荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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時間的には、夕食会の少し後、金のガチョウを呼ぶ前です


幕間 守護者達の秘密会議

 全員では無いが、数多くの至高なる御方々の帰還。ナザリックの守護者以下、数多くの配下達はその知らせに狂喜乱舞した。ただ外部の居住拠点などの引き払いに時間がかかるとの事で、本格的な帰還はまだ先である。

 

「沢山の良い知らせに浮かれるのも仕方ないですが、我々の本分を忘れてはなりません」

 

 あの夢のような食事会での数々の出来事はいつまでも反芻していたかったが、ナザリックの守護者たる以上、本来の使命を果たさねばならない。

 

「ぶ、ぶくぶく茶釜様が一緒に住もうって言ってくれました。もっと頑張れます」

「頼もしいですねマーレ。他の皆もより気合が入っている様子。現状確認から参りましょう」

 

 カルネ村での出来事の報告。既に齎されている情報からの、周辺戦力事情と平均的な人間たちの強さ。文化や経済規模の概要と、周辺地理など。

 

 一部守護者は詰め込まなければならない内容に知恵熱を出しているが、勉強会も兼ねているので必死になって覚える。

 

「…食料問題は、少し問題ね」

「人間自体を食料にする配下ですか。確か、名ありではエントマとソリュシャンが該当する筈です」

「グリーンビスケットで暫く、我慢して貰いましょう。属性が善の方の心証もあるから、人間の犯罪者に限って入手する条件を出してはどうかしら」

「それを落とし所に嘆願しておきましょうか」

 

 原作においては、法国の帝国偽装兵と陽光聖典、あとは盗賊などがもぐもぐされたのだが、この世界ではそれが無い。提供された金塊で稼働する大釜より人肉以外の様々な食料アイテムは入手できるが、種族的な嗜好がある以上、我慢させ続けるのも問題がある。

 

 尚、食料用の人肉については後程、カワサキの闇鍋スキルで生み出された人骨のお吸い物と、これまたトールから提供を受けたアイテムで解決を見る。ウェイストランドに居たレイダーを召喚するMOD由来のグレネードだ。これは投げると、落下地点に一体の対象MOBを召喚する。通称「モブグレ」だ。

 

 かつて拠点の運動場内で試しに使った所、言葉は通じるが交渉もできず「ヒャッハー!」と襲いかかってくるレイダーが召喚され、仕方無くトールは撃ち殺した。体組織を調査し、やっかいな病気やFEVに感染していないか確認。結果はシロだった。だが攪乱用にせよ、この世界で増えられても困るのでお蔵入りしていたものだ。

 

 知性は実際低く反応がゲスいので善属性のギルメン達も良心の呵責無く見捨てられるし、適度に追い詰めて屠れるのがポイント高かったのか、定期的に提供されるモブグレと出てくるレイダーは人肉嗜好の配下達にとっては、ちょっとしたご馳走になったそうな。

 ただ、ナザリック内での大食堂では取り扱われない。

 

「人間って、実は多数の雑菌と共生してる生き物でな…」

 

 ブループラネットと死獣天朱雀の情報に衝撃が走る。衛生的観念から、というのがとてもナザリックらしい。

 

 閑話休題。

 

「では次に、先だってこの地におられる至高なる御方達と、トールという男の関わりについて」

「幸運な事に、皆様、お互いの報告を兼ねた懇親会でモモンガ様の側で色々な話を聞けたわ」

「羨ましいでありんす…」

「話を続けるわよ?」

 

 トールという男は、十年前からこの地に出現する御方々の保護と支援を続けてきたという。異形種も友好的であれば外観も含め気にしない事、至高なる御方と(勝ち負けはともかく)真正面から戦闘可能な「トレーダー」だそうだ。

 

「トレーダー、商人の意味だったよね?」

「仕入れ先が敵性モンスターな事もある、ですか…」

 

 先だっての食事会の際の傭兵モンスター雇用費用の提供は、モモンガ様に友好の証兼お願いごとの前金として用意された一部から捻出されている。

 

 個人の功績としてはとても高いし、守護者達では真似が困難な事も多い。思わず、守護者達の間に嫉妬のため息が漏れた。

 

