荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
トールの修めている医療は、ウェイストランド式、現代医学の発展型、医療ポッドとES細胞による再生治療、ナノマシンによる完全構築医療と大まかに別れる。
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基礎DNAから設計、構築して育成時に必要に応じたデザインすら可能な完全構築医療は相応の施設が必要となるが、拠点世界においてはユグドラシルポーションや魔法があるので、滅多なことでは使うことがない。医療ポッドによる治療も同様だ。
現代医学の発展型も様々な機器が必要だが、コンピュータ類が必要無いだけ少し敷居は低い。ただ、Mrナニーのプリセットに医療ソフトウェアがあるため、これもトールが振るうことがほぼ無い。
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さてウェイストランド式であるが、野戦病院さながらの酷い環境下で足りない機材をやりくりして治療を行うもので、コストとしてはとても低い。医療免許なんか無いウェイストランドにおいて、スティムパックの刺し方やRAD治療薬の投与方法、あとは整形外科としてちょっとだけでも抜きん出ていれば、医者を名乗っている者が大半であった。まあそれでも治療はできている訳で、対象が頑丈なウェイストランド人というのを差し引いても、迷信が蔓延る時代や世界の医療に比べればマシと言えなくも無い。
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トールの腕前は、様々な補正込みでスキル値換算で200近いし、治療行為に集中するなら装備も揃えるのでそれを超える。またPerkも関連するもの、別途習得したものも含めてそれぞれが最大値だ。スティムパックの再生痛を除けば、開放骨折だろうと一瞬で正しい位置に直して治療できる。痕も残さない。
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死ぬ一歩手前であろうとかなりの確率で治療できる訳で、拠点世界に辿り着くまでの間は基本がそれであり、また、転移実験で行った先で緊急用のポーション等の使用が憚られる場合は専らウェイストランド式での治療が主だった。
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だが正直な所、ウェイストランド式は治療を受けた者やそれを見てしまった者の忌避感や恐怖感が大きい。
なぜかというと、主に放射線除菌状態で、現代医学のそれより隔絶した様々な方法で痛覚を遮断するのだが、クランケの意識はそのままなのだ。目を開けていれば施療部の状態が見えるし、目を閉じていてもグチャとかキュイーンとかギコギコとかブッシャーとか聞こえる。治療を受ける相手の精神衛生上よろしくない。
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前置きが長くなったが、竜王国のインフラ含めた復興支援の傍ら、トールは更迭されてくる怪我人の治療にも従事していた。
神聖魔法系を修めるやまいこや、るっく・みーときゃっち・みー親子、ペストーニャ、ルプスレギナ、そしてニグン達が居るには居るが、魔力は有限であり戦線は広い訳で、その補佐にまわっている。
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死んでなければ前線へ復帰できるのは大きいし、やっと父祖の地を奪還できる手前まで来たのもあり復帰組の戦意はとても高かった。
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ただ、トールの治療を受けた兵士や傭兵、冒険者たちのハイライトが死んでる事に気付き、やまいこが言い辛そうに伝えた。
「…トールさん、傭兵モンスでカバーするので、治療は緊急時のみで」
「…はい」
そんな訳で、戦線も終盤に差し掛かる頃、トールは後方支援として物資の差配がてら、ウルベルトやカワサキと共に街道の整備と都市の拠点化を行っている。
既に整備済みの街道ではゴーレムに偽装した木製車輪に見える脚部を装備したロボット部隊が常に往復していて、移動する兵士や竜王国の国民を警護している。
「…ものすごい勢いで何かが移動していったと思ったら、今迄歩いてきた道とこれから向かう先が石畳になっていた」
「俺もそんな馬鹿なと思ったら、高台から眺めた道が綺麗に舗装されてた」
竜王国ではビーストマンの襲撃以降、大抵の生活空間は城壁を築いた都市に集中している。ビーストマンの生来の機動力で後方すら危険だった訳で、壁のない街や村が耐えられる訳が無かった。
「とりあえず、面積は4倍か」
「さらっと言ってるトールが怖い」
慣れては居るが、ウルベルトは微妙に顔を引き攣らせている。
