荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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天才と相性が悪い(意訳


閑話・荒野の災厄のトラウマ再び

 トールの研究開発は、思い立ったアイディアの実現を目指しつつも、一定の成果が出た時点で一度止め、振り返る事が多い。様々な技術体系をごちゃまぜに継ぎ接ぎのキメラを作った時点で一度止め、闇鍋の状態から遠心分離機などでいちいち要素を抽出して、新しい組み合わせを模索していく。

 

 当然、天才でも無いので新しい発想を天啓のように閃く事はできない。これは今の身体のスペックの限界というより、Perkのような特異的才能の有無だ。そして凡人は凡人と自覚する為、今や十基単位で演算ノードを構成するZAXスーパーコンピューターの協力を得て、積み重ねが必要な部分を総当りする。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると、成功するまで試行錯誤する。研究者としてはある意味正しいのだが、試験の試行回数は狂気の沙汰である。

 

 飛行船スキーズブラズニルの周辺哨戒を終えて、ローテーションでの警戒体制に移行し、戻ってきたトール。やまいこを女子会に送り出し、カワサキが用意してくれたサンドイッチをベルチバードの脇で珈琲と共に楽しんでいたトールは、整備情報がクリアになった所で接続先を切り替える。

 

「お、来た来た、よーしよし、ちょい遠いADSL程度だけど安定してる」

 

 試験的に空間通信で拠点と接続。問題も無くPingも帰ってくる。動画等は厳しいだろうが、ロブコ社製端末はそっち方面は捨てているのでデータのやり取りが妨害無くできるなら万々歳である。

 

 データ量の試験にと技術ライブラリに接続して端末を何の気無しに眺めていた所、ふと、とある傲岸不遜で真摯な研究者関連のデータに不自然な点を見つけた。某OGの世界で出会った、鬼畜ワカメの提供技術情報である。

 

「んん? んー?」

 

 少し嫌な予感がして、関連データを再計算すると、帰り際に渡された技術関連データの中に、意図的に隠蔽されたものを発見した。そしてその機能について読み進めたトールは、プルプルと怒りで震えた。

 

「あんの鬼畜ワカメぇええええ!?」

 

 その名はテスラ・ドライブ。重力制御と慣性質量を個別に変動させることが出来る装置で、かのOGな世界でビアン・ゾルダーク博士によって作られた画期的な装置であった。最初は必要エネルギー量の問題で宇宙艦艇への搭載だったが、後に高出力ジェネレータの開発も含め、20mクラスの機動兵器へ搭載されるほど改良が進んだ。かなりの汎用性と安定性を持つ装置で、それがあれば既存の兵器にポン付けするだけでも飛躍的に性能が向上する(スパロボパーツ的に)。

 

 トールは既に慣性制御技術としてバーゲンホルム機関、重力制御としてブラックホールエンジン技術と重力制御科学技術を得ているが、シュウ・シラカワによって重力科学は、元の技術提供側ですら及びつかない領域まで達していた為に並の技術者では完成状態からの改良や小型化、あるいはエネルギーを取り出す以外の利用方法に殆ど手を付けられない状態だった。

 

 確かにブラックボックスとしての特異点と、安全措置としての側面もあっただろうが、それは他の科学者や技術者への挑戦状でもあった。

 

 ただシュウ・シラカワも実は驚く事に、トールが作成した縮退炉は、かのブラックホールエンジンなどとは異なり完全に物理法則のみで動作している。

 ラ・ギアスの高次特性素材技術にも明るいシュウ・シラカワからトールは直接教授されたのもあるが、モモンガさんとウルベルト(+デミウルゴス)という、魔法のエキスパート達の協力によって技術的障害をぶっちぎって突破した。

 

 特異点による事象変動で完成確率が上げられなければ、科学技術による純粋な物理法則上で同じものを作るには、相当巨大な前提施設の準備と類稀なる幸運が必要だっただろう。

 

 だが、高次特性素材も無く事象変動も影響なく、過程をすっ飛ばしてウルデモン型縮退炉は完成した。それにより特異点による事象の発生確率操作などの干渉は一切できない。

 その上、完成済みの縮退炉と同じものを、トールのチート能力でいくらでもコピー生産できる訳で、様々な勢力とドンパチするOGな世界では喉から手が出る程に羨ましいと言われるだろう。

 閑話休題。

 

 さて、テスラ・ドライブであるが、シュウ・シラカワ謹製の重力制御とは異なり投入できる瞬間出力の制限で発揮できる効果は劣るものの、コンパクトで特性が素直という、素晴らしい特徴がある。

 トールはウルデモン型縮退炉の完成後も、エネルギー抽出以外に利用や応用ができる領域が無いものかと四苦八苦していたが、テスラ・ドライブを使うことで、現在、頓挫している様々な問題をパスできる。縮退炉と接続すれば、複数の小型バーゲンホルム機関でパズルのような制御機構を組み上げるしか方法が無かった問題など、様々な方面でかなりのブレイクスルーが行える。