「我々と、かの男の間では、功績にまさに天と地の差があると言う事だね。悔しいが、今はできる事を模索して少しでも至高なる御方のお役に立てる事を示していかねばならない」

 

 幸運にも異邦の地で再会できたが、役立てない事に落胆され、再び去られてしまうのではという恐怖に、守護者達は今以上に気合を入れ直す。

 

「たっち・みー様のご家族様達には、残念ながらご家族の希望で主な居住先をトール様の所とすると伺っています」

「ナザリックに訪れて戴いた事は無いもの、住み慣れた所から移るのは難しいのでしょうね」

 

 ナザリック外の保護対象については、たっち・みーの家族二人と、やまいこの妹アケミの事も含まれる。片方は主にカルネ村地下のトールの拠点内、アケミは王国の都市エ・ランテルに居住しているという。

 

「代わりに、私めがトール様の拠点に入る許可を頂きましたので、たっち・みー様方へご奉仕や、過ごされているご様子は逐次、報告が可能です」

「度々、訪れて頂ける事で今はよしとしましょう」

 

 セバスの報告だけというのは残念なものではあるが、時折様子を見に来て頂けるとの事だ。尚、たっち・みーの奥さんと娘さんは両方異形種だ。天使系を活用した構成で、奥さんが回復特化、娘さんがバフ特化の、促成90LV支援系構成である。LV100に到達するにはそこからが遠い道のりのため、ユグドラシル終了までに育成完了とは行かなかったらしい。

 

「アケミ様については、やまいこ様のご家族でありナザリックを度々訪問もされていましたが、アインズ・ウール・ゴウンの掟として、人間種をギルドメンバーとして所属させる事はできません。カワサキ様が構えておられる食堂の従業員として同居されているとの事です」

「ビッキーやシルキー達が残念がりそうでありんす」

「カワサキ様も、店を長く離れられないが休業日にはなるべく顔をだす、と仰られておりました。周囲とのトラブルに気をつければ、度々人化してお店で食事をしに来いとも言付かっています」

 

 至高なる御方の、神の領域にあるカワサキ様の料理。人間共に提供されているのは業腹だが、食事に関しては種族関係なく美味いものを食べさせる事を目標にされている方だ。機嫌良く振る舞っている所を止めたとなれば、ナザリックでも怒らせてはいけない存在だと知られているだけに、逆鱗に触れたが最後、恐ろしい事になるだろう。

 

 転移門を扱える守護者が居るため、事前連絡の上で指定された店内の位置へ直接赴き、個室内で人化を施された状態で食事を頂戴する事となる。至高なる御方だけが許されていた料理を、自分達が頂けることは名誉な事である。

 まあ、食堂の主はご褒美としての特別な料理は別途用意するので、気軽に食べに来て欲しいと思っているのだが。

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 次に、トール自身が拠点を有しているとの事で、情報を探るべきか意見が別れた。

 

「場所はトブの大森林の地下500mにある、という情報のみですか」

「一部の出入り口と、存在する施設のいくつかは聞き及んでいるのだけど…」

 

 カルネ村の近くにある通用ゲート、一部の至高なる御方が居住されていた居住区、この世界でのアイテムや提供されたユグドラシルのアイテムの解析や研究を行う研究区画、様々な消耗品や装備を生産する生産区画、拠点を防衛するための戦力格納区があるという。

 

 ただ至高なる御方も一目置く相手のため、余計な手出しで藪の蛇を突く事は避けたいと調査は保留である。

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 次の話題はトールの強さだ。本人は商人、トレーダーを自称している。ただ先だっての食事会の際、至高なる御方が、

 

「人間だけど人間か怪しい位強さがおかしい」

「それな」

 

 そんなやり取りがされた。たっち・みーも苦笑いして肯定していたのを、複数の配下が聞いている。

 

「でもさー、ソリュシャンが見た時、あんまり強そうには見えなかったって言ってたけど?」

「ぷにっと萌え様の基本戦術にあるように、何らかの隠蔽が施されていると考えられます。コキュートス、貴方の目線で何か気づけた所はありますか?」

 

 守護者の中でかの人物と間近で直接会ったのは、セバス、デミウルゴス、アルベド、コキュートスだ。近接戦闘における能力は、コキュートスがトップ、次いでセバスだ。

 

