荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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現在の状況
・順調に黒い絨毯による情報収集は継続中
・モモンガさん、たっちさん、ナーベラルとルプーはエ・ランテル到着
・カワサキさん達、エ・ランテルに駐留する面々と会合
・クレマンティーヌの情報をもとに、対策会議
・「場合によっちゃマッチポンプかー」と思いつつも、GOサイン



死の支配者と秘密結社

 エ・ランテルにある大規模墓地。帝国との戦役で度々埋葬される者が出るここは、定期的に見回らないとアンデッドが出現する。アンデッドの存在はそれだけで他のアンデッドを呼び出し、集まった死の気配がより強大なアンデッドを呼び出す死のループがあるため、アンデッド対策は王国も帝国も怠らない。

 

 掘り下げられた地下墓所。霊廟。そこに黒いローブを纏った者達が居た。

 

 原作では、カジットを筆頭にした秘密結社、ズーラーノーンの面々である。ここにクレマンティーヌが加わり、死の螺旋を準備していてンフィーレア・バレアレを誘拐し…、モモンに討伐された。

 

 この世界においてはクレマンティーヌはカジットに合流しなかった。少し前まで法国の密命を帯びて「法国を離脱した」としてズーラーノーンの高弟の一人として末席に加わっていたが、周辺の調査をすると言ってから消息を絶った。

 消息を絶った理由は、破滅の竜王に関する調査の最中、出現したばかりのカワサキとアケミに遭遇したからだ。

 尚、潜入任務を主とする風花聖典には実情は知らされず、本気でクレマンティーヌは捜索され、狙われていた。法国から身を隠すためと本気で逃走している体を演出する為だった。

 

 カジットはこの国に移動する際、帝国からの追手から逃れるため、王国側を一時的に拠点にしていたクレマンティーヌに護衛を依頼した経緯があり、面識はそこからだった。尚、カジットもクレマンティーヌも元は法国の出身である。

 

「やっほー、カジっちゃん。お元気ぃー?」

「貴様、クレマンティーヌか!」

 

 死の宝珠へ定期的に死の魔力を送り込む儀式を終えた直後、クレマンティーヌが現れた。当然、カジット達は警戒している。どのような手段を取ったか不明だが、警戒用のアンデッドが一分の隙なく守っていた筈だった。だがアンデッドの反応はそのままに、クレマンティーヌはそこに居る。

 クレマンティーヌは、トールからカワサキ経由で渡されていた「ステルスボーイ」を使用したのだ。消耗品扱いのこの道具は、効果が切れるまでロボット達と同じステルスフィールド効果を発揮する。生命としての波動も遮断するのか、アンデッドも探知できなくなる副次効果がある。

 

「どうやってここまで来た」

「特殊な魔道具だよ。アンデッドからも身を隠せる」

 

 連続使用は健康被害があるので、今回だけと言われているが。

 クレマンティーヌはカジットとの再会を喜んでいない。見つけてしまった厄介事に呆れている。

 

「ランタンの直下は暗いって事か、クソが」

 

 クレマンティーヌは顔を背けて舌打ちをし、すぐに表情を元に戻す。

 

「やっぱりここで死の螺旋を起こすのは決定事項?」

「当然だ。帝国内、カッツェ平原、そしてここと効率良く力を吸収させてきた。最後の儀式を行い、私はここで人の身を捨てる」

「ふぅん? あー、他の連中は御遠慮願いたい話があるんだけど、いい?」

「信用できると思うてか?」

「大丈夫、アタシはこの位置から動かない。カジっちゃんもその位置。他の連中だけあの出入り口の線まで移動してくれればいい。ちょぉーっと耳寄り情報」

 

 いくらクレマンティーヌが優れた戦士だとしても、今の条件では距離が離れすぎている。本当に何かの情報を伝えようとしている事は判別できた。

 

「…何を考えている?」

「手持ちの情報を聞いて、できれば穏便に済むといいなーってトコ。何せアタシの今のお家、エ・ランテルだもの」

「ふん、お前達、離れて汚れの灰の生成をしていろ」

 

