荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
時期的には、死の螺旋モドキの事件が終息し、王都へモモンガさん達が向かう間です。
エ・ランテルから王都へ向かう馬車から転移門で戻ってきたモモンガさん一行。馬車にはセバスとドッペルゲンガーによる影武者達が残っている。
(え、トールさんの拠点、見れるんですか!)
(守護者の子達と話し合った結果、今のタイミングがいいって話になりまして)
既に妻と娘が暮らしているたっち・みーとしては「楽しんで来て下さい」と言った所だったのだが、トールが次にぽろりと言った言葉に反応、同行を申し出た。
「どんなルートで行くんですか?」
「一度に案内する事になるので、大型搬入路の斜行エレベーターを使います」
「斜行エレベーターですか! アニメとかで見る…」
「なぬ!? その話詳しくっ! てかその話知らないずるい!」
「「ずるいって…」」
通常、トールの拠点へはいくつかある偽装通用口からエレベーターを使うか、事前通信の上で転送装置を使ってエントランスホールへ向かう。
だが様々な荷物の搬出入については別途設けられた大型の斜行エレベーターを使う。今回は大人数が一挙に来るので、途中に存在する戦力格納区域の見学も含めて斜行エレベーターを使う事にしたのだ。
予想外だったのは、たっち・みーと他、子供心を忘れてないギルメン達の反応である。付き合いが長い筈のベルリバーやウルベルトすら、その存在を知らなかった。戦力格納区域の見学は拠点内での移動だったので、丁度、稼働していた斜行エレベーターの存在に気付かなかったのである。
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結局、モモンガさんと守護者達の案内日当日、他のギルメン達も可能な範囲で予定を前倒しにして集合した。女性陣まで居る。特に斜行エレベーターには興味を抱かなかったのだが、自らの子が行くならとか他の女性面子も行くしとか、理由を付けて。
「プレアデス達も…」
と、これもまたねじ込まれた為、思った以上の大所帯である。
「なんだか、観光ツアーガイドの気分だな。頼んだ、エインズワース」
「皆様の案内はお任せ下さい」
丸投げしてしまったが、トールとしてはナザリック配下の面々の前でいつものロールプレイを崩す訳にも行かなかったせいである。トールが少々の荒くれ者っぽい喋りなのを演技と知るのは、アルベド、シャルティア、パンドラズ・アクターの3名位だ。
「本日は我々の拠点、ゼロ・バンカーのビジターツアーへご参加戴き、誠にありがとうございます。今回、ご案内を務めますのは私、拠点管理人工知性、エインズワースです。どうぞよろしくお願いします」
そう述べたのは、丸い身体に3つのカメラアイ、3本のマニピュレータを備え、宙を浮くロボットことエインズワース…の、端末である。今の本体はZAXシリーズのスーパーコンピュータであり、拠点を運営管理する。元はコモンウェルスに居たMrハンディタイプの執事ロボット、コズワースの人格データが基礎となっている。
ギルメン達が拍手するので、困惑しながらそれに付き合う配下の面々である。
「拍手、感謝致します。今回は大人数での御来訪となりましたので、もしもの際に皆様を援護する拠点戦力のご紹介がてら、斜行エレベーターに搭乗戴いてのご案内となります。皆様の身体能力につきましては何ら心配はしておりませんが、万が一でも余計な怪我をされませんよう、拠点内では不測の事態を除いて魔法や特殊能力の使用不可、事前に提示いたしました範囲から出ない事など、予めご了承願います」
お行儀良くするように、とそれぞれの創造者に言われているので意見などは出なかった。いくつか些細な質疑応答の後、トールの拠点内への案内は開始された。
「所で、ウルベルト様、迷子になられていたシモベの皆様はいかがいたしましょう?」
「迷子? …デミウルゴス」
「…っは。申し訳ございません、目を離した隙きに、物珍しさから逸れてしまったようです」
「そうか。悪い、エインズワース、斜行エレベーター到着時に合流させてくれ」
ウルベルトとしては「ああ、情報収集に影の悪魔を放ったんだな」と察してはいるが、少しでも情報を得たいと画策しているデミウルゴスの事をあまり責める気は無い。が、トールの心証を悪くする可能性があるので、知らない素振りである。
「畏まりました。間違って、排除機構などが配置されている場所に迷い込まれていなかったのは幸いです。IDが無ければ問答無用に昏倒、あるいは負傷させてしまいましたから。関係者通用路で発見できたのは僥倖ですね」
