荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
教授こと死獣天朱雀とトールは、邂逅以降、元ユグドラシル組の自身と友人達の状態について、長い間、調査と仮説の組み立て、そして確認を繰り返している。
ただ、トールの科学技術を以てしても存在自体が通常の人間とは隔絶していて、尚且つそれぞれが余りにも違いすぎる異形種という存在については成果は芳しく無く、唯一の比較対象となるトールの視点による、それまで邂逅してきた存在との比較のみが、立てた仮説の立証や反証となっていた。ナザリック地下大墳墓がモモンガさんと出現するまでは。
教授による、現在の所もっとも有力な仮説は、既にトールが邂逅してきた「神」に類する高次領域の器にリアルの意識が融合したのが、ユグドラシルのカンスト組だというものだった。
ナザリック地下大墳墓の出現以降、トールが色々と他の世界で技術を収集するようになり、負傷からの復帰後はより積極的になったのも重なって、教授の仮説の補強となった。
トール曰く、高次領域は意識や主体性は無くとも受動的に存在ならぬ力場が形成される事もあり、何らかの刺激によってシステム的に反応を寄越す存在が形作られる事もあるという。そして、ユグドラシルの気配はそれらに特に似ているそうで、内包する高次領域のエネルギー量は恒星を凌駕すると。
そこから教授は、拠点世界上で存在している異形種の身体は、実体やエネルギー体(一部ギルメン)問わず、高次領域と今も接続した中の端末のようなものだと考えた。
アライメントや異形種体の認識に左右されるのは、本体である高次領域の影響であり、死亡や一部魔法の行使によるレベルダウンは、端末たる身体が弱体化して結びつきが弱くなったものだと推定される。
人化については、リアルの意識が強く出てくる事で高次領域の異形種の精神が弱まっていると考えられた。また端末と言っても遠隔操作ではなく、物理法則上の肉体と重なるようにして存在しているので、トールからはオーラかそれに類するものが見えるし、一部の魔法によって防御を貫通して攻撃を受けると、肉体と共に高次領域の身体か意識体、あるいは力場が消耗する。
「つまり、どういう事だってばよ?」
「リアルの意識は、高次領域…いわゆる神の領域で異形種の器に融合してて、今の身体は端末かもねって事」
「…ふむ。フィクションなどでは神はその世界の機構や法則や属性を司るシステムだと言ったように描かれる事もありますね」
「そこに俺らの意識というか主体が入って、意志を持って動いているか」
「まるで、俺らが入る前は哲学的ゾンビだな」
「神様の領域だけどなー」「この身体の本能のままに動く存在って怖くね?」
竜王国の遠征に向かう途中、ブリッジに居る以外の面子は暇であり、ベルチバードやドラゴンに同乗して空の旅を楽しむ他は、客室や会議室、あるいは食堂で暇を潰していたAOGの面々であるが、今の研究について報告があると通信で教授と話をした所、上げられてきたのが「我々は何か」という短いレポートであった。
「未だ調査段階ですが、教授の仮説は此方の観測領域拡大に伴って、いくつかの誤りを除けばほぼ、立証され続けてます」
「図らずとも、法国が奉じるような神となってしまった訳ですか」
「…我々はスキルやアイテムで人化してリセットできているが、嘗ての六大神はさておき八欲王や、文献や口伝に残る魔人や口先だけの賢者など、プレイヤーらしき連中はアバターに振り回されたのかもしれないな」
「ま、教授やタブラさんの話で、日本には何にだって神様が宿ったり成ったりするんだし、俺らもそれと思えば別段、困ったこともないっしょ」
「楽観的だなぁペロさん」
「実際、今は生活も楽しい訳だし、これ以上を望むとなれば厄介事が無くなるとかそんなんだわな」
「人間やめちゃってからの方が人間らしいというのはこれいかに」
そう言った所で、唐突に視線がトールに集中する。カンストという制限があるとはいえ、その中で限界突破したワールドチャンピオンのたっち・みーや、そこに肉薄して並び立つ武人武御雷と、人間の領域を遥かに超えたガチ前衛職と真正面からやりあうのが荒野の災厄だ。
「な、なんです、前から言ってるでしょ、人間ですってば。DNA証明だってあるんですよ!」
「「「あーはいはい」」」
「おざなり過ぎません!?」
