【完結】習作断片=魔境現代奇譚   作:豚ゴリラ

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恋愛とは、一体何なのか。
どのような工程を経て、どんな事を考えてその思いは実を結ぶのか。
作者にはわからないので想像で書きました。

経 験 値 が 足 り な い !


メス堕ちの始まり

森林の中心地。

川にほど近く、同時に野営地としては好立地とも言える開けた土地の中。

樹木が避ける空白地帯の中、背の低い迷彩柄のテントが8つ拵えられている。

軍用品特有の機能性に特化したフォルムだが、これが意外と――いや、意外でもないが隠蔽性が高く役に立つ。

……まあ昨夜襲撃してきた塵屑以外の敵と遭遇していないから、正直意味があるのか分からないが。

 

 

そう。昨夜受けた襲撃だ。

あの後、直様リチャードの『異能』――『流体移動』によって川に乗り、超長距離――およそ200km前後を移動した。

 

この異能は『とある物質』が必要な為回数が限られおり、使い所は予め決めていたのだが……今回の事情的にも致し方無し。緊急退避として実行した。

そして辿り着いた先で設置したのがこの野営地。

ここで負傷者の治療――つまり、片腕を失ってしまったジョンの手当てをしている最中だ。

 

 

……もう既に夜が明け、太陽が登り始めているというのに……まだ、ジョンは目を覚ましていない。

 

「……こんなもんでいいか」

 

近くの川で水を汲み、とぼとぼとテントに戻る。

憂鬱だ……これ以上なく。

心も顔も下を向いている。

 

……ジョン。ジョンの腕が無くなった。俺を庇ったせいで。

俺がもっと強ければ、俺がもっとしっかりしていればジョンにあんな傷を負わせることなんてなかったのに。

俺がジョンの足を引っ張ったから、俺を気にかけてくれて、俺の頭を撫でてくれていたその手が――。

 

………。

…………後悔ばかりだなぁ……。

 

 

……背の低いテントの垂れ幕をくぐり、水の入ったボトルを隅に置く。

 

「ぐ…ぅ……」

 

「ジョン……」

 

体中から汗を吹き出し、真っ赤に染まった顔を苦しげに歪めている。

あの塵屑の手によって――毒を含む体躯によって傷を負ったのがまずいのか、体内の免疫機能が全力で励起している。

異種の身でそうなのだ、おそらく只人が食らえば即座に死に至る筈だ。

 

――けど、まだ生きてる。

 

「………まだ熱い」

 

額に手を乗せると、焼け付くような熱気を感じる。

とても辛そうで、人体に良いとは思えないが……それこそが、ジョンがまだ負けていないという証明でもあった。

 

「……リーダー、そろそろ休んだほうがいいぞ」

 

「ヘラート……」

 

すぐ側のテントからヘラートの声が響く。

それはこちらを気遣ってのものだろうけど、ハイそうですかと頷けるものでもない。

……だって、俺のせいでジョンは今も苦しんでいるというのに、今俺が休むわけにも行かない。

そんなの、(ぼく)が許せない。

 

「酷い顔してるぞ、いいから寝とけよ」

 

「でも……」

 

「そんな死にそうな顔を寝起きに見たんじゃジョンだって気が滅入るさ」

 

「……………」

 

「……あー、ほら……じゃああれだ。ジョンはかわいい女の子が好きだからな。元気なシーナを見ながら目覚められたらさぞ気分が良くなるだろうさ」

 

戯けながら手振りを交えるヘラートは、自分だって疲れているだろうにこちらに言葉を投げてくれた。

 

……しかし、そうか。

ジョン、あまりにも異性に興味を見せないからホモかと思ってたけど、そういう訳じゃないのか……!

ジョンって未だに独り身なのに女の子には興味あったんだな。

 

ははは、俺が女だったらジョンの事好きになったかもな!

 

気前良いし!懐でかいし!顔も悪くないし収入もある!意外とこれ優良物件じゃ――

 

 

 

――今の俺、女じゃん。

あれ、これは暗に好きって言ってるような……。

 

 

あ、いや……でも俺の中身は男だった……。

 

……………。

 

でも今の俺は女だし……ジョンには嫌われないかな……?

 

 

………んん?

 

っていうか何で好きだ嫌いだの話をしてるんだ?

俺はあくまで傷付いたジョンに罪滅ぼしをしたいだけだってのに!

そりゃあジョンが望むなら――いやいや、違う違う!

ジョンは俺を導いてくれてた兄貴分であってそれ以上じゃない!

第一俺もジョンも男同士――いや俺女だけど!そこに恋愛感情は――

 

 

 

無いのか?

本当に?

