「まぁ待て。よく周りを見な、ここにはアオキノコと薬草。それに蜂の巣まである。ここで既に依頼の半分は達成だ。それをやってからだな」

少し歩いて薬草何本かを採取し、瓶を取り出す。右手で軽く潰し、瓶の中に入れキノコの生えている場所に移動する。アオキノコを引きちぎり、薬草を入れた瓶の中へ入れ、蓋を閉め強くしっかりと振る。すると、振った衝撃により中でアオキノコが砕け水分が多く出る。これをまた暫く振ると緑色の液体ができた。

「調合成功。これにハチミツ入れて混ぜればグレートの完成だな」

「凄いですね、あっという間にグレート☆御三家見つけちゃいました」

「ん、なんだって?」

感心しているお嬢の言葉に違和感を感じるハンター。

「薬草、アオキノコ、ハチミツの3つを私はグレート☆御三家と呼んでます」

「良いなそれ。俺も使わせて貰うとしよう」

彼女に初めて会った時、知的な雰囲気を持っていたので落ち着いてて博識な女性だと思っていたが、実際話してみると、中々アグレッシブな女性だった。

モンスターに対する知識と愛情は凄まじく、ハンターも思わず舌を巻いた。

回復薬が出来たので、ハチミツを回収しようと蜂の巣に近づきお嬢に声を掛ける。

「さて、お嬢。ハチミツを採取するが見ての通り蜂が飛んでいる。こういった場合如何するか知ってるか?」

「そうですね。……以前別のハンターさんから聞きましたが、煙で燻して蜂を弱らせその隙に採ると聞きましたが」

「まあ、間違ってはいないな」

「あ、でもハンターさんの装備なら全身しっかりと守っているので、問題ないかと」

「そうなんだけれども、まあ見とけ」

ハンターはそう言うと、剥ぎ取りナイフを手に持ち蜂の巣に切れ込みを入れ、蜜を回復薬の入った瓶に垂らしていく。怒った蜂はハンターを襲うが、ハンターは剥ぎ取りナイフの柄に空いてある穴に指を通し、ガンアクションのように高速回転させ、襲ってくる蜂を全て叩き落とした。

ハチミツ回収に掛かった時間は僅か10秒ほど。蜂の巣から離れ瓶をよく振りながらお嬢の元へと行く。

お嬢は滑らかな動作でハチミツを回収したハンターに驚きを隠せない。

「ハンターさん、凄いですね」

「まあ、これが出来ると短時間で回収できるから一気に楽になる。煙でやるのも良いが、燻す時間が掛かるのと、煙のせいでモンスターが寄ってきたりもするから俺はこうやっているな」

ハンターは調合し終わったグレートをお嬢に渡す。

「なるほど、そうですか」

「さて、次はこんがり肉だな。さてアプトノスを追いかけるか」

「はい!」

2人はのんびり歩いてアプトノスが逃げた隣のエリアへと向かって行った。

 

 

場所は変わってエリア3。アプトノス1頭をひと太刀で討伐し、剥ぎ取りも済ませ、高級肉焼きセットを使って焼いていた。ここは段差もエリアの端に少ししかなく、広々とした平地となっており、ハンターからすればモンスターと真っ向勝負するに適した地形だ。

ハンターは頃合いを見て肉を肉焼きセットから離す。

肉はしっかり火が通っており、表面はパリッとキツネ色になって滲み出た脂が滴り落ち非常に食欲をそそる。

「上手に焼けました~♪」

お嬢は拍手しながらお決まりの台詞を言った。

「ほれ、熱いうちに食べな。もう一つ焼いてそれを納品するから」

ハンターはこんがり肉をお嬢に差し出すと、生肉をセットに設置して火をつけ焼き始める。

「良いんですか?それでは頂きますね。」

そう言ってこんがり肉に齧りつく。溢れ出る肉の旨みが口の中に広がる。獣臭さも無く食べやすい。

「どうだ?」

「おいひいれす」

「だろ?結構イケるよな」

性能良いんだよ、この焼肉セットは。そう言うとハンターは肉をぐるぐる回しながら肉をあぶり、熱を通していく。

お嬢はハンターを見ながら肉を食べながら観察する。

一つ一つの動作が洗練されており、無駄がない。自分の状況を瞬時に判断し効率よく動き目標を達成していく。G級ハンターの実績もそうだが、並み居るハンターとは何かが根本的に違ってみえた。

