【完結】習作断片=魔境現代奇譚   作:豚ゴリラ

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ヨシ!(純愛確認)


触れるな

キュイイイイイイィィン。甲高く硬質な音が木々の隙間を切り裂いていく。

遥か彼方まで変わらず大地を覆う樹木の割れ目を這い回る、三千の川の一つを巨(・)大(・)な(・)鋼(・)球(・)が転がり滑っていった。

縦横無尽、上下左右に乱回転を加えながら疾走する。

ドンドンと川を逆流していくコレは、恐ろしいことに時速400kmをキープしている。

 

右斜め前に回転しつつ跳び流木を避け無駄に右回転、からの左回転を加えてカーブ。

そして遭遇した川の急カーブに対してはドリフト走行をする事で対処する。

偶々突き出していた岩を砕いたことを気にしてはいけない。障害物を砕けるならなんで避けてんだこいつ?

 

それでも走る。

ひたすら奔る。

ただエキセントリックに疾走する!

 

キイイイイン、という音を残響としてその場に奏で、川というレールを登って行ったソレは――

 

 

――唐突に現れた木々の避ける開けた空間で、ゴポリと真円を崩し膨らみバチンと弾(・)け(・)た(・)。

 

「――ゔぉえ」

 

 

――キラキラキラ(放送禁止コード)。

 

 

そして間髪入れずに、空間を貫く八条の■■。

真球の代わり、というべきか。

その内より現れた七人の屈強な男達と一人の少女は盛大に撒き散らした。それはもう激しく。

 

「ごふっ……」

 

「こ、これ……っ、毎回吐くの、やめない?」

 

「リチャード便だししょうがない……うっ」

 

「リチャード便はやく改良しろぉ……!」

 

「……お、俺のコレ……うぷっ。の、乗り心地の代わりに早いから……」

 

「んんん……!ジ、ジョン……大丈夫?」

 

 

「   」

 

 

「ジョン!?」

 

白目を剥いたまま微動だにしないジョンを見て、少し顔を青ざめさせたシーナがガクガクと揺さぶった。

 

――あっ、駄目だこれ。

 

シーナは急いで近場の草むらに簡易のベッドを枝を編み込んで作り出し、横抱きにしたジョンの巨体を横たえる。

ついでに造った椅子の上にその他の男共を座らせて、即席の竹で出来たボトルに水を汲み出した。

 

「ジョン、他の皆も飲んで」

 

「   」

 

「さ、さんきゅー……」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………」

 

「ああ^~生き返るぅ^~」

 

……この状態ですぐに行動開始というのは無理がある。シーナは静かに嘆息した。

前回も前々回もそうだったが、流石にあの変態機動を生身で味わうには生身には苦しすぎた。

そのリチャード便の運転手さんさえ仰向けに大の字で倒れているのだから手に負えない。

アスターに至っては体の末端が光の粒子に――

 

「何世界に還ろうとしてんだ生き返れ!」

 

「ま゜!」

 

斜め45度。

鋭く繰り出した手刀で後頭部を強打。もちろん対人間仕様である。

やや強引な気付けでも効果はあったのか、途端に光の粒子が収まったことでようやく一安心。

シーナは零れそうになるため息を必死で抑え――やっぱ無理だった。

長々とクソデカため息を吐き出す。

 

「まったく……五分休んだら移動するぞ。それまでは俺が警戒するからお前らは休め」

 

「う~い……」

 

まったく……。

もう一度、小さな悪態をつく。

 

しかしリチャード便がひどいのは確かなので、休憩中の彼等を守るために背中にマウントしていた短槍を手に構える。

薄く拡げた知覚領域には何も――それこそ生物の影の跡すら掴めないが、それでも警戒を解くわけには行かない。

先日の二の舞なんてゴメンだ、と。固く決意した。

 

「シーナは大丈夫なの?」

 

