荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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死の支配者の散歩と治療中の荒野の災厄

 トールが目覚めて数日後、所変わって場所はエ・ランテル。トールの経過報告も含め、人化しても落ち着いたアインズさんは、エ・ランテルに戻るカワサキやるし☆ふぁーを<転移門>で送るついでに、気晴らしを兼ねてパンドラズ・アクターを伴って街中を散歩している。アルベドも誘ったが、

 

「同格とはいえ、パンドラズ・アクターはモモンガ様の実子。私がモモンガ様を独占するのも吝かではございませんが、ええ吝かではございませんが! …こほん。これまでの働きを労っては如何でしょうか」

 

 という訳である。モモンガさんはアルベドの気遣いに感謝する感じだが、パンドラズ・アクターは「若干マンネリな夜の生活について、トール殿に相談するんだろうな」と表には出さないまでも心の中で遠い目である。

 閑話休題。

 

 エ・ランテルには、るし☆ふぁーとカワサキが常駐するため、前衛ビルドのギルメンが交代で就く予定。るし☆ふぁー所蔵の無数のゴーレムの他、ザ・ファイブズやクレマンティーヌにアケミと、対プレイヤー以外では過剰戦力がカワサキの食堂に詰めているが、プレイヤー級への緊急対処を考えると心許ない為である。

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 冒険者ギルド前に戦士モモンの格好をしたアインズさんと、王子様モードのパンドラズ・アクターが現れる。大人しめながら仕立ての良い旅装束は兎も角として、人化モードとして固有化しているその姿はとても目立つ。

 

 周囲の者達は、珍しく兜を脱いだ戦士モモンと似通った美青年の姿に目が釘付けになっている。特に婦人達は顔を上気させており、視線に気付いたパンドラズ・アクターことアクトの微笑みに卒倒する者が出始める始末。

 

(今更だけど、リアル俺の乙女ゲー美化ベースを連れ歩くとか、何の罰ゲームだよっ!?)

 

 アインズさんは騒ぎを収めるべくギルドの中に入った。

 

「登録をお願いしたい。彼はアクト、私の息子だ。魔法も含め器用にこなすが、主に前衛剣士となる」

 

 モモンに息子が居た。驚愕に周囲が息を呑む。

 優雅な動作で一礼するパンドラズ・アクターことアクト。比較的控え目。気品あふれる所作と微笑みに、冒険者ギルドの受付嬢は顔を真赤にしている。

 

「アインザック様から特例も認めると指示はございますが」

「最初からで構わない。何、すぐに私に追い付くとも」

「父上の名を汚さぬよう、誠心誠意努めます」

 

 あの魔導皇国関係者モモンの息子。その情報はすぐさまエ・ランテル中に駆け巡る事になる。その情報には、超絶美男子である事も付け加えられている。

 

「今の内に全力だ!」「まてずるいぞ!」「俺も行くぞ!」

 

 一部の財布に余裕がある冒険者が、何かに気付いて我先にとル・シファー商会へ全力で向かった。意図に気付いた幾人かも慌てて後を追う。

 

「…くそう、小銭稼ぎしようにも金が無ぇ!」

「あー、絵姿札か」

 

 ル・シファー商会は冒険者ギルドと提携して、本人の許可の下で人気のある冒険者の絵姿カードを売り出している。既にアクトの絵姿は用意済みである。

 ちょっとお高めのシングルカードと、同じ値段で中身が5枚ランダムのパックで売っていて、カードショップも併設する念の入れようである。

 売上は孤児院や施療院、冒険者ギルドの駆け出し教育費になり、一部を絵姿札の本人と商会が受け取る形だ。

 閑話休題

 

(父上、モモンとして見かけていた駆け出し達に声をかけてみたいと思います)

(そうだな。私と同行しては、実力が疑われる。ただ問題は、シモベから追加同行者を考えねばならん事だ)

 

 エ・ランテルは王都よりもギルメン達と縁が深い。こっそり手を加えたり多数のシモベが潜伏して防護を固めていたりするので、緊急時はカルネ村ことカルネ自治区程度の防御能力を持っている。

 ただ冒険者として外部に出るとすると、アクトの低い階級票が足かせだ。囮としての活動も兼ねているが、既に活動してオリハルコン級のナーベラルやルプスレギナを付ける訳にも行かない。

 

「お、居た居た。モモンさん」

「ヘイローさん?」

 

