荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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マッチポンプ、はっじまっるよー


死の支配者と死者の軍勢

 

 その日、エ・ランテルは都市が出来て以来の未曾有の危機に陥り、同時に英雄の誕生を住人たちは目にした。

 彼は漆黒の鎧を纏い、墓地から溢れ出てきた巨大なアンデッドを薙ぎ払い、か弱き人々を津波のように飲み込もうとする群れを一掃した。

 そして英雄の下へは、輝く才能を持った人材が自然と集まるのか、これまで無名の強者達が集まり、協力して市民たちを守る。

 自ら武器を振るいながらも死者を塵に返す天使を使役する術者、穿っては焼き砕いては凍らせる軽戦士、豪腕で打ち砕く格闘家や、無数の剣を操る舞姫、フードを深く被った魔法詠唱者、離れた場所を引き裂く剣士、一瞬で間合いを詰めては離れる剣士などが集まり、溢れ出るアンデッドを駆逐していく。

 

「友よ、私は元凶を叩きに行く。ここを頼めるか?」

 

 グレートソードを休み無く振るう新たな英雄は、美しい二人の従者を呼び寄せると、エ・ランテルでも名の知れた聖騎士に声をかけた。

 

「承知した。頼んだぞ、我が主にしてかけがえの無い友よ」

 

 自分を守ることが精一杯の住民の多くが、彼らの会話を聞いた。聖騎士が主と仰ぐ男、漆黒の英雄はマントを翻すと重厚なその姿に似合わぬ軽快さで走り出す。

 

 途中、冒険者達の側を駆け抜けながら、漆黒の英雄は剣を振り抜き、黒髪の従者は魔法を放ち、赤毛の神官は武器で砕く。

 

「面倒だし、一気に周囲ごと浄化したいっすねー?」

「程々に活躍しないとモモンさーんが目立たないでしょう!?」

「わかってるっすよー、ていっ!」

 

 アンデットの強さはそれ程でも無く武器を持った個体も少ないので、一体程度なら一般市民でも対処はできる。だが殊更数が多い。上空から見る目がもしあるなら、まだら模様が続々と道を大通りを埋めていくように見えるだろう。

 

 先程の強者達の活躍と、冒険者達の踏ん張り、聖騎士の強さで少しずつ押し返しているが、このままの状態が続けば、死の魔力に引き寄せられて強力なアンデッドが呼び出されかねない。

 

「す、スケリトルドラゴンだ!」

 

 中堅どころの冒険者チームのリーダー、クラルグラのイグヴァルジは食事を終えてこれから酒をと思った矢先、外の騒ぎに気付いた。仲間と共に武器を持ってアンデッドをさばいて居たが、上空から目の前に落下してきたスケリトルドラゴンを前に、明確な恐怖を覚える。

 

「くそっついてねぇ!」

 

 逃げ道は無い。これまで温存しつつ仲間が用いていた魔法も、目の前のこれには一切役に立たない。だが、自分と仲間達の後ろには、馴染みの酒場客の他に、怪我をした親をなんとか連れて避難してきた子供の姿まである。

 

「かかってきやがれ骨野郎! ここは通さねえぞ!」

 

 震える足に活を入れる。スケリトルドラゴンは巨躯を巡らせ、目の前の矮小な人間に顎を開いた。

 

「身を呈して、よく吠えた。任せろ」

 

 イグヴァルジの横を風が通り過ぎる。マントが見えた。

 

「邪魔だ」

 

 その声の主を通り過ぎるように、魔法の矢が飛び、スケリトルドラゴンの周囲をうろつくスケルトンを撃ち抜いた。

 

「いいタイミングだ。そらっ!」

 

 空気を切り裂く音がして、振り抜かれたグレートソードで骨の竜の首が砕き割れる。ついでとばかりに、もう片方のグレートソードが背骨を殴りつけると骨の開きができた。

 

「グレートソード二刀流!?」

「どんな筋力だよ、すげぇ…!」

 

 油断なく周囲を見渡した鎧の男は、彼を追ってきたであろう美女から声をかけられた。

 

「流石っす、モモンさん!」

「こいつが出てきているなら、墓地の中はもっと強力な奴が出ているな。ここの人達に治療を。住民を守る気概がある連中だ、失うには惜しい」

「了解っす!」

 

 後から駆けつけてきた赤毛の美女が、元気よく答えた。もう一人の黒髪の美女を伴い、鎧の男は走り去る。

 