「よし、肉も焼けたしベースキャンプに1度戻っても良いが、お嬢は如何する?」

「もう少し見て回りましょう!」

「了解」

腹も膨れたところでエリア2へと赴くふたり。ここのエリアは蔦で出来た二重床となっており、蔦はハンターが跳んでも抜けることは無い。

「面白いな、ここでモンスターと戦うには地形を利用しない手はないな」

「何でもモンスターにダメージを与えて怯ませると蔦に絡まって隙が出来るとか」

「だが逆に足下からの攻撃も注意しなければならないな。牙獣種にとっては有利な場所だな」

「キノコや虫も採れますし、ねぐらとなってるみたいです」

「弱って休む場所でもありそうだな」

虫網を振るうと光虫や雷光虫が採れた。採取も一通りしてエリア4へと歩を進める。

 

今までとは打って変わって赤茶色の段差の多い広大なエリアへと出る。

「ジャギィが三匹いるな。お嬢、ちょっと待ってろ」

ハンターは石ころを2個拾い、まず山なりに一石投じた。石ころが地に音を立てて落ちると、その音に気がついて3体のジャギィがハンターを認識。吠えて威嚇行動をとる。しかしその隙にハンターは足を一歩踏み込み、胸を張り、振りかぶって全力で石ころを投げつけた。石は風を切り裂き弾丸の如く真っ直ぐ向かい、ジャギィの眉間に強く当たった。頭を大きく仰け反らせ2、3歩後ろに下がり正面を向くジャギィの目の前には、既に全力疾走で間合いを詰めたハンターが。

ハンターは腰の入った右アッパーをジャギィの下顎に叩き込みかち上げ意識を刈り取ると、右から飛びかかってきたジャギィの首筋に右足の回し蹴りをお見舞いする。喰らったジャギィは横に吹っ飛び3体目の仲間に激しくぶつかるものの、ジャギィ達は素早く体制も立て直す。しかし2体は段差を利用して大きく跳躍して放ったキックに再度吹っ飛ばされ意識を失った。

「武器使わないのですか?」

「下手に下っ端殺して群れを刺激してもな。後々同族の縄張り争いが起こって他のハンターに討伐依頼が出るのが目に見えたし」

格闘技だけでモンスターを倒したハンターに驚愕するお嬢。待ってろと言われたときは討伐するものだと思いきや、手加減をするためにまさかの素手。

(やはり、何か違ってます)

戦い方も採取の仕方も型破りだ。しかし、どのハンターよりもこの世界を愛しているように思えた。

ジャギィを殺して身の安全を守るだけで終わらせるのではなく、生態環境を必要以上に乱さないように意識だけ刈り取り命までは取らなかった。

お嬢は思い返せば今まで見てきたハンターで目的のモンスターを討伐した後の影響を考えていたハンターはいなかった。

報酬を貰い、手柄を自慢していたものだ。そしてそれを祝福していたのは他でもない、ギルドの受付嬢である自分たち。

よく村人や商人の家畜がモンスターに襲われたとか依頼が絶えないのは手柄や素材を求めたハンターが必要以上にモンスターを討伐しモンスターの勢力を乱しているからではないのだろうか?