 ヘロヘロことヘイローが珍しくエ・ランテルに来ていた。ナザリックが来て以降、傭兵業や観光等を除いてあまり外部の活動はしていなかった。理由? 理想のメイド達に囲まれている生活があるのに、わざわざ一人で出歩かないだろう。同一理由の二名も首都ナザリックを余り出ない。

 

 後ろを見れば…見慣れない格好のソリュシャン・イプシロンと人化したコキュートスが居る。コキュートスはいつも通りだが、ソリュシャンはいつもの洗練された所作とは異なり、演技であるのかはすっぱで少し荒っぽい感じの動きである。

 

「会議室を借りていいかな?」

「は、はい、空きがございますのでどうぞ」

 

 会議室に入り、ヘロヘロがソリュシャンを前に出す。その間、盗聴対策にいくつかの魔法を行使しておく。

 

「挨拶を」

「はい、ヘイローさん。モモン様、アクト様、斥候職のソーイを名乗っております」

「この姿ではヒョウガ。以後お見知り置きを」

「なる程な。ではアクト、彼女達と組んで活動を」

「はい父上。ヒョウガ殿、ソーイ殿、暫くの間、よろしくお願いします」

「私の言葉遣い等はいかがいたしましょうか?」

「ヘイロー様の初期想定でよろしいのでは? 私めは気に致しませんので」

「それでは…、んじゃま、宜しく頼むな、アクトさんよ」

「ええ、レディ」

 

 外見上は、ボンボンとお付きの武人と、世慣れした女斥候というパーティ。吟遊詩人のネタが追加された瞬間である。女斥候は元お嬢様というオプション設定付き。武人の方は武者修行の護衛役。ボンボンの方は、王子様である。最近広まってきた、大量印刷による娯楽本界隈が賑わうだろう。

 

「ソリュシャン・イプシロン、いやソーイよ。私達との会話も謙り過ぎない範囲にな」

「え、その…」

「そういう任務ですから、不敬と咎めたりしません。構いませんよね、ヒョウガ、アクト?」

「問題ございませぬ」

「はい、我がk…こほん、父上とヘイロー様がご許可頂いたなら何ら問題ございませんとも。私は武者修行に出た世間知らずとして振る舞いますので、それを考慮いただければと」

「か、畏まりました。…では旦那方、坊っちゃんの事は任せてくれ」

「うんうん、その調子で」「うむ、宜しく頼む」

 

 ソリュシャン・イプシロンは中々どうして、荒っぽい冒険者ソーイとしての演技ができている。

 コキュートスは人化しているため流暢に話すことも出来るが、一部の件で暴走(妄想)しがちな事を除けば、泰然と構える護衛役で問題ない。

 パンドラズ・アクターは演技となればなんでもこなすが、アクトとしての活動の際は貴公子、王子様ロールだ。これはギルメン達の過半数による圧力でそのまま続行している。アインズさんと一緒の時は大仰なポーズやドイツ語、オペラ歌手っぽい言葉遣いは抑えさせているが、少し不安になるアインズさんであった。

 

 尚、その危惧は大当たりで、その容姿もさる事ながらまるで役者のような口振りと大仰な仕草をしながらも父モモンの名を汚さない鮮やかさと、後の各所での活躍に混じり、様々な女性の心を惹きつける罪作りな貴公子として有名になる。

 

「輝きの貴公子って何ソレ!?」

「チーム、白き星銀(ほわいとすたーしるばー)!?」

 

 一つフォローするとすれば、父の優しさを受け継いだという設定を守り、老若男女問わず慕われる好人物としても有名になった事を付け加えておく。まあ、モモンガの命に従っただけではあるのだが。

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 モモンガさん達ナザリック勢が外部活動をする傍ら、療養中のトールは治療ポッドの中に浮かびながら、隔離している侵食領域の解析と除去に奮闘していた。科学的処置でもあと三週間程度で身体から切り離せるが、所謂ところの念能力でオーラを併用すれば、もっと早く復帰できる可能性が高い。

 

 ただ、隔離と切除だけでは取り出した侵食領域自体は残ってしまう。聞き及ぶ世界級アイテムの槍とは異なり、直に接触すれば対象を消滅させる無制御の危険物だ。厳重に隔離、封印しても、世に絶対は無いのでそんなリスクの高いものを所持するのは精神衛生上よろしくない。

 