「ん?ああ、こんなのすぐ治るさ。エルフ舐めんな」

 

「へえー……?エルフってそんなのだっけ?あれ、感応能力が高いとか魔法の力が強いとかそういうんじゃないの?」

 

「エルフの身体スペックは天下無双。今なら蹴りで山も崩せそう」

 

背後から響くアルトボイスにそれとなく自慢する。

実際彼の言ったことは違いないが、シーナの身体能力は驚くほどに強力極まる。

音速挙動が出来る人類なんて前にも先にも居ない――と言おう思ったが、神話の英雄達なら出来るかもしれない。

その例としてはケルト神話、アルスターサイクルのクー・フーリン。仏教の韋駄天。ギリシア神話のアキレウス――何時の世にもトンデモ俊足オバケはいる物だ。

 

そこまで考えて、はて、と軽く首を傾げた。

こんな情報、任務開始前にすり合わせたばかりだろう。

今更こんなのに驚くなんてクソ情弱なメンバーなんて――

 

 

「リーダー……誰と話してんだ?」

 

 

「は?誰って――」

 

 

 

――ギシリ。

 

体の末端まで凝り固まる。

 

嫌に高く澄んだ男の声。そんな声の持ち主、シーナの記憶には遥かな故郷――牢獄の友人たち以外には誰一人該当しなかった。

今此処にいる部隊のヤツラは、どいつもこいつも野太い漢の喉だ。

 

 

……この声、誰の声?

 

 

「Code:QuickBoost(Slash)(瞬時加速:一振)!!」

 

脳髄が考える前に。

脊椎が指示を伝える前に。

 

何よりも早い反射の域で槍が振るわれた。

それは肉体の限界である神経伝達速度の限界(0.1秒)さえ突破する神速の一撃だった。

 

「あは」

 

 

――しかし、無駄である。

 

 

ぬるり、と。

ソレは――純黒のヒトガタは上半身を後ろへ120度折(・)り(・)曲(・)げ(・)て(・)回避した。

 

シーナはそのあんまりにも人体から逸脱した挙動に眉を顰める。

とりあえず敵なのか?ここに居るなら敵だな!よし!殺せ!

 

「Open Fire(撃て)!!」

 

シーナが大地を蹴り飛ばし距離を離した直後、無数の鉛玉が黒い人形に向かって空気を穿き抉りながら突進する。

 

「もっと!もっとだ!どんどん弾を突っ込めェッ!!」

 

連続する破裂音が六丁のアサルトライフル(HK416)から放たれ、それと同数の殺意の塊が大きく巻き上がった土埃の内部へ突入する。

魔物に常識なんて通用しないんだ、だから殺せ。

さっきの話し声?そんなの奴等の毒か瘴気による幻覚だ。だから殺せ。

――奴等はジョンの敵だ。だから殺す。

 

 

ドン。

 

強く、余りにも強く踏み抜かれた地表は大きな蜘蛛の巣のように罅割れ、それを造った脚力は多大な加速を齎した。

 

 

「Code(命令):OverBoost(Double)(過重強化:二襲)!!」

 

 

一振り、槍の側部に備えられた四基のブースターに灯された火が土埃を振り払う。

弐突き、赫灼に染まった石突が炎を吐き出す。

音の壁を軽々と突き破った切っ先は、その刃元、そしてシーナの肩に対する多大な負荷と引き換えに莫大な破壊力を宿す。

 

土のカーテンの向こう側。数百の銃弾を全て避けていたのか、クネクネと捻じれ折れ曲がった五体は見るも悍ましい。

本来関節が存在しない部位であろうともお構いなしで、やはりコレは人類ではない――魔物であるという認識を深めた。

 

 

――だから、死ね。

 

 

「あ、は!」

 

 

ずぷり。

その漆黒で凹凸の無い――まるで闇其の物の様な胴体に槍を埋める。

深く、深く。柄まで通れ!

