荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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混沌の魔法使い様の「生きたければ飯を食え」より、コック・カワサキさんの出演承諾を頂きました。
繰り返しで恐縮ですが、深くお礼申し上げます。



死の支配者と夕餉の会

 ガゼフ達王国戦士団が去ると、村に戻った一同は偽装していたグリーンシークレットハウスへ一部が移動した。トールとぷにっと萌えは村の防御計画の草案を作ると言って、襲撃の後始末をしている村の中へ向かった。

 

「ニグン、貴様は部下と共に村の復興に努めよ。作業要員として我が配下の死の騎士をつける。村人達からの反感もあろうが、己が罪、そして償いとして受け止めるのだ」

「「「至高神の慈悲に感謝し、とく務めさせて頂きます!」」」

 

 村長と共に村人たちへニグン達を紹介した際、確かに反感の声もあった。だがこのカルネ村では死人もなく、事実上の実行犯である偽装兵達はガゼフに連行された後だ。村を救ったアインズさん達に「償いの場を与えてやれ」と言われれば、渋々といった形だが受け入れた。

 

 死の騎士は、効果時間が経過しても存在したままだ。何かを媒介に召喚・作成系の使役魔法を使う事で、永続的な効果になると説明を受けている。

 

「俺の場合、悪魔用の触媒、媒介とか高価な宝石とかだから死体でOKとか羨ましい」

「貰ってる人工ダイヤモンドだと中級悪魔が精々なんだっけ」

「情報収集要員は何とかなってるけど、そのレベルで死の騎士みたいに使い勝手がいい有能な壁役いないんだよ」

「…死の騎士が照れてるとか誰得」

 

 なお、何故アインズさん達が「至高神」と言われてるかといえば、アルベドが事あるごとに「至高の御方」と呼ぶせいである。

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アルベドはアインズさんの脇に控えながら、設定も含め与えられた知能をフル回転させ、モモンガとギルメン達の事、ナザリックの事を考えていた。

 

(連中…、いえ至高の御方達は、私達を見捨てた訳ではなかった…)

 

 おくびにも出さないが、アルベドがこの世界に現れて思考を始めて最初、心の中に渦巻いたのはモモンガへの愛情と共に、見捨てたと思っていたギルメン達への憎悪だった。

 

 ある意味、アルベドの思いはアインズさんと共通する。リアルに集中する事でユグドラシルから遠ざかって行った仲間たちへの、様々な思い。その中には当然、恨みだってある。

 

 だが談笑する、することができた会話の内容と、先程聞き及んだリアルの状況、そして先んじてギルメン達がこの世界に現れた要因は、モモンガとアルベド、双方へ驚きを齎していた。

 

 

 リアルでの死。それがきっかけとなって、この世界に現れたと。

 

 

 病死、他殺、事故。死因は様々だが、状況は恥ずかしいのかトラウマなのか、幾人かを除いてあまり詳しくは聞くことができなかった。共通しているのは、ユグドラシルが終わったとしても、リアルの中で必ずモモンガさんを中心に集まろうとしていた事だ。

 

 ギルメン以外の変わり種としては、やまいこの妹のアケミと、たっち・みーの奥さんと娘さんもこの世界に居るのだが、詳しい話は今は割愛する。

 

「ずっと、忘れないで居てくれたんですね。それだけでも救われた気持ちです」

 

 そうだ。最後に会いに来た創造主は、玉座の間であのような物言いをしていたがモモンガへの感謝と後悔の念があった。会わなかったのは後悔があったからだ。そうでなければ、去り際に「我が娘よ、ありがとう」とは言わない。

 

 他のメンバーも同じようなものだ。聞き及ぶリアルの過酷な状況の中、生きる時間とそのためのリソースを費やし、ナザリックを作り上げていった。毒の無い空気を吸うためにすらリソースの消費が必要な世界。生き抜く為に、リアルでの生活圏を守るために、ナザリックを去らざるを得なかった。

 

 それに比べて、事情も知らず、リアルへ飛び出し手助けする事もできなかった我が身のなんと不甲斐ない事か。

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「ヘロヘロさん主体で、個人VR用にナザリックのデータのサルベージと再構築をして、チャットソフトにする算段とかもしてたんですよ」

 

