荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
荒野の住人「えーと、荒野の災厄って…(遠い目)」
骸骨魔王「災厄て、何したん?」
荒野の災厄「敵対者確認次第、ぶっ殺してた」
骸骨魔王「…所で、骨の身の私、怖くない?」
荒野の災厄「骨見るのは慣れてる。ウェイストランドだと骨なんて素材」
骸骨魔王「なにそれ怖い」
荒野の災厄「この世界、理知的で理性的なアンデットってほぼ居ないんで、人間と会うなら変装した方がいいかなー」
骸骨魔王「そっかー」
支配者ロールでの会話に気分的に疲れてきたモモンガさんは、手持ちにあったゴミアイテム、短距離での<伝言>ができるそれをトールにこっそり渡す。
「デミウルゴス、提供を受けた資料を纏め、各守護者達に情報共有を。説明は任せる。私はまだ質問事項が彼にあるのでな。追加の護衛として、コキュートスを」
「はっ」
「済まないなトール、もう少し付き合って貰う」
「構わない。一週間程なら、素で活動できるからな、この程度は大丈夫だ」
「それと、コキュートスを呼ぶついでに、<遠見の鏡>を用意せよ。周辺地理の確認を行う」
デミウルゴスが去った後、提供された資料を見るフリをしながら、モモンガさんはマジックアイテムを起動させた。トールは一瞬驚いたが、口には出さずに首肯する。
『あらためまして、ギルド<アインズ・ウール・ゴウン>のギルド長、モモンガと言います。NPCの手前、ロールプレイを止める訳にも行かず、申し訳ありません』
『あ、そちらが素なんですね。あらためまして、MODマシマシ環境の近未来荒野から来ました、トオルことトールです』
お互いロールプレイの時は渋い声だったのだが「「実はホワホワ系の声なんだな」」と思ったのは、それぞれの胸中の秘密である。
『そっちもゲームと同じような世界に居たんですか?』
『そうなんですよ。助かるのは、MODとチートマシマシ環境だった事ですねー。んで、そっちから転送されて来ちゃいました』
トールが現れたのはだいたい一〇年程前。とはいえ、向こうでは重ねていた年齢も、こちらでは出現した際の外見で全く歳を食っていない。
『何それ羨ましい。俺もまあ、拠点とアイテムは持ち越しですけど、向こうで稼げたものばっかだし』
『こっちで出会ったユグドラシルプレイヤーの製造職の人が、私の提供素材で色々作れるみたいなんで、よろしければ素材、お渡ししましょうか?』
『ほんとですか!? 助かります…あ、拠点維持の金貨、どうしよう』
ナザリックの維持には、それなりにユグドラシル金貨が消費されていた。今はアルベドとデミウルゴスに罠などの稼働は最低限にして防衛力を維持しつつも、消費を抑制する計画を立てるよう命じてある。
『あー、MMOだとそういう所、シビアですもんね。うちは、金素材は時間で生成できるし、今も拠点に結構あるんで、お試しに1スタック、後でお渡ししますね。維持に使えたら万々歳って事で』
尚、トールの言う1スタックは、金の延べ棒で65535個である。金が回路などに使われているジャンクから取り出すと、なぜか延べ棒になって出てくるのだ。周辺経済の混乱をさせないよう、慎重に売却をしている。
『ほんと助かります。あ、拠点持ってるんですね』
『こっちに来て作ったんです。冒険するには面白い世界ですけど、住むにはちょっと、現代社会に染まった身としては辛くて辛くて…』
『あー、なるほど。まあ俺は食事とか睡眠取らなくて済むから、その点はパスできるかなぁ』
モモンガさんの声が少し、寂しそうなものになる。トールは顔を顰めて、目の前の骸骨魔王が陥っている状況に危惧を覚えた。
『異形種、でしたっけ。それ、大変じゃないです? 食事と睡眠って、人間としての精神活動にはかなり重要ですよ…おまけに、NPC達の前では理想の支配者ロール続けないといけないとか、大丈夫なんですか?』
『精神抑制の能力で、強い感情とかは抑制されるんですけど、ああ、食べたりはしたかったなぁ』
香りは何故か解るんですけどね、とのたまうモモンガさん。
『モモンガさん、一つ提案が。保護して交友のあるユグドラシルプレイヤーの一人に、異形種の人を一時的に人化させるアイテムとか持ってる人が居るんですよ』