ウルベルトとデミウルゴスとしては冷汗ものである。まるで「次は無いぞ?」と言われているような気がした。ただしエインズワースにはその気は全く無い。単なる迷子案内の積りである。
「ああ、全くだ。今度、何か埋め合わせをするよ」
「それには及びません。皆様を安全にご案内するのが私の役目です」
さて、そんな事があった後、トブの大森林の中、偽装された大型通用路の脇にある人間サイズ用通路からトールの拠点に入る。階段もあるのだが、随分な距離を下る羽目になるので横のエレベーターを使う。
「第9地下汎用大型通路脇、一時集積所です」
電子音ではない、何かのベルの音が鳴って停止、ドアが開く。最初に到着したモモンガさん達の目の前に広がるのは、大小姿形も様々なロボットが稼働する資材の一時集積エリアだ。ここと同じ場所が複数あり、拠点内で必要な外部物資の振り分けや、拠点外へ搬出する生産物の運搬などを行っている。
天井はそこそこ高く、100m程度だ。上には大型のクレーンがあり、いくつかの大型コンテナの積み降ろしが行われている。
こんな大規模な物資流通エリアだが、外部とのやりとりは殆ど無い筈である。他の皆が到着するのを見計らって、モモンガさんが聞いてみた。
「ここの物資は、建設中の予備拠点に送られています。本拠点をゼロとして、同規模の拠点があと2箇所程ありますが、一つは完成済ながら必要物資の集積と搬入以外では休眠状態です」
驚きに骨の顎をパカーンと開くモモンガさん。思わず「オーバーロードの姿でよかったー」と精神沈静化する。
「これは…なんというか、余りにも巨大です」
「流石のアルベド達も驚いているか。はは、私も先程から驚き通しだ。彼が最初から友好を示してくれたのは、この点だけでも運が良いな」
「友好を示したのは、アインズさんの器が故だ。俺も運がいい」
シモベ達としては流石はモモンガ様と感心する。
「まって、こんな規模でどっかから調達してて、バレないの?」
「いえ、他から調達する物はほぼございません。トール様の能力で設置された装置というか箱というか、そこから必要物資を取り出して集積、生産などを行っています」
ナザリック勢が一斉に視線を向ける。トールは軽く頷く。全員、やれやれと言った感じで首を振る。酷い話であるが、トールはこの世界に現存する殆どの物資や物質に価値を見出していない。解析が難航している魔法の道具や武器、またはユグドラシル由来の金属はともかく、物理的素材で用意できない物が無い為だ。
「トール様はサボリ気味でしたので、出現物の取り出しを私達で請け負う事となりました。リスポン間隔は24時間です。以前の集積度と比較して7倍前後になったかと」
「あれだけ箱があるんだ、全部集めてたら一時間かかる」
不貞腐れ気味に言う。
「制限があるとはいえ、無限生産系ってえげつないですね」
「えげつないさんに言われてるとか戦慄するえげつなさだ」
「チートや、まじチート」
「一人国家戦力とか無双系主人公キャラか」
「また何かやっちゃいました?とか言い出すぞ」
「おい、人の殆どの攻撃をアビで無効化したり単射レーザーを手先で捌く連中が何か言ってるぞ」
思わずツッコミを入れるトールであった。
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尚、トールのチート能力はFalloutとMODに由来するため、そこに無かった物は再現が著しく困難かコストがかかる。ナザリックの生産勢から生産を依頼されるデータクリスタルは、拠点内のZAXシリーズの一基を専門に割り当ててもここ十年で解析できたのは中位クラスまでで、高位やその上になると極一部しか解析できていない。解析済のものは生産にあたってコストがかなり下がるのだが、未解析のものは様々な素材を多く消費する。
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極希少なデータクリスタルになると、リバティ・プライムを複数体生産する物資が必要になるというか、なった。
「私用の、魔法耐性装備ですか?」
「無効化とかは一定レベル、一定位階で設定なんですが、トールさんの場合は生身である程度は耐性あるんで、これでダメージ類、付与デバフをほぼ軽減できるかと」
「あまのまひとつさん、なんて事を!」
「ウルベルトさんが崩折れたぞ!」
得意とする魔法で、トールとのソロ模擬戦で勝つあと一歩のところまで行っていたウルベルトであったが、この日以降、渋々チームでの対戦に参加するようになったそうな。