 ユグドラシル終了直後に起きた、一部ユーザーの死亡事故とモモンガに連絡が取れなかった事、警察の捜査が終わってデータ買取申請を受けてナザリックを確認したらそこだけデータの欠損が発生していた事、ブラック企業で限界だったヘロヘロが入院した事が重なり、計画は頓挫してしまったらしいが。

 

「よもや、モモンガさんとナザリック丸ごと、異世界になんてね」

 

 ギルメン達との談笑の最中、アルベドはモモンガの脇に控える事を許されている。最初は場を辞そうとした。

 

「皆様と積もる話もあるかと存じます。私は先立って、ナザリックの守護者達へ知らせに向かおうかと」

 

 知らせるだけなら<伝言>を使うか、配置した配下に命じれば事足りる。だが多数の至高の御方々が帰還されたとなれば混乱は必死。守護者統括として、状況をまとめながら伝えねばならない。

 

 ギルメン達との久々の会話の中にアルベドを伴うか悩んだアインズさんだったが、タブラとぶくぶく茶釜、やまいこが引き止めた。

 

「私がついででこっそり知らせて来ますよ」

 

 お願いします、ぷにっと萌えさんと死の支配者が言う。

 

「いい機会だ。私の…いや、俺の事を少しずつ知って欲しい。いいかな、アルベド?」

 

 魔王ロールからほわほわ系の優しい声になるアインズさんことモモンガ。アルベドの乙女回路がきゅんきゅんし始めている。さっきの思考なんてぽーいである。

 

「し、至高の御方の命とあらば…」

「今はそれは無し。他の守護者達とは差をつけてしまうようで悪いけど、タブラさん公認でこれからも側に居てもらうんだ。俺と対等に、本当の自分を…敬われるようなほど俺は偉くない事、跪かれるほどの男じゃないって事を知っt」

 

 ちょっと怒った様子でペロロンチーノが割って入る。

 

「うぉい、モモンガさん、確かに跪かれるとかは控えて貰うにせよ、俺らにとっては尊敬されるギルド長だって事は理解してくんないかな?」

「あはは、気恥ずかしいですよ。でもありがとうございますペロロンチーノさん」

「我らが縁は現実の前に分かたれた。

 だが、死を乗り越えた先に、確かな絆で我々は再会した。

 ああもう、私はこの奇跡をなんと表現したらいいかわからないよ」

「タブラさんが匙を投げたぞ!? ま、たっちに再挑戦する機会ができたし、奇跡っちゃ奇跡だよな」

「トールさん曰く、空間に解析できない痕跡がナザリック出現前からあって、そこから私達が出てきたんだっけ」

「ギルド長のお陰だな。ナザリックが標かアンカーとなって、我々は再会できたのだろうて」

 

 そんな感じで、愛情を捧げるモモンガの側に控え、たまにぶくぶく茶釜達の所に手招きされてモモンガへの思いを聞き出されたりのろけ返してみたりと、アルベドの心の中に渦巻く闇は霧散していった。

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 メンバーの談笑の最中、突然、扉が音を立てて開いた。不壊オブジェクトでなければ壊れていたかもしれない勢いである。

 

「ようお前ら! しゃべるのもいいが、飯の準備ができたぞ出てこい!」

 

 満面の笑顔で現れたのは、ワイルドでガタイが良いのにコック帽とエプロン姿がとても似合う男、ナザリックの秘密兵器、厨房の主(古くからあるネットスラングと被るのでこれは嫌がる)、食材採取無茶振り王、怒らせてはいけない男など、ナザリック内でも数々の異名を持つ異形種クックマンのコック、カワサキだった。

 

「「カワサキ(義兄)さん!」」

「誰が義兄さんだ!?」

 

 なぜ義兄とやまいこに言われてるかというと、エ・ランテルで開いた食堂の看板娘に収まったやまいこの妹、アケミにモーションをかけられているからだ。

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 二年ほど前、トールの監視網から外れた位置に出現したカワサキとアケミは、現地人であるクレマンティーヌに出会い、カルネ村に現れた。

 

「カワサキさん! あれ? 妙に疲れてますね。あちらの二人は元気なのに」

「わかるか? あいつら、なんかわけわからん理由で張り合うんだよ」

 

 クレマンティーヌはカワサキ達がプレイヤーである事に気付いて早々に自分の出自を明かし、その情報を元にウルベルト達が法国の内情を詳らかにしている。同じく看板娘となったため、仕事上もプライベートもアケミとは仲が良いのだが、カワサキとの恋の鞘当てについては常に火花を散らす(物理)間柄である。

