ナノマシン技術によって火傷や内臓破損を修復されたウィリアムが『IS学園』の緊急手術室からカートに乗せられながら出てきた。クロエやラウラは父親との初対面に困惑しつつ、手を握ったりしている。やはり、十数年間も知らなかったとはいえ父親と触れ合うのは緊張しているのだろうか。
「……んぶっ」
考え事を纏めている間にクロエとラウラはウィリアムの口と鼻を塞いでおり、ウィリアムが呼吸しようと目を覚ました。うん、そういう再会は望んでなかったよ。
「……敵襲か?」
「おはよう、ウィリアム」
「……フランツェスカ、久し振りだな」
ベッドに寝ていたウィリアムに引き込まれ、熱烈なキスをされてしまい。顔を真っ赤に染めながら抵抗する。娘が見てるんだからさ!そういう行為は後でやってもらえる!?
「ぷぇ!?」
「偽物ではないな。これはフランツェスカの唾液の味だな」
「姉上、前が見えません」
「…今の光景は、私にもラウラには早いです」
クロエはラウラの目を手で覆い隠しており、キスシーンを見られることは防げたけど。チフユ先生やタバネ博士はメモしていた。
待て、待ってくれ。こんな事を仕出かすのはウィリアムみたいな奴だけなんです。ほら、顔は良くても性格が悪いとかあるじゃないですか。いや、まあ、ウィリアムは性格も良いですけど。
そんなことより『機械人間』の起こした暴走の原因を聞き出さないとダメじゃない。
「ウィリアム。ドイツで起こってる『機械人間』の暴走は貴方が行ってるの?」
「いや、それは違う。俺の作り上げた人工知能『イエル』の独断行動だ。アイツ、俺を抹殺しようとしやがった」
「まさか、プログラムを書き換えたりしたの?」
「いや、それはない」
ウィリアムは断言すると、私達の話に着いて来れなかった。クロエ達に視線を移し、数秒ほど眺めてから二人の頭を撫で始めた。
「フラン、俺とのガキが出来てるな。教えろよ」
「わ、分かるんですか?」
「ん?ああ、骨格や筋肉繊維は遺伝する事が多いからな。お前らは俺の毛質と同じだからな」
ウィリアムの発言に対してチフユ先生とマーヤ先生はドン引きしており、タバネ博士は「科学者としては当然だね」と発言した。科学者の評価を下げるような行動や発言は控えるように伝えておこう。
「君達の名前を教えてくれないか?」
「クロエ。クロエ・ボーデヴィッヒです」
「私はラウラ・ボーデヴィッヒです」
「クロエ、ラウラ。…初対面だが俺がお前達の父親だ。認めてくれとは言わないが、認知してくれるか?」
ウィリアムの切なそうな表情に胸が張り裂けそうになる。もっと早く伝えておけば、こんな事にはならなかったのに…。いや、科学者が『IF』の話を持ち出してはイケない。
「いえ…。貴方は、私達の父親です。その、お父さんと呼んでも良いですか?」
「では、父上と呼ばせていただきます!」
クロエ達はウィリアムを拒絶せず受け入れる覚悟を決めてくれた。身勝手だけど、感謝してしまった。
「ハハ…ッ。フランツェスカ、俺に娘が出来たぞ!!」
「うん。知ってるよ」
「つまり、お前は俺の嫁だな!」
「へ?」
「ウェディングは日本の白無垢で決まりだな」
ああ、思い出した。この男は向こうでも「フランツェスカは俺の嫁」とか言い寄ってくる男達に叫んでいたな。まさか、実際に嫁になるとは思わなかったけど。