荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
森の賢王については、原作と同じ名になりました。
黒い絨毯での状況の推移は、マクロな視点で見れば緩やかなものだ。まだ人里へ到達していない。
交代で責任者を置いて他は自由時間を取って監視を続けている中、今の当番である武人建御雷が守護者主体の作戦について質問する。
「デミウルゴス、トブの大森林にいるっていう三大の状況は?」
「完全制圧をご報告できればよかったのですが、少々芳しくありません…」
いつも自信たっぷりの彼には珍しく、悩ましげに眉間のシワを抑えている。
「大丈夫だ、そもそも全滅させる事も想定していたからな。それで、何があったんだ?」
「魔蛇、賢王は対話や手合わせも含めて力を示して穏便に支配下に置きましたが、巨人がなんというか、マーレが怒ってしまい地面に埋めてしまったと先程報告が」
武人建御雷のイメージとしては、気弱そうな男の娘(おとこのこ)である。だが、子供だけに我慢が利かない所もあるだろうし、我慢強くあっても気弱タイプは何かのトリガーで暴れるのは良く理解できる。
ぶくぶく茶釜が作った子であるから一筋縄では行かないと思ったが、それについては心の中で言って置くだけにとどめた。
「中々過激だな。だけどマーレが怒ったのはなんでだ?」
「理解し難い文化ですが、トロールには短い名が尊称で、長い名は蔑称という文化があったようで…」
「俺らの名代で来た事をはっきり述べるように言ってあったから、ああ、そういう事か」
ナザリックの最高責任者は最も長い名前だ。それをけなされては、忠誠心全開の守護者としては我慢ならなかったのだろう。フォローの必要を感じ、手が開いている面子を招集する。
「交渉役の守護者達には、失礼な態度もある程度は我慢してと言ったけど、そっか、巨人は地雷踏み抜くおバカさんだったか」
最初に戻ってきたやまいこは、呆れた口調である。大きな用事のない他の面子も戻ってきて報告を受けると、やれやれと言った感じで理解を示す。
「ねえ巨人さん処す? 処す?」
「もう巨人さん処されてる件」
マーレは我に返って引き上げたが、再生能力も致死の圧力と窒息には役に立たなかったようで、全身の骨も砕けていたらしい。周囲のオーガ達はそれを見るなりマーレに対して頭を垂れ、恭順の意を示した。
「この件については、我々は一切のそれを咎めない。茶釜さん、マーレが落ち込んでるだろうから、ちゃんと慰めてやって」
「当然。てか私もモモンガさんの名前を馬鹿にされたら徹底的にぶちのめすわ」
ぶくぶく茶釜のメイン装備は盾であるが、ガチタン役以外で用いる攻撃重視のものだってちゃんとある。最も攻撃力の高い盾なら、レベル50程度までに攻撃を十分通せる。
「至高なる御方々の寛大なる裁定に感謝いたします」
巨人こと「グ」については、後に戻ってきたモモンガさんと相談して、アンデットとして何かに使えないか相談する事になった。
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他の危急の用事は無いと言うことで、デミウルゴスはトブの大森林内の制圧状況について説明を続ける。
「ふむふむ、魔蛇はナーガ種で実力差に心折れたと。
んで賢王は…。現地の魔獣にしては強い意思を感じる瞳の、キメラ種みたいな獣? マンティコア系なんだろか?」
「キメラって、なんか可愛くなさそう。でも賢王って言われてる位だから、賢いかもしれない所は評価点かな」
「映像は見れます? ああクリスタル・モニターで表示してくれるのね」
スクリーンショットを撮れるネタ魔道具が宝物殿にあったので、これ幸いと情報収集に使われている。トールからカメラを購入する案もあったが、あちらは現像が必要な為、使い勝手を考えて採用は見送られた。
そして魔法の映像で映し出された魔獣の姿を見て、全員が絶句した。
「「「…」」」
「ええと、大きさは結構あるんだよなこれ?」
「尻尾を使った攻撃をしてくると」
いくつかの低位階魔法を用いる事ができ、自由自在に動く尻尾と、巨大な体躯による体当たりを行う魔獣、その姿が画面に表示されている。
ただ、主要要素を占める体躯を端的に言い表すとするなら…、
「すごく…ジャンガリアンです…」
巨大なジャンガリアンハムスターであった。強い意思を感じる瞳? 大きいことは大きいがつぶらな瞳にしか見えない。大きいことを除けば、立ち上がって迎え撃つ体勢は、懸命に威嚇するハムスターにしか見えない。
「なる、尻尾と身体が別種っぽいからキメラ、そういう事か」
こんなでもカルネ村付近に縄張りを構え、結果として村への魔獣被害が減っていたのだから世の中、わからないものである。
「あのっ、あのっ、私この子、飼いたい!」
はいっと手を上げた餡ころもっちもち。
「餡ちゃん、拾ってくるのはいいけど、生き物のお世話は大変よ?」
思わず諭してしまうやまいこ先生である。
「知ってるもん! でもペスとかエクレアとか手がかからなすぎて、逆にお世話されちゃってるもん!」
「餡ちゃんがお世話される枠になってる件wwww」
「いいのかそこの至高の御方」
「てかデミデミ達が、満面の笑みで問題ないアピールしてる!」
今のナザリックの方針的にずっとロイヤルスイートなどでゴロゴロしてても、メイド達が喜んでお世話する訳で、各人は依存しすぎないようにと、自分を律する事を心に誓った。
「あーうん、配下には加えるから、餡さんの直下になるかは後で全員で検討」
「わかったー、楽しみ。ごわごわかな? モフモフかな? どんな感じでしゃべるのかな?」
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後に挨拶に来た「森の賢王」はござる口調でござった。餡ころもっちもちは、狂喜乱舞して流石に上がりすぎたテンションを下げさせる為に、やまいこの鉄拳制裁で宙に舞ったという。周囲の守護者達の顔が青くなったが、それでもその表情は笑顔であった。
「ここでの名前は?」
「モモンガさんに候補を出して貰おう」
ギルド長のネーミングセンスは壊滅的だが、目の前のすごくジャンガリアンな森の賢王の名付けには適切と判断されたらしい。遠距離連絡を可能にする魔道具で通話に参加したモモンガさんは、報告に面食らった後、名付けの依頼にすぐさま回答した。
『ハムスケで(即決)』
「ハムスケで(思考放棄)」
「ハムスケで(無言の圧力)」
「某(それがし)、至高なる御方々に賜った名、ハムスケとこれより名乗るでござる」
他のギルメン達は女性陣の対応を見ないふりをし、森の賢王にナザリック内での名、ハムスケを与えたそうな。勝手に決められた風ではあるが、餡ころもっちもちは気に入ったそうな。
暫くはカルネ村近辺で警護担当です