荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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Falloutシリーズには、放射能の影響で先祖返りしたようなアレが出てきます。

どんな先祖返りかって? 30cm以上のサイズのアレです。

集団で出てきたり、地面や壁を走ってきたり、たまに飛んできます。

ゲーム中でも巨大なアレというのも中々のショッキングなビジュアルで、戦闘で接近するアレの裏面が画面一杯に表示されたりします。そのため、アレが居るだけでゲームに手を出せない、あるいは勧めづらいという話がちらほら。


至高なる御方々と黒い絨毯と漆黒の戦士

 恐怖公配下の眷属達が、トブの大森林の王国側に集結している。地面のみならず木々にも張り付いているため、上空から見る事ができれば森林の一部が黒く染まったように見えるかもしれない。

 

「出立準備、整いましてございます」

『よし。計画成功の鍵はお前達にかかっている。頼んだぞ恐怖公、影の悪魔よ』

 

 出撃、の号令に従い一斉に満遍なく広がる黒い眷属達。一部は飛んでいる。集団が作るその影には、ウルベルトとデミウルゴスが用意した影の悪魔が多数潜む。

 視界内全体が動いているにも関わらず、驚くほど音がしない。映像を映し出す魔法と共に音も中継されているのだが、聞こえるのは森のざわめきだけだ。

 

((うわぁ、わかってたけど、うわぁ…))

 

 情報センターとして用意したナザリック内の円卓の間、遠見の鏡で状況を見守っていた男性メンバー達。ある程度耐性があっても、無数の眷属達が一斉に動く場面には生理的な怖気が走る。因みに女性陣は一時的に待避している。本来は守護者統括として立っているアルベドも、今回ばかりはデミウルゴスに代わって貰っていた。

 涙目、蒼白の表情で「わ、私の役目ですから…」と悲壮な覚悟で円卓の間に居ようとしていたため、女性陣がデミウルゴスに頼んで代わって貰ったのである。

 

「さて、モモンガさんと、たっちさん達の状況は?」

「例のモンスター討伐の依頼というか護衛は滞りなく受注。現場にはアウラが追い込んだモンスターが集団で移動してる。予定通りの時刻に遭遇するよ」

「あとはモモンガさんこと戦士モモンが加勢する形で討伐し、たっちさんと会えば仕込みは完了か」

 

 仕込み。王国では始まりの九連星の名は有名だが、モモンガは文字通り新参者だ。手っ取り早く便乗する形で名声を得るのに加え、バックストーリーを匂わす謎を散りばめて登場させる事で、より注目度を上げようという目論見だ。

 

「だけど、ダークウォーリアーって、ダークウォーリアーって…」

「言ってやるな。一応、モモンとだけ名乗るように言い含めてあるから」

 

 多分大丈夫、きっと、メイビー。願わくば、たっち・みーがフォローしてくれればと心のなかで思うギルメン達であった。正義の味方ロール以外だと大根役者になる事は心の中の棚にぽいっと放り投げた。

 

-

 

 所変わって、民在っての貴族、その義務としてモンスターの討伐隊を率いているとある男の話。王国では珍しい部類に入ってしまっているが、今は置いておく。

 

 迫りくるオーガの腕。末端ではあるが貴族の家に生まれた者としての最後が、情けない声をあげての圧死とはご先祖に顔向けできないなと、走馬灯の巡る頭で男は考えていた。

 

「うわぁぁあああ! …あ、あれ?」

 

 だがいつまで経っても衝撃も痛みも来ない。腕をどけると、見たこともない立派な鎧を纏った戦士が、両手それぞれに持ったグレートソードを背に背負う所だった。

 

「怪我は無いか? そちらの部下も、辛うじて無事だ」

「あ、ああ、ありがとう。貴殿は?」

「私はモモン。友人が王国に居ると聞いてね、会いに行く途中だったが、モンスターの集団に襲われているそちらを見かけてな」

 

 周囲を見渡す余裕ができて、モモンの手を借りて立ち上がると、ボロボロではあるが父より預った兵たちの顔が自分に向く。意識の在る者達だけだが、お互い、無事なことに安堵の表情だ。

 

「助太刀、感謝します。護衛として雇った傭兵の方が、突如現れた未知の強大モンスターを抑えてくれているのですが、他にも居た多数のモンスターに囲まれてしまったのです…と、タッチ殿!? ああええと傭兵の方なのですが…!」

「気配からすれば問題なく勝利したようだ。暫くすれば合流できるだろう」

「本当ですか!? よかった、やはりタッチ殿に依頼して正解だった…」

 

 冒険者だけに任せては貴族の名折れと、定期討伐に志願したのはいいが、運が悪いのかあのような強力なモンスターに襲撃されるとは思っても見なかった。母の提案で雇用した傭兵、タッチ殿が居なければもっと早く全滅していただろう。

 

「所で貴方の配下はこれで全部ですか?」

「ええ。怪我人だらけでもう正直、駄目かと」

「ナーベ、周辺の雑魚モンスターを全て追い散らせ! レジーナ、急ぎ怪我人達の治療だ、死なせるなよ!」

「「はっ」」

 

 いつの間にか現れた二人の女性。こんな場面でなければ美貌と肢体に目を奪われていただろう。彼女達はモモンの命に従い、行動を開始した。

 

-

 