 弟子達がのろのろと霊廟の中から出ていく。最後の一人が遠ざかる気配を確認し、カジットは話の続きを促した。

 

「それで、耳寄り情報とはなんだ?」

「カジっちゃん、今もスルシャーナ様にお祈りしてる?」

「我が信仰は今も変わらん。質問の意図が読めんな」

 

 何を言っているのだ、と言わんばかりのカジットにクレマンティーヌはこれまでのおちゃらけた態度を改め、真剣な表情で伝えた。

 

「…元法国所属者として、スルシャーナ様の信徒へ伝える。

 神が、降臨された」

「!? 冗談でも許されんぞ!?」

 

 信じられず声を荒げるカジット。

 

「冗談じゃないんだなこれが。

 今回降臨された神様達の中に、スルシャーナ様と同族の方がおられるの。これは隠蔽された話だけど、ガゼフ・ストロノーフが帝国兵に偽装した盗賊団を撃退した話は聞いてる?」

 

 頷くと、頬まで伝ってきた汗を拭うカジット。霊廟の中は寒い位であるのに、じっとりと汗をかいている。地下墓地の中にあって、何か得体の知れない力が近づいているような感覚に冷や汗が止まらない。

 

「そう。実情は法国の作戦でガゼフの抹殺の囮だったんだけどさ、連中が最後に襲った村を神様達はお救いになり、陽光聖典を軽く一蹴した。ガゼフは口止めされてたってワケ」

「それが事実なら…!?

 おい、クレマンティーヌ、神様達と言ったな!? 幾人もの降臨が確認されているのか!? それ以前に貴様、なぜそこまで詳しいのだ!?」

「うっふふー、そんなに唾飛ばして質問とかばっちぃよ。

 答えるね? 現在降臨されている方々は十柱以上。つい最近になって、その神々をして長と呼ばれる、スルシャーナ様と同じ御姿の神が、居城並び従属神様達と共に降臨された。

 それで、アタシが詳しいのは…」

 

 と言った所で、カジットが先程まで感じていた重圧、それが形になって目の前に現れた。

 

「我が友に仕える従者となったからだ」

 

 ズーラーノーン十二高弟が一人、カジット・デイル・バダンテールは、盟主と相対してすら感じなかった、圧倒的な死の気配に息を飲んだ。

-

-

「アインズ様、このような場所に御足労戴き、申し訳ございません…」

「よい、我が友が心配していてな。お前も友の為に動いてくれたこと、嬉しく思う」

「勿体ないお言葉」

 

 先程までの態度がまるで偽装であったかのように、王を前にした臣下のごとき態度になったクレマンティーヌを目にし、また先程から浴びている重圧に言葉の一つも発せないカジット。

 

「さて、カジットと言ったか。発言を許そう」

「ご、御尊名を、伺えませんでしょうか…!」

 

 なんとか気力を振り絞り、目の前の存在に嘆願する。

 

「私は、ナザリック地下大墳墓の主にして、アインズ・ウール・ゴウンの長。

 モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリックである。

 アインズと呼ぶがいい」

 

 支配者チックにローブをばさー。流石に完璧である。

 

「御尊名、確かに…!」

 

 カジットは霊廟の床に、額を擦り付けんばかりに平服した。

 

「問おう。貴様は何故、死の螺旋とやらに拘る?」

「我が母の復活のためでございます。か弱き魂の存在を復活させるにたる魔法の技を得るには、到底人の身では足りませぬ故!」

「…その身をアンデッドとしてまで、復活魔法の探求を続けたいという事か。ふむ」

 

 アインズさんとしては「この世界だとレベル上げとか大変だし職業取得もなんかクソ仕様だから、余程才能無いと大変だよなー」なんて内心思ってたりする。

 なので、目の前の生まれ付きの才能に乏しい男としては、高位の復活魔法はとてもじゃないが研究に時間が足りないのだろう。

 この外見でマザコンか、とは言わない。自分もまた、幼い頃に両親を無くしているからだ。

 