地下の上下水道を整備し、それに合わせて既存の建物から城壁を除いて再配置、井戸やトイレ、下水道などを整理して設置する。城壁は以前よりも高く、堅固な物に置換していく。偽装用に作業用ゴーレムを多数引き連れては居るが、何かをしている仕草で城壁前でえんやこらしているだけの姿はちょっとシュールである。
当然ながら、都市の住民や防衛に携わる兵士達は、アハ体験よろしく目を離した隙に変わる、見慣れていたはずで見慣れなくなった街並みにポカーンである。
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完成し、だだっ広くなった都市の広場では、カワサキが配下の人化シルキー達やナンバーズと共に、大鍋で料理を大量に作って振る舞う。今までは保存食料ばかりであった竜王国の人々は、温かく染み渡り、野菜も多数入っていて、今迄味わったことの無い美味に喜んだ。
今日の献立は、豚肉を使わない豚汁…謎肉汁である。
「しかし、この謎肉って面白いな。元は大豆なんだろ?」
「ええ、生前世界の有名なカップ麺メーカーの物が原形です」
「ビーストマン相手だと、肉関連はトラウマになってる人が多いって話だからな」
横で一服していたウルベルトが、苦い顔をしている。この中で一番多く竜王国の戦いを見ているだけに、過去の惨状を思い出していた。
「トール、そういや今回、スケリトルパワーアーマーの外装が変わってたが」
「あれは、元は別ナンバリングで出てきた、シナ製のパワーアーマー外装です」
「そういや、ウェイストランドってアメリカと共産中国がドンパチやったんだっけか」
レッド・シフト・パワーアーマー。元はFallout76のパワーアーマー用スキンで、頭部は潜水服のように丸く、目となる外部カメラが3眼に、外見がブリキ缶のようなデザインになる。76用のモデリングデータを4用にコンバートした少々出自に問題があるMODで、トールも非公式なサイトで入手した代物だ。特徴的な緑色に全体が塗装され、胴部へ赤い星印、美帝必敗と文字が入っている。
「ビーストマン相手なら弱くは無いだろうが、どのくらいの強さなんだ?」
「そのままジャンクビルドでございっていうレイダーよりはマシかなと思いましたが、どっこいでしたね…」
性能はレイダーパワーアーマーより多少マシ程度だ。設定でも、中国軍はパワーアーマーの実用化に手間取り、パワーアーマーを正面から相手取るのを諦め、ステルススーツによるゲリラ戦術にシフトしたとされている。
「ドイツ系って無かったのか?」
「実装や設定にも無かったですが、非公式にはいくつか。アインズさんに勧めてはみたんですが…」
「「あー」」
パンドラズ・アクターの事もあって微妙にまだ黒歴史らしい。トールとしては、戦術機やら某軍用レイバー外装やらアームスレイブやら、装甲幻想なパーツデータを用意しておいたものの、アインズさんが惹かれたデザインの出自を聞くと大抵がドイツ繋がりという事で、真面目に凹んでいた。
「別に、カッコいいのは否定しないんだから、いい加減慣れればいいのに」
「だよなぁ」
「私もそう言ったんですけどね」
後に、赤い眼鏡系デザインのパワーアーマーパーツを装備したスケリトルパワーアーマー隊を指揮するまで、アインズさんは頑なにドイツ系デザインを避けた。
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さて、後方でのんびりしている状態だが、前線もまた押し上げられてはいるものの、戦闘自体は散発的だ。これはビーストマンの士気が、指揮統制と共にほぼ崩壊しているせいでもある。
身体性能を活かして、集団で一斉に襲いかかるのがビーストマンの恐ろしい戦法の一つであったが、今はほぼ数名か単身で襲いかかってくる程度だ。いかに人間の成人男性の10倍の能力を持とうと、正しく鍛錬を積んで(レベル5以上)装備も調った集団には敵うことが無い。
『此方シーカー1、前線は崩壊、Bヘッドは撤退戦に移行中。現地戦力は平均20以下、一部は40以上、前回データと同じ』
『こちらCP了解、監視続行を』
『シーカー1了解』
『CP、CP、こちらシーカー2、現地戦力にレッド、繰り返す、レッド確認!』
『…こちらCP、間違いないか?』
『確認した事の無い装備だが、カンジを確認している。画像を送る』
『…確認した。シーカー各位、不要な暴露を避け、ポイントプランCへ』
竜王国の戦いを遠くから監視していた者達は、前線で確認した極めて原始的な装備の兵力の中に、明らかに技術レベルが異なる上、特徴的な外装をした装備を纏う部隊を確認した。
「…くそっ、派閥違いだけでは無かったのか」
「あの数はかなりまずいですね。奴らが我々に気付かれず、兵力を送り込む手段を確立した可能性が高くなりました」
「報告のあった飛行船も、以前のデータより大きいことが判明している…至急、本部へデータを」
「了解です」
トールとアインズさんの思いつきで、投入されたパワーアーマー部隊。お遊びの外装変更だったのだが、これによりAOGを遠くから監視していた連中のその上に、大混乱を巻き起こす事と成った。
AOGの調査網のほんの珍しい死角へ偶然にも入っているその組織の調査隊は、驚きと焦燥を飲み込みながら移動し、監視を続ける事となった。
レッドシフトパワーアーマーの件は、正体不明な組織の勘違いです。