 閑話休題。

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「積もる話もあるが、後にしろ。モモンガさん…いや、今はアインズさんだっけ。久しぶり」

「ごめんなさい、NPCやこの現地の人達には言われてもいいんですが、カワサキさん達にまでアインズって言われると、沈静化しながら凹み続けます…」

「悪い。身内ではこれ迄通りモモンガさん、対外的にはアインズさんで」

 

 そう言って、クックマン特有のスキルをモモンガに施す。設定上食事をしないモンスターにかけて、デバフ効果のある食事を強制的に摂取させる為に使う、人化を他者に施すスキルだ。

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 モモンガさんは身体に取り戻される感覚に戸惑う。今一番の欲求は…

 

「ぐぐー」

 

 お腹が鳴った。目の前のカワサキが、何やら美味しそうな料理の匂いをこれでもかと纏ってるのもいけない。カワサキはニヤリと笑う。

 

「さあ食事のしやすい服に着替えたら飯だ飯! ナザリックからセバス達も応援に来てくれた、簡単には食いきれないほどあるぞ!」

 

 モモンガ球は身体に収まってしまったのか今は見えないが、胸元からギャランドゥの辺りまで、青白い肌が丸見えである。

 

 カワサキはふむと考える素振りをすると、女性陣の意見を参考に、モモンガの外見を調整する。大幅に変える事はできないが、無精髭を消したり、不健康そうな色のそれをマシなものに変える程度は可能だ。

 

「うーむ、優しげなモモちゃんだと、その装備はミスマッチかな」

「一張羅ですから、今はこれ以外無いんですけど…」

「トールさんから貰ってる、普通の洋服で今はいいかな?」

 

 虚空からいくつかの服をチョイスし始めるたっち・みー。比較的落ち着いたデザインが多いのは、流石に家族持ちだからだろう。

 

「ああ、バリスティックウィーブって奴でLV80相当の前衛防御力ある服か」

「最終強化で遺産級ユグドラシル装備とどっこいの普通の服とか、それが必要なウェイストランドまじ魔境」

 

 実際には、その上に装備を重ね着して防御力を増すが余談である。

 

「そういえばモモンガさん、俺も最初、人化の腕輪装備して気付いたんですけど…」

「なんです?」

「今、ノーパンですよね?」

 

 周囲に沈黙が降りる。ノーパンとは、ノー、パンツ。履いてない。モモンガさんはいてない。

 

「誰得だよ!」

 

 思わずツッコミを入れるモモンガだったが、横で聞いていたアルベドが硬直の後、鼻血を吹いた。

 

「モ、モモンガ様がノーパン、ノーパン…!」

「アルベドが鼻血吹いて倒れたぞ!」

「衛生兵! 衛生兵!」

「回復担当少ないもんなうち!?」

 

 慌てて駆けつける、人化したペストーニャ・S・ワンコであった。

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 見渡せばギルメン達や守護者達の笑顔、笑顔。自分もそれを見て、笑顔になった。

 

「ああ…」

 

 鼻孔を擽る、今まで嗅いだことの無い香り。リアルでは高級品であった自然の食材をこれでもかと使って作られた、沢山の料理が目の前にある。

 

 料理内容は向うで用意されている村人用と違いは無い。ただ交代で食べに来る予定の守護者勢の為に、少し離れた位置にテーブルと料理が並べられている。

 まだ人間を見下す考えの多い、まだ意思を持って間もないNPC達への配慮だ。

 

「手間をかけない料理ばかりで悪いが、立食形式で沢山用意した。

 好きなものを好きなだけ皿に取って食え!

 皿に盛ったら残すな! 以上! あとはモモンガさん、頼んだ!」

 

 用意された台の上に促されるモモンガ。復帰したアルベドから、飲み物が入ったコップを手渡される。見渡して見れば、戦闘には加わらなかった残りのギルメン達と、たっち・みーの奥さんと娘、やまいこの妹であるアケミが居て、手を振ったり軽く会釈をした。

 

 少し向うの村人用スペースでは、同じく台の上に立っている村長が、じっとモモンガの方を見ていた。モモンガ達の開始と共に、食事を開始する積りなのだろう。

 

