荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
・竜王国への遠征が開始されたよ
・ニグン達とコキュートス(偽装人化)+リザードマンが先行したよ
・AOGは飛行船で優雅に出発しました(←イマココ)
竜王国遠征の先遣隊は、事前通達も兼ねてニグンとイアン+平隊員、追随して偽装人化のコキュートスとリザードマン達という構成となっている。
種族としても大幅に異なるが、乱暴な話リザードマンはビーストマンと同じく亜人種な訳で、誤解を招かないようニグン達が説明してからの入国と参戦となる。
「我、始まりの九連星たる至高なる御方々の命により馳せ参じたヒョウガと申す」
ヒョウガことコキュートスの偽装人化は元の背丈と同じのため、でかい。見上げるような大男が、整然と居並ぶリザードマン達を従えて砦の外に堂々と野営地を築いていく。
「あの、ニグン殿からも伝えられておりますが、本当にその場所で宜しかったのでしょうか?」
「構わぬ。彼奴らとは異なるが、リザードマンは人類種が受け入れ難い事も理解している」
リザードマン達も、石造りの砦では息が詰まると同意。竜王国の兵は困惑しつつ、もしもの場合はお願いしたいと伝える。ビーストマンは夜目も鼻も利くので、夜襲が頻繁に起こりうる。後方の砦ですら少数のビーストマンが襲来する。食料は現地調達というビーストマンだからこその、意図しない浸透工作であった。
「肩慣らしに丁度良い」
だが、この砦の前においてはそれは悪手。ナザリックの前衛型守護者において、シャルティアと比べてもかの爆撃の翼王が心血注いで用意した装備という要素を無くせば、地力の差でいえばコキュートスが上に来る。
そんな強者がおり、また集団戦に明るく鍛えに鍛えたリザードマン達が居るわけで、血気に逸るだけのビーストマンの一団が敵う道理は無かった。
「つまらぬ、いや…そういう事か」
生まれながらの高い身体能力に驕り、相手との力量差も測らずただただ本能のままに襲いかかるビーストマンと、かつての自分達が何もせず領域に座して思考を止めていた事に、奇妙な符号の一致を見る。
そして今は、望まれた在り方だけでなく、敬愛して止まない武人建御雷様と共に在りつつ、武の極みを目指して切磋琢磨する日々…。
「私は幸福だな。なれば承りしこの使命、今の身では多少の不自由はあれど、全力を以て果たす」
リザードマン達も危なげ無く勝利。彼らは彼らで、止めを刺したビーストマン達が祖霊の元へ還れるよう祈り、遺体を一箇所に集める。
「お待たせした」
「うむ」
コキュートスは新たに賜っていた試作品の太刀を掲げ、遺体の山に振り下ろす。一挙に凍結し砕け散ると、次に吹き荒れた風で空遠くにキラキラと飛んでいった。
「半日の休憩の後、予定通り借り受けたはんびぃととらっくに乗車し、前線へ移動する」
「運転は任せてくれ」
「うむ、頼んだ」
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竜王国において、隠匿した陣地を設けて状況調査を請けていたとある勢力の集団は、異形の獣人と現地人の戦場に現れた「車両」に驚き、慌てふためいていた。
光学カメラからの映像には、古いが確かに自分達が見たことのある型の車両が映っている。自分達が使っているのは、環境適応装備のせいでかなり着膨れしているが、見間違う事は無い。車両に詳しい部下にも確認した。
現場の指揮官は驚きを内心に押し止め、急いで報告書をまとめると移動報告員を通じて現地司令部に伝令を依頼した。
この世界に展開して未だ半年足らずだが、同じ組織内の別派閥が勢力を伸ばしてきた。それも、堂々と戦力を展開してだ。乗っている連中はなんと、トカゲの姿をした生物を飼い慣らす手法を持っている。
「どこの派閥かは知らないが…厄介な事だ」
憶測は交えず、確認した事実だけを報告書に纏めた。情報収集としてはとても正しいのだが、分析側次第では居もしない勢力を作り出してしまう。
そしてそれは、次に目撃された未確認飛行物体の出現で更に混乱が加速する事となる。
