荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
竜王国からビーストマンを追い出す戦いが計画通り進む最中、後方で起きた謎の…いや、人間だったAOGの面々が生きた22世紀の企業複合体らしき戦力による襲撃事件。敵対プレイヤー「ヨイヤミ」とは別枠ではあるが、近隣諸国の裏に潜む勢力の引きずり出しの成果である。
情報を受けたAOGのメンバーは、前線で戦闘中の仲間を除いてナザリックギアの遠距離通信モードを天幕の中で起動。竜王国に居る後方支援勢、首都ナザリックに残ったロマンビルド勢を中心に情報共有を開始する。
「戦闘中の皆さんは、予定行程まで消化次第、後追いで参加を」
トールは事前の対策で完全に防げなかった事から、当事者としての報告はするものの、かなり凹んだ様子。ただ、手元で操作する端末には報復準備にと、拠点への増産命令が並んでいる。
「支障の出る怪我でなくて何よりだ。プレイヤー相手という想定でなら、トールにダメージが通ったならカンストでも非戦闘職なら危なかっただろうさ」
『俺は予定通りの地点まで戦力を押し出します。ぷにっと萌えさん、コキュートス達は?』
「予定通りですね、リザードマンの損耗もありません」
『俺がコキュートス達の所に増援に行く』
『えーと、やまいこさんは…ああうん、既にトールさんの所ね、おk』
共有した映像の最初が次々と撃たれて踊り倒れ伏すトールの姿だっただけにメンバーは動揺していた。その直後、アクロバティックに動いて無事さ加減をアピールしていたのでほっとしていたが。
実際の負傷はそれほどでも無かったものの、以前の転移後の呪詛血達磨事件やら、ヨイヤミの攻撃による達磨化事件などで散々心配をかけただけに、やまいこはトールの隣でべったりである。いつも大怪我すると達磨になってんなこの男。
いつもなら嫉妬マスク同盟が目線でビームを撃つ所だが、起きた状況が状況だけに今回は保留。
様々な防護手段を取っていた筈のトールが少し負傷する攻撃は、銃弾の他、巡航ミサイルもダメ押しにぶっ放してきた訳で、弾頭の詳細は分析中だが侮る訳には行かないだろう。
武器自体は兎も角、過剰電力の弾体加速による銃撃についてはトール曰くハイパーベロシティ、超音速の「弾が着弾でエネルギーになる速度」の攻撃だったと分析。
また、攻撃者の武器を強制的に取り落とさせるレジェンダリの特殊効果は、遠隔固定砲台であった事で効果が発揮出来なかったのも運が悪い。
これだけやっておけば、という油断を突かれた形だとトールは肩を落とした。
「…トール、今回の件、虫のいい話だと重々承知なんだが、やり方について、俺らに譲ってくれないか?」
攻撃を受けたのはトールであり、報復の権利は勿論トールにある。やられたらやり返し、その上で相手の資源を尽く奪い尽くすのが荒野の災厄のやり方だ。
準備を進めている戦力はウルベルトには想像もつかないが、相手陣営は出所を確認され次第、数の暴力で押し潰されるだろう。
山だろうが谷だろうが森林だろうが要塞だろうが都市だろうが、文字通り更地にされる。谷が平野というか荒野になるのは、逆に整地され埋められてると言う点ではギャグかもしれない。やられた方は呆然とするが。
これは今まで敵対してきた勢力への標準的な対処だ。あとは気に入るかそうでないか、という単純な方針だけである。そしてそこには、トールは何の感慨も抱かない。
「ふむ? 取り敢えず聞きます、ウルさん続けてください」
「攻撃は俺らのリアル…22世紀の企業複合体傘下の攻撃部隊なのは間違いない。連中が居るって事は、あの地球からここに来る手段が確立されているという事だ。こちらの世界での連中を制圧し逆侵攻し…ええと、次元データと言うか…」
『向うの次元座標周波数を調査の上、トールさんに次元転移装置を使ってもらう?』
ウルベルトが「言うなよ…」とガーネットの付随内容に不満げだが、概ね一緒という事で追加は無い。
「…成程。私のやり方だと一斉掃除して終わりですからね。いいでしょう、こっちの方がやり甲斐がありそうだ」
「いいのか? これまでの次元転移装置の調査、無駄にするような物だし…」
「いいですよ。少し行き詰まってたのもありますが、目標が達成できるなら何でも良いんです」
トールとしては、攻撃を受けたら反撃というのは考えるまでも無い自然な事だが、理由さえあれば報復を一時的に止める事に何も問題は無い。ましてや、以前から考えていたAOGのメンバーの里帰りだ。何も考えない数の暴力による更地化よりは、色々と楽しそうだというのもある。
「…感謝する。モモンガさん、今、大丈夫か?」
『はい、聞いていました。細かい所は竜王国の攻勢が終結してからですが、報告兼ねて全員での議題にします』
「「「異議なし!」」」
AOGのメンバーの中で思う所のありまくる面子に暗い笑みを浮かべさせた。
◆