 新たに来たメンバーを合わせても、全員ではない。それは残念な事だ。だが、殆どの仲間たちと再会できた喜びを押し留め、いきなり挨拶とかカワサキさんも相変わらず無茶振りだよなーとか思いつつも口を開いた。

 

「んんっ、私も腹ペコなのでね、手短に言おう。

 再会と、我らアインズ・ウール・ゴウンの絆を祝って、乾杯!」

「「「かんぱーい!!」」」

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 感涙に咽ぶ者や、再会に涙しながら抱き着く者、勢いよくツッコミすぎてギルメンを押し倒す者など、悲喜こもごものナザリック勢。

 

 モモンガを除くギルメン勢は食べ慣れているが、初のカワサキの料理を目の前にして、モモンガは感動していた。天然食材によるカワサキの料理である。リアルではアーコロジー内のそのまた上層階級でしか食べられない代物。

 

「頂きます」

 

 胃の中に何も入ってない関係上、いきなり重たいものは避けた方が良いかもしれないと、アルベドが最初に取り分けたのは味噌汁だ。隣の鍋に入っていた豚汁もスタンバイ中である。一口飲んだ。

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 言葉にならないとはこの事か。

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 リアルでは完全栄養食の流動ペーストかブロック食ばかりで舌が退化気味だったが、それでも舌を通り喉を行った味噌汁は、暖かさと香りをこれでもかと振りまいて、胃に収まった。

 

 そっと差し出されたのは、たまに仕事の接待の最後でも出てきた、おにぎりである。

 

 だがこれはリアルでの代替食料による米もどきではない。正真正銘の自然食品の米だ。野菜・食料プラント産という点については目をつぶっておく。

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 米に関しては元日本人であるトールが、生育プラントで実験を繰り返して3種類程を完成させて栽培している。元がアメリカのゲームであるFalloutでは、育成できるのは一部の麦っぽい食材アイテムだけだった。

 

 ご多分に漏れず、トールの手持ちの育成プラントが育成できるのは麦か麦っぽいものだけ。米の種籾なぞ、ウェイストランドには影も形もない。そもそもきれいな水が必須の作物である。放射能汚染が各所にあるウェイストランドでは、無汚染の米の入手なぞ絶望的だった。

 

 米が食いたい男としては諦めきれず、各所のツテを巡って情報収集を行った。キャピタルウェイストランドでは結局発見できず落胆した。

 

 後にNCRの一部で日系アメリカ人というかウェイストランド人が地下バンカーで育てており、好事家が食しているとの情報をキャッチすると、ニューベガスに居た時にMrハウスに要請して種籾と一緒に入手しておいた。

 

「聞けば厄介な植物だな。汚染されていない水と土を大量に必要とするとは」

「モノさえあればプラント内循環で大丈夫なんだよ。モノの影も形も無いのが問題なんだよ」

「なぜそこまでして探そうとしたんだ?」

「日本人のソウルフードだ、言わせんな恥ずかしい」

 

 種籾を積んだNCRからのキャラバンにフィーンド(モハビのレイダーの一派)が略奪を仕掛けたと聞いた時には、連中の拠点を隅から隅まで破壊し尽くしたという。

 泣く泣く再度、種籾を譲ってもらえるよう打診して、二度目の正直とこの世界での米を入手できた時には、トールは嬉しさの余りモハビ中のカサドレスとデスクローを狩りまくったという。

 

 こちらの世界への転移後、苦心の末、育成研究にブループラネット、味のアドバイザーにカワサキを迎えて、都合8年かけて品種改良。遺伝子操作は行わずに完成したそれは、カワサキにも及第点を貰える出来になった。エ・ランテルのカワサキの店にも卸している。

 

「日本人なら米を食え!」

「ごはん美味しいです!」

「日本人ってどこの人だよ!」

 

 尚、完全な育成環境を整えた後、品種改良の要求内容が最も苛烈だったのはカワサキだったりする。トールもトールで、嬉々として餅米、あっさり米、もっちり米と品種改良を続けたのでどっちもどっちであるが。

 閑話休題。

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 震える手でおにぎりを受け取ったモモンガは、少し躊躇ってから一気にがぶりと食いついた。中に入った鮭っぽい魚と一緒に咀嚼する。ご飯、具材、ほんの少しの塩気…、噛む度にご飯が甘みを増す。もっと噛んでいたい、でももっと食べたい、そんな葛藤。だが溢れる唾液と共に飲み込んでしまう。