 

 

「お、おい……シーナ?」

 

恋愛感情――「恋愛感情」は、恋したときに発生する感情。特定の誰かの価値を高く感じ、肉体や精神的な接触を持ちたいと願う心理のこと。

 

肉体的な接触――良くジョンのケツ穴にバナナを突っ込んだのは、その後の「お仕置き」に期待していたから……?

精神的な接触っていうのは……言葉を交わすこととか?

いや、でも確かに………ジョンと話しているときは胸が高鳴って………。

 

 

………。

 

 

………………。

 

 

…………………。

 

 

………………………いや、まさかね。

まさか……ねぇ。

 

 

「ぐ……シーナ、か?」

 

「――ジョン!?」

 

不意打ち気味なジョンの目覚めに、思わず上ずった声を上げてしまう。

次いで、ジョンの寝ていた場所に視線を向けると、残った右腕で目元を抑えているジョンの姿が目に映る。

 

――思わず、腰から力が抜ける。

 

「お、おお……大丈夫か?」

 

「この……ああ、ほんとに、心配させやがって……」

 

……ああ、良かった。本当に良かった……。

未知の生物の未知の毒素が体を蝕んでるなんて、どうしようもなく不安だった。

ふるふると瞼を震わせながら目を開いた焦げ茶の瞳には、いつも通り生気に満ち溢れた優しい眼差しが宿っている。

 

「なんと!ジョンの目が覚めたのか!」

 

「おお!やっとか!」

 

「リーダーめっちゃ落ち込んでたぞ!土下座しろ!」

 

「服を脱いでケツドアップで土下座配信しろ!」

 

「なんだオメェラ……!」

 

「☆ジョン、キレた――!」

 

ジョンが目覚めたことで昨日までのように、陽気なやり取りが交わされる。

何処までも頭が悪い小学生男子のような会話だが……ああ、心が落ち着いていく。

じっとりと頭の片隅にこびり着いて離れなかった「もしも」の不安が、ようやく離れて消えていった。

 

「……よし。おら、部下共。飯にするぞー。ジョン、食欲はあるか?」

 

「「「わぁい!」」」

 

「ああ、死ぬほど腹が減ってる。身体がカロリーを求めてる」

 

「よーし!シーナちゃんが飯作ってやるからなぁ!見てろよ!」

 

えー、本日用意するのはヨモギ、タンポポ、ユキノシタ、ドクダミ。この四つの野草になります。

鳥類の卵(無精卵)を溶いたものに突っ込んで、タプタプと入浴させた後に白い粉をまぶします。

 

そしてアッチアチに熱した油の中にドボンと投げ込む。油がはねた?すごく熱い?我慢しろ、心頭滅却すれば火もまた熱し!

 

「あとはなんかこう……ね!そう、それっぽくなるまで揚げて……ハイ!なんか出来た!」

 

「ええ……何これは」

 

「メシマズかな?」

 

「これは嫁の貰い手に困りますねぇ」

 

「料理上手な美少女エルフはどこ……ここ……?」

 

はぁ~?

はぁ~?

きつね色になるまできちんと揚げられた天ぷらだぞ?そらあもうご褒美よ。無論美味しいに決まってるよなぁ?美味しいって言え。

 

やいのやいのと(小声で)騒ぎながら七人で焚き火を囲み、それぞれに山盛りに積まれた天ぷらの皿を配膳する。

美味いか?美味いな?良し!(強引)

 

「なぁ……シーナ……」

 

「ん?どうしたジョン」

 

ただ一人、テントの中で寝っ転がっていたジョンが情けないような、悲嘆に暮れたような声を上げる。

なんだろう、捨てられた犬のような顔しやがって。

 

「手が動かん」

 

「あっ……」

 

残された右手……は、異常がないように見えるが、極度の疲労……或いは毒の後遺症だろうか。

別に不思議なことではない――が……どうしたもんか――

 

 

ジョンの分の皿を手にとった。

 

よく考えたら、俺がジョンに食わせたら良いじゃん。

あーん、ってやつだな。

別に、動けない兄貴分に看病してもおかしくはないしな。

 

「ほら、口開けて」

 

「ちょ!?流石にそれは恥ずい!」

 

「うるせえ、黙って食え」

 

「むぐぅ!?」

 

不服そうな顔ではあるものの、むぐむぐと口を動かしている事からきちんと飯を食うことはできている。

ならよし。

 

「ほら、あーん」

 

「なんだこれ……すげぇ恥ずかしい」

 

ジョンの顔は真っ赤に染まっている。

これは焚き火のせい……という訳じゃなさそうだ。ははは、可愛いところあるじゃないか。

 

「あーん」

 

「んむ………。なぁ、シーナ……顔赤いぞ?無理しなくても――」

 

「あーん」

 

「いや、あの……シーナさん?」

 

「あーん!」

 

「あっはい……むぐ」

 

ジョンのくせに生意気だな。

なんだよ顔が赤いって!確かに顔熱いけど!けどさっき変な事考えてたからってだけで!決して――決して…………。

 

………決して、なんなんだ?

