荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
トールの復帰後、気晴らしを兼ねての王国内行脚も少し飽きてきて、ナザリック内でいつもの仕事というか、執務を終えて、地表に出てアルベドとの視察という名のいつものデートに繰り出すモモンガさんは、ログハウス前でトールを見つけた。
例の襲撃前は、定期展示後に色々な道具を作っては項垂れたり、疲れてぐったりしたり、テラスでコーヒーを飲んでいるのだが、今日はちょっと違った。
「おはよう、モモンガさん。アルベドもおはよう」
「うむ、おはよう。所でトール、何をしているんだ?」
トールはログハウス脇で防水シートを広げて、その上に武器や防具を大量に並べている。モモンガさんが見たことのある奴もあれば初見の物も多数あった。銃系はちょっとわくわくする死の支配者である。
「インベントリの整理と、装備の見直し。ああ、やっぱいくつか足りないから倉庫に行くか…」
「これも貴方の装備なの?」
アルベドが手に取ったのは、どう考えても女性用の布面積が小さい奴である。黒色のデニム地のサロペットをベースに大胆に布地がカットされているそれは、どのような体型でも、とてもフェティッシュな姿になるだろう。
「うっわ、ペロさんに頼まれてた奴、一色足りないと思ってたんだ。男が装備すると誰得だから、人化時用にどうだ?」
ステはEND+3、AP回復速度増加、自動で体型に合わせる機能がある。無論、ペロロンチーノのリクエストだけに、そのように能力が付与されている。どうせ脱ぐだろって? 着たまま対応ですが何か。
「(チラッチラッ)」
「あー、ええと、差し支えなければ貰っておきなさい」
小さくガッツポーズするアルベド。モモンガさんは骨の姿でジト目である。トールは目を逸らした。
「MOD由来の装備はこれから行く倉庫に色々あるんだが、モモンガさんも見てみるか?」
「ふむ、私も興味あるな。最も、デザイン類の参考にする程度だろうが…」
「それでも構わんさ。まだ高次素材…ユグドラシルの希少素材の加工は着手したばかりだし」
「私も同行して構いませんか?」
「どうぞどうぞ」
そういう経緯で、トールはモモンガさんとアルベドを伴い、拠点内にある展示倉庫に転移する。
クロスゲート技術の取得以降、時空間発信ビーコンの恩恵でデータ送信が早くなり、無線の不安定さを補正せずに計算が終了するのでとても移動まで早くなった。現在の目標はモールス信号に毛が生えた程度の情報量を増やし、ネットワークを構築できる通信量を確保する事である。
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「これは…」
転移後、屋内自動運転車で移動。一行は目的地に到着。トールが先に薄暗い倉庫の中に入ると、高い天井に連続してライトが点灯していく。入り口は3階に相当する位置で、眼下には4m前後の同じ棚が並んでいる。
モモンガさんとアルベドは、トール拠点の倉庫内を見渡して息を呑む。無骨で飾り気の無い空間に、数km先までずらりと装備類が並ぶ。壁掛けされた物の他に、倉庫内にずらり並ぶマネキン。一体として完全に同じ装備をしたものは無い。
ここはトールの中央拠点「ゼロバンカー」とは異なる、武器防具等の研究生産に偏らせた「アームドバンカー」の倉庫だ。ワンフロアを整然と埋め尽くす装備の数々。担当のロボット達が所々で作業を行っていた。
「Jr、ガイド起動。アルベドに付けてやってくれ」
『了解です、ご主人さま』
階下に降りた後、アルベドに倉庫案内ロボットを紹介。専用コーナーでは女性用の様々な装備がマネキンに着せられた状態で無数に展示されているので、まずはアルベドだけで女性用装備類を見てもらい、トール側の用事が済んた所で二人で選んでもらう方向で話を伝える。
モモンガさんは女性用装備のDTKF(童貞を殺す服)シリーズのマネキンを見て気になってる様子。アルベドと結ばれた(物理)とはいえ、まだその辺りは初心である。
「では後ほど。…所で、このカタログの系統はどちら?」
『それでしたら…』
なんだかアルベドが楽しそうである。最初から女性の買い物に付き合うと気疲れするが、まずは少し冷静になって意見を求める段階からの付き合いに慣れておくといいとモモンガさんに耳打ちするトール。倉庫内は広いので、搭乗兼荷物運搬用カートに乗り込む。アルベドはカタログのホログラム表示を参考に、気になった装備を見てみる事に決めた様子。