「村ニ向カウ前、モモンガ様トマジックアイテムノ試行錯誤ノ最中、私ガ隙ヲ探ロウトシタ瞬間、目ガ合ッタ。殺意ホドデハ無イガ、意識ヲ変エタ瞬間ダ。

 ソシテアノ目ハ、排除スベキカ否カ、路傍ノ石ヲ眺メルヨウナモノダッタ」

 

 コキュートスはその時の事を思い出し、自らの冷気以上に怖気に襲われた感覚にぶるりと震えた。

 

「思考を切り替えた瞬間、ですか」

 

 それが事実なら、トールという男は思考を読み取る能力を有している事になる。薄っすらとデミウルゴスの額に汗が滲んだ。

 攻撃意思を向けたにも関わらず見逃したのは、モモンガ様の機嫌を損ねないよう配慮しただけに過ぎないのだろう。

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 事実は少々異なる。というか過大評価である。

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 グリーンシークレットハウス内、コキュートスがトールへ攻撃意思を見せた際に、トールは網膜投影された視界内の動体レーダーに敵対反応の赤を見つけた。視線を向けた時にグリーンになったのだが、暫くその方向を見ていたのである。

 

 その際、V.A.T.S.を一瞬起動して視界内のターゲット反応を確認したが、護衛として側に居るコキュートスがグリーン表示で立っているだけだった為、誤反応かなと判断して、既に本人は忘れてしまっている。

 

「で、でも、とっても優しいですよ?」

「少し悔しいけど、ペロロンチーノ様とも仲良くしてたでありんす」

「警戒はほどほどでいいのでは無いかしら。モモンガ様達も殊更、気に入られているご様子ですし、あの男は最初から協力的でもあったわ」

「ほう、珍しいでありんすね、アルベドが外部の者を高く評価するなんて」

「そうかしら?」

 

 上機嫌なアルベド。羽がパタパタしている。

 実は食事会の終わり際、アルベドを伴って戻る時にこんなやりとりがあった。

 

「ふむ、改めて見ればモモンガさんの嫁は美人だな。事前にタブラさんに聞いてた通り、才色兼備とか羨ましいにも程がある」

(外堀から埋めに来たぞこの人!)

(いいじゃんか、友人の娘を貰えるって。本人も満更でもないみたいだし)

「ふ、ふふ、流石は至高なる御方々が認める者だけあります」

「アルベド、おーい?」

「結婚式には是非呼んでくれ」

(特大の爆弾投げ込みやがったなちくしょう!?)

「結・婚・式っ!? モモンガ様、いつになさいますか!?」

「ステイ! アルベドステーイ!?」

 

 ナザリックに戻るまで一悶着あったそうな。

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 そんなやりとりがあったとは露知らず、デミウルゴスはその知性をフル回転させて可能な対処を考える。が、敵対時はナザリック丸ごとを犠牲にしての、至高なる御方々の脱出逃走支援しか思い浮かばない。人質などを取っての強制は論外だ。それは折角帰還された、至高なる御方々も難色を示すだろう。

 

「やはり一筋縄では行かない御仁のようだ。底が見えない」

「タダ力ハ脅威ダガ恐レル必要ハ無イカ」

「だが我々はナザリック防衛を第一に考えねばならない。守護者統括として、警戒が薄いのは問題だぞアルベド」

「…言うべきか迷っていたけど、あの男が拠点に有している戦力は、至高なる御方達が笑って匙を投げるような軍団だそうよ」

「何? それは聞き捨てならない。詳しく聞かせてくれたまえ」

 

 1500人以上からなるプレイヤーの集団を撃退したアインズ・ウール・ゴウンとナザリック地下大墳墓の守護者達。少なからず強さの自負があるだけに、看過できない話である。

 

 アルベドが伝えたのは、最も付き合いが長くなったというベルリバーとウルベルトの証言にあった、トールの拠点内に存在する100LVロボット兵団の事だ。彼らはトールの拠点内の戦力格納区画も知っており、そこで兵団を構成する様々なロボット達を確認しているという。

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 当時のやりとり。

 

「中々硬いし痛い厄介なロボットがあの数ですか…」

「ミサイルと弾丸はなんとか避けられるが、弾幕張られたらきついな」

「ガトリングを軽々避けといてなぁ…ユグドラシル基準だと、火力砲台役ですらこっちの実弾は不利か。これならいけるかな」

「おいレーザーとか卑怯だろ避けられないぞ!?」

「たっちさんや弐式炎雷さん達前衛組はレーザーを避けたりさばけるのか、すげー!