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竜王国の首都(昔から首都とだけ呼ばれている)に、巨大な空飛ぶ船が近づいてきた。事前説明に訪れたニグン達が居なければ、都市の中は恐慌状態に陥っていただろう。
表向きは、魔導皇国が要請した始まりの九連星が搭乗している体である。パフォーマンスにドラゴンやグリフォンが飛び、市民へ手をふる。
「ぬぁんじゃぁあああ!?」
居城のバルコニーから、竜女王ドラウディロンは体裁も取り繕わずただ驚き叫んだ。幸い、他の兵士や国民も空を見上げて驚いていた為、バレてはいない。宰相や側近達も、口を揃って開けてしまっていた。
「…じ、事前に元陽光聖典のニグンから聞いていましたが、あのような巨大な船が空に浮かぶとは」
「びっくりじゃ、心臓が喉から飛び出て宰相がハゲるかと思った」
「ハゲません。そもそもあっちが生えてない女王に言われたかありません」
「セクハラじゃぞ!? あと何故知っとる!?」
やがて飛行船は首都の脇に静かに停止、船体の横が開いてドラゴン達が飛び出して行き、事前にニグンから連絡があった、竜王国の駐留部隊用の訓練場へ次々と降り立った。
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ニグン達が恭しく出迎えるのをやんわりと止めさせ、竜王国の兵士を通じて「始まりの九連星」の到着を知らせて貰う。伝令はものすごい勢いで走って行き、これまたものすごい勢いで竜王国の役人が走ってきた。
「お、お待たせいたしました」
たっち・みーはぜはーぜはーと息を切らす役人に落ち着くよう言い、暫くしてようやく息を整えた役人が始まりの九連星の面々を王城へ案内したいと伝える。
「俺とカワサキさん、あとトールとやまいこさんはパス」
ウルベルト達は後方支援の準備をすると言って、なら俺もー私もーと収拾がつかなくなったので、盛大なじゃんけん勝負の結果、王城へはたっち・みー、モモンガさん、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜が行く事になった。たっち・みーとモモンガさんは確定ながら、業の深い姉弟については他の大勢が示し合わせた結果である。
「「ひきょうものー!」」
トールは運搬を担うドラゴン達から補給物資を受け取る体で、インベントリから竜王国へ渡す食料品から糧秣からありとあらゆる荷物を練兵場の端へ積み上げる。追加で来た役人の一人が、驚きながら受け取りのサインをする。
「今回、俺らは前線に出る面々と、後方支援で分かれる。この物資自体は商会の発注品を俺らがついでに運んできたもんだ」
「毎度ながら、皆様には足を向けて寝られません」
「阿呆、足を向けてでもいいから必要な時はちゃんと休むんだよ」
「…ご配慮、痛み入ります」
トールの立場は今回、ル・シファー商会に所属する商人にして職人だ。長らくの戦火で疲弊した竜王国の居住地域や穀倉地帯、インフラなどの再建支援に当たる。あまのまひとつは、鉄や鋼鉄ではあるが竜王国の兵士用の武器防具の用意、冒険者や傭兵相手の格安での鍛冶支援だ。部下であるナザリックの鍛冶長(なんと女性)も同行している。あまのまひとつの前での態度は姉御気質で素っ気ないのだが、うん、バレバレですね。
「良かったですね!」
「へ!?」
トールや気付いた面々は、とてもいい笑顔であった。
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その後の文官との相談では、竜王国側としては今後の長期計画の積りで再建案をトールや教授達と協議する事となった。竜王国側は「こうだったらいいよな」的な、セカンドプランも織り交ぜていた訳だが、トールは前線とは反対側から自重を捨てて計画通りに再建を進める事となる。資材はと言えば、竜王国はビーストマンとの戦いが無ければ木材に石材に鉄と揃っていたりするので、ゴーサインが出れば王国側から前線に向かって絨毯爆撃のように着手する予定である。
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「このたびも、皆様のさんせん、心よりかんしゃを」