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さて、トールの装備はFallout4のバニラ仕様と異なり、重ね着、部位装備MODが現実化した影響だったのか、インナー上下、アウター上下、足元、両手、頭部と部位ごとに装備を変えられる。防具はその上に別途重ねる訳で、バリスティックウィーブと転移世界で手に入れたバリアウィーブの恩恵と各種レジェンダリの効果、そしてユグドラシル由来の効果をそれぞれに付与できた。
流石にAOGの面々の持つような強烈な効果を持つ装備には劣るが、その一歩手前程度には強力な構成にする事ができる。レジェンダリについては一部はユグドラシルのそれを理不尽に凌駕する。
アルベドの意味深な視線を受けていた状態から落ち着きを取り戻そうと、異形種体で全体装備コーナーを眺めていたモモンガさんは、気になった装備を前にトールに声をかけた。
「…これ、格好良いですね」
「お、プロテクトギアのドイツ風デザに惹かれるとはモモンガさんらしいですね! …って、どうしました?」
トールは褒めているが、自分では黒歴史のドイツデザへの憧れを言われてちょっと精神安定化が起きる。トールは気付いているが、モモンガさんは気付かれてないと思ってごまかした。
「あ、いえ、なんでもないです。この装備ってウェイストランドにあった物なんですか?」
「ファンメイドのMOD装備というか外装でして、残念ながら違います。私の時代で、もう少し年上の世代にコアなファンが居た奴ですね」
その原作者とその作品群が肌に合わないものの、それを語れる人達の話は好きだったんですとトール。20世紀後半から21世紀前半は年代ごとに驚くほど異なる流行や作品が溢れていたと聞き及んでいたモモンガさんだったが、まさか数年の年齢差でも大きな違いがある事に驚いた。それだけ、リアルが文化的に衰退していたという事でもあるのだが。
「流石は俺達のリアルでも残る、オタク文化の勃興期だ。所でこれ、強化スーツみたいですけど、動力は?」
「原作者曰く、筋力です」
「え」
「筋力です、…という原作者の戯言はさておき。原作では耐火防護服、装甲部だけ拳銃弾の防御は可、暗視装置は視界最悪、無線は低性能と、素だと格好良いだけで重たいだけでろくなもんじゃないですね。その上、11kg前後在る機関銃を運用する設定です」
戦場では様々な形での「防御力」が重要とトール。索敵精度、情報分析力、攻撃開始距離、回避能力、そして最後に耐久力が「防御力」に来る。その中で、視界を制限した上で機動力を減らし、おまけ程度の防御力とは何の冗談だと。
「原作仕様だとウェイストランドだと糞の役にも役に立たないんで、魔改造はしてあります」
モモンガさんは知る由もないが、アメリカ軍は第二次世界大戦後に南ベトナム軍にブローニングM1918自動小銃ことBARを支給したが、ベトナム戦争ではM60を避けて運用実績のあるBARを使い続けた部隊もあった。しかも二人運用ではない。アメリカ軍人でBARを担当していたのは、大抵がアメフト選手のようなでかくマッチョな面子であったそうな。
BARで約9kgなのに、かの作品群でプロテクトギア装着者が用いるMG34やMG42は11kg超えである。視界の悪さとは複数人で死角をカバーするらしいが、多少大きかろうと日本人の体格で重たい防護服を装着した上でMG34やMG42を一人で延々と運用できる理由をパワーアシスト等の設定も無く「筋力です」と原作者は言い切った。辛うじてフォローできるとすれば、プロテクトギアは政府側装備なので、一応は非対称戦である事だろうか。
閑話休題。
「STR、AGI、PERにそれぞれ+1、ユグドラシル換算で+10補正と、炎上スリップ耐性のある装甲服になってます。夜間は視界補正もあります」
一見、ウェイストランドでも破格の性能を持った装備に見える。だが、トールがこれを装備した姿を見たことがない。同じようなノクトビジョン装備のヘルメットと装甲コート(モハビのテキサスレンジャー装備)を纏った姿は見たことがあるのだが。
「飾ってあるって事は…」
「まあ、そういう事です。元が一式MOD装備というのもあるみたいなんですが、全体装備扱いなので重ね着もできませんし、今の複数箇所装備MOD対応の装備補正と比べると、格好良いインテリア以外の使い道がありません」
「格好良いだけのインテリア」
「ええ。中にマネキン代わりの端末シンス入れてますけど」
