スクールデイズはラノベ式で! 作:もちもちスイカ
「はぁ、気持ちよかったぁ....」
久方ぶりの入浴を終えた俺は、満足げな表情を浮かべながらソファに腰掛けた。
「ホームレスくん、ジャージのサイズはどう?」
「ん? ああ、問題ないよ。ちょっと小さいけど許容範囲だ」
ジャージの袖をぷらぷらと揺らし、俺は
俺の元に訪れた少女の名前は
公園から半蔵と叢雨の二人に連れられ、たどり着いたのは3階建てほどの小さめのマンションであった。
「叢雨....さんは、金持ちなんだろ? にしては、随分と庶民的な家に住んでるんだな。それともここは半蔵の家なのか?」
周囲を見回すも、確かに年相応の女子らしさは見当たらなかった。白色の味気ない壁紙、必要最低限の安物の家電が並べられた部屋。強いていうならば、壁に掛けられた女子生徒用の制服ぐらいだ。
叢雨の着ている服は間違いなく高級品だ。記憶はないが、何となくそれは分かる。
「はっ、もしや....半蔵って女の子だったのか!?」
「違う。俺は男だ」
「.....あっそう」
速攻で返答がきた。となると、この部屋は紛れもなく叢雨のものになるのだが。
「つーことは、ここは叢雨さんの別荘できな感じなのか?」
「うーん....別荘っていっちゃ別荘だし、自分の家って言っても間違いはないんだけど.....」
困ったように顎に手を当てる叢雨に俺も首を傾げる。そんな中、半蔵が割り込むような形で口を開いた。
「ここはライトノベル高等学校の生徒専用の寮だ。そして、この部屋の所有者は叢雨だ」
「なるほど...____って、そう言えば一番聞かなくちゃいけないことがあったのを忘れてたよ.....」
そうだ、そもそも俺が抜擢されたライトノベル高等学校とは何なのだろうか。
記憶がない俺でもライトノベルという単語は知っている。俺の認識では、文学作品の中でも比較的読みやすい、若年層向けのものを指していたはずだが。
「ライトノベル高等学校ってのは、ラノベ作家育成に力を入れた高校っていう認識でいいのか?」
「そんな単純な所じゃないんだなぁ...ノベ校は」
「ノベ校て....」
変な略名だな、と肩をすくめる。叢雨は話を続けた。
「もしも仮に、ホームレスくんが何でもできる力を持ってたとしたら...何に使う?」
「ん、それってノベ校に関係あるのか?」
コクリと頷く叢雨。納得できないが、ここは彼女の言うことに従う以外に他はないだろう。
「そうだな....俺だったら、デカい家に住んで毎日したい事をして過ごすかな」
満たされた環境で、何に縛られるでもなくやりたい事を楽しむ。それ以外に叶えたい夢なんてあるだろうか。心の底からの願望である。
しかし、叢雨嬢のご希望には添えなかったようだ。
「え〜、なんか普通すぎて主人公感ないんだけど....」
「主人公でなくて悪かったな!普通で悪かったなぁ!!」
「あはははっ! その反応いいね! 主人公ポイント高いよー?」
ピシッとこちらを指差す叢雨に顔を歪める俺。主人公ポイントってなんだし。
「で、話は本題に入るんだけど。この世には実際に何でもできる力を持った人間がいるの。彼女の名前は
「天上院有栖....どこかで聞いたような気がするな」
聞き覚えはあるのだが、それが果たしてどこで聞いたのかは分からない。デジャブを感じるときのような、ふと何か忘れていたことを思い出すような感覚に襲われる。
「そりゃあ、ホームレスくんでも天上院家ぐらいは聞いてても不思議じゃないよ。なんせ、連中は世界一...いや、宇宙一の大金持ちなんだから」
そう言って、叢雨は俺にスマホの画面をみせてきた。そこには『天上院有栖、首相と会食』という大きな見出しの記事。
そして、綺麗なドレスに身を包んだ可愛らしい銀髪の少女の写真があった。
「うちの国のトップと会食か...確かに聞き覚えがあって当然って感じだな」
で、その天上院有栖がどうノベ校に絡んでくるんだ? 俺は話の方向を戻した。
「絡むもなにも、ノベ校の設立者は天上院有栖なの。何でもできる権力者は、その力を使って自分の思うがままになる教育施設を作ったってわけ」
「へぇー、自分の思いのままに動く学校かぁ....って、なんじゃそりゃあ!?」
いくらなんでもそんな馬鹿げたことが出来るのだろうか。教育施設なんて、ただでさえ色々な制約に縛られていそうなのに。
「な、なぁ...ノベ校が名前からして普通の学校ではないことは分かるんだが.....天上院有栖の思いのままにできる学校ってどんな感じなんだ?」
ライトノベル高等学校、なんていう理解に苦しむ名前を思い浮かべながら、俺は叢雨におそるおそる尋ねてみる。少女はまるで自分の事を話すかのように自慢げに口を開いた。
「そーねぇ、簡単に言えば、ライトノベルを再現するための教育施設ね。ほら、よくある『この学校では生徒たちはランクによって分けられる』みたいな?」
「ちょっと待ってくれ、全然意味が分からないんだが.....」
生徒たちをランクで分ける。高等学校って受験を挟む時点で比較的同じ学力を持った生徒が集まるんじゃないのか? どうしてそんなことをする必要があるのだろう。
(....そう言えば、俺ってラノベ読んだことないんだった)
話の流れから推測するに、ラノベでは生徒たちにランクがつけられるのはお決まりなのだろう。ここで覚えておくべきなのはノベ校が『ラノベを再現するための教育施設である』ということだ。
「なるほどな。その他に特徴とかはないのか? 見ての通りラノベなんて読む機会が無くてな。どうにも具体的な説明がないとイメージが湧いてこないんだ」
「あぁ、そうね。確かに、ホームレスくんはホームレスだったんだもんねぇ...」
部屋の隅にまとめられたボロボロの服と汚れた段ボールに目を向けて、叢雨は忘れてましたとそう呟いた。....煽りかな?