幾度目かの竜女王との謁見。ペロロンチーノは「相変わらずの御御足と角度っ!」と内心はテンション爆上がり。姉は弟にジト目。たっち・みーは平常通り、モモンガさんは泰然としている。いつもならそのまま終わる所、宰相から別室で話があると伝えられる。
「まー、俺らが魔導皇国関係者ってのは知られてて当然でしょうから、それ絡みでしょうかね?」
「恐らくはそうでしょう。再建時の国境には、トールさんに頼んで大規模な防衛ラインを引いてもらうそうですが、流石に同盟やらは受けられない」
「トールさんの防衛ラインって、あのテストで見た自動迎撃の? 痺れさせて拘束して、国外にぽーいする?」
殺さないだけ有情と言いつつ、るし★ふぁーと共同開発したゴーレムアーム付き防衛タワーは、範囲内に近づいた一定以上の大きさの存在を尽くテーザーの電撃で狙撃、ネットで拘束した後に竜王国の外へ「投げる」機能を持つ。補給については「ユグドラシルのゴーレム」として、時間回復で限度はあるがスキルで実質無限というある意味チートである。それを国境線にずらっと等間隔に並べて、防衛ラインを構築する計画だった。ビーストマンの国での食糧事情悪化待ったなしである。
「今回で女王ちゃんも見納めかぁ…心に焼き付けておこう」
「愚弟もぶれないな…」
「そしてトランキルレーンで印刷!」
「…ほんとぶれないな!?」
「インフラ周りの受注って、採算は取れるんですか?」
「トールさん曰く、衛星軌道上の地下調査では埋蔵資源で十分国内も賄えて、将来は輸出に商会を絡ませるそうです」
「ゴーレム辺りを派遣するんですかね?」
人的資源が減りすぎているのがネックであるが、戦後を見据えた介入も抜かりはない。
「いや…、うちの宰相ズの提言で、今回はまず無人地帯中心に出して貰って、ゲリラ的に潜伏しているビーストマンの狩り出しと魔導皇国の力を示します。戦後も文官と作業にモガさんのアンデッドを使います」
「え、俺の? 驚かせちゃいません?」
「ああなるほどー」
「野良アンデッド発生対策を練ってたのもそれか」
帝国への道中、カッツェ平野での出来事から野良アンデッド発生対策は少しずつ試していた。魔法的に負の領域となっている場所でオーバーロード状態になると野良でアンデッドが現れる。野良アンデッドはお骨様状態のモモンガさんがスキルで支配できるが、魔法的に負の領域を加速させる力はたれ流しである。しかし、モモンガさんが手ずから用意したアンデッドについては、そういった影響を及ぼさない事が判明していた。
そんな訳で、カルネ村は安全であるし、首都ナザリックの内壁を巡回するアンデッド達の移動エリアでは野良のアンデッド発生は無いので、予備戦力として考えていたのを方針転換、魔導皇国の力を示す事にした。
ハイリッチ系は外見はともかく、不眠不休で働ける訳で、人的資源がまだまだ不足する竜王国へ多大な恩が売れるだろう。
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さて、竜女王との非公式の会談である。向うも始まりの九連星が魔導皇国関係者というのは既に察知しているという事で、竜女王と宰相の顔に緊張があるとAOGの一行は判断していた。
一人、そういう空気そっちのけで「可愛いなぁ」と、仮面の下でデレデレのペロンことペロロンチーノを除く。
「魔導皇国の皆様、この度は我が国への参戦、繰り返し感謝を申し上げる」
可愛らしい姿のまま、凛々しく顔を引き締めた竜女王が感謝を述べた。これまでの情報では、長寿とは言えまだ幼い少女と考えていただけに、AOGの面々は驚いたり関心したりと様々な反応である。
「驚かれたか? …これも妾の側面なのじゃ。今のこの姿もな」
そう言って宰相を見る。宰相は首肯。軽く魔法発動時のような発光の後、そこには幼い姿の面影を残した、美女が立っていた。ペロロンチーノは「可変型のじゃロリBBA!?」と内心エキサイト。テンション爆上がり。
「これまでの支援も並々ならぬ物であったが、これから申し上げる事は、その…かなりの無茶だと考えておるのじゃ」
「…聞くだけなら。判断は流石に即答はできない」
重々しい声で答えるモガさんことアインズ様。同席している面子も同様である。若干一名除く。
「我が国の為、その…ペロン様と、と…こ、婚約を!」
「…はい?」