「では一つ、お前に選択肢をやろう。このまま儀式を行い、我が友が振るう剣の錆と化すか、儀式を取りやめ、私の筋書きの通りに動き、我が傘下に加わる資格を得るか」

 

 神の友、となると必然的に降臨された別の神だ。そんな力を受ければ、矮小な人の身なぞ塵と消し飛ばされるだろう。だが示された選択肢はもう一つ、それはとても魅力的に聞こえた。

 

「か、神のお膝元に加わることをお許し頂けるのですか!?」

「貴様の働き次第で、魔導の深淵も覗けよう、禁断の知識も授けよう。

 さて、どうする?」

 

 唐突に示された究極の選択肢である。かの神のお膝元に行くことを許されるなら、相互協力どころか高弟同士では足の引っ張り合いも多いズーラーノーンに居る理由なぞ無くなる。盟主への忠義なんて放り投げる。

 

『死の神よ、身動きのままならぬ身で失礼いたします』

「ほう、知性在る道具、と言った所か。<上位道具鑑定>…ふむ、喋る以外の能力はあまり気をそそられんな」

『ぬ、ぬう、側にあるだけで力が蓄えられていく感覚がわかるだけに、神のお力に比べれば我も塵芥も同然か…』

「それで? お前は何を望む?」

『生み出されてよりこれまでの時、全ては貴方様の元へ至るためのものでした! この男と共にそのお膝元へ赴くことを、どうかお許し下さい!』

「アインズ様、私は貴方様の下へ赴きたく存じます、何卒、何卒…!」

 

 カジットと死の宝珠の嘆願を穏やかな声で聞き届けるアインズさん。

 

「よろしい。暫く潜伏し、何事も起こさずカルネ村へ向かえ。

 だが、私はあの村を気に入っているし、穏やかな時を過ごすのが好みでな、余計な騒ぎを起こすようならいつでも砕き潰す。いいな?」

「『ありがとうございます!』」

-

-

 地下墓地からクレマンティーヌを伴い出るアインズさんの後ろ、まるで夢のようにふわふわした感覚で、死の宝珠に「おいしっかり歩け」と小言を受けるカジットだったが、出入り口に到着した所でふと思い出した。

 

「と、所で、我が弟子たちが墓所の前に居たかと思うのですが…」

「私の力に当てられて全員、気絶している。記憶を覗いたが…、お前と違って死と混乱を望むのみであった。我が神威を示す為の人柱になって貰う」

 

 スルシャーナ様は恐ろしい姿と裏腹に、自然と人を慈しんだと言う。目の前のアインズ様も慈悲深い方のようだが、平穏を乱す無用な騒ぎには容赦の無い方なのだと、カジットは深く心に刻んだ。

 

 恐ろしげな風貌に叡智を湛えた神は、外に出ると星空を見上げた。何か重要な事柄に思いを馳せているのだろう。

-

-

 とカジットは思っているが、そんなこたーない。

 

(ぷにっと萌えさん達、ノリノリでこの後のエ・ランテルでの行動計画を立案したけど、これって結局マッチポンプだよな…)

 

 墓地で<不死の軍勢>を込めたアイテムをズーラーノーンの連中に使わせてアンデッドを溢れさせ、片端からアインズさんこと戦士モモンが薙ぎ払い、記憶操作をしたズーラーノーンの連中を捕縛か倒すという作戦である。

 

 都市内の防衛にはクレマンティーヌの他、ウルベルト配下のザ・ファイブス、カルネ村からニグン達なども呼び寄せて、市民への被害が出ないよう立ち回らせる予定だ。

 

(いかん、ここで踏ん張って計画を遂行しないと、王国の事情に振り回されず後顧の憂いなく皆で集まってキャンプとかピクニックとかできないじゃないか。例えマッチポンプだとしても、バレなきゃ犯罪じゃないんだし、助かる人が沢山居るんだからいいよな、うん)

 

 そんな事を遠い目をして考えるアインズさんだった。

 




ちな、冒険者登録はまだです。

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