 弱体化しているとはいえ、二度と利用できないよう消滅させるには、トール自身のオーラのかなりの量を引き換えにする必要がある。無論、トールは自己犠牲精神になぞ溢れていない。

 拠点内の全ての動力炉の全開稼働を併せても、決定的にエネルギーが足りず、トール生存の成功確率は10%未満である。そろそろ3桁に突入する数のウルベルト=デミウルゴス型核融合炉が設置されているが、それでも足りないのだ。

 

「…作るか、縮退炉」

 

 縮退炉。SF的にはブラックホール炉とも呼ばれる、理論上は投入物質の質量全てをエネルギーとして用いる事ができる、現次元物理法則上では対消滅炉と並ぶ究極のエネルギー炉の一つである。

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 Fallout3のDLC、 Mothership Zetaの舞台になる宇宙船に搭載されていたエネルギー炉だ。作中では言及されていなかったが、現実化した世界で調査を進めた結果、ブラックホール炉が収まっていた。

 尚、101のアイツと共にエイリアン達に丁寧な交渉(物理)の末に(この世から)ご退去頂いた後の事である。

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 マザーシップのコア部分の殆どを占めるそれは、作成したエイリアンことゼータ星人ですら持て余し気味だった事が解析の結果、判明している。

 マザーシップの縮退炉は圧縮した空間内にある降着円盤の利用が補助で、宇宙空間の希薄な元素を常に取り込んで稼働する。完成済みなのでコピー自体は容易だが、マザーシップの全体が制御機構を兼ねていた。トールの複数拠点にもマザーシップ自体を納めて動力炉として使っているが、余りにも巨大すぎた。

 そのため、トールはこの世界に出現した際から腰を据えて改良、小型化に挑戦したのだが上手く行かず、休止していた研究だった。

 だが、モモンガさんとナザリックが出現して以降、訪れる事ができた世界が増えた。それらの技術に、縮退炉の改良に用いれるものが複数あった。核融合炉作成の際のように、魔法のエキスパート達の補助を受ければより容易に作成できる可能性がある。

 だが現在保有の技術やリソースでは足りないかもしれない。

 

『エインズワース、記載したリストの研究の凍結解除と必要物のピックアップを』

 

 ブラックホール炉、縮退炉関連で必要な技術があれば、記憶の中から登場する該当世界を訪れる事も視野に入れていた。

 復帰後暫くして、意図的に避けていた世界系にトールは跳ぶことに決めた。縮退炉の実用化にはいくつかの候補はあったが、航宙艦ではサイズの問題があったためである。ただ、そんな物を炉心にした機動兵器が出現する世界で、トールは中々、酷い目に遭う事を今は誰も知らない。

 

『あとは…、物理学的エネルギーの、魔力への変換か』

 

 安定して存在する物理法則を無視し、あるいは超えて世界へと干渉する力。ユグドラシル勢がプレイヤーとして意図せず手に入れ、世界の有り様すら壊し侵す可能性を秘めたそれ。

 次元世界ごとに異なる、あるいは存在しない事もある、宇宙開闢や次元発生時の原初や混沌と極めて類似、またはそのものたる力。

 総称して「魔力」あるいは単に「リソース」と呼称される、何にでも成り得る可能性、その燃料。

 トールにとっては、ユグドラシル産アイテムの解析で若干なり取り扱いはでき始めているものの、あくまでトールの持つ科学技術は物理法則に従っている。

 そこに来て、曖昧さを敢えて許容して魔力へ物理学的エネルギーを変換して保管・保存するとなると、トールの持つ技術ではアプローチの方法が無い。

 また不思議パワーカテゴリのオーラだが、トールという存在に紐付いた力は、魔力が万能性を失う代わりに何者にも曲げられない強固な特性を得た近似にすぎない。

 尚、神々との邂逅を経て純粋な念能力ではない高次元の力、ぶっちゃけオーラのようなナニカと化しているのはトールも気付いていない。ユグドラシル勢のそれも似たような物だが。

 閑話休題。

 

『FG○、バスター○、ロスユ○、ケイオス○キサ、エ○カ、ナ○ツマ、リューナ○ト、ワタ○、デモン○イン、アルトネ○コ、うーん…』

 

 魔力、あるいは魔法や魔術と科学技術の融合が為された、あるいは程近い世界を薄れかけた記憶からピックアップするが、一般に技術が広まっていて、個人で取り扱い可能で、世界が即座に滅亡するような大きな事件が無い世界となると全くもって選択肢が少なくなる。