 …それならこれでどうだ!」

「私の盾と耐久力ならなんとか…って、これはちょっと!?」

「拡散レーザーにしてみました」

「「「何してくれてんだ荒野の災厄!」」」

「隙間無くレーザーで弾幕張らないでくれないかな!?」

「被弾一つで致命傷になりかねない俺は無理…」

「実戦なら、この拡散連射レーザーにレジェンダリで”膝砕き”を付けようかなと」

「空中飛ばないと近づけないとかwwww」

「これで量産兵器だもんなぁ…」

「生産時、攻撃受けると確率で武器を取り落とすレジェンダリを装甲に組み込むとかどうかな?」

「「「「鬼か!?」」」

 

 トールは戦力の戦闘テストで、攻撃職の面々に破壊も許諾した模擬戦を依頼した。ユグドラシルのアバター体には、弾幕を貼らなければとかく実弾系が不利という事が判明。レーザー系ならいい勝負ができる事が確認できた。

 

「気付かれる前に<時間停止>を使って全力で接近、超級魔法を時間短縮アイテムを使って諸共に発動…え、術者の安全とか投げ捨てる戦術しかないの? 量産兵器だよねこれ?」

「…近接とかだと、茶釜さんでガードはできるけど破壊に時間かかるよね」

「一体破壊する間にお代わり一ダースだろこれ…」

「俺らだとまず近づけない。影に隠れればワンチャン?」

「地形ごと焼かれるかミサイルで爆破されるとかマジふざけんなwwww」

 

 結果として、回避に優れた面子であっても、防御に優れた相手であっても、地上で難易度ルナティックの弾幕ゲームを行うか、連続ドットダメージを喰らいながら終わりのない耐久レースを続ける羽目になると判明した。タフでいくらでも出てくる雑魚と言う名のルナティック級が無数にお相手。弾幕の間と時間の隙間が無い時点で「死ぬがよい」とかそんな感じである。

 

 閑話休題。

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「拠点内現有戦力で総数2000以上。トブの大森林周辺に予備戦力を同数。

 標準のロボット軍団はガルガンチュアで撃退は可能として、真打ちたるリバティ・プライムなる巨大兵器は、地形を精査しながら破壊して前進する能力を有し、手投げ武器に<核撃>と同威力の武器を使い、被弾したら即死する射撃武器、秒単位で自己修復する機能、至高なる御方達ですら準備を万端に整えて集団で取り囲むようなレイドエネミー並の体力を持つ。ガルガンチュア、ルベドやオーレオール・オメガでも一対一は危険。

 ヴィクティムが監視するあれらが居れば初期段階では数の有利で第八階層で倒せないまでも止められる可能性はある。

 ただし、かの拠点では一週間で全ての戦力回復が完了する生産能力がある、ですか」

 

 今日何度目かの冷や汗が、デミウルゴスの額に浮かぶ。

 

 防衛に徹するなら一時的に退けられる可能性はある。特にモモンガさんが課金をつぎ込んだ第八階層のあれらは、1500人のプレイヤーが第二次攻撃を諦めた程である。だが一度の攻勢で地上から第八階層まで破壊され、ナザリック内の戦力は青息吐息だろう。

 それに戦力回復に使われるリソース、ユグドラシル金貨は有限だ。後に金の卵を生むガチョウにより解消されるが、現時点では目減りする一方で補充の目処は無いため、何らかの形で価値の在るアイテム類を変換する必要がある。

 

 対して、トールの拠点内にはMODのCHEAT ROOMが丸ごと設置されている。ウェイストランドに存在するアイテム類に限るが、時間湧きで様々なアイテムが生成される不思議な箱があり、各種消耗品や素材類も時間経過でリスポンする。またこれらは外部から補給を絶たれようと何ら問題無く稼動する。その気になれば、無限に戦力を生産できるのだ。

 

 攪乱情報としても酷い話だが、より酷い事にトールの拠点戦力については、単体の戦闘能力をギルメン達が確認しているし、それがずらりと並んだ格納庫の光景も、次々と生産される光景も確認されている。