美女の姿ではあったが、もじもじして指を合わせたり離したりする仕草をするドラウディロン。
「じゃ、じゃからその…結婚を前提にお付き合いを! 無理ならこ、子種でも構わぬ! 保護国として、魔導皇国の力添えの代わりに妾の身を差し出す!」
AOGの面々は流石に呆気に取られた。ウルベルトやぷにっと萌えがこの場に居ないのも痛い。が、この男は空気を読まなかった。
「喜んで!」
「「「ちょっとまてぇ!?」」」
「おま、お前、シャルティアどうすんだよ!?」
「自分が第一夫人なら、他も嫁は沢山居ていいって言われてる! むしろばっちこい!」
「「シャルティアぁあ!?」」
謁見室での姿からかけ離れているので、竜女王と宰相も呆気に取られているが、ばびゅんと音が出そうな勢いで近づいたペロロンチーノは、跪いて竜女王の手を取った。
「ドラウディロン女王…いや、ドラウ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「魔導皇国としてはすぐの回答はできない。だが、私だけでも構わないなら、ドラウが守りたいこの国の為、できるだけ力を貸そう」
「わ、妾のこの身も、受け取ってくれるか?」
「勿論だとも」
仮面を取り、今迄見たことも聞いたことも無いイケメンボイスでドラウディロンに囁くペロンことペロロンチーノ。流石は声優の姉を持つ弟か、役者としての才能はこの男にもあった様子。
宰相、くるっと背を向けてからガッツポーズ。アインズさんとたっち・みーは「やられた!?」という感じ。茶釜さんは呆然としている。
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非公式ではあるのだが、全力のペロロンチーノの意志は固く、撤回は難しかった。急いで呼び出されたぷにっと萌えとウルベルト、ついでに引っ張られたトールは、少々恨みがましい視線を成立したてのバカップルに向けてから、宰相と大まかな方針を決めていく。
・四十一皇のペロロンチーノと竜女王の婚約
・魔導皇国は竜王国を保護国とする
・防衛戦力を定期的に派遣、常駐させる
・地下資源の優先購入権を魔導皇国が得る
・インフラ整備を魔導皇国関係商会が優先受注する
・竜王国が武力で他国を侵略しようとしない限り有効
大雑把に言えばこんな所だ。属国化と等しい内容ではあるが、完全に竜王国を魔導皇国の領土とするのは魔導皇国側から拒否。見守る立場で、竜王国の独立と発展を支援していく形である。
「…ありがとう、ございます」
相当な狸である竜王国宰相ではあるが、正式な書面として締結し、具体的なプランとして出された戦後の再開発計画の内容には、涙を流して喜んだ。
ここで国によっては反故にする事もあるのだが、ペロロンチーノの存在がその可能性を失わせている。
「…どっと疲れました。ペロさん、勢いありすぎ」
「確率の低い想定だったが、物の見事にひっかかりました。プランは少し修正しておきます」
「あのやろ、二人目かよ!」
先達としてメイドスキー連のハーレムがあるし、トールは既に嫁と嫁の娘を伴侶として得ている訳で、流石にこの怒れるというか嫉妬まみれの世界災厄を宥めるのは逆効果と、曖昧な表情しかできなかった。
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さて、竜王国の戦線は大詰めを迎えていた。傭兵としての参戦であるが、原典とは異なり竜王国側は優勢だ。奪われていた最後の都市を奪還し、犠牲者の弔いを済ませて士気を高めつつ、慎重にじっくりとビーストマン達をかつての国境線まで押し返して行く。
その中には、ヒョウガこと人化したコキュートスが率いるリザードマン達と、その強さと武人としての姿勢に惹かれた他の傭兵や冒険者が混成部隊となっていた。
雑多である筈がその統制が取れた奮戦ぶりから1つの部隊として扱われ、仮ではあるがヒョウガ隊として呼ばれ、頼られている。
「案ずるな、所詮は多少知恵を持つだけの相手、ここまでついてきた貴殿らが負けることは無い」
魔導皇国からの支援もあるとはいえ、異様なまでの速さで進軍してきたヒョウガ隊は、居るだけで竜王国側の士気を高め、ビーストマンの心を挫いた。
「我が父にして我が師、武人建御雷様、我が武錬と忠義をとくとご覧あれ!」