 

「…そりゃぁね、試行錯誤で色々と派生技術もできましたよええ、でもね、これがあれば頓挫してるのが殆ど、鼻歌混じりでクリアできるんですよ!?」

 

 暫くの間、トールは荒れた。大抵はかのテラコヤスな声の鬼畜ワカメへの罵詈雑言である。

-

 暫くお待ち下さい…。おっさんエキサイト中。

-

 オーケー、不満は吐き出した、クールだ、クールになれ。格納庫脇で休憩していたドラゴンが怯えている。気分をどうにか落ち着けて、オンラインでエインズワースにテスラ・ドライブの試作機を作れないか連絡する。

 

『この構造でしたら作るだけなら一時間も必要無く。テストも数日中に。御主人様のこれまでの研究成果を組み合わせれば可能ですね。何も無い場合は少々お時間を頂いたかと』

 

 帰ってきた返答は、テストは必要だけど作るのはすぐですよ、というものだった。これまでの試行錯誤とお蔵入りした試作品や試験が活用できると考えれば…いや、考えても、あの鬼畜ワカメの高笑いが聞こえてきそうである。天才の考えは理解できないが、上から目線である事は確かだ。

 

「…そうか。テスト用にいくつか生産して、演習区画でバラム、バルガ、あとは…ジャガーノートメックをいくつか見繕って試験を頼む」

『かしこまりました。遠征中での定期報告でお知らせできます。通信終了』

「わかった」

 

 トールは温くなってしまった珈琲を煽ると、ぐったりと椅子に沈み込んだ。ナザリック勢には、たまにトールが奇声を上げる事が知られていた(縮退炉事件)ため、特に報告などはされなかったが、漏れ出した怒気を運悪く浴びてしまったシモベのドラゴンは、トールと目が合う度に逸らすようになった。

-

 そして竜王国への遠征中、トールは受け取った試験結果を見て引きつった笑いをした。映像の中には、50mクラスのバラムやバルガ、そして100トン級メックが、軽やかに舞い、アクロバティックな跳躍を見せつける姿があった。完成したテスラ・ドライブはすぐにリバティ・プライムにも搭載された。

 

「え、ガルガンチュアに装備は付けられないのか、ですか?」

「ええ。うちのロボとかに付けられる機動性を向上させる機器が完成しまして、使えないかなと」

「どうよルシ?」

『できるよー、耐性装備が鉱山で複合の作れたからアクセサリ枠2つ空いてる』

「じゃあアクセサリ枠で」

『胴体防具は大きさからしてコストかかるし…あ、でもあまのまさん、作ってくれない?』

『いいですよ。戻ってきたらお披露目するので楽しみにしてて下さい。トールさん、所有の火器を予備に搭載したいんですが』

「いいですよ? エインズワースに言っておいて下さい」

「ガルガンチュアに投石以外の遠距離攻撃手段か。面白そうだな」

「ふむ。なあトール、コキュートスにも重火器とか使える手段無いか?」

「職業補正は無いから弾かれる可能性もありますが、何か手が無いか考えてみますね」

 

 おいばかやめろ。

 ちょっとした思いつきによるガルガンチュアの増強計画であったが、後のお披露目はAOGを面々して、悪戯好きのるし☆ふぁーまでが総じてツッコミを入れる事となる。

 

「「「ぬぁんじゃこりゃー!?」」」

 

 その時のあまのまひとつの顔は、異形種体であったにも関わらず喜色満面といった感じであったという。

 




ガルガンチュア追加装備:
 その製造目的と大きさからあまり出番の無かったナザリック地下大墳墓第四階層階層守護者ガルガンチュア。全高30mの巨大な戦略級攻城用ゴーレムであり、大きさに差異があっても前期型50m級リバティ・プライムを迎撃できる性能を持っていた。

 トールの提案で、アクセサリの形でテスラ・ドライブが組み込まれた大型のナザリックギアを装着。かつてはギルドの拠点攻略戦などでしか使用できなかったが、重力制御と完成制御を個別、あるいは連動できるテスラ・ドライブにより、大きさを微塵も感じさせない挙動で動作する事が可能になった。

 それと同時期に、あまのまひとつによりガルガンチュア用の一式防具と背部と腕部、肩部にそれぞれハードポイントが追加された。ナザリックギアの換装機能により、近距離防御、近距離格闘、遠距離攻撃に対応した様々な大型兵装を運用できるようになった。ガルガンチュアには自我や意識が無いので、切り替え等は命令者によって行われる。ガルガンチュア自身に職業補正は無いのでダメージ追加や命中補正などはできないが、専用ナザリックギアに組み込まれたプログラムと演算機能で火器管制が行われる。命中精度はそれなり。

 今の所トール側から提供されて準備されているのは、腕部用に装甲とセットになったGAU-8 アヴェンジャー2門、肩部用の20連多連装ロケット砲×2、背部用の120mm滑空砲。
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