「そうしてぼくは戦いを終えました、っと」
多くのゴタゴタを処理し終えてようやっと得ることが出来た
今は新居と次の職を探す中間期間。今ぼくが居るこの私室――訂正、
科学の光が照らす中机に向かい、サラサラと分厚い本に文字を書き連ねた。
何時からだったか、長い間日記帳として使い続けているこの本は、気付けば色褪せて使用感に満ちた古さを帯びている。
ぼくと一緒に人生を見つめてきたと思えば中々感慨深いものがあるなあ。
「あー、っと。それからそれから……」
ぼくは戦いを終えた後、ジョンとすぐに結ばれた――と、思いきや。
あの野郎チキリやがった。
いやね、正直あのシチュエーションで告白して、あんな印象的な再開を果たしてさ……まさか返事しないとは思いませんでしたよ。
あの手この手でのらりくらりと明言を避けるあのマッチョのなんと卑しいことか。
基地に帰還した直後、「それで答えを聞きたいな」って問いかけたらなんて返したと思います?
「うー、あぁー……あっ、そうだ。クッキー食うか?」
はぁー!!!
はぁああぁ!?!?
ぼくはそんな返答を全く考えていなかった事もあって、思わず半ギレしました。
もうね、お前は玉ついてんのかと。
ぼくなんてさっさと無くしたっていうのに!
その日から三日間、あの手この手で返事を聞こうと策を尽くした。
正直ぼくは断られることはないと踏んでいた。
この美少女に言い寄られて嫌な気分になるだろうか?
こんな献身的に一途に想っているし、心の底から全力で恋しているぼくが断られると?
いいや、ありえない。
ぼくのエルフ流精神分析によると、ジョンはなんだかんだで心地よく感じていた。
だからこそ心置きなく攻めた。
具体的にいうとバナナを握りしめて背後を取り、「答えを言わなければ菊の門を壊す」って感じで。
……ああ、しかし。無情である。それでも尚回答拒否。
協力者のリチャードやヘラート、ジェシカもこれには呆れた。あとめちゃくちゃバナナを突き刺した。
あらゆる手段を実行したがもはや打つ手なし。さあどうするか……。
ぼくは悩んだ。
それはもう、たっぷりと。
そしてばくは一つの結論を出した。
実力行使にでればいい。
ジョンを一時的に眠らせ、そのスキにベッドにくくりつけて剥く。
あとはもう、力尽くだ。
――コトリ。
ペンを置き、古びた本を丁寧に閉じる。
回転椅子で後ろへ振り向き、悠々と立ち上がった。
視線の先には、両手足をベッドの縁から伸びるロープで拘束されたジョンが居る。
まるで食われる前の子羊?いやいや、そんなまさか。
今のジョンはきっと来たるべき輝かしい未来にときめいているハズさ。
「と、言う訳で。ジョン、そろそろ年貢の納め時だよ」
「いや待て。それはおかしい!何故そこで実力行使に出る!?」
「何故……?何故だって?それをあなたが聞くの?」
「もちろんだ!いいかシーナ!俺達が結ばれるっていうのは中々にハードルが高い!あと俺の心情的にもキツイ!いくらなんでも絵面がやばい!」
「なにさ、そんなの今更でしょ。法律的な問題は特に無いし、
口先や表情は頑固に拒否している体を成しているが魂は素直だ。
ジョンはほとんど堕ちている。ああ、間違いない。
あらゆる障害は障害ではなく、理論武装さえ覚束ない。
なら、これは確実だ。
あとは、ぼくがもうひと押しするだけで容易く陥落する。
そうすれば後は書類を出して、ぼくとジョンの二人で新生活を始めるだけでいい。
それだけでいい。
ジョンの巨体を載せている大きな大きな白いベッドに腰掛け、空気に晒されている大胸筋をサラリと撫でた。
うーん、これはせくしー!!