「例えば、この学校は強制的に寮生活を強いられるんだけど....寮に関してもランクによって利用できる場所が違うね。高いところでは高級マンション並み。低いところだと、築100年みたいな」
「何じゃその格差。多分、後者の方が貴重だと思うんだが....」
「その他にも、修学旅行の内容にもランクによる差があるでしょ。無人島サバイバルの支給品にも差があるし...とにかく、毎日の食事から年一の行事まで全部がランクによって左右される感じね!」
「...とんでもない学校だな」
ランクが低い生徒はさぞ悲しい思いをしているだろう。同じ学校に通い、同じ学費を払っているのにも関わらず生活の質に差が出るのは不満が生まれるに決まっている。
他の学校なんかとは全く異なった校風のようだが、きっと人気はないのだろう。その学校を今まで知らなかった俺でもそのくらいは分かる。
「あ、ちなみに学費はタダね? それに卒業できるとその後の進路が自由自在だから生徒の数はマンモス高並みだから」
「....叢雨さんってば、もしかして凄い人なのか?」
叢雨の言葉はまるで俺の考えを読み取ったかのようなもので。驚きに瞬きすら忘れる俺に少女は大きなピースサインで答えた。
「ふっ、うちの姫は天才だからな。ホームレス一人の心ぐらい簡単に見透かすさ」
「.......」
鼻を鳴らし、自慢げにそう言う半蔵は実に不快だった。てか、ホームレスいじりくどいわ。
「よし、大まかな事は理解した。つまりは、ノベ校ではランクが大事ってわけだな。 俺がここに連れてこられたのはそのランクに関係するってことか」
「まぁ、そんな感じかな。ホームレスくんには前にも言ったけど、うちのクラスのリーダーになってもらうの。リーダーが不在だとランクも上げようがないってわけ」
戸籍を持たない人間をいきなり学校に入学させる。それも、学校の職員ではなくいち生徒が行う。そんなことが普通出来るはずがない....なんていう話はこの学校には当てはまらないのだろう。
「やっぱり事の全貌は分からないが、俺に務まる役目があるなら是非ともやってみよう。だって住処もご飯も貰えるんだろ?」
「もちろん、それは安心してもらっていいよ。それじゃあ、改めてよろしくね! ホームレ....そうだ、いい加減に君の名前を決めなくっちゃね?」
ポンと手を叩く叢雨。俺も確かになと頷く。
「しっかし、名前か。もう何でもいいぞ? 俺は思い出せそうにないしな」
記憶もない今これといって名前にこだわりはなかった。どうせなら、叢雨たちに決めてもらった方が彼女たちも呼びやすいはずだ。
「うーん、そうだなぁ....半蔵くんはどう思う?」
少しばかり首を捻った叢雨は壁にもたれかかっている半蔵に尋ねてみる。
「名前か。俺はそのまま、ホームレス
「そんなの主人公間ゼロじゃん! いや...逆にそっち方面で攻めるのもアリかも...?」
「...........」
本当にこいつらに名前を決めさせてしまっても良いのだろうか。心の底から少しずつ後悔の念が湧いてきた。
「____うん! これでいいんじゃないかな!」
「これで決定だな。物語の主人公感がひしひしと伝わってくるいい名前だ」
元ホームレスの俺の名前を考え始めてから数十分が経過した頃、ようやく半蔵と叢雨は互いの手を握り合った。
「よーし決めた! ホームレスくん、今日から君は
「....マジでか」
こうして、俺の名前は物語ヒロというラノベ高校に相応しい奇天烈なものに決定するのであった。
物語の英雄、故に物語ヒロ。安直の極みだ....