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 ただこれ、実際はロボットやリバティ・プライムを拠点内の製造設備で自動生産した場合の時間である。トール自らが組み上げれば、かかる時間は完成したそれがハンガーから退去するまでの時間程度である。またリバティ・プライム一体ごとのコストは、ここ十年でさぼりながら溜め込んだ資材の内、一ヶ月分の出現備蓄程度だ。百体以上のリバティ・プライムが生産できる計算である。素材のリスポン期間は一日設定なので、まめに備蓄倉庫に移せば一週間で一体分は確保できる。これは流石にドン引きされると思ったか、トールは誰にも伝えていない。

 閑話休題。

 

「至高なる御方と私達と八階層のあれらが全員取り囲んだ所で、七日ごとに増産されていくリバティ・プライムを全て倒せるかわからない、が抜けているわ」

「事実なら冗談ではないぞ!?」

「だから警戒はほどほどでいいのよ。あの男はおそらく…、お人好しだから」

「は?」

 

 デミウルゴスの眼鏡がずり落ちる。

 

「先ずは交渉から入り、友好であれば友好に、敵対者には容赦は無く躊躇わない。懐に入ってしまえば底抜けに優しい。そんな男よ」

 

 だからモモンガ様達も信を置いているのでしょうね、とアルベド。

 

 その気になれば、周辺諸国を蹂躙し、文字通り更地にする事は容易い。そこまでの力を持ちながら、10年間、国家間の事情には直接介入していない。そんなものは些事と、最初の態度からしてモモンガ達が守護者達と穏やかに過ごせるよう心を砕いているのだ。

 

 甘やかすのではない、突き放すのではない。至って真面目に、穏やかな日常こそが大事なのだと環境を整えようとするそんな男だと伝える。

 

「それって、いつかぶくぶく茶釜様達が言ってた、OTONAって事?」

「成程、OTONAですか…。確か仲間や友、若者に、より信念を持ってより良い先を示す者をそう呼ぶのでしたか」

 

 未来社会においても、ややネットスラングになっているきらいはあるがOTONAの概念は残っていた。企業が牛耳る世界において、ほぼゼロに近い存在ではあるのだが。

 

「アインズ・ウール・ゴウンのギルド規則、社会人である事…。成人が相互に参加して作り上げるのが社会であり、その参加者は社会人。社会人になる資格者は成人で、OTONAはそれを内包するのだから、資格の一つは満たしていたと言う事ね」

 

 なんか誤解が明後日の方向である。

 

 尚、トールはウェイストランドにおいて資材調達にロケーションめぐりをするよりは、水生産による経済支配を好んだ。いわゆる、Fallout4における水錬金術である。

 コモンウェルスで稼いだ総額は、Mrハウスがプラチナチップの捜索に充てたキャップ額の20倍近くに上る。旅立つにあたって、残っていたキャップは各友好勢力に殆どを譲渡した。この世界ではキャップは外部での価値はほぼゼロになったものの、CheatRoomで常に一定期間ごとに補充されているので、額面としては既に当時を越えている。

 

 保有する道具類の大々的な普及でも周辺諸国に経済的大混乱を巻き起こすのは容易だが、現社会体制の混乱は望む所ではないため、活動は小規模だ。

 

「…解りました。今はアルベド、貴女の言葉を信じましょう」

「ふふ、ウルベルト様とあの男の想定通りね」

「っまさか!?」

「ええ。私達が、いいえ、デミウルゴス、貴方が警戒することもあの男は事前にわかっていた。ナザリック最高の知恵者であり軍師であるならと」

 

 宝物庫のパンドラズ・アクターを除けば、アルベドとデミウルゴスはナザリックの守護者の中で最高の知性を持つ。

 

 ただ元が一般人のトールが何故、最高の知恵者であるデミウルゴスの思考をトレースできたかといえば、MODでINTの初期基礎値が10、改造手術で更に+3されていたからだ。まさにチート(ずる)である。

 ウェイストランドでの基礎最高値は10であり、それを超す知性は、素では中々迂闊なトールに深い知性を齎している。十全に活用できているかは不明だが。

 また、カルマ値もマイナス振り切り状態からプラス最高状態まで経験しているため、根底に極悪カルマを持つ相手の思考も十分考察できる。ウェイストランドにおいては死にパラメータではあるのだが。