 

「ああ、美味い…」

 

 喉を通る至上の瞬間。一度食べてしまえば、おにぎりはたちまち胃に収まった。味噌汁を飲み干すと、これがまた合う。そしてもっと色々食べたいと、食欲が湧いてきた。

 

 豚汁が手渡される。

 

 赤い野菜、半透明の野菜、柔らかい何か(こんにゃく)と、固めの植物っぽい何か(牛蒡)、どれも面白い食感で、どれも美味い。大トリにと豚肉を頬張った時には、熱さに悶絶しつつも、口腔内に広がる幸せに頬が緩んだ。

 

「美味かった…。さてアルベド、私への給仕は程々に、共に巡り、料理を食べよう」

「はい、喜んで」

 

 アルベドには明かしたが、まだまだ魔王ロールは他の守護者達の前では維持する事になった。

 尚、モモンガがおにぎりと味噌汁、豚汁を堪能していた横で、アルベドは都度その様子を確認しながら、自分用の牛丼山盛りを平らげていたりする。

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 モモンガ、ギルメン、守護者達の不在の間の防衛体制については、ぷにっと萌えの提案で周辺をトールが派遣したロボット軍団が囲み、中はトールから提供を受けた金塊の山でユグドラシル金貨に変換した分をつぎ込んで、最低限だった防衛トラップのフル稼働と地形エフェクトの稼働に加え、各階層へ雇用に躊躇する金額の強力な傭兵モンスターを多数、配置している。

 

 臨時の防衛統括は、宝物庫に居たパンドラズ・アクター。食事会に参加させられない事を、ナザリック宝物庫へこそっと帰還して訪れたぷにっと萌えは謝罪したが、

 

「私はもっモーンガ様と共にナザリックへ在る幸運に恵まれており、ますっ(くるくるビシッ)。今は他の守護者達が(シュバッ)、心置きなく創造主たる至高の御方様達との再会と食事を楽しむ事が重っ要!(ズバァ!)。

 留守はお任せ下さい(ズパッ)、後ほどモモンガ様の許諾を得て、皆様にご挨拶をさせていただきます!(シャキーン)」

 

 動作とかは大仰過ぎるが、心遣いなど、やはりモモンガさんの息子とも言えるNPCであるとはぷにっと萌えの弁。後で、宝物庫以外へ出向けるよう「多数決で」モモンガに承諾を得られるようにしようと画策するのであった。

 

 指揮については宝物庫からも可能との事で任せ、防衛体制の概要を他のギルメン達に伝えると、

 

「いつの間に」

「えげつないさんまじえげつない」

「金銭リソースの心配ないってチートすぎるわ…」

「いやぁ、プレイヤー無しでの防衛計画、廃案にしてた奴を試してみたかったんですよ、はー楽しかった」

「今だけですからね、守護者達が戻ったらエコノミーモードですよ」

 

 流石に100LVプレイヤーが1000人規模の集団で来れば危ういだろうが、時間が稼げれば直ちに戻れるので大丈夫との判断だ。ギルド武器は、モモンガが所持している。

 

「金塊1スタックって軽めのがせいぜい999個位だと思ってましたが…」

「まだ要るなら拠点の死蔵分から用意するけど?」(手持ちからさらに1スタック65535個どーん)

「金塊1つで100枚分なので暫く大丈夫です! 借りを返しきれないからいいですってば! 更に積むのやめてー!?」

 

 気に入った相手にはどこまでも甘いトールである。

 閑話休題。

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 村人達のスペースで、トールは微笑みながら木のコップに入った葡萄酒を飲む。良い友情で結ばれたあちらの楽しそうな姿に酒が美味い。

 もう会えない可能性が高いウェイストランドの面々を思い出す。寂しくはあるがそもそもトールの存在は異分子だ。標(しるべ)は立てた、後は向うの彼ら次第と、既に別れを告げたと自分を納得させる。

 

「よろしいのですか?」

「ん? 俺は残念ながら、以前からの仲間じゃない。友ではあるがな。

 再会できた彼らが心置きなく過ごす時間を邪魔できんさ」

 

 ナザリック勢は配下も異形種ばかりだ。ウルベルトやたっち・みー達の事情も知るカルネ村の村民達であったが、向うに広がるのは異形種動物園である。来る度にカワサキが人化を施すが、魔法の門を通じて次々と現れている。