「<魔法効果範囲拡大化・重傷治癒> …っはい、元気になったっすかー? それじゃっ!」

「お、おい?」

 

 呼び止める間もなく赤毛の美女も去っていく。

 

「時間があったならあの治療薬使わせて貰うんすけどねー?」

「趣味も程々にしないと怒られるわよ? …ユリ姉に」

「あ、告げ口はだめっすー!?」

 

 周囲を見渡せば、アンデッドの数も少なくなったばかりか、けが人だった連中も不思議そうな顔をして自分の身体を触っている。

 

「漆黒の、英雄だ」

 

 風のように去った彼らに対し、酒場の常連客の一人がそう言った。

 擦り切れた子供の頃の思い出、英雄に憧れた自分。今や割の良い仕事だけを選び、日々を送る毎日。だが、イグヴァルジは見た。本物の英雄の姿を。心が震えた。その英雄が自分の働きを褒め、失うには惜しいと言ってくれた。

 

「…お前ら、まだ動けるよな?」

「いい目だ、昔憧れたあんただ」

 

 クラルグラの面々は燃えている。リーダーはそれ以上だ。

 

「生き残るし、生き残らせるぞ!」

「「「おう!」」」

 

 ミスリル級でありながら素行から煙たがられていたクラルグラとそのリーダー、イグヴァルジは、この事件の後から素行が改められ、特に新人の面倒見が良いと評価が上がる事となる。

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 エ・ランテル上空から、追加のツインローターを取り付けられた改造型アイボットが下の様子を見ている。暗視装置、生体レーダーの映像が送られ、ナザリック内の円卓の間、中央情報センターに集積される。

 

 解析された映像データを基に、始まりの九連星のメンバーこと、アインズ・ウール・ゴウンのギルメン達は人化した姿で各所のアンデッドに対処していた。

 カルネ村から戻ってきた後で、休暇を取っていた設定なので、外見上は普段着のままである。しかも手に持つのはナイフか拾った棒やらだ。

 それでも彼らは冒険者達や衛兵に混じって縦横無尽の活躍だ。今回の計画上、死人は極力控えるという目標を立てた為である。

 

 円卓の間からの情報は、デミウルゴスやアルベド、パンドラズ・アクターがその頭脳を持って流れや戦況を解析し、ともすれば脆弱な人間が傷ついても死ぬことが無いように細やかで適切な指示を現場に飛ばし続けている。

 

(ほい対処完了! デミデミ、連絡が早くて助かるぅ!)

『有難うございます。次は大通り西の袋小路、冒険者が奥に居る住民を守っております』

(オッケー!)

 

 てな具合である。到着済みのセバスは、ル・シファー商会前に作られたバリケードの前で、避難民の誘導とアンデッドに対処させている。

 

 ただ、今の状態でもアンデッドの駆逐は時間の問題ではあるのだが、起点となった墓地は死の魔力が集まり、優秀な程度の冒険者では対処が困難なアンデッドの出現の可能性が高くなっている。

 

 そこに切り込むのが、戦士モモン、というわけである。

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 墓地の門前。当然ながら激戦が繰り広げられている。衛兵達は半数以上が負傷し、たまたま近くに居た冒険者チーム「漆黒の剣」が、他の先輩冒険者達と共に対処しているが、既に門は破られているので今はいかに自分達が生き残るかという状態だ。

 

「ナーベ、道を切り開け! 冒険者達に当てるなよ!」

「はっ!」

 

 轟音と共に数多くのアンデッドが砕け散る。モモンは羽のように広げたグレートソードを振り回して一蹴。満身創痍の冒険者達の前に、漆黒の鎧を纏った偉丈夫が伴の美女達と共に現れた。

 

「無事か?」

「な、なんとか。モモンさん、物凄くお強いんですね…」

「褒められるのは嬉しいが、今は後にしましょう。レジーナ、彼らの治療を。ナーベ、護衛をしてカワサキさんの店まで後退しろ」

「はい。お気をつけて」

「え、おい、強いのは解るが、この墓地の中に行こうってのか!?」

「この面倒事はさっさと片付けるに限る」

 

 言うが早いか、崩れた門を軽々と飛び越えてその向うに消えるモモンことモモンガさん。レジーナことルプスレギナは、嬉々としてスティムパックを重傷の者を中心にぶっ刺している。