 

「仲良くしたいが、多分警戒されているだろうとのぼやきを聞いたウルベルト様は笑っていたわ。

 我が子なら、目の前の最大脅威の事をまず考えるのは妥当だと」

「お褒めの言葉と受け取っていいのでしょうか…」

「隙を探ろうとするのは程々に、私達のこれからを先ず考えていきましょう」

 

 緊張感の溢れる討論を続けた二人を除いて、事の経緯を見守っていた他の守護者は安堵のため息を漏らした。

-

-

 諸々の事項を判断、決定した後、アルベドは守護者達を見渡して口を開いた。

 

「最後に守護者統括として、モモンガ様から直接伺った、モモンガ様が抱いていたお心について、皆に伝えます」

 

 表情を引き締めつつも、柔らかい表情のアルベドの姿に、他の守護者達は息を飲んだ。

 

「私は去ってしまった仲間達を大切に思っていたが、ナザリックを維持しつつも、戻ることの無い皆を恨む気持ちもあった」

 

 衝撃の事実。デミウルゴスは足元が揺れたかのように錯覚し、ぐらりと姿勢を崩した。

 

「だが幸運にもこの異邦の地で再会し、語り合い、胸の内の思いを知る事でその暗い気持ちは霧散した。

 仲間達は誰一人として、我々を忘れた訳では無かった」

 

 アルベドの頬を涙が伝う。他の守護者達は目を潤ませて言葉の続きを待つ。

 

「ナザリックに居る全ての者が、仲間の子供達である。

 仲間達と共にナザリックが維持できさえすれば、外の事情など些事である。

 皆と共にこの世界に在り、穏やかに皆と語り楽しみ、気まぐれに外の脆き者達へ慈悲を与え、自然を慈しみ、愛でよう。

 そして、身の程を知らず歯向かう者には、理解が及ぶよう力を示そう。

 それがこの世界に我々を呼び込んだ運命への、悪としての反逆だ」

 

 ちょっと魔王ロールで言ってしまったモモンガさんの言葉を、この女淫魔は一字一句、守護者達に伝えた。

 暫くの間、守護者達の間には嗚咽と言葉にならないうわ言の時間が流れた。アルベドはその光景を見ながら、同じように泣き腫らした自分をただそっと慰めてくれた愛しい支配者の姿に想いを馳せている。

 

「ベ ベ ロ ン ビ ー ノ びゃ まぁ …!!」

 

 シャルティアは顔面崩壊。他も各々、酷い有様である。

 

「私達、以外に、何も要らないって、事?」

 

 泣き続けるマーレを慰めつつ、鼻を啜って顔を上げるアウラ。

 

「ええそうよ。モモンガ様がまず状況把握に努めたのは、ナザリックがどのような状況、立場にあるのかを探るためですから」

「最後は、一体どういう事でありんす? 穏やかに過ごす事が、悪??」

 

 崩壊した顔をなんとか取り繕ったシャルティアが訳がわからないと言うと、涙を拭い終えていつもの表情を取り戻したデミウルゴスが考察を口にする。

 

「我々ナザリックは、あの世界で形成された人間種のプレイヤー達の秩序に対し、悪として君臨した。

 何か、ウンエイのような管理者的存在が居るなら、私達を何らかの破壊者として呼び込んだ可能性がある、そういう事だね?」

「ええ。だけどモモンガ様達は、それを良しとしない。そんな存在が秩序だとして、相対的に私達が悪と期待されても、意図通りに暴れない事で反逆の意思を示すのよ」

「ククク、そういう事ですか。我々が善寄りの行動を取ることで、善の者達も、中立の者達も、善を自称する者達も、簡単に排除ができなくなる…」

「私達の力を持ってすれば、力による征服と支配は時間の問題でしょう。でも、支配地域への采配に時間を取られるのも確実。ならば、最小限の手間を持って、モモンガ様達と我々の為の時間を増やすべき…そうよね、パンドラズ・アクター?」

「ッハァイ! そぉんの通りでございます!」

「「「!?」」」」

 

 気配も感じさせずに唐突に現れたのは宝物殿の管理者であるパンドラズ・アクター。モモンガが手ずから作成したはいいが、冷静になってから顔から火が出るほど後悔して宝物殿に押し込めてしまった、不遇のNPCである。

 

「宝物殿に配置され続けたとはいえ、我が願いはモモンガ様の幸福! 御身が穏やかであるぅ事!