「所で、ワークショップの範囲で連中の場所を特定とかできない?」
「この世界の法則というか、主に職業とか魔法といった要素が被せられてるせいか、他の次元と違って直接開拓していかないと制御下にはいらないみたいなんですよね」
「あー、ナザリックも対象外って言ってたな。コンソールとかは?」
「直接手に触れればわかりませんが、この世界の存在はID割り振りが無いので操作対象外みたいです、残念ながら。ウェイストランドでも物理科学現象を超える事や、世界の法則自体を対象にはできませんでしたし、こっちだと外装なら兎も角、ユグドラシル系は物も人物もほぼ無理です」
「ウェイストランドで制限ありなら、他の世界でも対象外になったりならなかったりか。まあ仕方ない」
◆
さて、企業複合体こと企業連合部隊、ウルベルト曰く「企業連」は、後方のトールの所だけではなく、竜王国に飛来して停泊していた飛行船、スキーズブラズニルにも攻撃を仕掛けていた。
ただ、攻撃を受けたレポートを提出していたものの、ダメージスケールログが宇宙戦闘用基準であったのが災いし、巡航ミサイル以外の攻撃については、報告自体が定時連絡で行われた。
『此方、イマジナリ・ニューです。スキーズブラズニルに受けた攻撃についてデータをお送りします』
「ええと…、巡航ミサイル3発、高速弾が推定13,000発で、対デブリ用シールドが18秒間、1%低下…」
「巡航ミサイルは近接防御レーザーで破壊。ダメ押しに、護衛に詰めていた俺の魔将の魔法で原子分解か、よくやった」
「やはり目立つだけにそっちも仕掛けてたんですねぇ。宇宙デブリ対策のシールドが反応って事は、北米で使われてる小口径電磁速射砲で確定?」
『行動に支障はあるか?』
『何ら問題ございません。巡航ミサイルを捕捉、迎撃後に前後のデータを再調査し、その際に高速弾と思しき反応を確認しました。フィルターの閾値を再設定した所です、申し訳ございません』
「…攻撃に気づいてなかったという事か」
「そりゃ1センチ以下の弾みたいだったけどさ」「宇宙デブリ怖い」「宇宙やばい」
報告が終わった所で、トールがダメージを受けた攻撃について、トール自身から補足が入る。
「多分、ダメージを受けたのは私が人間だったからでしょうね。…はいそこ、またまたご冗談をみたいなポーズ止めて。続けますね? 装備の破損を確認した所、あまのまさんに作って貰った物は破損は無かったんですが、自作の物に破損が。CON値は無くなってたものが復帰して減っていた状態になってて驚きました」
死蔵していた修理キットを使用したらCON値が元通りになりましたがとトール。
「科学技術の産物だけ破損? なら、俺らの装備なら…」
「非戦闘向きでもカンストビルド用の合致した神器級ならダメージも発生しないでしょうね。…これだから魔法ってずるい」
「ずるい言われてもなぁ。ただこいつは朗報だ、攻撃が戦場の霧にならなくて済む」
「って事でトールさん? 竜王国に居る間だけでも、表に出るならこれを装備しといて下さいな」
あまのまひとつが取り出したのは、深い赤をした長いマフラー。トールの体格だと、二回り巻いても胴の半ばまで垂らされる長さだ。
「御心配をおかけしましたし、有り難く頂いておきます」
「ユグドラシルのものは装備部位が被る箇所だとトールさんがオーラが通せないという話だったので、顔用装備として仕立てました
「所でこれはどういう装備なんです?」
「NPC達への神器級の用意も終わったので、余った素材とクリスタルで作った準神器級の防具です」
以前、もしもユグドラシル産素材で装備を作るなら、と話をした事があった。それを覚えていたと、あまのまひとつが言う。
頭、顔、胴、指輪右一つ、指輪左一つ、指輪を除く装身具三ヶ所、内着、腕、手、腰、足、靴がユグドラシルでの基礎装備位置だ。課金により指輪系は拡張できる。
ウェイストランドというかFallout4のシステム上では、頭部、眼鏡、衣服、胴、右腕、左腕、右脚、左脚だ。靴は衣服にセットである。重ね着MODと対応する部位分解MODにより、顔面、下着、インナー上下、アウター上下、左右手袋、靴、左右肩、外套などが加わる。
以前よりオーラを纏わせる事でユグドラシル産の装備をいわゆる「装備状態」にする事ができたが、どうやらFallout4のシステム外の位置では、期待された性能が発揮できない事が判明していた。
例外は指輪や装飾品だが、大きさ的にデータクリスタルの導入量が少なくなる。そこには耐性や無効化アイテムを突っ込んでいるので余裕がない。
そこで、バグが仕様になってしまっている顔面が融通が利くので、そこ用の装備を作ったのだった。
「こうして…こんな感じか。うん、オーラは通りますね」
「よかった。シルエットはシズっぽくなるかと思いましたが、これは違う感じで迫力を感じますね」
「どっかで見た感じだけど思い出せないな」
「私も見たことあったような無いような…?」
