荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
あの現実世界には戻らず、ナザリックとNPCと共に在る事を選んだモモンガさんは、NPCこと階層守護者達の忠誠心の厚さに<絶望のオーラ>をお漏らししつつ、支配者ロールをなんとか維持。自室に戻ろうかとふと思った所で、セバスが顔を上げて目配せをしてきた。
(やっべ、来客あるのすっかり忘れてた!? そんなに時間経ってないよな? 急いで行かないと!)
特に時間の指定はしていないが、呼んでおいて待ちぼうけとか、社会人としては凄くやばいよなとか考えてしまう。動揺は精神鎮静化能力で落ち着いたので、支配者ロールで指示を飛ばす。
「セバス、デミウルゴス、新たな重要任務だ。地表に出て、この世界の来客を迎える。伴をせよ」
「あ、あのモモンガ様…」
「すまぬな、アルベドよ。友好的に接触するつもりだが、もしもの場合に備え、待機だ。防御体制での配置は、任せたぞ」
「…はっ」
去った後、シャルティアとアルベドの間で一悶着あるのだが、割愛する。
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにより一層の出入り口近辺まで転移したモモンガさん一行。外は夜のようで、空を見上げれば満天の星空。
(うわー、綺麗だなー、ブループラネットさんが見たら…いかんいかん!)
セバスが外で待つ、なんか丸いのと随分とごつい全身鎧を来た人物を確認した。なんか丸いのが最初に接触してきたゴーレムらしき…というかロボットっぽい…奴で、ごつい全身鎧を着た奴がその主人なのだろう。
「夜分遅く、失礼する。貴方が、この拠点の主という事でよろしいか」
無線機越し、あるいはスピーカー越しのようなくぐもった声。言語は日本語のようだ。事前に知っていたとはいえ、言葉が通じることに胸を撫で下ろす。
ただ飾りのない実直な質問に、デミウルゴスが「無礼な…」と言って不機嫌そうに尻尾を振る。控えよと「支配の呪言」を用いるが、意に介さないのにデミウルゴスが息を呑む。モモンガさんは「よい、下がれ」と言って抑える。
「そうだ。先程は我が部下が失礼した。
私はこのナザリック地下大墳墓の主、<アインズ・ウール・ゴウン>のギルド長、モモンガだ」
「無作法な此方に対し、丁寧な挨拶、感謝する。
俺はトール、このロボットは執事のエインズワースだ。こちらでは、商人のような事をやっている」
(ゴーレムじゃなくてロボット!? てかこの世界、技術レベル高かったりするの!? リアルだとメイドロボとか実用化には遠かったし…)
ギルドメンバーの、エロゲバードマンとかメイド服狂いとメイド狂いが、一向に実用化がされない1/1メイドロボ談義で激論を交わしていた事を思い出し、遠い目になる。骸骨なので目は無いのだが。
「商人か。では、私と何か取引や商談がしたい、という事かな?」
「それもある。ただ、俺はこちらの世界の事を良く知っていて、貴方はまだよく知らない。これではフェアではない。一般的な事を含め、まずは情報提供をしたいのだが、どうだろうか?」
(…転移したばかりの事は知っている、という事か)
警戒を一段階引き上げる。
「商人とは、もう少し狡辛いものだと思っていたが?」
「そちらは商売絡みで大変な目に遭った経験があるみたいだな?」
(こういう取引先ばっかだったら良かったのになぁ。なんか凄くいい人に見えてきた)
「営業も含め、商談で信用を切り売りするなんて、商売人としては二流以下だ。お互いに利益があってこそ、長い目で見れば利益を生む。積み上げた信用を投げ捨てたり、一方的な搾取や錯誤で儲けるなんぞ、自分に人望も商才も無いと自ら暴露しているようなものだ」
なんだか実感の籠もった熱弁である。リアルでは社畜の営業マンであったモモンガさんとしては、この時点で信用してもいいかもしれないと考えるほど、大いに同意してしまった。
「成程な。どうだ、デミウルゴス、彼は信用に値すると私は思うのだが」
「ええ、希望される商談次第ですが、語った内容に偽りの気配は無いかと」
お互い小声で確認する。
「立ち話も何だ。セバス、客人に椅子を」
モモンガさんが簡易な椅子…とはいっても、凝った作りの豪華なそれに座ったのを確認すると、トールと名乗った男は身体を横向きにする。
「このアーマーのままだと椅子にも座れないんでな。脱ぐのでちょっと失礼」
上半身がやや前傾姿勢になる。ガシャっという音がすると、トールの鎧…アーマーの各部が固定され、空気が抜ける音がするや否や、アーマーの後部が展開する。
(何それかっけぇ!?)