「というわけで、今からあなたをぶち犯して責任取らせるから」
「待って!?今女の子の口から飛び出しちゃいけない言葉が聞こえたぞ!?しかも責任を取るのは俺なの!?」
みっともない、相変わらずの抵抗の悲鳴が鼓膜を叩く。
手足は縛られたままであるにも関わらず、なんとか必死に振り解こうと藻掻いている。無駄なのにね。
というか、ここまで来ても拒否するなんてどういう神経をしているのだろうか。
女の子がここまでさせて恥ずかしくないのか?元が男ということはいいっこなしで。
これはあれだ、据え膳食わぬは男の恥という奴だよ?
ほんとはそんなに嫌なの?ぼく泣いちゃうよ?いいの?
「……ぼくにはそんなに魅力がないの?」
「なっ……い、いや!そんな訳ないじゃないか!シーナは魅力に溢れてる!すげえ美人だし可愛いぞ!」
「じゃあ、ぼくのこと抱けるよね?」
「えっ……」
「抱けるよね?」
トスリ。
ベッドの縁からジョンの腹の上に移動し、その動揺に満ちた顔を見つめた。
少しばかり強引だが……いや、ここで躊躇するな。いい加減引き延ばすのはよろしくない。
だから迷わないぞ……そうだ。
苦節数年の重みを思い出せ。
ぼくの初恋はこの瞬間に成就するものと信じ抜く。
勇気を持って、ジョンを堕とす……!!
「えーっと……ほら、俺童貞だから……」
「はぁぁああぁ………(クソでかため息)。あのさぁ、そこは黙ってトゥクン、俺を抱いてください!って言うか、もしくはお前を抱いてやるよ……(イケボ)とかそんな場面でしょ?舐めてるの?」
「いや、違――っていうか、え。なんで服脱いでんだ?マジ?本気なの?」
「もちろん」
「あっ、そっかぁ……」
ぱさ、ぱさ。
身に纏っていたTシャツとジーパンを脱ぎ捨てた!
見よ、この肉体美を……!
これはジョンも虜になること間違いなし!
は、巨乳がいい?犯すぞてめえ……。
「もうそれ脅しになってなくね?」
それはもちろん。
有言実行さ。
今のジョンはまな板の上の鯉。
そう表現するのがピッタリだろう。
もう逃げ場などない。
「これ以上は無駄……いや、害だな」
「よく分かってるね」
やっとそれを悟ったのか、ジョンの体と瞳から力が抜けていく。
まるで万物を慈しむ菩薩のような、あるいは万象を諦めた咎人のように脱力した笑み。
……つまり、受け入れる体制ということだ。
反対意見は出尽くしたようなので、心置きなく実行できるというもの。
「顔も知らぬお父さん、お母さん、それとおかあさん。ぼくはこれから大人になります……!」
ジョンをぶち犯した。
もう、離さない。
『シーナ・バッカス』
元ウェストローランド社所属特務戦闘員であり、エルフの原種でもある。
魔性母胎討滅作戦の後、瀕死の状態で本基地に帰還した。
左目、左腕は失われていたものの、肉を捨てていたこともあって直様復元された。
また、その直後に依願退職が為され、受理。
後述のジョン・バッカスと共に日本へ移住し、夫婦として生活する。
その後の生涯は戦乱に関わることは殆ど無く、稀に訪れる侵略者を撃退するのみであった。
伴侶が老いさらばえ、自身の子や孫と共に見守る中往生する姿を見送った。
子々孫々を見守りながら、またいつか、輪廻の果てに伴侶に出会える日を心待ちにしている。
『ジョン・バッカス』
元ウェストローランド社所属特務戦闘員。
また、ドワーフの因子を有する異種でもあった。
かの作戦の後、シーナと共に退職。ともに日本へ移住する。
その左手は腐り落ちてしまったが、シーナが気合と根性で義手を生成。その『銀腕』は日本の青少年たちの心をがっちり掴んだ。
なんだかんだで拵えた子供達を育て、子供達が子を成し、またその子が子を成した所を見守り、そして彼らに見守られる中大往生。
享年141歳。
『子供達』
ファミコン。
しっかりとした教育ママと飴役の父にたっぷり愛情を注がれて育った7人兄弟。ハーフエルフ。
マザコンでありファザコン。
母の英才教育によって戦闘機より強い。
尚、彼らの子供たち――シーナ達から見た孫は21人。ひ孫はもっとたくさん。大家族である。世界がエルフ族に侵略される日は近い。汝、隣人の貧乳を愛せ。
