学園を卒業し、進学した俺を音楽コンクールにみなせが招待してくる。何やらサプライズがあると言うが…?
時系列的にはルート終了後になります。
物凄いネタバレは避けたつもりではありますが、ルート終了後に読まれることをお勧めします。
「「……セーンパーイっ!」」
「ごふっ」
小柄な身体に似合わないヘッドダイブが、俺の腹に直撃する。
「すっごい寂しかったんですよ~、あたし」
突進ついでに俺を押し倒し、馬乗り状態でみなせは俺を見下ろす。
「わかったわかった。わかったからそこをどいてくれ、エビ」
「ムカッ エビ言うなー! そんな事言うセンパイからは一生どいてやりません! もうここに定住します!」
「えぇ……」
「……」
「……」
少しの間、二人の間に沈黙が生まれ、……
「「っぷははは」」
「元気だったか? みなせ」
「はい! センパイも、元気そうで何よりです」
少し見つめ合うと、俺たちはそのまま唇を重ねた。
■
あれから二年の歳月が経ち、俺は無事に円山学園を卒業、某音楽短大に進学した。
家から通える距離ではなかったために、これを機にと、地元を離れて一人暮らしを始めたはいいものの、朝が弱いのは相変わらずで毎朝起こしてくれる隣の幼馴染も、ダイブで起こしてくれる後輩の彼女もいない日々は、毎日が大変だ。
それに伴い、引っ越すと聞いてはじめはボロボロに泣いていたみなせだったが、最終的には納得してくれて、遠距離だが交際も続いている。合う頻度は極端に減ったものの、毎晩その日にあった出来事などを携帯越しにではあるが、話していて俺も元気を貰っている。
みなせも無事進級を重ね、俺が任命したとは言え、彼女が部長を担っているということに、大丈夫かな、という不安感を抱きつつも、日々の電話でうまく言ってる風なことを耳にしては安心している。
そして今日、日曜日の五月七日に母校、円山学園で音楽コンクールが開催されるから是非とも来てくれ、とみなせから連絡を貰い、元々ゴールデンウィークにはみなせに会うために帰省するつもりではいたため、了承して今に至る、というわけだ。
「そうそうセンパイ! 実は今日サプライズがあるんですよ!」
みなせの提案で音楽室に向かう途中、なんの前フリもなく、みなせはそんなことを口にする。
「サプライズ? なんだ、プレゼントでもくれるのか?」
「ふふふ、それは後のおたのしみで~す!」
「そうかそうか、なら精々俺を驚かしてはみせろよ?」
二人して不敵な笑みを浮かべては、すれ違う生徒たちに変な目で見られたのは、言うまでもない。
音楽室に入ると、多数の生徒が音階やマウスピースでの基礎練習に励む姿が目に入る。
「俺が卒業したときに比べて増えたな、部員」
「そりゃそうですよ! なんたってあたしが部長なんですから!」
「いや、それだけはねえな」
「もう……センパイはあたしのこと、どう見てるんですか?」
「ん~、形ばかりの部長」
「……あたしの部長は形だけじゃないです」
「だったら、担ぎ上げられた部長」
「……それ、形ばかりの部長となんら変わってない気がしますぅ…」
部員たちの基礎練習の音に、俺たちの小さな笑い声が混じった。
■
しばらくすると、開会式開始十分前のアナウンスが校内に響き渡り、みなせとは一旦別れ、俺は体育館へと向かうことにした。
「……遅かったか……」
俺が着いた頃には、席はほぼ満席で、ぱっと見回した限りでは空席の存在が見つからなかった。
「ん~、どうすっかな……」
「お~い、『元』部長」
右往左往していると、聞き覚えのある声が頭上から俺の耳に入る。声のする方向を見上げると、これまたよ~く見覚えのある人が、俺に手招きしていた。
「……お久しぶりです、……和音先生」
和音先生に連れられ、俺は体育館二階へと上った。