 

「ははっははははhaああははqsqwsはasjwiaasjhguははははh!!!」

 

声が濁った。

何処に在るかもわからない口から囀る愉しげな嬌笑にノイズが混じり、意味不明な言語がシーナ達の鼓膜に入り込んでくる。

 

「―――っ!Code:Impact(吹き飛べ)!!」

 

轟音が響く。

闇の中で煌めいた筈の爆発は、内部はともかく外傷を一切与えることが出来なかった。

通常攻撃は全て、不発に終わってしまった。

 

ならば。

次に使うのは必殺技だ。

そんな時の為の携行型ミサイル(ジョン・バッカス)!

 

コレまで後方で待機していたジョンが動き出した。

今こそ己の出るべき時だと感じ取ったのだ。

後でシーナに何と言われるかわからないが――まあ致し方なし!多分食い物で釣れば何とかなるという打算もある。

 

さあ、いざ射出だ――と、その時。

 

 

 

――嗤い声が、ピタリと止まった。

ケタケタ、ケラケラと神経を逆撫でする挙動も全て停止する。

 

「なんっ!?」

 

 

「ねえ」

 

 

ズイ、とシーナに顔を近づけた。

目も、鼻も、口も。

顔のパーツが何一つとして存在しないのっぺらぼうは、しかし少女に笑いかけた。

 

「ぼく、大体の人間は調べたけど、エルフはまだなんだ」

 

ごぽごぽ。

膨らみも萎みもしない胸が泡立つ。

 

 

「ぼくのココロ、まだ未完成なんだぁ」

 

 

だから、と。

 

槍の刺さった胸からドロリと闇が流れ出す。

0.1秒という僅かな時間に、周囲一体を飲み込むほどの『呪詛』を氾濫させ、その未完成品は囁いた。

 

 

キミのココロ。見せてもらうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、417?どうしたんだぼーっとして」

 

「え?」

 

幼げな少年の声が長い耳にするりと絡まる。

咄嗟に声の方向へ首を捻ると、茶髪とアメジストの瞳を持った少年――410番がこちらを心配そうに見つめていた。

 

咄嗟に大丈夫だと返答して周囲を見渡す。

ここはいつも通りの訓練場だ。

数百メートル四方の面積を頑丈で重厚な鋼で押し固め、俺達訓練生を強化する為の工場。

幾十列もの長机と、その上に無造作に積み上げられた数々のパーツ。

俺はそれらを駆使して何時も通り工兵訓練を…………何時も通り……?

 

 

……?

 

いやいや、違うだろ。

俺はさっきまであそこで……あそこ、で。

 

……あそこって……何処だ?

なんで俺はここに……さっきまで俺は……俺は、なんだっけ?

 

 

………なんだっけ?

 

 

「417、もう出来たのか!相変わらず早いな!」

 

「え、ああ……うん」

 

「ちょっと俺のも見てくれないか?このレバーが動かなくてさ」

 

「いいぞ」

 

それまで考えていた事がまるで霞のように薄れて消えた。

……なんだったっけ。

忘れるってことは大事なことじゃないのか?

まあ後で考えればいいだろう。

 

軽く頭を振って、410番の手によって組み上げられた簡易的な即席手榴弾――爆薬は入っていない――を受け取る。

いかにも簡素なボルトの起爆レバーを引き、原因を探る。

カチンカチンと何かに突っかかった様に固まっているが……さて。

取り敢えずレバー付近を分解するか……。

 

「お、やっぱ417は手先が器用だなぁ」

 

「218なんかはもっと凄い。俺の6倍の速さで爆弾作るぞ」 

 

「あいつはほら、規格外だから……」*1

 

レバー付近のパーツがズレて取り付けられていたのを正し、もう一度組み立てた。

カチャン、とレバーがスムーズに動く事を確認し、410に返却する。

 

「お、サンキュー!これで飯抜きは回避できた!」

 