 

「シーナ?大丈夫か?」

 

「――っ!あ、ああ。もう食い終わったな。明日になったら引くか進むか、どっちかに動くんだし早く寝ろよ」

 

「お、おう」

 

茹で上がった顔を見られないように、必死で顔を反らしながらテントを出る。

 

………さっきまで小声で騒いでいた大きな子供達は自分の領域に籠もっているらしい。

変な気を利かせたのか……いや、しかし今の俺にとってありがたい。

 

「………はぁ……」

 

消えかけの焚き火の前に座り込む。

あー、駄目だ。顔が赤くなっているのが自分でも分かる。

なんでこんな風になってるんだ?

 

コレまでだってジョンとの交流は楽しくて――楽しい、だけだったのに。

 

……分からない。

なんで俺は、ぼくは――こんな不思議な知らない()()()を感じているんだろうか?

どうして未知のモノに振り回されている?

 

「ばらばらばら……」

 

熱で鈍化したままの頭蓋にメスを入れて分解し、ぼくの各部位を虫眼鏡に写す。

 

大我と小我。

思い出、情動、感性、多様性、接続性持続性、完全性、秘匿性、保全性………。

何処を見てもいつも通り。

計算され尽くした入力系統と出力系統。

 

完璧だ。どこをとっても完璧だ。

全て計算して、そういう風に加工したんだから当然だけど。

 

「…………」

 

何処を見ても変わりない。不変そのものだ。

 

なのに、どうしてこんなに胸が疼くんだ?

 

 

 

 

「よし、朝だな……リーダー、起きろ」

 

「ん……ん?」

 

閉ざされた瞼をぼんやりと柔らかい日差しが貫いた。

 

二度、三度瞬きを繰り返す。

 

……ベンが焚き火の後始末をしている。

どうやら眠った俺に変わって見張りをしていたのか、直様戦えるる様に、咄嗟に取りやすい位置に銃器とコンバットナイフが並んでいる。

 

「……大丈夫か?」

 

「あ、ああ……大丈夫」

 

「そうか。これから他の連中を起こしてくる。飯の準備をしといてくれ」

 

「分かった」

 

それぞれのテントに回っていっているベンの後ろ姿を尻目に、昨夜用意した野草を使って天ぷらを――と行きたいところだが、生憎油の手持ちがないのだ。

正直昨夜のアレは景気付けに用意した物であって、量のかさばる油はそう多く持ち運べない。

 

……つまり、今日から毎食くっそ不味いレーションとシーナちゃん特性日替わりスープだ。

 

 

まずは携帯コンロを設置します。

鍋に満たした真水にだしの素を突っ込み、卵、醤油、食えそうな野草をぶちこんで……ね、こう、それっぽく……はい、できた!

 

 

見た目は美味しそうだ。匂いも悪くないし見栄えもいい。よっしゃアイツらに毒味――んん!食わせてみるか!

 

――と、そこで背後から草を踏み締める音が聞こえた。

 

「お、もう出来たのか……いてて」

 

「ジョン!もう大丈夫なのか?」

 

「おう、とりあえず左腕以外は元通りだ」

 

「そ……そっか……」

 

ジョンだ。

 

いつの間にテントから這い出ていたのか……。

昨日まで死に瀕したような土気色だった肌は元の血色を取り戻し、いつもと変わらない骨太な笑みを浮かべている。

 

「どうした?ジョンジョークだぞ!笑え……っていうのは無理か……」

 

「……当たり前だろ」

 

ジョンは、いつもみたいに軽い調子で笑い飛ばした。

いつもと同じ声音。いつもと同じ仕草。

 

 

………けれど、昨日から一つだけ違うことがある。

 

 

 

――左腕。

 

左腕は、俺を庇った時に失われたまま。

 

昨日と同じ軍服を着ているが、しかし左腕のあるべき空間はただ風が揺らぐのみだ。

本来鎮座している筈の筋骨隆々の腕部、その片割れが失われた事を様々と見せつける。

 

………ジョンは優しいから、いつもと同じ様に笑っているけど…………ああ、せめて俺を詰ってくれるのなら、許される様な気にもなれたのだろうか。

 

………けれど……それは逃げ、かな……。

 

「……ジョン……その……」

 

「シーナ」

 