タケミカヅチ。始まりの九連星が一人にして、聖騎士タッチと強さを並べて語られる強者、その子供がヒョウガ…。竜王国側はさもありなんと納得し、味方の為に自ら武器を振るって戦場を動かす姿に勇気付けられる。
「…ふふ、我慢させ続けだったからな。俺も負けられん」
報告を受けているタケミカヅチこと武人建御雷もまた、高位スキルは制限しつつも、我が子の活躍に泥を塗る訳には行かないと獅子奮迅の活躍である。
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今回の意図としては、参戦しつつもコキュートスを中核として存分に「常識の範囲で」魔導皇国の力を示す事にある。AOG側は戦闘メンバーがほぼフルメンバーであり戦力過多な訳で、裏に居るかもしれない謎の勢力の炙り出しを考えると一瞬で終わるのはよろしくない。じりじりと前線を押すのも犠牲者を極力抑える心算である。
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後方支援についてはもう、既に戦後で復興事業が開始しているのかと言わんばかりの、道はできるわ建物や城壁、砦は直っていくわ、食料は今迄食べたことも無い美味が出てくるわと、大盤振る舞いである。無論、後方支援活動中こそ警戒は強い訳で、ウルベルトとデミウルゴス指揮下のシャドウデーモンと、恐怖公の眷属達、そしてアイボットが諜報網を強固に敷いている。
ニグンを指揮官として編成された、依代や触媒を用意して召喚、その後に人化させた天使の神聖魔法部隊も戦場を巡っては負傷者を癒やしていく。中でも、やまいこ所有のガチャ産の傭兵モンスター「ナイチンゲール」は、ニグン達もドン引きする勢いで駆けずり回り、死んでいなければ兵士を回復させていった。
「私には信仰心などありません。天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者です」
そして今、満を持してモガことアインズ様とトールがあーでもないこーでもないと試行錯誤の末、準備する事ができた特殊なアンデッドの一団の準備を進めていた。
「盲点でしたね。ヴァルキュリアが来た頃には維持に躍起で、召喚可能アンデッドにこんな種類が居るとは…」
「性能は微妙ですし、試しに召喚してあとは忘れてたとか?」
「あー、そうかもしれません」
「おーいモガさん、準備いいぞー」
「それじゃ並べて出しますね」
トールはPip-boyのインベントリからある建造物を選択して設置。建造物とはいっても、高さ30cm程のコンクリートの床である。ただし、横にずっと長い上にずらりと並ぶのは、レイダーパワーアーマーの一団だ。既にフュージョンコアはセット済みで待機姿勢である。
少し竜王国の城壁から離れた場所ではあったが、城壁の上から見ていた兵が、何をしているのかと興味深げに集まっていた。
「では…<転移門>」
転移門が開き、中から特徴的なツナギ服を着たスケルトン達が整然と歩調を合わせて現れた。頭部にはヘッドセットと一緒になったゴーグルを付けている。
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アップデート「ヴァルキュリアの失墜」で追加された、ある特定MOBを倒した際に最後に出てくる事がある特殊なアンデッド「スケルトン・スーツオペレータ」である
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これは、以前に実装された特殊な装備アイテムである「パワードスーツ」を装備して出てくるアンデッド系のMOBであり、攻撃でHPが全損せずパワードスーツが破損した状態に限り、最後に飛び出てきて手持ちの小型爆弾で自爆攻撃をしてくる、少々嫌らしいMOBであった。尚、このアンデッドが装備するパワードスーツは劣化している設定なので、プレイヤー用パワードスーツ部品、あるいは補修用ジャンクが運良ければドロップする程度である。
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何故このアンデッドを用意したかと言えば、