『!! ほ、ほんとですか!?』
モモンガさんは流石に立ち上がらなかったが、表情があるのなら驚きと喜びで破顔していただろう。あまりにポピュラーすぎてコレクター欲が湧かなかった事や、引退勢も手持ちのアイテム全てを託したものの、コモンアイテム程度の人化の指輪などの装備は、ナザリック内では見つかっていない。
探せばあるのだろうが、そうなると宝物庫の自分の黒歴史と対面する必要があり、躊躇していた。
『私の商談と言うか交渉というかお願いは、こちらで保護、交友を持っているユグドラシルプレイヤーの人達の、後見というか後ろ盾になって欲しいんです』
ただ、告げられた内容について聞いていくと、明らかに落胆してしまう。
『…少し、難しいかもですね。俺のギルド、PKKで異形種オンリーなのとNPCがカルマ極悪揃いで、人間種嫌いばっかなんです』
『あー、それは…弱ったな。PKKだから、やらかしてる連中へのおしおきってのは良いとして』
(いいんだ)
『このお願い、私にもしもの事があった場合の保険だったんです。そっか、ユグドラシル内だと人間種と異形種って、なんかえらく確執があるって言ってたな、あの先生』
『先生?』
『ええ、リアルでは先生やってた人が居るんですよ』
『へぇ、今は俺一人になっちゃいましたけど、かつてはメンバーに先生やってた人が居たんですよ、ネフィリムの異形種で…おっと、プレイヤーの人の話に戻しましょう。俺としては、承諾してもいいんですが…その』
声のトーンが明らかに下がる。
『他に困った事でも?』
『ご存知無いかもしれませんが、その、うちのギルド、PKを狙う極悪カルマの異形種ギルドとして、ユグドラシルでは有名でして…』
『あー、それを知ってるプレイヤーが警戒、あるいは攻撃してくるかもしれないと』
『そうなんですよ…、NPCは忠誠心が限界突破してるから、攻撃した素振りを見せたらと思うと』
思い出すのは、階層守護者達の忠義の儀。彼、彼女らは、ギルドが1500人を超えるプレイヤー達の尽くを全滅させるに至った、その伝説の一端を担った強力なNPCだ。
『その点については、保護プレイヤーの面々には敵対しない事を誓約させます。まあ、こっちの世界で迷惑考えず暴れまわるとか無い限り、不可侵とする形がいいでしょうね。拠点の愛着もあるでしょうから、無関係な人が彷徨くとか気分も宜しくないでしょうし』
『お互い不可侵、過去は過去で水に流し、可能な事から協力して活動していく感じでいいですかね?』
『その辺が妥当かと。まあ、居住については私の所の拠点で生活している人が何名かいますし、明後日辺り、全員が丁度集まるんですよ』
タイミングが良かった、とトールが言う。ついでに、大まかな面子のLVについて知らせる。通常なら弱点にもなりうるLVや構成内容についてだが、誰も100LVには到達していないと言うことで、モモンガさんもまあそのくらいならどうにもでなるなーと承諾した。
『そちらのリーダーさんが居るなら、俺の事を告げて確認してもらっていいです?』
『おk。ま、モモンガさん達を拒否したり攻撃するようなら、うちの拠点には二度と立ち入らせ無いとかしますんで。私も保護はしましたが、余計な火種を撒くようなら追放すると以前から伝えてますし』
数名除いて社会人だったようなのでその点では心配ないと思う、とはトールの弁。モモンガさんは、うちは異形種の他に社会人が所属条件だったんですよーと伝えると、トールは成程と納得する
『モモンガさんがすげぇ話の解る人で助かります。よっ、ギルド長!』
ちょっとわざとらしいヨイショではあるが、モモンガさんも悪い気はしない。というか、ユグドラシル内でもこんなやり取りをしたのはいつの頃だったか。
『煽てたって何も出ませんよ』
極めて平静に言ったつもりだったが、精神抑制はされていたりする。
『えー、ペカペカ光ってるのに?』
『うっそマジで!? 精神抑制されると光るの俺!?』
『気付いて無かったんかーい!』
その後は情報交換と称してバカ話をし、<遠見の鏡>が届けられると二人してあーでもないこーでもないと、操作方法を模索する事になった。
次回、カルネ村チュートリアルはっじまっるよー