スクールデイズはラノベ式で! 作:もちもちスイカ
人生には、その人の運命を左右する出会いが多かれ少なかれ存在するらしい。
それが良い方向に導いてくれるのかどうかは別問題なのだが。
『ねえ...もしかして、あなたが噂のホームレスくんかな?』
俺の場合はこんなセリフが始まりだった。
自分が誰なのか。何を目的に毎日を生きていたのかが分からず、ただただ段ボールの中で春の肌寒さを凌いでいたあの頃。俺は一人の少女と出会ったのだ。
「....ホームレスって俺のこと言ってるのか?」
「そう。だって、あなたと私以外にここに人はいないでしょ?」
辺りをきょろきょろと見渡す少女。なるほど、確かに人はいない。
ここにいるのは見るからに高そうな身なりに身を包んだ少女。
そして、段ボールとボロボロの薄汚れた服を装備している俺だけ。
貧富の差。貧民と富民の埋まらない溝。約束された敗者と勝者。
このどこにでもある公園の一角には、サルでも分かるこの世の縮図が出来上がっていた。
「だが! いきなり人に向かってホームレスと言うのは! 些かどころか、かなりの無礼だとは思わないか!?」
「うわっ、急に立ち上がらないでよ...ビックリしたなぁ....」
自分の事をホームレスだと言われたことに予想以上に腹が立っていたらしい。迸る熱いパトスを俺は爆発させた。
「いいか! 人間が生きていくうえで最も重要なのは他者への気遣いだ! 群れる奴を弱虫と呼ぶバカがいるが実際人間は個の力ではなく集団としての力によってここまでの繁栄を築き上げてきたのだ。だというのに、ワンマンに生きるのではそこら辺の動物よりも愚かで劣っている! そもそも言葉や思考プロセスは単体で生存していれば発生しえない可能性だって_____」
ガミガミ、ペチャクチャと思いのたけを炸裂させる俺を少女は呆れた顔で止めた。
乱暴に口をふさぐ少女の手のぬくもりは、寒さに凍える俺には少しばかり温かかった。....なんていう感想はどうでもいいか。
「はぁ....分かった分かった。あなたはそういうタイプの人間なのね、理解したわ」
「フガフガフガ! フガフガフガ!!」
「はいはい、そうですね。あなたは立派な大人よ。一人で生きていける強い人だものね...」
もごもごと口を動かす俺を横目に、少女は持っていたスマートフォンで誰かに電話をし始める。
「あー、もしもし? 私だけど....そう。例の件なんだけど、候補が見つかったわ」
「???????」
俺の理解など気にすることなく少女は話を進めていく。
全体像は見えないが、どうやら俺はこの少女を含めたナニカの集団に確保されることになるらしい。
「___って!? ふざけんじゃねえよッ!!!」
雲行きが怪しい、何て優しいものではない。
もうこの先真っ暗の明らかなバッドエンドルートを察知した俺は全身の力を振り絞り、少女の拘束から逃れた。
「おおっ、意外にパワーあるじゃん。人間ってまともな生き方してなくても体力つくんだねぇ」
「はぁ!? なにいってんだお前....?」
コイツまともじゃないだろ。ここの中でそう確信する。
「逃げるが勝ちっ!」
このままではヤバイ。俺は慌ててその場から逃げ出そうと段ボール片手に駆け出した。のだが....
