荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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竜王国への出撃までえらく時間かかったな…。


死の支配者と出撃する飛行船

 竜王国。七彩の竜王の曾孫となるドラウディロン・オーリウクルスが女王として統治する国だ。原典ではビーストマンの脅威に晒され、国費の大半を軍事費に費やしているが芳しくなく、亡国の岐路に立たされている。

 

 この世界においては、AOGのギルメン達が結成した傭兵隊「始まりの九連星」が参戦し、毎年の反攻攻勢により版図を取り戻し続けており、今年の戦いでかつての国土を全て取り戻さんと、現場の士気も高い。食われまくっていた国民も、始まりの九連星が伝授した防衛戦術で粘り強く抵抗を続けており、また失われ難いがために練度も上がっている。

 

 対して、困ったことになっているのがビーストマン達である。食料の嗜好から他の種族との争いを避けた腰抜け共が他の国に亡命した為に動きやすくなったが、狩場としていた人間種の国に、異様なまでに強い連中が現れ、苦労の割には以前のように成果を上げられなくなった。

 腹立たしい事に、人間の部隊を襲った時などに残される、穀物やら訳のわからない物を焼き固めた食料を、末端の戦士が食い始めた。最近では、人間を食うよりも腹持ちが良いと言うが、舌の肥えた強者である程、それは理解できない。

 

 一進一退を続けて数年。人間共は年に一度、大規模攻勢に出てくる。ビーストマン達としてはこれまた腹立たしい事に、大規模な食料調達を始めた頃の領域まで押し返されてしまった。今年もおそらくはそろそろ人間側の攻勢が始まる。そうなれば、屈強な部族の戦士達すら恐れ慄く、銀色、覇光、斬撃、巨拳、遠穿、壁女といった、理不尽なまでに強いあの連中が現れるだろう。

 

 暫定的に群れの統括を任されているビーストマンの男は、今も痛みが残る左腕をそっと撫でた。これは、壁女という小さいくせに楯を2つ構えた人間の女に弾き飛ばされた傷跡だ。部族の治療師がある程度まで治したが、腕がひしゃげたのもあり、完全には治癒できなかった。

 

「…この程度で済んだと思えばいいのだろうな」

 

 現在、暫定的にこの地位に居るのは、その戦いで生き残った僅かな残りだったからだ。敗走は蔑まれるものであったが、群れを率いていた当時最強の一人と共に生き延び、他の数名と戻ってきた為に咎められる事はなかった。他のより大きな群れは、完全に壊滅したからである。生き残り、情報を持ち帰った事が重視された。

 尚、当時最強の者は手足をほぼ失い、両目を潰され、顔も半分を抉られていた。数日の後に恐怖を繰り返し述べながら死んだ。

 

 今回の人間どもの逆襲で、自分は死ぬだろう。本国は人間どもを狩れれば上等だが、増えすぎる民の処理場と考えている節がある。

 

 遠くに聞く評議国とやらでは、ビーストマンが狩る対象すら同じ立場で暮らしているという。あの牛頭共すら人間を家畜として扱わなくなったが、我々も同じ道を選ぶ事ができたのだろうか。

 

「ええい、考えても無意味な事はやめる。願わくば、あの壁女と再び相見え、狩人として前のめりに旅立たねばな」

 

 そう言って、男は側にあった壺を持ち上げると中身の酒を煽った。

-

 

-

 アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国にある格納庫内部から、AOG所有のプリドゥエン改級飛行船、旗艦「スキーズブラズニル」が回転式エレベーターに乗った状態でせり上がってきた。

 

 別段、意味は無いのだが一部ギルメン達のリクエストである。頼んだ面々は、メインモニターではなく、外部から飛行船が上がってくる姿を見て物凄くテンションが上がっていた。

 

 格納庫が人工池を割って開き、飛行船がゆったりとした動きで空に舞い上がる。そのまま静かに船体を回していき、ぴたりと動きを停めた。

 

「回頭完了します」

 

 メインブリッジの指揮官シートにはアインズ様、貴賓シートには他のギルメン達が座り、少しレトロなデザインの大型モニターとサブモニター、外の景色を見ながら内心はワクワクしながら見守っている。

 

 操舵席にはイマジナリ・ニュー、他のオペレーター席にはナンバーズが座り、色々な作業をしていた。元のプリドゥエンのデザインとは異なり、少し丸めのレトロフューチャー化させた松本零○先生タイプのメーターだらけだった。誰の趣味かといえば当然トールである。

 

 メインモニターに首都ナザリックに残って差配するアルベドの姿が映し出された。側にはデミウルゴスも控えている。

 

『ではアインズ様、皆様方、留守の間は万事おまかせ下さいませ』

「うむ、頼んだぞ。私もお前達から長く離れるのは寂しいからな、なるべく早く戻ろう」

『まあ! …こほん、ではいってらっしゃいませ』

 

 そんなやりとりを素でするので、一部ギルメン達からジト目ビームを受けるも、余裕が出てきたのでスルーするアインズさんである。

 

 