 作品記憶を元にするが、跳んだ先ではその記憶を失って活動する訳で、技術が古代文明産とか秘匿されているとか遺失技術とか、ピンポイントでしか該当技術が無い世界は論外だ。

 まだもっと触れたことのある作品はあった筈なのだが、ファンタジー+SFという設定が多かった生前のさらに10代の記憶ともなれば、作品のイメージとか主人公とかヒロイン等は思い出せるのだが、次元転移装置に使うアンカーとして重要な、作品名が全く思い出せない。喉元まで出てるのに思い出せないとか、そういう点では外見通り見事にオッサンである。

 

『リバイバルとかで、復刻作品とのコラボとかやっていたそうだし、モモンガさん達に聞いてみるかな?』

 

 ユグドラシル組のリアルでは、20世紀後半から21世紀前半の娯楽作品から検閲を逃れたものが未だに流通していたという。その中で、トールの記憶と同じものもあるので、そこから候補を探すというのも選択肢になる。

 

『ペロさんに頼んで、コラボ一覧を見せてもらおう』

 

 長い作品であればユグドラシル内でコラボまでやっていたらしいので、サービス開始当初から遊んでいた組に聞いて、コラボアイテムからリバースエンジニアリングできる可能性もある。

 尚、コラボイベントの情報収集に積極的だったのはペロロンチーノだ。多少は大人しめにアレンジされていたが、ユグドラシル内では通報直前の装備アイテムもあったため、結構積極的に限定アイテムを収集していたらしい。

 コラボアイテム類が完全に魔法的なものでも、作品名さえ思い出せれば転移先候補に使える可能性がある。

 

『そうか…リリカ○なの○シリーズ!』

 

 なんで思い出せなかったんだと心の中で苦笑する。イマジナリが統括するナンバーズなんて、個別意識は無いが元ネタがそれだったというのに。

 

 トールは生前(ゆ○り)王国民だったが、なの破産とかフェイ倒産する程では無かった(友人には居たが)。まあ、コラボアイテムがだめでも、次元世界を行き来するかの魔法文明世界であれば、何かしら手段が得られるだろうと候補に入れることになった。

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 その後、切除と隔離を終えて復帰し、縮退炉と魔法技術を求めて覚悟を決めて転移したトールだったが、最初の世界から連続して跳ぶ度に表情が消えていき、戻ってきた時点で脱力しながら呟いた。

 

「感覚天才型って、ほんと相性悪い…」

 

 そう言って地面に突っ伏したという。

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 持ち帰って来たのは、縮退炉の基本から発展理論と構築技術、次元転移装置の発展型技術、そして高次元の魔法や魔術寄りの錬金学の基礎と、科学的に魔力の扱いを行う際の様々な理論である。

 

 結局、持ち帰って来た理論の実証と研究に気力が全く湧かず、丸一日をやまいこやユリと過ごして精神力の回復に務めた。

 




>某OGな世界
「帰ってしまいましたか。課題も及第点、仕事も過不足無く全て片付けた点は評価しましょう」
「見るからに年上のオッサンを、あんな風に使い倒すとか周りがドン引きしてたぜ?」
「並び立つには不足ながら、彼は生徒や助手、便利屋としてとても優秀だったんですよ。惜しい事です」
「あれ、意外と高評価なのか。ま、俺もそうなんだけど、生身の模擬戦強かったよなぁ。そっちだって全く勝てなかったし鼻フックは大爆s…あ」
「地雷にゃ」「マサキはアホにゃ」
「…ほう。研究で私も鈍り気味でしたからねぇ、よろしい、久し振りに揉んで差し上げましょう」
「やっべぇ!?」


>某リリカルな世界
「どうされたのですドクター、ぼうっとして。そろそろ計画も最終段階ですわ」
「思い出していたのですよ、あの凡才を。…おや、そういえば苦手でしたね」
「ええ、ええ、苦手でしたとも! ドゥーエ姉様の件は感謝しておりますがそれだけです!」
「毎度、見破られてはこっ酷くやられていましたからねぇ」「あー思い出したくありません!」
「あれでリンカーコアも極小なただの人間とは…」「本当に人間だったのか怪しいな」
「ええ、やはり世界には未知がまだ沢山あります。ふふ、まだまだ止まりませんよ私は!」
「止まるんじゃねぇぞ」
「「「誰だ今の!?」」」

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