トールは確かに歳を取らず衰えなくなった(生物的、物理的な成長自体は止まった)身体と、制限があるとはいえ最強ではないが万能のチート能力「無限資源生産能力」とコンソールによる「状態改変」能力を持っているものの、自身の基本的な精神や身体は人間の構造をしている。
それに、これまで取得してきたPerkも、人間の可能性をわかりやすく表示している範囲のものだ。自身で能力のオンオフや制限、切り替えが可能な時点で人間?と言いたい所だが、それは今は置いておく。
高次領域への接触は最低限ながら、それは物理法則世界に身を置くという確固たる意志がそうさせているだけであって、内包するエネルギー量については一般的な人間のそれを凌駕し、少なからず扱う能力を得たその影響もあってユグドラシル勢とやりあっているのが強いて言えば笑い所だろうか。
逆説的に、人はその領域に至る可能性があることの証明だ。部分部分で見れば、才能や鍛錬次第で人間で十分到達可能な所が多い。Perkも個別で見れば、条件さえ満たせば一部を除いて取得する事ができるだろう。
ただまあ加算的総合的に見ればイレギュラーもイレギュラーな訳で、そこに至るまでには、最低限、凡人の限界到達と完全な肉体(DNA含む)への自己改造、その上で神のイジメ…試練を突破し、神の領域に居る存在と年がら年中模擬戦をし続ける必要があるが。
「感覚的には、至ろうと思えば俺らと同じ領域には到れるんだっけ?」
「ええ。ただ、そうなるともう高次領域で固定されて、能力的な成長は一切望めなくなると思います。うまく説明できない感覚的なものですけど」
「俺の場合、人化だとあと何歩か足りない領域だな。見えても目指すつもりは無いが」
ちらとたっち・みーを見る武人武御雷。お互い真面目に見つめ合ってから吹き出す。
「何、お互い見つめ合っちゃって?」
「ねーちゃんステイ」「なにおう!」「風っちどうどう…」
「人の完成形と驕る積りは一切無いでしょうが、可能性や過程として見れば、人間はここまで到れるんですね」
「成程、トールはいわゆるトランスヒューマンな訳だ」
「え、変形するの?」「ちゃうてw」
「修練や改造その他、人間という枠の中で高みに至った、あるいは至る存在の事だっけ」
「その先が確か、ポストヒューマン…人間の目線で見ると最早、人間には見えない知性体か」
「うん、そうなると辛うじてトールっちは人間だな、辛うじて」
「どうして二回言ったし」「そりゃあ、ねえ?」
「必要に駆られただけで、目的として至った訳じゃないんですが…」
「知ってる」「俺らも人化ならPerkは取れるからなぁ」「でもトールさんの領域は苦行じゃね?」
「「「それな!」」」
「解せぬ」
「みんなー、うちの旦那をイジるのは其の辺にして? カワサキさんが昼食できたって」
「「「わーい!」」」
なんだか深刻な話をしてても、すぐに切り替えてワイワイガヤガヤ。これから戦いが待っているというに、AOGの面々とトールは今日もいつも通りであった。
『観察対象G、竜王国の方面に巨大飛行船らしき浮遊飛行体で移動。搭載戦力は不明』
『監視継続。哨戒機の拡充状況は?』
『王国並び帝国内ではおよそ八割が損耗。大森林とG拠点では全滅。山岳地帯調査も考慮し、外装の変更を具申』
『意見は調達部に送る』
『聖王国の不安定工作、継続中。段階を引き上げる』
『丘陵地帯のサンプル取得、難航中。障害は恐らくPLと考えられるが、該当する個体無し、調査中』
『異常行動の生物群を確認』
『情報確認中…ナニコレ?』
『調査中。各地で目撃が増えている昆虫群体。PLによる何らかの行動と推測される。サンプル映像の分析を』
『こちらでも撮影した』『此方も』
『…見ないとだめです?』
『ファイトだ。通信終わる』『報告終了』『がんばれ? 通信終了』
『うー!うー!?』
「さーむーいー! しーぬー!?」
「叫ばないでくれ、巨人やドラゴンが来たらどうする。あとモグラも」
「んもー、機材の制限だからって空も行けないとか不自由すぎます! 泣きますよ! すぐに凍りますけど!」
「仕方ない、少し危険だが原住民の痕跡がある場所を通るか。高度を下げよう」
「やった!」
「できるだけ穏便に、穏やかに接触できるといいが、現地住民の領域までは原生生物との接触は避けねば」
「聞いてたより厄介でしたしね、山の状況…あーもー、着替えたーい、お風呂入りたーい!」
トールがコモンウェルス基準で三百以上に設定するとコントロール不全になるのは、この世界での存在制限の限界を無理に突破したが故、という。
モモンガさん達はユグドラシル基準で百前後なのが、丁度バランスが取れているという。