黒いゲッ○ーに乗っている人から殺気を差し引いて、左右を少し細身にした感じだろうか。普段のトールの眼光は鋭くないので、なんというか頑張ってコスプレしたけど作品コスと判ってもらえても、元キャラの迫力には全く敵わない感じかもしれない。
「<上級道具鑑定>…おおう、近接防御は少しだけで、魔法のダメージを割合減少、投射系攻撃をこれでもかと防ぐタイプなんだな」
『ちょwww模擬戦で俺wwww産廃にwwww』
『よかったな愚弟! 弟の嘆きで飯が美味い!』
遠距離通信先、前線の陣にある天幕内で、草を生やしつつも撃沈するエロゲバードマンである。尚、流石に模擬戦では使わないとトール。本人の矜持というか個人的ルールとして、自身の技術で製造や生産ができない装備はなるべく使わないというのがある。まあユグドラシル産の素材やデータクリスタルを使い始めているので形骸化しているが。
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トールはPip-boyを操作してセット登録。ステータス表示を確認すると、SPECIALには増減は無いが、防具効果にカッコ書きで上乗せの値が表示されている。ウェイストランドでは突破できなかった、ダメージ軽減率が射撃に限り100%超えだ。ただ、どうやってユグドラシル産装備のデータを検知しているのかは、トールにもわからない。
「口元隠したヒーローみたいな感じになったな」「忍者っぽくもある?」『俺のアイデンティティがっ!?』『ガチ忍者ステイw』
『トールさん、明日はこっちに一度来て下さいよ?』
『あ、俺も見たいです!』
「たっちさんとギルマスの琴線に触れたか」
「え、ええ、数日中に長城跡の確認ですから、向かいますが…」
「いいですよ、ボクも同行しますから」
ちらと隣のやまいこを確認し、許諾を得た。
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その晩は竜王国全土を再度、山狩りというかテラーユニットの再調査を待ち、警戒網を再構築する。
果たして、AOGとトール達は、今回の襲撃者について詳細と手法、そして聖王国方面へ続く痕跡を見つけたのであった。
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一方、攻撃が失敗した謎の…というか、企業連の現地派遣部隊。
「恐らく…攻撃は失敗です。後方で陣地構築を指揮していたと思しきターゲットは着弾後、人類ではありえない挙動で跳ね起きています。身代りのドロイドだった可能性があります」
言われてますよトールさん。
「その後のミサイルも、超常攻撃で撃墜か。飛行船も同様と。我々はお偉方肝いりの間抜けな攻撃プランを採用したあげく、まんまと引っ掛かった訳だ」
「…記録されています」
「判っている。問題はドローンを主体にした偵察で、どれだけ精度を持てるかだが…隙間はもう無いと見ていいだろう。我々が居ること自体がバレたのはとても痛いな」
中々に有能である。
「はい。それと超望遠でのBH側からの確認で、レッドは偽装の可能性がでてきました。こちらを」
偵察からの情報でレッドと判断したが、その後の追加調査をしていればスキン切り替えに気づいて、もう少しマシな継続調査の判断ができたかもしれない。だが慌てた上層部は、相手の数百にも及ぶ戦力に半ばパニックになり慌てて攻撃命令を下した。後の祭りである。
「…頭部が特徴的だな。ヨーロッパというか」
トールが攻撃を受けた日、日替わりでスキンを変えていたスケリトルパワーアーマー部隊は、モモンガさんが悩んだ挙げ句、赤い暗視装置のレンズと頭部ヘルメットが特徴的なMODスキンにしていた。行軍していた場所が草原であったため、ビーストマンの勢力圏からはよく見えた。
そっち方面にステルス化した偵察ドローンを派遣していた訳で、ズラりと威圧感抜群のパワーアーマーが並ぶ光景を記録していた。
「ドイツ系デザインに見える? 自分も同意見です」
「当初はレッド、これはドイツ…撹乱という訳か」
撹乱の意図はあったが、ドイツっぽいのは元はトール、そして採用はモモンガさんの趣味である。スキン適用後、隊列をきっちり組ませて歩かせた時は、モモンガさんのテンションが内心で爆上がりであった。
「やれやれ、今から報告に頭痛がする。どうせ更迭だが、それまでになるべく自然食材を堪能するとしよう」
「司令…」
「後任がどこの派閥から来るかはわからん。だが、お前が残留なら、残った部隊の皆が生き残れるよう頼んだぞ」
「…はい」
ぶっちゃけ「世界級アイテム」には、トールの存在に依存するコンソールでは敵わないのです。
対抗しようと思ったら、それこそ次元世界一つをエネルギーにした法則自由空間を制御下に置く程の技術の累積が必要かなと。いつかは辿り着けそうですが、先は遠く果てしない