『ローランド・G・ニシ』
ウェストローランド社の代表取締役社長。
日本人とアメリカ人のハーフ。
実はゴリラの因子が混ざった異種である。握力はその賜物。あ、知ってた?そう……。
その後も会社をドンドン大きく育てながら、たまに遊びに来るシーナ達を暖かく見守っていた。おじいちゃんポジション。
なんだかんだ息子夫婦とシーナ夫婦に見守られる中往生。享年91歳。
『
ローランドの息子。
とあるテロ組織にて教官を努めていたが、ある日組織は崩壊。無職になってしまった。
仕方なく故郷に戻り……と言いたかったが、当時父との仲があまり良くなく戻るに戻れなかった。
結局某大国の裏路地で途方に暮れていたところを心優しいおじさまに拾われ、パン屋勤めに。
なんだかんだ同僚でもある恋人ができ、結婚した。
父親とも再会を果たして孫の顔を見せることができた。うれしい。
結構気にかけていたシーナとも再会できた。うれしい。
『社員一同』
社畜。
永遠の社畜。
次期社長にリチャードが就任しても変わらず社畜。諸行無常である。
「……あれ?ここは……」
日本にある住宅街。
ジョンと共に日本へ移住し、新たな新居を見繕っている最中。
整然とした家々の間を網羅する道路を歩いていると、何故か不思議な既視感を覚えた。
当然のことながらこれまで日本に来たことはない。
そもそも、戦場かテロ組織の訓練基地、あるいは会社所有の基地にしか足を運んだことはない。
人々が暮らす、平穏極まる街すら見たことがないのだ。
……そのはず、だけど。
「……どうした?」
「う、ん……なんでもないや」
止まっていた足を再び進める。
ジョンと連れ立って目的地の一軒家を目指すが、やはり脳裏にへばり付いた既視感はどうにも剥がれてくれない。
何も変哲のない道路。
特色のない普通の家屋が連なっている。
でも、それがどうしようもなく記憶を刺激する。
なんだろう、やはりぼくは此処を見たことがあるのか?
……どうやって?
「お、公園もあるのか。中々整備も行き届いて、いい公園だな」
ジョンが指を伸ばす。
その先には言葉の通り、綺麗に保たれた緑溢れる広場―――。
「あ」
目を見開く。
大きな茶色いベンチ。
公園の隅に置かれた蛇口。
大きなジャングルジム。
5段階のサイズに分かれた鉄棒。
そのどれもに、その配置に、その光景に見覚えがあった。
――だって、ここは。おにいさんが死んだところだ。
指先に震えが走る。
表情が強張って、心が軋む。
ぼくの、最初の失敗が見せつけられているようだった。
何故此処があるのだろうか。
過去のぼくは此処とは違う世界に居たはずなのに、何故?
――駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だ。
エラーを磨り潰せ。
ぼくはもう失敗しない。
もう間違えない。
こんな光景不要だ。
でも、ああ。
ぼくは、幸せになってもいいのだろうか?
おにいさんはもういない。
あの時助けてくれたおにいさんは、もう。
「あー、懐かしいなあ。あの時のガキとまた此処に来るなんて…………ん?あの時のガキってなんだ?」
「……え?」
「んんん……?おっかしいな――ああ、どうしたんだシーナ。なんか顔が青白いぞ?ちょっと休むか?」
ジョンは変わらず笑顔を見せた。
白い歯を覗かせて、まるで太陽のようにぼくを照らす。
その笑顔が、重なった。
いつかの日、ぼくを照らしてくれたあの笑顔と。
ジョンの手を取り、また歩き出す。
公園に背を向けて、ころころと笑った。
「んーん。大丈夫。いこっか、ジョン」
「おっ、そうだな」
そうだとも。
ぼくはもう間違えない。
失敗しない。
もう二度と、この人を失わない。
何があっても。
ね……だから、末永くよろしくね?
くぅつか
これにて完結です
正直2、3話投稿するだけの練習作品のつもりでしたがなぜか続いて、それでも完結できてよかったです!
ここまで見てくれたよいこの皆!ありがとう!
これからもあらゆるメス堕ちを、愛してね!