 藪の奥から、青銀の鎧を纏った男が現れる。そして貴族の男と部下達を見渡して力を抜いた。そして戦士モモンを見るや、剣を収めて足早に近づく。

 

「誰かと思えば、久しいな友よ!」

「ああ、この再会を運命に感謝しよう!」

 

 がっしと力強い握手をする二人。

 

「あの、タッチ殿とお知り合いというかご友人様、なので?」

 

 配下や自分、そして父や祖父ですらその佇まいや強さ、聞き及ぶ名声に一目置くタッチ。彼が友人と呼ぶ男に、俄然興味が湧く貴族の男。

 

「この方はモモン、我々のかけがえの無い友にして、アインズ・ウール・ゴウンの長、ナザリックの主で…」

「タッチさん、その件はまだ内密に。ここは遠い別の国なのですから、外交関係にない所の者がいきなり主だとか名乗った所で、混乱させるだけですよ」

「あ、ああすまない。今のは忘れてくれ」

 

 若干早口と言うか駆け足気味に紹介しようとするタッチに、内容を見咎めたかモモンがそれを止める。

 

(外交関係にない? まだ内密に? 主? モモン殿は「ここは別の国なのですから」と…まさか!)

 

 高度な教育を受けた確かな知性と、誰かに傅かれる事にも慣れた佇まい。

 断片的なその内容を補填して考えると、驚きの事実が浮かび上がる!

※事実とは異なります。

 

「私が敬意を払う人で、友である事を覚えてくれればいい。腕も立つ」

「たっちさんに比べれば児戯に等しいですよ。久々に考え事から解放されて、外で暴れてスッキリしましたが」

(先程のモンスターの群れ、何も考えないで討伐できる数ではないぞ…)

「それは良かった。これだけ自然が豊かな土地だ、空気も堪能するといい」

 

 そうですねとモモンは言い、兜を脱いで軽く汗を拭う。顔立ちは南方出の者に近いだろうか。線が細いように見えても首は鍛えられていて恵まれた体躯を想像させる。そして何より、優しげな風貌を持った男だった。

 

「モモン様、雑魚共の処分、完了いたしました」

「怪我人の治療も終わったっすよー。にひひ、あの治療薬は面白いっすね、すっごい自分好みっす」

 

 美女二人が戻ってくるなり報告する。最初は跪こうとしたようだが、それをモモンは静止していた。

 

「るp…じゃなかった、レジーナ? モモン様達の前でそのような態度は!」

「ナーベ、事前に言った通り、必要以上に畏まる事も遜る事も必要ない。お前は魔術師のナーベ、私は戦士のモモンだ。レジーナも今はそれでいいからな」

「はいっす! ナーベちゃんもほら硬い硬い、スマイルっすよ!」

「うう、努力します…」

 

 様以外で呼べないか、と言うモモンに、

 

「ふ、不敬かと存じますが、モモンさ、さ、さーんで…」

「まあその辺りが妥当か」

「頑張ってるな、ナーベ、レジーナ。態度についてはおいおい慣れていこう」

 

 ぱあっと明るい笑顔になる美女二人。それが自分に向けられたらと少し、嫉妬心が湧く程の美しい笑顔だ。

 

(確定だ。おいそれと外に出れない立場の、どこか王国とは外交関係にない国の王族で、二人の女性は護衛。タッチ殿は騎士か高位貴族なのだな!?)

 

 礼を失してはならない、だが気付いた事に気付かれてはならないと、配慮をしつつ帰路につく貴族の男であった。

 

-

 

 報酬を受領して、惜しまれつつも貴族の領都を出た二人の会話。

 

「…私の演技、どうでしたか?」

「正直に、言っていいですか?」

「甘んじて受け入れます…」

 

 目がキラーンと光るモモンことモモンガさんである。魔王ロールに熟練し、他者のロールにも中々的確なアドバイスを請われれば助言するだけに、たっちは今回の出来は自分でも宜しくないと自己採点していた。

 

「十点中…三点? 正義の味方ロールと比べると慣れなさすぎかなって」

 

 演劇の口上のような登場や殺陣の合間のセリフなどは、色々なヒーロー物を視聴しているだけに堂に入った感じのあるたっち・みーだが、他で設定を作ったロールとなると途端に大根役者になる。

 

「くっ、辛口! ウルベルトに見られないのが幸いか」

 

 黒幕とか悪役ロールは大得意なウルベルトは、意外なことに他のロールも設定を詰めておけば卒なくこなせる。たっちは、ウルベルトの高笑いを幻視した。

 

「計画完了後の反省会用に、トールさんのロボットがステルス状態で記録してるそうですが」

「何してくれてんだ荒野の災厄!」

「まだ活躍の場は残ってますから、ご家族にいい所みせられるよう頑張りましょう」

「娘よ! パパかっこいい所を見せられるよう頑張るからね!」

(うわまじ燃えてる。ぷにさんもエゲツないよなぁ…)

 




「トール殿、是非、貴殿の所のそれらを配下に加えたいのですが!」
「やめたげてー? 女の子の守護者とか見学の際に気絶したし、放射能汚染されてるから」
「ぬう、とても残念です。でも諦めませんよ!」

後程、一部守護者と女性ギルメン達により、ブラックボックスへのラッドローチ導入反対の嘆願書がトールに届けられたという。

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