「よう、久しぶりだな『元』部長、ナンパ相手でも捜してるのか?」
相変わらずの悪魔のような笑みを浮かべ、和音先生が話しかけてくる。
「人を遊び人みたいに言わないで下さいよ…。それに俺にはみなせがいるのでそんなことは断じてしません」
「ほう、男前になったじゃないか」
「そりゃ、どうも……」
そんな冗談(?)も交えながら、俺は卒業後の生活談議に花を咲かせる。
途中、演奏する曲について尋ねると、今回はみなせたっての曲の希望があったらしくミーティングで曲は即決したらしい。その流れで、曲のタイトルを訊くと、
「ふふっ、聞いたら分かるさ」
と、和音先生はお茶を濁すように答えた。
■
「それではこれより、円山ブラスバンド部による演奏を行います。ブラスバンド部の皆さん、お願いします」
アナウンスと同時に舞台の幕が上がり、五十人ほどの楽器を構えた生徒たちと、指揮者の隣に立つみなせの姿が現れる。
みなせに目を向けると、それに気づいた彼女が俺にウィンクをして、トランペットを構えた。
みなせのソロ演奏から、その曲は始まった。
優しくて、やんちゃで、でも、どこか寂しげな、彼女の想いの篭った音色が体育館中に響き渡る。
「っ!?」
それを聞いて、俺はすぐにその曲が、俺が作曲してみなせに送ったものだと気が付いた。
俺が短大入試で出された、作曲の試験の時につくった曲。みなせを想いつくった、俺の処女作曲だった。
三十秒ほどのソロ演奏を吹き終えると、深々と一礼し、俺に満面の笑みを送って、自分の位置に戻り演奏に参加していった。
少しして、一音一音に彼女の思いの篭った曲が終わる。
「……曲は、香住純作曲〝『恋人』吹奏楽のために〟でした」
指揮者の合図で奏者たちが立ち上がり、深々と一礼して、幕が下りると、会場内は大きな拍手に包まれた。
■
「……セーンパーイ!」
「げふっ」
音楽コンクールが無事に終わり、校門でみなせを待っていた俺に、待ち人が勢いよく抱きついてくる。
「センパイセンパイ! どうでした? あたしの演奏!」
「ああ、とってもいい演奏だったよ、みなせ」
「……それはそうと、相変わらず頬、膨らんでたぞ」
「え? 膨らんじゃってましたか? やっぱり癖なんですかねえ〜。 ……なら、またあたしに指導してくださいよ!」
「可愛い後輩の頼みとあっちゃ、断れないなあ」
「えー センパイにとってあたしってやっぱりその程度の女なんですか~」
物寂しそうな目で、みなせが俺を見つめてくる。
「……わかったわかった、俺の降参だ。みなせは俺の可愛い彼女ですよ……」
「えへへ」
「ふはは」
はにかむみなせにつられ、俺も笑ってしまう。
「あたし、センパイに出会えて、好きになって、本当に良かったです!」
「ああ、俺もだ。みなせに会えて、好きになって、本当に良かった」
「セーンパーイ……」
「……っと」
しばらく会えなかった分を取り返すかのように、力一杯抱きついてくるみなせを、俺はぎゅっと強く抱きしめ返した。
拙い日本語でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。
推敲を重ねる度にみなせがめぐるになってくる現象に苛まれていましたが、悩み続けても仕方がないと思って投稿しました。
それはそうと、自分は重い女の子が好きなようで『サノバウィッチ』でも憧子さんが大好きです。
まだみなせルートしか出来てないので、はやく終わらせたいですね。
今目をつけているのは御影須美ちゃんです。
共通ルートで胸苦しくなりながら読んでました。
誤字脱字誤植の指摘、ご意見ご感想等お待ちしております。
次は『サノバウィッチ』の戸隠憧子さんで書くつもりです。
いつあげられるとは言えませんが、なるべく早くあげられるように精進していきます。
2019年9月5日 音無 真冬