「神話級って凄いな、性能と能力が5割増し以上じゃないか」
「<時間停止>の中で平気で術者より速く動かないでくれますかねぇ!?」
因みにトールが1と希望参加者全員というチーム戦である。これは、ナザリックが出現して本来の装備を取り戻すまで行われていた。
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尚、Fallout3以降を発売した会社のファンタジーRPG「Skyrim」の物を持ち込むMODも多少はあるが、それ自体が意思を持ったりするデイドラ装備類は色々やばいので、もしもがあると困った事になる為一切生産はせず封印して蓄積データの肥やしである。
閑話休題。
「さて皆様、ご歓談を中断する形で恐縮ですが、拠点内斜行エレベーターの準備ができましたのでご案内いたします」
エインズワースの案内に従い、移動する一行。至高なる御方々の内、男性陣はテンションアゲアゲである。女性陣やナザリックのシモベ勢は物珍しさに周囲を見回している。プレアデスのシズ・デルタは、隣に居る妹、イマジナリ・ニューに言葉少なくも質問を繰り返している。
一部ではあるが、イマジナリ・ニューは製造時に拠点内で稼働する機材やロボット等の知識は予めインストールされている。
「あれは?」
「カルネ村に供与する予定の、フォトニック・レゾナンス・バリアー展開用チタン合金製ワイヤーと障壁発生ポールです」
周りを見るのに忙しかった為、一体、村をどうするつもりなんだというツッコミは誰もできなかった。
「此方が、皆様に搭乗いただく斜行エレベーターです。到着まで大分かかりますから、風景をお楽しみ頂きつつ、お飲み物をご賞味下さい」
エインズワースの同型機が複数現れ、テーブルセットやティーセットを用意する。ブザー音が鳴ると回転灯が光り侵入側の安全柵が起立、静かにエレベーター前のゲートが開いて床が丸ごと下降し始めた。
野郎共は殆どが暗がりの先を見ようと移動。シモベ達と一部男性陣に女性陣は、用意されたティーセットで紅茶や緑茶、珈琲などを堪能する。
「おや、中々悪くないお茶でありんすね?」
「ありがとうございますシャルティア様。此方は拠点内で生産しております茶葉でございまして、常用の物ですが淹れ方をナザリックのセバス様方にご教授戴きました」
「あちきの常飲する茶葉のものを送っておくでありんす。今後の研鑽用に使いなんし」
「紅茶に一家言あるシャルティア様のご愛用品、大切に使わせて頂きます」
魔法の鍋で様々な高級品を生産できるナザリックとは異なり、トールの拠点内生産物は結局の所は大量生産品だ。質の向上については、少々というか大分、ウェイストランドの食生活が長いトールでは力不足であり、高級品に慣れた人物のアドバイスは有り難い。
食に関しては、食堂を営むカワサキも居るのだが彼の場合は人間として積んだ研鑽と、文字通り人外じみた能力が合さって培われており、簡単には再現ができない。カワサキがこの世界に出現してから二年、継続して食料品や生産保存食の品質向上にアドバイスを貰っているが、スイーツ類は苦手分野と言う割には引き出しの底はまるで見えていない。
「とはいえ、竜王国での遠征時、効果が付与されるとはいえカワサキさんの料理は、なんか勿体無い気がして」
「どうせなら、警戒なんかしなくていい状況で、じっくり堪能したい」
「わざとらしいジャンクな味わいなら任せろ^^」
「おいトール、生産ラインの味付け工程、俺にも噛ませろ!」
「カワサキさんの要求レベル、高すぎるんですが!?」
結果的にいくつものメニューで味の向上が著しく行われたが、幾度も行われた試食会に参加した一部の至高なる御方々は、人化した際に何故か影響が出た脇腹に戦慄したという。
閑話休題。
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斜行エレベーターがゆっくり下っていく。元々、大型兵器や機材を移動させる物なので動きが遅いが、光景を見ながらと考えると悪くない。
「次の隔壁を越えますと、当方の保有しております戦力格納区域になります。そのまま通過致しますが、整備中のものの様子はご覧頂けるかと」
巨大な隔壁が開く。下っていくと、巨大な船のようなものが2機、話だけは知っているリバティ・プライムが…5機程、そのエリアで整備を受けている。
「「「お、おおーっ!」」」
至高なる御方、大興奮である。女性陣は我関せずだが。ただ、アルベドは兎も角として、デミウルゴスとパンドラズ・アクターは表情は一切変わらないものの、内心は真っ青である。
((リバティ・プライムが5機だとぉ!?))