自分達がやってきたことは間違っていたのだろうか。お嬢は不安になりハンターに聞いた。

「ハンターさん、私達ギルドの人間はクエストとしてモンスター討伐をハンターさんに依頼します。ハンターさん達はお金を稼ぐため、手柄を立てるためモンスターを狩ります。でも、それのせいで別のモンスターを刺激して新たに人々に被害を誘発させているのであれば、私達は間接的に人々を傷つけているのではないのでしょうか?」

お嬢の質問に暫く黙ってハンターは言った。

「そうとも言えるね。」

「なら私達ギルドのあり方はどうすれば良いのでしょう?」

お嬢の表情に暗い影が落ちる。ハンターは自分の腰に手を当て優しく語った。

「ギルドあり方とかの話じゃなくてもっと根本的な部分だと思うよ」

哲学みたいな事を言うけどね。と一言添えてさらにハンターは続けた。

「人は。いや、人に限らず生き物は何かを壊して生きている。何かを壊して得たら、逆に壊され奪われる。それの繰り返し、巡り巡って還ってくる。それだけのことだと思うよ。因果応報の言葉で済ませてしまうことになるけどね。気にしていても解決にはならないしな。結果的には傷つけているかもしれないけど、実際に目の前に困っている人がいて、ハンターに依頼している訳だろう?『モンスターを喰ってみたい』みたいな馬鹿げた依頼もあるけどさ、人の生活や森の生態系に被害を出しているモンスターを狩って提供しているし。だからさ、お嬢の仕事は間接的になるけど、誰かしら救ってきた訳だから、その事に自信持って胸張って仕事すれば良いさ」

あんまり深く考えんなよ。そう言って軽くお嬢の肩を叩いて次のエリアに向かって進んでいくその姿がなんだか大きく見えて。

「そうですね!うだうだ考えるの辞めます!はい」

「そうそう、受付嬢は笑顔が一番だぜ」

そんなハンターさんを旅団の看板娘として支えてみせると決意するのだった。

 

 

ふたりは移動して、遺跡平原の頂上。エリア5に来ていた。ここは山と山の間に巨体な部分岩石が挟まって出来た場所で、リオス科の巣があり、卵まであった。

「ハンターさん、卵が3つありますね!」

「そうだな。卵は納品すると薬として使われるみたいだな」

「風邪に効くそうです。ハンターさんは飲んだことありますか?」

「昔は病弱だったからな、色々と薬は飲んでいたからもしかしたらあるかもな」

「そうですか。あっ、この卵温かいです。なんだか産まれそうですね」

お嬢の一言でハンターには緊張が走る。

「なん……だって?」

「音がしますよ、これはもしかして貴重な孵化が見れるかもしれませんね!」

卵が産まれる?……餌は巣の周りにはない。となると親は餌を持って帰ってくるはず。

「お嬢、それは不味いな。そら、親が帰ってくるぜ」

遠くの空から風を切る音が微かに聞こえてきた。お嬢も理解したらしい、ハンターは手首をつかんで立たせ岩陰に隠れ息を殺す。

すると大きな影が2つ。バサバサと翼を羽ばたかせ巣に戻ってきたのは、空の王者リオレウスと陸の女王リオレイア。最早素材ツアーではなくなってしまった。

「そんな!どうして素材ツアーに?」

「だからさ、最初に言ったでしょ。モンスターには人間の都合なんて関係ないさ」

リオ夫婦は卵を注視していてこちらには気がついていない。隙を突いて閃光玉を投げ逃げることは簡単だ。

「お嬢、逃げるか」

小声でお嬢に話しかける。手には閃光玉。

「逃げません」

「えっ?」

はい、と返事を貰ったら閃光玉を投げるつもりが、当てが外れた。

「すいませんハンターさん。馬鹿な事だと思いますが、もう少し観察させて貰っても良いですか?」

お嬢は何やらメモ帳に書き込んでいる。見つかれば危険な状況に自分が陥ると言うのにメモを執ることに全力を尽くしている。元々ハンターと一緒に来た理由はフィールドのモンスターなど観察して纏めるため。それにリオ夫婦が目の前にいる光景はハンターでない限り中々見られない。

「怖くないのかい?」

「ハンターさんがいるので怖くありません」

キッパリと言われてハンターは思わずニヤリと笑う。ならば期待に応えなくてはなるまい。

「それじゃあ、依頼変更。『素材ツアー』から『我らの団・看板娘の護衛』に変更する。お嬢、それで良いかい?」

「はい。お願いしますハンターさん」

「報酬は、そうさね。……君の書いたメモ帳を見せて貰うとしようか」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ観察、観察」