「ははは!それは良かった!じゃあ立役者の俺に……判るよなぁ?」

 

「なん……だと……?」

 

「あいにーどぷりん」

 

「ぐぬぅ……!」

 

まだ習い始めたばかりの拙い英語で要求し、それに対して渋々ながらデザートを渡す。

これが最近の俺達の日課だった。

だってこうしておちゃらけてなければ心が持ちそうに無い。

 

チラリと訓練場の隅に視線を向ける。

そこでは濃くて暗い緑色の軍服を身に纏った線の細い男が訓練の監督を行っている。

いつもの敬愛すべき教官(ゴリラ)は何らかの任務に従事しているのか、ここ最近まったく見かけることが無い。

 

「今回の担当官も、なんかピリピリしてんな……」

 

「最近どの大人も殺気立ってるよな……教官(ゴリラ)もどっか行ってるし、どうなってんだろ」

 

「……警察のガサ入れ警戒、とか?」

 

「それなら良いなあ。俺達だって自由になれる」

 

さて、それはどうかな……。

喉元まで迫り上がった言葉を咄嗟に飲み込み、曖昧に笑いかけた。

このまま何事もなければそれも良し。ガサ入れがあったとしても、まあ俺達は拉致された被害者ということにもなるし悪くは扱われないだろう。

 

…………けど、それ以外だったら?

 

この広い訓練場には500人近くの少年兵が存在するが――正直その大半が無戸籍児童だったり孤児、或いは売られた子供たちだ。

この基地は徹底的に秘匿され、設備も人員もそれなり以上に良質な配備をされている。

 

俺達の、社会的弱者の為にここを襲撃する人間なんて居るのか?

 

……どう転んだっていい結果にはなりやしない。

そうとしか思えない。

 

その時、俺はどうすれば良いんだろう。

 

「おーい、417!それなら俺ともプリンを掛けて勝負しようぜ!」

 

「それなら私もだ!」

 

197番(日系の少女)と401番(ドイツ人の少年)が前の席から勝負をふっかけてくる。

俺と410番と合わせての四人は、いつも訓練では一緒のグループか、或いは近くの席に配置される。

だからか、俺達は監督者の目を盗んでは交友を深め、度々こうして勝負事をするのが常の事だった。

 

「はい、よーいスタート」

 

「待てそれは良くない待て待て早すぎる!」

 

「卑怯よ……!この、この……エルフめ!」

 

勝負をふっかけてきたのは君達だし?

別に合図をしたのには違いないし?

ほら、問題ない!

ははは、油断したねえ、プリンは俺のモノになっちゃうねえ!

 

「くっそ!」

 

「ああああああ……!」

 

 

 

「ほら、出来たぞ」

 

「……What?」

 

横から少女の声が響く。

少し視線をずらすと器用度ガン振りの赤毛の少女――218番が197番の手元を弄り終えた所だった。

 

「手助けなしとは言ってないわよねえ?」

 

「ウッソだろお前……!」

 

「197と私で山分けということで話はついている。ごちそうになるよ、417」

 

その日の番、沢山あった筈の俺のプリンは二人の少女の口に入ってしまった。

争いは、やめようね!(教訓)

 

 

 

 

 

 

 

 

―――。

 

――――――。

 

 

3日後。

 

 

 

 

「417番!訓練兵番号417番!!」

 

「へぁ!?は、はい!」

 

ボロボロの自室の、コレまたボロボロのベッドから飛び起きてドアに向かう。

ついさっき全訓練が終了して休んでたっていうのに、はぁー。あほくさ。

一体何なんですかねえ!うんこ担当官!

 

「よし、居るな。現在この基地は襲撃されている。貴様はこれから現れる引き継ぎの者についていき、兵器保護シェルターに向かうように。以上だ」

 

「へ……!?ちょ、ちょっと待って下さい……!」

 

襲撃!?

こんな基地に!?

