荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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意外と自分が豆腐メンタルでした(言い訳


閑話・魔法少女、帝都に降臨

「ごめんよ…、ボクには止められなかった」

 

 苦渋の中、絞り出すように言ったやまいこ。彼女の目の前に居る少女…アルシェは慌てている。

 

「い、いえ、マイコ様、妹と爺やの件だけでも破格のお話、目立つ格好ではありますが、移動時はいつもの姿ですし、仕事に支障はありませんから!」

 

 そういう彼女の手には、この世界の水準からすると何だかやたらポップなデザインのワンドが握られている。星と羽と月と丸く大きな珠がついていて、主だった色はピンクと白と黄色である。

 

「…いやあの、ノリで混ぜたんだけど」

 

 申し訳無さそうに言うペロロンチーノに、じろりと目を向けるやまいこ。他の男性メンバーは顔を逸らす。

 

「対価には働きを、働きには対価を。…本当にいいのかね、アルシェ?」

「はい、妹達の保護とこのような破格の宝物を貸与頂いた以上、粉骨砕身、任務に当たらせて頂きます、アインズ様」

 

 学士モガの格好のモモンガさんことアインズ様は、鷹揚に頷いた。

 

「ならば行くがいい、魔法少女プリティ☆アルシェイン!」

「アインズ様の御心のままに!」

 

 そう言ってアルシェは立ち上がり、新たな決意を胸に部屋を後にした。

 

「…どういう事なの?」

 

 部屋の隅で一連の経緯を見守っていたトールはそう呟いた。

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 トール負傷の一連のドタバタの後、準備は進めつつも活動を再開したAOGの面々。竜王国への遠征準備が進む中、帝国の拠点に居るナンバーズの一体から連絡を受け、トール、やまいこ、ペロロンチーノ、フラットフットが転移した。

 

 訪ねてきていたのは、元貴族家の少女アルシェと家令の男性。アルシェは放蕩する両親の借金を返済すべくワーカーとして働く魔法詠唱者だ。

 以前、ワーカーの集まる酒場でトラブルがあった際、妹達の件で話があると伝えていたので、少し長い仕事が終わり、身嗜みを整えて訪ねてきたのだった。

 

「無事で何より。それよりもよく来たね、早速詳しい話をしよう」

「は、はい…」

 

 マイコことやまいこからの話は、アルシェと家令の老人が驚きに固まるような内容だった。

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 トールは意識を失っていたので概要のみだが、彼女と彼女の妹達の保護は、事前にやまいこ主導でギルメン達には話が通っている。だが、それだけならアルシェ達がそこまで驚く話ではない。

 

「…今以上の、力を?」

「これは実験にも等しい。力そのものは悪いものではないと保証するけど、君のこれからの人生にずっと付いて回る。今の人間種には行き過ぎる力になる筈だから、良からぬ輩が摺り寄ってくるかもしれない」

「お嬢様…」

「教えて下さい、私は何をすればいいですか?」

 

 決意の彼女を前に、やまいこ以外の面子は感心した表情。モモンガさんは用意していたアイテムを、テーブルの上に並べて置いた。

 

「では、ここに示す物へ順に手を翳すといい。それが新たな道を指し示す。覚悟はいいか?」

 

 アルシェは決意の表情で頷いた。

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 並べられたのは、ユグドラシルにおいて難度が中レベルの職業取得アイテムだ。ガチャ産だったり他のクエスト報酬のおまけだったりと、サービス後半での課金勢の再ビルドにおける、中盤のお供である。

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 ラインナップは定例報告会の際に決められた。現地人に再取得困難なアイテムを渡す件には難色を示す面子も居たが、参加面子は渡された資料を確認し、一通り目を通し終えて表情を顰めた。

 

「ユグドラシルにのめり込んでた俺らが言うセリフじゃあないが、現実を認めたくないっていうのは別の話よな」

「やまいこさん主体で、お姉さんと双子ちゃんの保護ね、いいでしょ、付随でワーカーとしても高評価だし」

「ドライな話、利用価値はアリだ。…あの爺さんの防波堤になってもらう」

 

 またトール許諾の下、使用できるEXP薬であるが、職業レベルが生えてないとレベルが上がらずEXPだけ蓄積される状態になる事が判明している。

 

「そこでだ、彼女の意思確認の上で、必要とされる職業の取得を行って貰う。候補を募りたい」

 

 そんな感じで、アルシェの魔改造計画が立案。特化にするかマルチにするか支援にするか大いに揉めたが、フールーダ翁への防波堤もお願いする事を考慮し、モモンガさんのようなマルチ寄りにする事を決定。

 EXP薬と共にユグドラシルのサービス後半で出てきた、様々な職を即座に与えるショートカットタイプのアイテムを選ばせる事にした。条件が合えば、適合するアイテムが光る事が判明していたので、相性が悪すぎる物は事前に排除できる。

 だが…、

 

「そ、それでいいの?」

「はい」

 

 適合と言うか適正というか、反応した中でアルシェが選んだのは魔法職の一種「魔法少女」のワンドだった。

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 「魔法少女」

 