「パワーアーマー装着したアンデッド兵団って作れませんかね?」
というアインズさんの思いつきにトールが乗っかり、人化せずにパワーアーマーを装備できるアンデッドが居ないものかと調べていて思い出し、試してみたら装着できたためだ。
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ユグドラシル産パワードスーツは、ウェイストランドでみかけるパワーアーマーより二周り以上大きいものが大半だ。装着というより搭乗に近い。
最高のパワードスーツで80レベル相当なので、トールが所有しているバニラなT-60fパワーアーマーと同程度の防御性能を有している。
ただし、装備自体の戦闘能力ではユグドラシル産パワードスーツに分がある。制限はあるものの、なんと最大で第十位階の魔法をセットして使うことができた。
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コストの面ではユグドラシル産パワードスーツはかなり分が悪い。おまけに今回用意したのはレイダーパワーアーマーだ。ジャンクを貼り付けた有り合わせのような外見で、性能も「まあパワーアーマーよな」という程度なのだが、修復含めてとてもコストが安い。既にアークリアクターの運用に移行しているため、フュージョンコアは(一時間の生産総数の1%にも満たないが)在庫処分の意味もあったりする。
閑話休題。
「装着開始」
スケルトン達は手慣れた動作でパワーアーマー後部の装甲カバーを跳ね上げ、フュージョンコアが真ん中にあるバルブを回す。圧縮空気音がして、ガチャガチャとパワーアーマー後部が展開、スケルトン達は中に入り込み、パワーアーマーの後部が閉じてロックされた。
『スケリトルパワーアーマー隊、準備完了』
何故か、パワーアーマー装着時だけ流暢に喋る。確かに指揮用に直接上位のスケルトンも作成したが、喋る事は無かった。レイダーパワーアーマーには外部マイクはあるが、ついぞ理由がわからなかったりする。
「うむ、問題あれば申告せよ」
『問題無し。ご命令を』
「…では命令を下す」
アインズさんは、人化した姿、学士モガの姿であったが、優美なデザインのローブをぶぁさっと広げた。
「竜王国を支援し、ナザリックが威を示せ!」
『イエス、ユア・マジェスティ!』
元がレイダーパワーアーマーであっても、一斉に整然に動けば迫力があった。フュージョンコアも全力移動でまる5日は動作できる量を個々に準備してある。
『駆け足! 進め!』
不格好でも鋼鉄の鎧の大男が集団で走り出す訳で、合わさった足音は周囲の鳥を飛び立たせた。
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スケルトン・スーツオペレータは20LV程度のアンデッドだ。その為、スキル「アンデッド作成」では王国内で歯向かってきた盗賊団や元貴族、その私兵の遺体を材料にしたのだが、部隊編成する数が数だけに足りなくなってトールからレイダーのMOBグレネードを追加調達した程である。
死の騎士は破格の強さを持つ使い勝手がいいアンデッドではあるが、従者ゾンビを自動生成する事から今回は投入を見送った。
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そうして編成したスケリトルパワーアーマー達は数にして500。LVはビーストマン相手なら十分強い20の上に、防御性能はLV60相当だ。魔法には弱いだろうが、物理攻撃を主とするビーストマン達を蹴散らすに十分だった。
武器は「膝砕き」付き速射式コンポジットクロスボウと、凶悪な形をしたメイスである。
速射式コンポジットクロスボウは、ただでさえ物理攻撃上は強力なコンポジットクロスボウのドローフォースを、パワーアーマーの膂力で強引に速射化、強力化した代物だ。唯一付与された「膝砕き」のレジェンダリ効果で、当たれば脚部に深刻なダメージを与えられる。威力自体も人間が使う同じ大きさのどの弓よりも強く、それが速射でばら撒かれるようになっていた。
出撃後は二列横隊で重量感ある足音を立てながら前進し、哨戒に出ているシャドウデーモンと連携して徹底的にビーストマンを駆り出していった。