ビクリと体が跳ねる。

いつの間にか俯いていた顔を上げると、いつもの様に優しい瞳が俺を見つめている。

 

優しくて、こちらを見守るような温かい眼差し。

 

「俺は、後悔していない」

 

ニカリと笑う。

ただいつものような、日常を思い出させる仕草。

俺がバカをやらかして、ジョンはそれにお仕置きして、ヒリヒリ痛む身体を庇っていじけている(シーナ)を見守る。

 

……彼にとって、これはそんな日常の延長線なのだろうか。

 

命をかけて戦って、命をかけて俺を守って。

 

 

ああ――。

 

……やっぱり、アナタは優しいなぁ……。

 

「俺はお前を守りたかったから守った。その結果に必要なのはお前が無事だという事実のみだ。……これは俺にとって勲章だからよ……気にすんじゃねぇぞ」

 

「そんなの、無理に決まってんだろ……」

 

「ははは……まぁ、お前ならそうだよなぁ……」

 

「その状態じゃ戦う事だって出来ないだろ……?」

 

「んー?いやぁ、そうでもねえ。物質化を上手いこと使えば短期間の戦闘は可能だ……もっとも、以前通りとはいかねえがな」

 

「そっか……」

 

 

俺達の間に重苦しい沈黙が横たわる。

どうにも息苦しくて、ただただ心が締め付けられるように痛みを感じた。

 

 

「まぁあれだ!この仕事は完遂するけどよ、それが終わりゃあ退役だ。どうしても気になるなら俺を養ってくれや!――って、なんてな――」

 

「わかった」

 

「へ?」

 

 

……そうだ、そうだった。その手段があった。

 

そもそも俺は何だ。バカという風にデザインした精神で何を無意味な思考をこねくり回してるんだ?

 

無駄だ。そんなの無意味だ。

何も俺が一人で思い悩んでも何にも変わらないんだから。

 

俺はなんだ?『シーナ』だろう。考え無しでおバカで、底抜けに無邪気な子供――という設定はもうやめたけど、根本的なデザインは変わらない。

 

……()()として、であっても変わらない。

そんな小難しい理論はこの場に持ち出すべきじゃあない。不要なものだ。

 

――つまり、行動在るのみ。

 

「この作戦が終わったらお前を養う」

 

「ちょ、えっ」

 

「何があっても、お前を支えるから」

 

「シ、シーナ?」

 

「――約束だよ?」

 

「   」

 

心なしかジョンが白目を剥いているように見える。

……まあ見間違いだろう。

今の俺は心がウキウキしているからな!多少視覚がおかしくなっても不思議じゃない!

 

ああ!ほんと、何故俺は悩んでいたんだ!

 

そうだ。

俺はただジョンを支えたいと思った。

責任を感じるな、とか。自己満足だ、とか。

そういったことはどうでもいい。

 

俺がそう感じた。

だからそうするまでのこと。

 

「ヒェ……マズイとこ見ちゃった……」

 

「や、やむ……?」

 

「しっとできがくるう」

 

「  」

 

「シーナ……!立派になって……!」

 

外野から口々に囁く声が聞こえる――普段ならば問答無用でバナナを突っ込んでいたのだろうが……ああ!今は気分がいい!

 

さっきまでは散々な精神状態だっただろうって?

確かにそうだな。

 

でも、ジョンの左腕を奪った罪悪感よりも。ジョンが苦しんでいるという悲しみよりも。ジョンの腕を奪う遠因となった己の無力に抱いた赫怒よりも。

俺の頭蓋はもっと深い爽快感を覚えている。

 

それは――そうだな。喉元まででかかっていたあやふやな考えを、はっきりとした形に変えることが出来た様だ!

 

俺は、ぼくはやりたいことを見つけた。

大切な人をこれ以上危険に近づけずに済むし、ぼくはいつまでもそれを守ることが出来る。

ずっと傍で、いつでも、いつまでも、ジョンのことを守り続ける。

大事に大事に囲って蓋をして、あらゆる害意から隔離してあげる。

 

なぁに、ぼくはエルフだ。時間なんて腐るほどあるし、いつまでもぼくの力が劣化することはない。

これなら何の心置きなく守れる。

 

 

 

――それこそ、ジョンの寿命が尽きるまで。

 

 

 

だからね、ジョン。

ぼくはこの疼く気持ちがなんだか分からないけれど、ジョンと一緒に居たいっていう事に間違いないんだ。

間違いないよ。

間違いない。

 

だから、離さない。

 

ずっと、一緒にいようね。

 

 

ずっと、ずぅっと。

いつまでも。

 

 




これは病みルートではない(震え声)
純愛ルート……純、愛?

………こっから純愛になります。作者を信じろ
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