中から、日本人のようでいて、ガタイの良い男が滑り出てきた。地面に降り立つと、アーマーは展開部を戻して待機状態になる。
モモンガさんとしては、なんだかメカっぽい鎧だなーとか思っていた所、その実、着るロボットみたいな代物だった事にちょっと興奮してしまった。仕方ないよね、リアルだと三十代って言っても根底は男の子だもの。
トールの姿は、リアルでもファッションで着られていたような迷彩柄だ。既に自然が地表から消滅して久しいリアルでは、緑色中心のそれは軍事用というより懐古趣味に近いデザインである。その上に、革製と思しき黒染めの肩当てなどを取り付けている。
「トール様、どうぞ」
「ありがとうセバスさん。うん、いい座り心地だ、この規模の拠点を持っているとなると、こういった物も一級品揃いなんだな」
セバスが用意させたのは確か、第六階層で気分だけでもキャンプをとギルドメンバー達と用意したはいいものの、千五百人襲撃のゴタゴタで予定が吹っ飛び使われることが無かった一品だ。製造職のメンバーが拘って作ったもので、良い出来ながら、他での使い道がなく死蔵されていた。
(こういった小物の出来の良し悪しはわからないけれど、褒められると嬉しいな)
ちょっと上機嫌になったモモンガさんである。
ナザリックの出入り口から少し外れた所に、簡易拠点であるグリーンシークレットハウスを設置し、その前でテーブルを用意してモモンガさんとトールは会談を始める。セバスは戦闘メイド、プレアデスからユリ・アルファを呼び出し、お茶の用意を始めた。
モモンガさんは残念ながら飲めないので、専らトール用である。
トールは別の世界からの来訪者だったが、ナザリックが転移してきた位置で、何人かの「人間」を保護した事があり、彼らはモモンガさんの知るリアルからの来訪者である事を確認した。ここ二年ほどは音沙汰が無かったが、監視は続けていて、最後の最後に現れたのがナザリック地下大墳墓だった、という事だ。
次に、ナザリックが転移してきたこの世界の事について、地理、周辺情勢などを大まかに説明し、詳細を纏めた資料の束をデミウルゴスに渡した。気になった所の質問に、トールが詳細を返す、その繰り返し。
「…成程な、かつて居た八欲王により、ユグドラシルの魔法が広まった可能性か。その点を踏まえると、我々の戦力はかつての神々に匹敵する可能性があるか」
「実際問題、凌駕している可能性の方が高い。ユグドラシルでのワールドチャンピオン? だった可能性のあるかの八欲王が所有していた戦力に匹敵するんじゃないかな」
(ふむ、ユグドラシルについては知らないが、此方の情報は殆ど渡していないにも関わらず、的確に見てくる)
「俺としては、そんな相手とは敵対せず、是非とも友好的にと思う訳だ。それに、俺も此方に来てまだ一〇年程度だ。この世界には自然も未知も沢山残ってるから、それをそっと楽しんで欲しいんだよ」
トールはそう言って、空を見上げる。宝石箱、その中身をひっくり返したような、美しい星空だ。
「そちらの居た世界も、自然は無かったのか?」
「行く所に行けば、あった。星空も。でも、大抵は放射能に汚染された荒野だった。変異した生物と、狂ったロボット、人を人と思わない略奪者、そんな連中があのウェイストランドでは普通だったのさ。まあ全く外での活動ができない、そちらのリアル程ではないけど」
(何そのやな現実世界…)
少し話し疲れたらしいトールに休憩としようと告げ、モモンガさんはナザリックの隠蔽作業を開始したマーレを労いに行く。
報酬として渡したリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの件で、警戒や情報伝達がてら現れたアルベドと一悶着あるのだが、星空を楽しんでいたトールの目には入らなかった。
モモンガさんが出会ったのは、Fallot世界を現実として旅してきた男だった。
オバロ二次創作、チュートリアル戦闘ことカルネ村は次次回位かな?