 

「トール様トール様、これおいしいですよ!」

「おー、カワサキさんの唐揚げか、どれ一つ…うん、美味い!」

 

 村の子供の一人が、皿に盛ってある唐揚げを分けてきた。お返しに、BBQソースをつけたポテトフライを子供の口に放り込む。お互い笑顔になる。

 

 肉の材料は、トールの拠点にあるブロイラーからだ。工業的に押し込める形式ではなく、ある程度は伸び伸びと育てられる鶏を肉にしたそれは、外はさっくり、中は肉汁じゅわー、身は歯応えもありながら軽く噛みちぎれる。衣は中身と同じタレか、岩塩ベースの塩ダレによるあっさりめの塩味の二種類。どちらも美味い。

 

 最初は葡萄酒じゃなくて、冷やしたエールにすべきだったかなーと少し後悔。トールの根は日本人である。冷えたビールに美味しい唐揚げは、この上ない幸せなのだった。

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 一方、村人達とは離れた位置で、コップを片手に佇むニグンと副官の前に、元法国所属のクレマンティーヌが現れた。

 

「私も向うが良かったけど、仕方ないかー」

「…クレマンティーヌ、潜入していた貴様が何故、ここに居る?」

「やだニグンちゃん達、スマイル・スマイル♪」

「真面目に答えろ。何故、プレイヤー様が降臨された事を報告しなかった?」

「カワサキの料理の虜になっちゃった。もうアレ無しじゃ生きていけない」

 

 しなを作ってけらけら笑う。

 

「再び問う。真面目に答えろ」

「…どうでもよくなっちゃってね。

 私はカワサキに…カワサキ様に救われたの。私は私でいい、疾風走破としての偽りの自分を無理やり被らなくていいって。

 罪を重ねたなら、それだけ償いをするんだよってね」

 

 仕留めた冒険者のプレートを身に纏い、われは強者、われは殺人者と、狂気を湛えたフリを続けた。幾度もの死線と夜を越えて、クレマンティーヌは疾風走破になった。なった筈だった。

 だが、カワサキと出会い、初めて優しい声と美味しい食事を振る舞われた時、クレマンティーヌの中で作り上げていた疾風走破は砕けた。

 

 何故か涙が出て、子供にするようにアケミによって頭を撫でられた時、法国のクレマンティーヌは消えて、一人のクレマンティーヌがそこに居た。

 

「…そうか」

「にひひ、カワサキの料理にハマったのはホントだよ?

 ただまあカワサキやあの方達は優しいけど、逆鱗に触れたら一切の慈悲も容赦は無いよ。多分、従属神様達はもっと容赦が無い。そこんとこ良く考えるんだね」

「ああ、わかった。忠告感謝する」

「ま、私とニグンちゃん達は配下と言うか同僚?になるんだし、ぼちぼち仲良くしてこーね。それじゃ」

 

 他の料理を摘むべく離れるクレマンティーヌ。

 

「…あのような、気安い方だったでしょうか?」

「いや違う。微かな血の匂いを常に纏う女だった筈だ。標的外の冒険者のプレートを奪って纏う、兄と比べてもイカレっぷりが並び立つような」

 

 料理には手を付けず、手持ちの果実酒を煽るニグンと副官。そんな中、もうひとりの部下が料理を各種山盛りにして戻ってきた。

 

「ニグン隊長、副官、どれも美味いです! どう美味いか表現できませんが美味いです! 食べなきゃ損です!」

「お前それでいいのか…」

 

 勧められるままにそれを口にしたニグンと副官だったが、美味さに悶絶したその後は「折角の神の恩寵、村人達の迷惑にならぬ程度に頂かねば!」と謎の使命感を持って、冷えて大皿が下げられる直前のものを中心に食べていたという。

 

 




食事を美味しそうに描くって凄く難しいですね…。

「生きたければ飯を食え」世界との差異は、
・向うで料理勝負の後に裏路地で刺された
・死んで転移してきたら、あけみちゃんと一緒だった
・飯を食ってから考えようと準備してたらクレマンティーヌと遭遇
・飯食わせたら、なんか泣き始めたクレマンティーヌを宥めた
・クレマンティーヌの案内でカルネ村へ
・カルネ村に居たギルメン達と再会した
・後にエランテルで食堂を開業

こんな感じです。転移時期は最後発で二年ほど前になります。

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