設備も装備も人員もクッソ多いのに!?

 

っていうか、襲撃されているのに俺は戦わないの?訓練兵って一応兵器の扱いでは?

 

「無論、戦闘運用が可能な訓練兵は作戦に出す。しかし、この防衛戦で貴様が参加しなかった場合消耗するであろう人員と装備と、貴様を出して死傷した場合のリスクを計算した結果だ」

 

「な……!でも皆は戦うんでしょう!?なら俺だって――!」

 

ギョロリ、と爬虫類のように鋭い瞳が俺を射抜く。

神経質そうな口元を少しも歪めず、淡々と喉を震わせた。

 

「貴様は我々の主力兵器となる。それを完成前に、こんな些事で失う訳にはいかん。それは『意義ある痛み(Meaningful pain)』の、ひいては人類の損失だ。貴様は黙って引っ込んでいろ」

 

「そんな!」

 

「話は終わりだ。少し待て」

 

甲高い音を立ててドアの覗き口は閉じられ、再び外界との接触が閉ざされた。

 

「……なんで」

 

俺は戦っちゃいけない?

他の皆は戦うのに?

こんな時のための訓練じゃないのか……!?

 

……駄目だろ、そんなの。

それで皆が死んだら、その所為で友達が消えたらどうするんだ。

 

「417番だな。出ろ。これより貴様を移送する」

 

「……はい」

 

別の男が覗き穴から声をかけてきた。

ドアの向こうでガチャリと錠を外す音が聞こえる。

 

……動くなら、今だ。

この男にいくら訴えた所で無意味だろう。

だから気絶させてその隙に――!

 

「見え見えだ」

 

「は」

 

バチ。

四肢が勝手に跳ね上がる。

視界が青白く染まり、腹部で何かが弾け――。

 

 

 

 

 

 

――気付けば、全てが終わった後。

 

 

「――あぁ」

 

寝かされていたベッドから跳ね起きた。

夢うつつなまま、格納庫と思われる部屋と外界をつなぐドアをゆっくり開くと、そこには一面血化粧が施されている。

 

「―――。」

 

右を見ても左を見ても赤い何かが飛び散って、所々には小さな塊がへばり付いている。

ぷかぷかと、赤い水たまりにも大きな塊が転がっていた。

 

 

――歩く。

 

 

普段は手枷を嵌められて歩くこの道は、俺達は立入禁止のオフィスや職員用区画、そして食堂と俺達の宿舎を結ぶ十字路だ。

……そこら中に、大小様々なヒトガタが転がっている。

その殆どは武装していたり、或いは何も身に纏っていなかった。

 

でも共通して、赤い液体を流すばかりで微動だにもしない。

 

 

――歩く。

 

 

食堂の大扉を開いた。

大きなテーブルには沢山の赤い液体が流れている。

 

……その出所なのだろうか。

小さな人影が机の上に横たわっていた。

 

「……1、97?」

 

美しい黒髪と、美しい顔はそのままに。

けれど一切の服を身に纏わない少女は、これ以上なく苦しそうに表情を歪めたまま事切れていた。

……体には、痛々しい暴行の跡が見て取れる。

 

「ああ……」

 

ふらふらと、足元がよろめいた。

だって、こんなの現実味がなさ過ぎるよ。

さっきまでプリンの奪い合いをしていたばっかりなのに。

 

 

ぼくは、揺らめく視界のまま再び歩き出す。

 

 

410番は、多くの少年兵と一緒に、訓練場に続く大きな通路のど真ん中で事切れていた。

皆の体には多くの銃弾が空けた穴が散りばめられている。

410番の綺麗なアメジストの瞳は、もう二度と見れなくなってしまった。

 

 

――歩いた。

 

訓練場のドアを潜る。

もともとはセキュリティキーしか空けることの出来ない堅牢な扉も、物理的に破壊されたせいでぼくの道を阻めない。

広い、余りにも広すぎる訓練場は様々な障害物が転がっていて、おそらく防衛戦を試みたのであろうことが見て取れた。

 