「こわっ!?」
プロテクトギアがモモンガさんに向いて手をふる。無論、精神安定化が発動。遠隔操作しただけだが、展示のマネキン状態からいきなり動くのはちょっとホラーだった。
「怖ってモモンガさん、貴方、今は骨でしょ…」
「びっくり系苦手なんですって!」
某こだわりのタブラ氏が作ったニグレドのホラーなお部屋で、びっくりしすぎて攻撃魔法ぶっぱしたのはモモンガさんである。この世界に来て暫くして、ニグレドが意志を持ったのに気付き、謝罪はしたのだが。
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目的のものを選び終え、少し作業すると伝えて倉庫内の各所に設けられている作業台に向かうトール。モモンガさんはまだ選んでいるアルベドの所に向かう。
ハンガーにかけられた、もうそれ痴女じゃねーか的な衣装を見て精神安定化の連続発動をするモモンガさんを横目に、トールは作業をしつつ倉庫内の無数の装備を見て考え込む。
「首都ナザリックの商業エリア、外装装備だけでもうちから出店するか?」
今の所、訓練や練習を兼ねて販売されているのは、製作系職業を生かしたギルメン達の制作物に加え、デミウルゴス牧場産の肉類、農場の野菜類あり、あとはセントラルキッチン方式の各種飲食店が配置されている。人化あるいは偽装人化、又は人の大きさに近いシモベ達が、週に一度支給される首都ナザリック内通貨、通称魔導皇国貨を購入ポイントに両替して店員、客として商業活動の練習を兼ねて活動している。身体の問題で参加できないシモベは、通販を利用させている。
偽装から始まった首都ナザリックの経済活動だが、AOGの面々も乗り気だ。今の所はままごとレベルだが、将来的には人化した状態でクラスを取ったシモベか、商業職を取った傭兵モンスターを雇用して、開放商業区で活動させたいというのがAOGのギルメン達の意図だ。首都ナザリック内で全て賄えるとはいえ、外部で活動をする際にすぐに使える外貨があって困ることは無い。商売関連職業持ちが二人おり、王国から公共事業を請け負っているが、調達先はいくらあってもいい。
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超ブラック社畜だったモモンガさんとしては心苦しい所だが、週に一度の支給分は9割を使い切るように指示して、有名無実化している週休でシモベ自身の楽しみに使うよう触れを出した。
初期からのただの休暇には難色を示していたが、報奨とも言える魔導皇国貨の支給には守護者統括以下、滂沱の涙を流して喜んでいた。これからのナザリックに必要な実験、それへの一斉参加ができる事に喜んでいた。モモンガさん達としては、自由に休みを満喫してくれればと思っていたので、意図とちょっと違って何とも言えない顔をしていたが。
閑話休題。
「さて戻るか」
いい加減ほっとくと、アルベドが暴走してモモンガさんを押し倒し兼ねないので思索を打ち切り、トールは気配を消して二人を迎えに行く事にした。実際、モモンガさんは押し倒された所で視界の端に現れたトールに、助けて!コールをした。
トールは精神安定化効果を持つゼロダメージのハリセンでアルベドをぶっ叩く。冷静さを取り戻すアルベド。
「さ、流石に慎みが足りませんでした…」
「うむ、お前は我が妻なのだ。これからは気をつけてくれ」
思わずアインズさん口調。無い心臓をバクバクさせて連続で精神安定化が発動しているのはトールにしか見えていない。
「冷静になってくれたようで何より。所で二人に相談がある」
話を逸らすように、トールは首都ナザリック内での商業活動の一環として、所持しているファッション系装備について販売のチョイスを相談。後にトールのショップとしてオープンした際は、モモンガセレクト、アルベドセレクトとして、人気を博した。
「トールさん、俺とシャルティアセレクトも!」
「…一部はともかく、通販限定で」
「なんでさ!?」
「俺と仲良く、舞子にぶっ飛ばされたいなら構わんけど」
「ちくせう!」
元は自分が選んで導入したMOD装備である事は、トールは心の棚に置いた。
Fallout4を含め、Skyrimの装備も(厄介な曰くが無いなら)最近は生産しています。
Skyrimは発売から大分長いだけに、相応にエロ装備MODも大量にあります。
ペロロンチーノはトールのショップ開店後、通販のお得意様筆頭です。
次点は弐式炎雷。