第38話『新たな戦いはなぜ始まったのか』
住宅街に建ち並ぶ家屋の一つ『織斑家』ではボーデヴィッヒ一家を招き入れて平穏な夏休みを過ごしていた。尤もタバネ博士やホウキさんも乱入してくるとは思っていなかったのか。チフユ先生は今もお腹を抱えるように押さえて唸っている。
お腹を押さえて寝ているチフユ先生から許可を貰うと日本警察全署に配布された『量産型シグナルキー』と『量産型マッハドライバー』の稼動内容をチェックする。
一応の対処として女性権利派団体に属していた人物や犯罪目的で起動することは出来ない様に細工を施してある。
イチカ・オリムラを追尾させている独立起動型『スコープハンター』と『リスキーキャスター』からの報告を政府機関へと送り、私服警官と共に調査している『シークウォーカーズ』からも『ゼアヒルド』と思わしき犯罪や事件を纏めた情報書類も送られてくる。
最近では『ゼンリンシューター』を低コストで作った『シグナルシューター』を帯銃している警官も増えてきた。科学者としては十全なモノを渡したいけど。資源や素材が足りない。警官の中では『機械生命体犯罪対策課』が設立され、サラシキさん達は講義や弱点となる胸部装甲内部コアの説明を行っている。
ウィリアムはドイツ軍と共に帰ったが、向こうでの『ゼアヒルド』犯罪を抑えるための行動として割り切っている。
「フーちゃん、この海域から変な周波数と次元屈折が発生してるんだけど」
「ハハッ、私の胃はパンクしているんだぞ?チューニングすら出来ないのかぁ!?」
リビングで寝ていた筈のチフユ先生は度重なる疲労や胃へのストレスで困れてしまったようだ。そんなことを考えていると小瓶に入ったタバネ博士特製胃薬をバリボリと噛み砕いて呑み込んだ後、デートで買ったと話していた白革ジャケットを羽織り始めた。
「諸君、海上旅行を楽しもうじゃないか」
「そうなると浮き輪が必要ですね」
「戸締まりは徹底的に行うべし。エルゼ、私と共に部屋を片付けに行こう」
「ラウ姉、了解したぞ」
着々と次元屈折現場へ向かう準備を行う娘達と同僚の行動に驚いているとタバネ博士の「次元屈折現場に行ってきます」という小声で呟きながらメールしている姿が視界の端に映り込んだ。…まあ、科学者として次元の先を見たいという好奇心には勝てないのだ。
正直に言えば次元の先を間近で見たい。欲を言えば次元の先に行ってみたい。…さっきまで作っていた『IS』の絶対防御装置を応用した『ヘルプダイバーズ』の性能チェックには持ってこいなのだ。運が良ければ次元の先へと辿り着ける。