大きなテーブル、物品運搬用の箱、積み上げられたガンケース、工事用の重機。

それらの隙間を縫ってゆっくり中心部に向かう。

 

 

218番は、銃口を前に向けて、立ったまま命を燃やし尽くしていた。

顔はまるで生きているように覇気に溢れていて、しかし生者にあるはずの血色や生気が欠片も残っていなかった。

 

よたよたと近づいて、218番を横に寝かせて瞼を閉じてあげた。

最期の最期まで死力を尽くして戦ったのだろう彼女を労るように頭を撫でる。

 

 

………。

 

 

……いくらか、表情が和らいだみたいだ。

 

そんなになってまで何で戦ったんだ?

……彼女の後ろにあった、小さな小さな骸を守ってたのか。

今となってはわからないけれど。

 

 

「みんな、しんじゃった」

 

 

唇が震えた。

これで、またひとりぼっち。

ぼくの大切なものは全部この日に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「触れたな」

 

 

ギシリ。ギシリ。ギシリ。

視界の全てを覆い尽くす黒い泥。

それらの汚物を灼き尽くさんと、体から溢れる『湿った炎』が這い回る。

吸い込んで、取り込んで、燃やして。

 

 

「ぼくの、記憶に」

 

 

キリキリキリ。

脳髄が熱く軋み、コレまでにない程に気炎を上げる精神が熱を放つ。

視界の隅っこでは『湿った炎』の内部に保護したジョン達が眠りについていた。

 

……ああ、そうだとも。燃やす。

浄化なんてしない。

キレイな終わりなんて与えない。

塵も残さず、痕跡も残さず灼き尽くす。

 

限界を超えた出力で殺意の炎を廻す。

もはやこれ迄の数十メートルという運用範囲を超えて、半径数キロメートルにも及ぶ大地を余さず呑み込んだ。

 

 

「土足で入り込んだな?」

 

 

この土壌の隅々まで。

木々の内側まで。

そして、人間の奥底まで入り込んだ黒い汚物。ぼくの炎で、その穢れのみを取り除いて灼き尽くした。

 

ああ、何だこの汚物は。

黒く粘ついて、まるで腐った人間のように汚らわしい。

そんな汚物でぼくの大切な人に触れるなよ。

 

あまつさえお前は何だ。

何を囀っていた?

 

ココロを知りたい?

何だそれは。アホを抜かすな。貴様にそんなものは必要ない。

 

 

お前は敵だ。だから死ね。

 

 

「殺す」

 

 

「これは、なんで――!?」

 

 

体から漏れ出す『湿った炎』は、次第に質量を伴っていった。

金剛石よりも固く、綿のように柔らかく、鉛よりも重く、吐息のように軽く。

 

星の内部のように熱くて、けれど空の果ての如く冷たい。

まるで命(・)のように粘ついていて、けれど死の如くスルリと通り過ぎていく。

 

 

だから、お前を磨り潰せる。

 

 

「待っ――」

 

時間からも切り離された須臾の間際。

如何様にも変化するコレが、固(・)定(・)された。

ぼくのココロを表すように。

 

だから死ねよ。

今すぐ死ねよ。

 

死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――――!

 

 

『世樹断片残響顕現(ウルザブルン・ノルニル)』

 

 

 

見るモノの魂を揺さぶる青褪めた大樹が、母なる星の表層を貫いた。

 

 

 

*1:
全力を出した場合1秒に1個のパイプガンを作れるぐらい




埃被ってたペンタブ珍しくいじってみたら遅れました(素直な自白)
これで自分で自分に対して支援絵を書きました!(美術3)
やったぁ!

でも画力は申し訳程度の和え物なので見ないほうが良いかもしれないしそうじゃないかもしれないしびろびろウホウホ!


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