 …なれば、最大限にその思いを汲み、至高なる御方々との穏やかなる日々の実現の為、我々を受け入れる者達や国、そして我らこの身の全ての力を用いて、我々を疎う全てに思い知らせるのです」

 

 大仰な仕草から一転、禁断の役者の名を持つこの者は、静かな言葉で意思を語る。彼の心の中には、戻ってきたモモンガの言葉が暖かく今も残っていた。

-

-

 食事会より少し後、ギルメン達と守護者達の楽しげな姿に、モモンガさんは意を決して宝物殿に向かった。

 

「すまなかった、パンドラズ・アクター。お前をそのように創造し、やりすぎた結果疎い、閉じ込め続けてしまった。

 このような身勝手な親ではあるが…息子よ、私達とナザリック繁栄の為、力を貸してくれないだろうか」

「私を息子と…! ありがとうございます、私は寂しくはあれど、そうあれと望まれた者。謝られる事など何一つございません。我が願いは父上、貴方の喜ぶ姿なのです!」

 

 いつもの大仰な仕草を素で忘れ、埴輪のような目から涙を流すパンドラズ・アクター。

 

「…ありがとう。さあ共に、ここを出よう」

 

 優しく言ったモモンガさんだったが、「我が神の仰せのままに(ドイツ語)」とやったら壁際で「あっどぉん!」と壁ドンして、

 

「…とりあえずね、ドイツ語と大げさなフリの連続使用は控えてくれ、お願いだから、ね!? 頼むから!」

「アッハイ」

 

 という事があったとさ。

 他のギルメン達は、思ったより大人しいパンドラズ・アクターに少し残念がっていて、トールが「ミステリアスな外見に軍服か、いい趣味してるな」と評した件にはペカーと光りながら喜んでいたモモンガさんである。

-

-

 場面は守護者達の会議の続きに戻る。

 

「私ハ至高ナル御方々ノ剣ダ。無秩序ニ武器ヲ振ルウ事ハ、至高ナル御方々ノ名声ト存在ヲ汚ス事ニ他ナラナイ」

 

 久しぶりに手合わせをするか、と戻ってこられた武人建御雷との稽古は、まさに至福のひと時であったとコキュートスは熱を帯びて語った。

 

「う、うん、僕もお役に立てる以外は、ぶくぶく茶釜様達やお姉ちゃんと一緒に過ごす方が好きです」

「マーレに言われちゃった。うん、あたしもそんな感じ」

「私めも、たっち・みー様方をお世話させて頂く穏やかな時間が、至福のひと時です」

「あちきも、ペロロンチーノ様と一緒に過ごせる時間が幸福の絶頂でありんす」

 

 幸せ過ぎて色々だだ漏れにならないだろうか、と忠誠の儀の事を思い出す他の面々だったが口には出さなかった。

 

「デミウルゴス、貴方は?」

「工作をしながら、ウルベルト様と他愛も無い会話をする事です。今度、魚釣りを教えて頂けるとの事で、今から楽しみですね」

 

 工作は骨使ったり拷問やらの談義な事はこの際置いておく。釣りはこの世界に来てからのウルベルトの趣味である。

 

「守護者の皆様の意思は、聞くまでもなく確認できましたな」

 

 ナザリックに反逆を企てる不届き者は…エクレアが居るが、彼も餡ころもっちもちのお世話で嬉しい悲鳴を上げているので、そう創造された単なるポーズだろうと判断されている。

 

「では、我らが至高なる御方々と、盤石にして穏やかなる日々の為、力を尽くして行きましょう」

 

 胸に新たな誓いをした各人は、泣き笑いに近い表情だが晴れ晴れとしていた。

 

 他の配下への通達は、個々の責任者から行われる。少しの問題点としては、伝えた時点で守護者達がそうであったように、感涙に咽び暫く動けなくなった事だろうか。

 




トールはアホみたいなチート持ちではあるのですが、考えたチート戦力をこれでもかとつぎ込んで物量戦と焦土作戦を波状攻撃でやらないと攻略の可能性が無いナザリックがおかしいと思います。

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