 

「何故このようなカマドウマ達の為に私が…」

 

 愚痴りながらも的確に魔法を放ち、立ち上がれるようになった者を背に後退していく。スティムパックで痛みに悶絶していた者も、なんとか立ち上がると後ろ髪を引かれながらも町の方へ移動する。

 

「…すごい御仁であるな」

「ああ、あの人が入ってから一切、アンデッドが出てこなくなった」

「い、一切合切薙ぎ払ってるって事かよ!?」

「モモンさーんなら当然です」

 

 ドヤ顔のナーベことナーベラルである。傷が浅くとも武器が持てそうに無い冒険者にもスティムパックをぶっ刺していたルプスレギナは、既に門の外に出ていたが離れた場所に居たアンデッドを殴り飛ばす。

 

「ほら、早く移動するっすよー、アンデッドが寄ってくると面倒っすから」

「わかりました! 皆さん行きましょう、そして信じましょう。モモンさんが元凶を叩いてくれる事を!」

 

 さて場面は移って、墓地内に突入したモモンガさん。今は中身がオーバーロードの姿でお骨様である。当然、アンデッドは襲って来ない。

 

「面倒だな、いやほんと」

 

 グレートソードを形作っていた魔法を解除し、あまのひとつに作って貰ったグレートソード型の魔法の杖を取り出す。試作品ということで少し耐久度に不安があった事、剣の外見にしては飾りが豪華すぎた事で、他の目がある中で使うには悪目立ちしそうだった為、温存していた。

 

「いきなり試運転になっちゃったけど、よっぽど殴らなければ大丈夫だよな?」

 

 そう言いながら、剣型の杖を使って魔法を発動。範囲系魔法を次々と繰り出して数を減らしていく。

 

「あー楽」

 

 たまに撃ち漏らしもあるが、そこは殴りつけて対処。先程までの、セリフとか指示とかちょこっとポーズと言うか残心とかしながらできるだけ派手に殴りつけて叩くとか、実は加減が大変だったのだ。

 人の目が無い事をいい事に、鼻歌交じりで駆逐する。気分良く目的地へ歩いていく。

 

「貴様、何者だ!?」

 

 記憶操作で代表に繰り上がったズーラーノーンの男。周囲の面々は、設置された魔法陣とその中央にあるマジックアイテムに力を注いでいる。

 

(これ、場所を取る上に込められる魔法が第八までで微妙なネタアイテムなんだよなぁ)

 

 ユグドラシルには性能度外視のネタアイテムが公式にも存在する。所謂雰囲気系というやつだ。目の前でズーラーノーンの連中が作動させているそれは、込めた魔法をMPを使うだけで発動できる。

 目の前のそれは<不死の軍勢>が込められていて、今のエ・ランテルの惨状はこのアイテムが原因である。ただ、込める際の魔力は無駄で、使う際にもMPを消費する上に、設置してから展開しないと使えない、無駄に凝った奴である。

 

「何者かだと? しがないカッパーの冒険者だよ」

「途中のアンデッド共はどうした! 巨人のアンデッドすら居たはずだ!」

 

 うるっさいなー、もう帰って寝たいなーと思いつつも、ここは今回の大トリである訳で、きちんと返してあげるのが礼儀だろう。

 

「巨人の? ああ、あの木偶の坊か。奴なら寝てるよ」

 

 叩き割ってやったが、と付け加えると明らかに連中の間に動揺が走る。

 

「私も気が長い方では無いからな、さっさと倒れてくれ。だが投降もお勧めだ。今から私の剣で撫で斬りにされたくないならな」

「バカにしおって…!」

 

 儀式というか連続使用を停止し、一〇人近いズーラーノーンの面々は全員が杖を取って詠唱を開始。モモンガは少し迷ってから突撃。一瞬で多数の意識を刈り取った。

 

「もう一度言う。死ぬか投降するか」

「くどい!」

「ならば仕方無い。<連鎖する龍雷>!」

 

 暗さが一瞬だけ駆逐される。東洋の竜の姿をした雷は、連鎖しながら周囲のズーラーノーンの面々を黒焦げにした。

 

「な、あ、え?」

 

 声も出ないとはこの事だろう。目の前の男は狼狽えて、周囲の死体にびびってから尻餅をつく。

 

「もう一度言う。死か、投降か、選べ」

 




イグヴァルジ達は生き残らせてみる。

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