 前提職を殆ど必要としないにも関わらず複数の魔法系統を取得できるロマンビルド用の職業だ。

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 ただこの「魔法少女」なのだが、色々と問題がある。まず魔法少女としてのクラススキル、修得魔法を使うにはクラススキル「魔法少女変身」を使用してからになる。また他の魔法系職とは異なり、他の職の前提として扱うことができない。総合レベルを上げるには他の職業レベルの取得が必須である。

 それに、クラススキルやスペルを使う際には専用のアクセサリを装備する必要があり、1つだけとはいえ、耐性や無効化装備で貴重な枠を占有される。また片手の装備枠も、魔法少女のワンド用データクリスタルを使った装備が必要だ。

 

 最後に「魔法少女変身」なのだが、ダメージ耐性や効果ブーストなど、別途鍛えた職業に追加効果が発生するメリットがあるものの、ダメージを受けすぎたりMPを消費しすぎると自動で解除されてしまう。時限でバフを使える代わりに、5レベル分、通常時は魔法少女のLVが無いものとして扱われてしまう。

 そして、十代後半程度までのアバターデザインで無い限り姿が、非常に…きつい。おまけに取得時でランダムにデザインが決まる。初期は現在の職業で大まかなパーツカテゴリが決まり、後は装備をベースに外観だけなんだか質感と色合いがポップになった上、フリフリだとかリボンとかの装飾が追加される。

 

 まあ専用外装については、装備枠の追加と専用外装の変更は課金オンリーだったものの、これをメインにしようとするプレイヤーは殆どが重課金者だった上、平時から変身時と変わらない装備をしていたので問題はない。しかもロマンビルド系にも関わらずガチ勢が大半で、ワールド職持ちもちらほら居たそうな。中の人? 9割は生物学に男性でしたが何か。

 

 尚、職業取得用のこのワンド、職業取得をしないお試しモードで「魔法少女変身」が使用できる。レベルカンスト済みでも使用できる時限型バフアイテムとして使われる事もあったが、前述の通り外見がとても愉快な事になるので、それに耐えられないと戦闘どころではない。

 

 ガチャで出てきた魔法少女のワンドをAOG内で使った時、阿鼻叫喚で抱腹絶倒の地獄絵図になったとだけ言っておこう。当時のスクショは、腹筋に悪いが何かの役に立つと最古図書館に封印されている。ただ、現実と化したこの世界ではSAN値直葬案件である。

 閑話休題。

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 さて、どういう基準かまだ不明瞭ながら、アルシェが手を翳し、反応があったアイテム類には、魔法少女のワンドの他にもあった。だが、系統が増えるだけで、現在の構成では総合レベルが上っても高い位階魔法は修得できない。

 それを伝えた際、悩んだ少女が選んだのは一部のギルメン達の悪ノリネタ枠である魔法少女のワンドだった。確かに効果を考えると、現在職にもブーストがかかり、生存性も上がるのは破格の効果だ。

 ただ、元はといえ貴族のお嬢様である彼女を、この世界基準ではエキセントリックな格好にさせる必要がある。

 

 やまいこは止めた。モモンガさんも止めた。だが、今以上の力を必要とする少女は止められなかった。それに、アルシェが数日中に行くワーカーとしての仕事には、冒険者や帝国兵との合同で行う、怪しげな邪教集団の調査という危険度の高い仕事だった。

 

 そんな訳で、ワンドの使用を行ったアルシェは、魔法少女プリティ☆アルシェイン(エロゲバードマン命名)として、AOGの支援を受ける代わりに高位階の魔法詠唱者として面識もあるフールーダ翁との仲介役も兼ね、活動して貰う事になった。

 見返りは、AOG帝国拠点とカルネ自治区での妹達と家令の保護である。自由に転移で行き来できるので、家令の申し出でカルネに移住する事になった。

 魔法の指導に関しては、魔法詠唱者系のシモベの他、アインズさんが行う事になった。

 

「この系統であれば、私が指導できるな」

「ありがとうございます!」

「モガさん、ちょっと嬉しそう?」

 

 そして魔法少女だけではワーカーの仕事をするには心許ないと、他の職業もアイテムで追加取得させた。なんと選ばれたのは、モモンガさんイチ押しの死霊系である。EXP薬の服用で総合レベル35になり、まずは魔法については第四位階までで慣れてもらう事になった。ワーカーとしての仕事や帝国兵では手の回らない連中への対処をこなして習熟してもらい、段階的に総合レベルを上げてもらう方向である。

 

「家令の人、お嬢様が斯様な姿に!とか嘆いてたぞ」

「肩出しレオタの、比較的まともなデザインになっててほっとしたけどさ…」

「ジト目系魔法少女、大いにアリだと思う」

「ペロさん、反省」

「俺だけ!?」

 

 少し後から、帝都アーウィンタールに不思議な英雄の噂が登るようになった。煌めくような金髪にサイドテール、一級のドレスのようで居て正面から見ると扇情的な衣装、光る魔法の明かりを纏っているという。彼女は帝国の裏に潜む悪人たちを、手を下せず歯噛みしていた帝国兵や市民に代わり、表に引きずり出しては成敗し、その活躍が吟遊詩人の詩になった。

 

 当のアルシェは、使命だからと我慢していたが、酒場等で噂や詩が流れる度に、顔を赤くしてプルプルする事になった。困ったことに、アルシェが当の魔法少女と知らない妹達は、アルシェや元家令に帝都で噂の英雄少女の話を強請ったという。


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