暫く観察していると卵にヒビが入り中から幼体が出てきた。

ピーピーと鳴きながらエサを求める幼体に対してリオレイアはモンスターの肉を与えていく。

ハンターも始めて見る光景に固唾を吞む。

「可愛いですね」

お嬢は目を輝かせている。

だが、何時までもここにいるわけには行かない。

お嬢が少し足をずらした瞬間、落ちていた小さな骨を踏み鳴らしてしまった。

2体の飛竜がこちらを見て咆吼する。

ハンターはすかさず岩陰から飛び出し、閃光玉を投げつける。2頭が怯んだその隙に、お嬢を抱え坂を滑り落ちていく。

何とか急いで咆吼が轟く頂上から麓まで来たが相手には翼があり、ひとっ飛びで追いつかれる距離。

「お嬢、走るぞ!」

「分かりました!」

ハンターは全力疾走すればベースキャンプまで数分とかからないが、お嬢はそうもいかない。エリア3まで走った所で、巨体な影が1つ。空の王者が怒りの火焔を口元から溢れさせながら行く手を阻んだ。

どうやら生きて帰すつもりは無いらしい。

遮るものも無い平地での決闘。いつもはハンターにとっては好条件だが、今回はお嬢を守らなければならない。お嬢は息を切らせて体力も落ちている。むしろ、よくここまで付いて来れたほどだ。

「こうなったら仕方が無い、奴を倒して帰るぞ。お嬢は回復薬を飲んでエリアの端にある遺跡で隠れてくれ」

ハンターは多めに持ってた回復薬をお嬢に渡して飲ませる。

太刀を鞘から引き抜き、構えてリオレウスと相対する。

リオレウスもハンターを先に殺すつもりのようで狙いを定める。お嬢はエリア2に続く道にある遺跡の柱まで走り身を隠す。

これで1対1。準備は整った。

「ゴアアァァアアア!!!」

「かかってこいやぁー!!」

互いに守るべき者のため負けられない戦いが始まった。

 

 

お嬢は柱に隠れてハンターの戦いぶりを見ていた。

リオレウスは上空に舞い上がり業火球を連射するが、ハンターは確実に躱していく。大味な技では仕留められないと判るや、急降下してハンターに襲いにかかる。アギトを開いて噛み砕こうとするが、ハンターは落ち着いてすれ違い様に右に移動斬りをしながらレウスの翼を切りつける。銀色の装備は傷つくことなく太陽の光を反射し輝いている。ハンターの兜の奥にある紅蓮の瞳が殺気で染まる。

先手はレウスが取ったが、振り返る隙を見てハンターは怒濤の連撃を繰り出す。

レウスの頭部に踏み込み、突き、切り上げ。練気を確実に練っていく。レウスは巨体を旋回させて、尻尾を使いなぎ払おうとするが、ハンターは腹部に潜り込み更に足下にダメージを与えていく。

大きな翼を羽ばたかせ空に飛び、風圧でハンターを押さえ込み、毒のある足の爪で切り裂こうとするが、スルリと避けられ大地を裂いた。

レウスはちっぽけな人間を中々仕留められない苛つきで怒号を轟かす。

ハンターはその隙を見逃さない。閃光玉を投げつけ、空に滞空していた空の王者を叩き落とし、溜めた練気を解放、刀身に纏わせ頭部に鬼刃斬りを叩き込み大回転斬りまで繋げた。

刀身が白く発光する龍刀【紅蓮】Gを更に振るい。左足を狙って刻む。レウスは閃光玉による墜落の混乱から体制を立て直すものの、左足のダメージが蓄積、再び転倒する。龍属性を表す赤黒い稲妻がレウスの甲殻を吹き飛ばし、鋭い切れ味を誇る刃は肉を絶つ。赤い練気は太刀を振るう度、空に軌跡を描き大回転斬りを叩き込む度に大地に広がる枯れ草が、練気を帯びた剣圧によって金粉のように舞った。