「ぎゃふん!?」
駆け出した先にはいつの間にやら、見知らぬ男が。いきなりラリアットをくらわされ、蛙が車に轢かれたかの如き声を上げてしまう。走り出していたこともあってその威力はマシマシ状態。体は宙に浮かび、無抵抗のままに地面へと急降下した。
「お、
「は、半蔵...? 伊賀モノか??」
ぐるぐると回る視界に頭をおさえながらも、俺はゆっくりと顔を上げる。半蔵と呼ばれた男はやれやれと肩をすくめた。
「当たり前だろ、お前はウチの姫だからな。何かあってからじゃ遅い。それに....」
「...あぁ??」
突如としてこちらを睨みつけてくる半蔵。先ほどのラリアットもあり、俺は負けじと睨み返す。
「こんなクソホームレスと会うなんていうんだから、尚更だ。油断するな、レイプされるぞ」
「えー、そうかなぁ? 私の見立てでは、彼はそんなことする人じゃないよ?」
「何言ってんだ。この前もそんなこと言ってロクでもないヤツ連れて来たじゃねえか」
「あ、あぁ...あの子は確かに予想外だったわ....だって、今まで一度も女の子に会ったことが無いなんて主人公属性高いって思っちゃうじゃん!!」
仕方ないじゃないか! 少女は半蔵に向かってそう訴える。半蔵はそんな少女の様子にまた肩をすくめた。
「__って! なに楽しそうに話しやがってんだ! こちとら、テメエらに暴力を振るわれたんだぞ!?」
悔しさに奥歯をかみしめながら、俺は立ち上がった。
「聞いてりゃなんだ...人をホームレスだの、性犯罪者予備軍だのとバカにしやがって.....!」
「ん、何か間違ってるか?」
「大間違いだっ!!!!」
必死な俺を半蔵は鼻で笑った。そして、何処が? と見下すような目つきで訪ねてくる。このガキが....舐めてると潰すぞコンチクショウ。
「そもそも、家がないのがそんなに悪いことなのかよッ!!!!!」
「悪いだろ」「それは悪いわね」
「.......あぁ、そう」
そうだね。家が無いのは悪いことだね。いいこと一つもないもん。
「し、しかしだな...ホームレスだからって人権が無いわけじゃないんだぞ!」
日本国憲法によれば、国民は法の下に平等。誰一人として虐げられることはなく、皆等しく権利を持つとされているはずだ。
「そうね」
「そうだな」
二人はこの時初めて俺の意見に賛同した。さすが我らの憲法。日本国万歳!
「でも、あなたにはソレ当てはまらないけど?」
「はぁ? なにを言っておりますかね。俺はどっからどうみても日本人。もちろん戸籍だってあるぞ??」
「そう。じゃあ、あなたの名前は?」
「..........」
何も言えなかった。俺は自分の名前を知らない。というか、覚えていないのだった。
「私、わけあって同年代の特別な人間を探していたの」
「特別な人間....?」
首を傾げる俺に、少女は丁寧に説明し始めた。
どうにも、少女と半蔵は同じ学校、クラスに通う同級生らしい。そして、そのクラスは現在ある問題を抱えていた。
それはリーダーの不在。リーダーとなるべきはずの男が姿を消してしまったせいで、そのクラスのまとまりはなくなり、実質崩壊状態。それを解決すべく、リーダー候補を探しているのだとか。
「そんな中で見つけたのがアナタ。記憶喪失、戸籍不明、そしてホームレス。ルックスも良いし、プライドもある。もうこれでもかってぐらいの特別さね!」
「喜んでいいのか、悔しがるべきなのか....少なくとも君みたいな可愛い子にイケメンだって言われるのは悪い気はしないけども.....」
「なななっ!?」
俺の言葉になぜか嬉しそうに飛び上がる少女。俺は首を傾げたが、半蔵は驚いたように目を見開いていた。
「い、今のきいた!? 半蔵サン聞いてた!?」
「あ、ああ...しっかり聞いていた....すごいな」
「んん????」
無自覚のうちに相手を褒める。中でも異性に対して外見を素直に褒めることが出来るのは、主人公に必須のスキルである。少女と半蔵は自分たちが見つけてしまった逸材にただただ驚いた。
「これは....大当たりだね」
少女は額に流れる汗を拭うと、ニヤリと笑う。俺はその底知れぬ野心を秘めたその笑みにびくりと身を震わせた。
「さっ、行こうか」
説明を受けてもなお、状況がイマイチ呑み込めない。そんな中、少女は俺に手を差し伸べてくる。行くってどこへ? 俺がそう尋ねる前に答えはかえってきた。
「君は今日かライトノベル高等学校、2年D組のリーダーなんだからさっ!」
「......はい??」
結局どういうことなのか、分からないままに俺は連行された。
「あ、そうそう。これからは学校の寮で生活することになるから、よろしくね?」
「....りょ、了解」
道中、思い出したかのようにそう言う少女。俺は何となくコクリと頷いた。
(よく分かんないけど...まあ、ホームレスじゃなくなるみたいだし、別にいっか!)
この時の甘い考えが後々にどんな影響を与えてくるのかは分からない。が、人生とは選択しなければ、何も始まらないのである。
第一話、お読みいただきありがとうございました!
このホームレスくんはいったい何者なのか。この先どうなるのか。半蔵は本当に伊賀モノなのか。ぜひ、見届けていただけたらと思います...!