決戦兵器だから一体とは限らない。重要部品がワンオフなら兎も角、チート頼みとはいえ量産できるなら予備含めて自重しないのがトールクォリティである。またダース単位でロボットのメンテナンスポッドが収まったキャニスターが整備を受けていて、それと同型のコンテナが奥の方にずらりと並んでいた。
「これは、凄まじいですね」
「こことあと一箇所、同じ戦力が格納されていますが、今の所は使い所もないにぎやかしとなっております」
((倍プッシュ!?))
だが、聞き及んでいた戦力数には足りない。極めて平静を保ちながら、パンドラズ・アクターは聞いてみる。
「事前に伺っていた戦力数には、少し足りないようですが?」
「此方は緊急展開ブースター取り付け済の即時展開戦力です。戦闘初期に一挙投入される分ですので、本隊は別途、保管してある下層の拠点内から移動となります」
本気で何かと戦闘する準備を整えてはいるが、戦闘する何かを求めている訳でもないので備えは最小限にしている、とはエインズワースの弁である。酷い最小限もあったもんである。
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そんな戦慄の情報はさておき、斜行エレベーターは次の階層と繋がる隔壁に近づく。
「次は居住エリア、目的地です。少し明るくなりますので、強い光が苦手な方の為、サングラスをご用意いたしました」
様々な姿の異形種と辛うじて人間に似た姿のシモベ達が、それぞれサングラスをかけるシュールな光景。
「装備扱い、ではないようだな?」
「外装アクセサリ扱いかも」
必要は無いのだが、モモンガさんも死の支配者の姿でサングラス。とてもシュールである。アルベドはレンズが大きめのおしゃれなタイプで顔だけを見れば似合っているが、ファンタジー全開の衣装とは流石にミスマッチである。
「隔壁が開く…おお!」
「ここに通じるのか。展望台と同じくらい見渡せるな」
眼下に広がるのは、地下には思えない明るさの空間。地面から天井までは300m位はあるだろうか。斜行エレベーターは壁沿いに下りていく。見える光景は、自分達がリアルでは極一部でしか見た者が居ないアーコロジー上層のような感じなのだろうか。
そんな事をモモンガさんが呟くと、るし★ふぁーと餡ころもっちもちが苦笑して首を振る。
「こんな規模の地下アーコロジー、多分あっちのアメリカ位にしかないよ。てか、明るさと空調考えたら凌駕してる」
「日本の各所にあるアーコロジー、機能的で落ち着いた設計なのはいいけど、大体がこじんまりしてるし、圧迫感あるんだよねぇ」
「機能詰めすぎて不具合でまくりの所もあるし」
「比較頂いた上での賛辞、有難うございます。本拠点は完全循環型となっておりまして、エネルギー、空気、水、全てが内部生産と循環にて賄う事が可能です。現在は外部の水と空気を浄化して利用する事で機構の負荷を軽減しております。尤も、居住されている方々が極少数ですので、機構の負担等は殆ど誤差のレベルですね」
ふと見れば、居住エリアの下方、公園を囲むようにして存在するいくつかの建物の一つ、その屋上から、此方に手をふる親子の姿。たっち・みーの奥さんと娘さんである。斜行エレベーターの上から、モモンガさん一行は手を振り返した。
「夢の独立マイホームですか…」
アーコロジー内で、マンション型ではない居住スペースは超高級である。殆どの場合、建築・運営会社の重役以上でしか住めない。トールの拠点では壁沿いに建造されたマンション型と、それとは別に一戸建て型とあるが、たっち・みーは一戸建て型を選んだ。
自動的に、嫉妬マスク同盟を中心にやさぐれる一部が居る。筆頭であったはずのモモンガさんが脱退目前というせいもあるが。
「…」
アルベドはなんだかうっとりと眺めている。モモンガさんとの将来の夢を見ちゃっている。それを見た嫉妬マスク同盟の面々は余計に落ち込んだ。
「さてそろそろ到着…なのですが、何か粗相でもございましたでしょうか?」
「「「気にしないで」」」
エインズワースが気遣うが、流石に理由も言えない至高なる御方達は異口同音に答えたという。
イメージとしては、Vaultよりもインスティチュートの拠点を大規模化した感じです。第3新東京市のジオフロント程ではない規模。