タバネ博士の運転する『ラビットカー』後部に連結して飛行する『ラビットタンカー』から目視で分かる程、雷雲が蠢いている横穴のような次元屈折現場へと到着した瞬間、私達よりも先に来ていたサラシキさんとホンネさんは防護服を着ており、見るからにヤバそうな雰囲気を醸し出していた。
「今現在、独断で『渦の中』を調べようとした部隊との消息が途絶えています。もう一つ、この場所に『ゼアヒルド』の発生させる特定周波数を感知しました」
防護服を纏っている方々はザワザワと騒がしくなるが、チフユ先生とタバネ博士が会議している場所へと割り込んだ瞬間、普通に黙ってしまった。威厳と言うよりも威圧に近いような気がするのは間違いでは無い筈だ。
「更識、私達は『渦の中』へと向かってみる。もしかすれば『ゼアヒルド』を製造している場所かもしれん」
「…本音、任せても良い?」
「おぉ~っ、まっかせてぇ~よっ!」
何処と無く『マッハドライバー』の電子音と同じような喋り方になってるけど。問題無い筈だよね?
「この『渦』を奪還するために『ゼアヒルド』が攻めてくる可能性があります。みなさん、本音と一緒に此処を頼みます」
サラシキさんは深々と頭を下げ、防護服を引っ張るように脱ぎ捨ると紺色と深青色で統一された迷彩服になった。元々、着込んでいたのかな?等と考えていると白衣の襟を掴まれながら『ラビットタンカー』へと引きずり込まれた。待って、待ってくれ。ちょっとした実験のために来ただけだよ!?入るとは言ってないよね!?近くに座っていた三姉妹を抱き締め、死なないことを祈る。私は死んでもいいです、出来れば三姉妹は無事に帰して上げてください。
◆◆◆◆
スパークを起こしている空間を抜けると『IS学園』のアリーナ上空に飛び出していた。そこには『白式』を展開して大型狙撃銃を構えたイチカ・オリムラとサラシキさんに似たような少女が戦闘していた。…次の瞬間、ビーッ!ビーッ!ビーッ!という警告音と共に浮力を失った『ラビットタンカー』はタバネ博士の操縦していた『ラビットカー』を引っ張るようにアリーナのシールドバリアを滑りながら観戦席へと墜落してしまった。
私達は腰やお尻を押さえながら『ラビットタンカー』から降りると『IS』を展開したホウキさん達が立っていた。…あんな『IS』は知らないんだけどな。等と考えていると『ラビットカー』から白衣で顔の隠れたタバネ博士とドアを蹴破ってチフユ先生が飛び出してきた。
「…痛いよぉ~っ、ちーちゃん。束さんのプリチーなお尻は怪我してないよね?」
「……多分、見た感じでは大丈夫だな」
白衣を正した瞬間、ホウキさん達の表情が変なモノを見るような目で見ていた。
「千冬姉…?」
聞き覚えのある声だった。チフユ先生はタバネ博士を押し退けると『ISスーツ』を着たイチカ・オリムラを見てからお腹を押さえ始めた。ああ、会うだけで発症するようになってしまったのか。イチカ・オリムラは「だ、大丈夫なのかよ!?」と言いながら触れようとしたが、持ち前の眼力で睨み付けながら立ち上がった。
「フランツェスカ、タバネ。1週間前、お前達の話していた理論の話を…もう一度だけ聞かせてくれ」
1週間前の理論雑談のテーマ『エヴェレットの多世界解釈』を立証する方法について。…慌ててタバネ博士を見ると。タバネ博士と私を見ていた。整理する時間は無いんですね
「つまり、『渦の向こう側』はパラレルワールドだと言いたい訳だね」
「次元屈折は『IS』を浮かび上がらせる時に発生していた余波だと思っていましたけど。違ったんですね」
私達の話を聞いていた人達は頭を傾げながら聞いており、クロエやエルゼは理解している様子だった。