 飛行船スキーズブラズニルは、外見は真新しくも曲線を多用したどこか懐かしいデザインだ。元のプリドゥエンと比べて大型であり、同じような飛行船と撃ち合うような事も想定した装甲化からまるで違う姿をしている。

 

 実際問題、この世界ではオーバーテクノロジーにも程がある技術の塊で、新プリドゥエン級と呼称すべき代物だ。飛行船と言う体裁だがその実はほぼ航宙艦な訳で、気体による浮力ではなく重力制御により浮かんでたりする。

 

 トールは負傷からの復帰後、転移実験で色々と自重無く技術を収集してきたのと、最近行ってきた世界の基準で感覚がおかしくなっていた。

 

「レーザーとか衝撃砲とか防げないと心配だ」

 

 発注済みの大型双胴艦「フリングホルニ」と、高速艦「ナグルファル」も、当初はプリドゥエン改級飛行船をベースに建造する予定だったが、トール基準では比較的脆いため、外見以外の設計を一からやり直した。

 

 今回出撃する「スキーズブラズニル」は、王国反逆者討伐時に使った艦のデザインだけ流用し、大型化した新規設計である。引き渡され、案内された際もAOGの面々は違和感を感じた。

 

(((あれ? なんか大きくない?)))

 

 因みに元の艦は引き取った上で、トール所有の艦と共に強化改造を施して、拠点内に保管する事となった。

 閑話休題。

 

 

『こちらトール、無事に離陸できたな。こっちはベルチバードで先行して、予定通りドラゴン隊と哨戒にあたる』

「ブリッジ了解。哨戒部隊発艦、ハッチ開きます」

 

 ブリッジから見える範囲に、トールが乗るティルトローター機、ベルチバードが現れた。装甲カバーを開けているので、トールの隣にやまいこが人化状態で乗っているのが見える。サブモニターに格納庫の映像が映し出され、乗っているドラゴン達が機材を持って飛び立つ準備をしていた。

 

 機材は周辺情報を得るための探知、通信機材だ。アウラ指揮下の中から、速度と生存力に優れた種を選んで搭乗させている。

 

「アインズ様、準備完了です。ご指示を」

「うむ。スキーズブラズニル、発進!」

 

 立ち上がり、ローブをブワサァっとして手を翳すアインズ様。この姿はブリッジにも配置されているアイボットが録画しているので、後に守護者達などにも公開される予定である。

 

 スキーズブラズニルは静かに、プロペラ音と共に不思議な音を立てながら加速する。胴部左右に複数のターボプロップエンジン型のプロペラユニットがついているが、これは実際の所は電気駆動のサブ推力だったりする。後部の尾翼も同じ。

 

 メイン動力はウルデモン型縮退炉、サブ動力はウルベルト=デミウルゴス型改核融合炉。その莫大なエネルギーを使った重力制御と慣性制御装置により空に浮かび、推進する。プロペラが大型な上に必要以上には回転していないので、装甲を稀に叩く風の音以外はかなり静かである。

 

「では皆様、到着までは暫くかかりますので、お時間になるまではご随意にお過ごし下さい」

「うむ、何かあれば知らせよ。…では皆さん、到着まで自由時間です。私は風景を楽しみつつお茶にします」

「俺は何か作れないか食堂見てくるわ」

「俺らは銃座とか格納庫見てくる」「あ、俺も行く」

「私はお茶かな」「俺もー」「じゃあ何かお茶請け作るか」

 

 先程までの威厳あるやりとりはどこへやら。緩い雰囲気で各々の行動に出るAOGの面々であった。

 

 

 スキーズブラズニルにはアインズさんとギルメン達の他、ブリッジ要員のイマジナリ・ニューとナンバーズ、格納庫にドラゴン隊とハムスケが乗っている。

 因みに帰りは、先行したニグンやコキュートスを乗せる為にフリングホルニが追加で来る準備を進めていた。

 

 かの空中都市を識る、あるいは見たこともある者達ですら驚く「空飛ぶ船」は、様々な所へ驚きと噂となって人々の話題の的となった。




 竜王国で活動する傭兵達。

「奴らの言ってた壁女ってなんぞ?」
「ほら、あの傭兵団の二枚楯持ちの」
「あー、鉄壁の防御だから壁か」
「奴らにとっちゃ、壁に衝突されるようなもんだろうからな」
「胸が壁のようだからじゃねぇのか、しらんけど」
「お、お前、命知らずだな」
「そろそろ来る頃だろうが、絶対に言うなよ?死ぬぞ」
「なんだよ、強いからってビビってんのかよ」
「忠告したからな?」
「勇者に乾杯! 俺はぶっ飛ばされる方にかけるぜ!」
「俺も!」「俺もだ!」「俺も一杯かけるぜ!」「俺はぶっ飛ばされたい!」
「「「誰だ今の!?」」
「くそ、俺がここに来るのが始めてだからって…!」

 後日、その勇気ある傭兵は、始まりの九連星の強さを身を持って刻みつけたそうな。

「どうどう、風っち、どうどう…」
「ふしゅー、ふしゅー」
「…手加減する程度には理性残したんだな、偉いぞねーちゃん」
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