この戦いの主導権はハンターにあった。全長約17メートルほどある飛竜はハンターの猛攻により、翼膜は破れ、頭部の雄々しい甲殻ははじけ飛び、空の王者は再び空に舞い上がることはなく。最後は尻尾を切り飛ばされ、力なく地に伏した。

 

「ハンターさん!大丈夫ですか?!」

お嬢はハンターに駆け寄り様子を見る。息も荒げることもなく、傷1つ受けていなかった。

「ああ。だがリオレイアが来る前にさっさとベースキャンプに戻ろう」

ハンターは剥ぎ取りすること無く。2人はベースキャンプに向かって再び走り出した。

 

 

ベースキャンプに着いて回復薬Gとこんがり肉を赤い箱に納品して、バルバレへと帰路につく。

 

ネコタクに乗ってバルバレへと向かう2人。向かい合って話していた。

「あの残ったリオレイアとかどうなるのでしょうか?」

「明日には討伐隊が出るだろうな。1度ギルドに寄って報告しないとな」

「そうですね」

暫く沈黙した後、ハンターが言った。

「緊急クエストでリオレイアがでたら言ってくれ。俺が行く」

「それは構いませんが、ハンターさんが行かなくても他にハンターが狩りに行くんじゃないですか?」

「いや、俺が行かなきゃならない。今日産まれた子供を見届けなければならないからな」

「それはつまり……」

「他のハンターが殺されるより、あるいはジャギィとかに喰われるより俺がこの手で始末した方が良い。あいつらの父親を殺したのは俺だ。俺がけりをつける」

「分かりました。すぐ報告しますね」

「頼む」

再び2人は沈黙する。お嬢は話題を変えようと切り出した。

「ハンターさんはその技術を誰に教わったのですか?」

今回のテストは大型モンスターの乱入というイレギュラーの対処があったが、難なく対処してしまった。ここまでハンターのお手本となるほどに仕事をされてしまうと誰しもその仕事ぶりに溜息を零さずにはいられない。その技術、強さはどこから手に入れたのか気になってお嬢は聞いてみた。

 

「俺には師匠はいないよ。全部独学。強いて言うならば、この大自然が師匠だな」

「自然、ですか?」

「ああ。モンスターは狩りをするのに練習なんてしないだろ?産まれてからある一定まで育でたら親は子供を放置する。モンスター達はこの自然界は幼くても自分の力で生きれない奴は死ぬだけだと分かっているんだよな。厳しいけどそれがこの世界の暗黙のルールだからな」

弱肉強食の世界。子供が弱いと分かったら見捨てるし、時には殺す。そうやって優れた血を遺して種を後世に遺していく。

「そうやって生きてきた奴を相手にするんだ。ましてモンスター同士の縄張り争いとかで生き残ってきた百戦錬磨のバケモノだ。人間が人間に教わった所で大自然の摂理が育てた生き物を相手に勝てるわけがない。だから俺は色々とモンスターの動きを自分の目で見て真似てさ。盗める技術は自分の物にしてそれを武器に戦ってきた」

自分の力に満足することなく、更に上を目指し鍛え上げてきた。それこそ小型モンスターを素手で倒せるほどに。元々体が病弱体質だったハンターは、誰よりも運動神経や身体能力も劣っていた。しかし、それを理由に諦めて努力することを辞めたくはなかった。

「努力してきたんですね」

お嬢は微笑んだ。

「ハンターは楽なんて出来ないさ」

ネコタクの荷台から遠くを見つめながら言った。

「私がハンターさんを支えます!我らの団がハンターさんを助けて見せます!だから是非来て下さい!」

「そういえば入団テストだったな。合格で良いかい?」

「はい!勿論ですとも!これから宜しくお願いしますね、ハンターさん!」

「ああ、宜しく頼む」

日が傾いてきている。バルバレに着く頃には月が輝くのだろう。俺はまた明日も生き残るためにモンスターを殺すのだろう。そう思いながらハンターは夕暮れを眺めていた。


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