『野郎ども! ナザリックを愛しているか!? アインズ・ウール・ゴウンを愛しているかっ!? クソ野郎ども!!』
『ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!』
『征くぞ、獣頭を片端から叩き出せ!』
アイボット経由で短距離無線通信から流れてくる彼らの声…、トールは聞こえないフリをした。
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ビーストマンは、主に肉食動物の頭部を持った亜人種だ。食料の好みは肉であり、以前は竜王国というのは自由に狩れる良質な狩場と同義だった。
しかし、数年前から状況が一変。幾人もの勇者や猛者、狩人が人間側によって討ち取られ、弱いはずの人間が意地の悪い方法で反撃し、今やビーストマンの古来の支配地域近くまで追いやられていた。
原因はよくわかる。古株であればあるほど、その名を聞けば震え上がるあいつらがまた、現れたのだ。
「…前任は、よくも取りまとめていたものだ」
体躯に恵まれた虎頭のビーストマンは、我の強い部族の者とその頭の動きを差配していた前任者を素直に称賛する。ただ、既に先日、空飛ぶ船から降り立った遠穿と双盾によって討ち取られた。無論、その後は戦術も何もあったものではなく総崩れだ。
おまけに、一時は有効だった退いて迎え撃つ手法は、慎重に進んでくる人間たちの歩みを鈍らせる事には成功していたが、損害を出すのは決まって此方であった。
「…あの船は、空から我々を睥睨している」
多少なり集団での争いを指揮した経験があれば、その恐ろしさはよく理解できる。この虎頭のビーストマンもそれが理解できる数少ない一人だった。
既に大勢は決していた。それに、虎頭のビーストマンにとっては「義理」での参戦であり、肉の好みも平原の者とは違うので士気はもうダダ下がりである。おまけに数少ない敬意を払えた取りまとめ役は居ない訳で、他は部族ごとに攻撃しては敗走するの繰り返しで、戦術も何も無い混乱状態だ。
それでも人間側は慎重であり、奇襲を警戒し、端から端まで隅々を捜索し、せめて一撃を、あるいは血の滴る肉をと逸る連中を駆逐している。
「時は過ぎた。義理も果たした。我々は撤退する」
「はっ…」
虎頭のビーストマンは部下に命じて、率いてきた部族の撤収を指示。ここにはもう惜しい物など…いや、一つある。
「…あの、ボソボソとしつつも少し甘い食べ物、最後に食いたかったな」
竜王国の人間側が、水や茶と共に食す携帯食料という奴だ。恵まれた体躯ではあるが、部族が暮らす地域は他の生物との争いが過酷だ。そんな中、初めて味わう未知の甘味は、人間から奪った物とはいえ部族の戦士達は虜になった。
他の部族からはゲテモノ食いと蔑まれたが、飢えに怯えた事も無い連中の戯言と聞き流していた。他にも携帯食料とやらに魅せられた部族が居たが、大抵は近くで暮らす同じような労苦を味わっていた部族であった。
「欲をかいても仕方無い」
「族長、古狼と牙犬、斑爪も同調しました。これで近隣部族は全て出揃いました」
「…そうか。では撤収」
中央で国を構える肥え太った部族や、人間などという狩りやすい獲物ばかり狙っていた部族共は後で罵り、詰ってくるであろう。だが、虎頭のビーストマンは意に介さない。彼には守るべきものがある。
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そして、元は人間の砦だった一つの拠点から、複数にしてそれでも極小数のビーストマン達が去った。
他のビーストマン達は、人間相手に生存者一人無く全滅した事をせせら笑う者も居たが、この最後の竜王国の攻勢で生き残ったビーストマンは、その部族達を除けばごく少数であった。
「いいのかな逃して?」
「恐怖公の調査だと、この部族の一団が棲む地域は、人間は好みじゃないみたいです。後々に懐柔工作する布石ですよ」
「あの携帯食料を美味いとか、舌が人間寄りって事か」
「ふむ」
「なんだよ、それなら俺の料理でもちょいと振る舞えば懐柔できたのか?」
「即落ちですよ多分。ただ、時期が悪いんで」
「了解。そりゃそうだな」
さて対ビーストマンは概ね済みましたが…