荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
ダイジェストにも程がありますが、ご容赦願います
王都では計画に概ね沿って進行した。ガゼフ氏との会談から、ランポッサ王、ザナック王子、レエブン侯、そしてラナー王女との事前接触はほぼ想定通りである。特にザナック王子とレエブン侯との穏便な接触は功を奏した。他のまともな極一部の貴族達との口裏合わせがとても楽に遂行できたのである。
「しかし解せませんな。何故ここまでしていただける?」
「冷たい話として、我が国の利益の為です。周囲が穏やかであり此方に害意を向けないなら、大手を振って子供達と外の世界を過ごせます」
(自らの国が盤石である以上、余計な厄介事を持ち込まれたくないと言う事か)
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ランポッサ王は、ガゼフからも伝えられたバルブロ一派の所業に深い嘆きの溜息と暫くの沈黙の後、先送りや玉虫色の判断ではなく、廃嫡と幽閉、貴族達には取り潰しを決断している。証拠を突きつけ、沙汰を下すのは、重要な会議の前だというに遊びに出たバルブロが戻ってからである。
「民あっての我らだと、いつか解ってくれる、気付いてくれると思っていたが…」
「人の親として、取り返しのつかない所へ行く前に決断すべきだった。
だが今は、王として決断した貴方の事を尊びたい」
娘も居る妻帯者であり、かの国の皇族でもあるというたっち・みーの言葉は、より深くランポッサ王の心に刻まれた。
「私もまた、手ずから作り上げた我が子と言える者がいる。私は手遅れになる前に誤った導きをした不甲斐ない私自身の事を謝罪し、道を新たに示し諭す事ができた。それ故に、間に合わなかったが貴殿の覚悟、私も皆を取りまとめる身として覚えておこう」
感慨深く上を見上げるアインズ皇帝ことモモンガさん。黒歴史を閉じ込めてた事実がある以上、周囲のギルメン達の視線が痛い。守護者達はナザリック内で、こうもモモンガさんに想われているパンドラズ・アクターへ嫉妬というジト目。特にアルベド。
「視線で、撃ち抜かれるかと思いました物理的に。物・理・的・に・!」
「あ、まじで薄っすら焦げてる!?」
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計画の骨子は変わらないが、変更や想定外の事もあった。違法娼館でガサ入れ時に娼婦達が一斉蜂起した事、プレイヤーを知る吸血鬼が居る青の薔薇との接触があった事、ラナー王女の偽装死である。
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その日、何も変わらない筈の娼館の中、責任者の男は異様な緊張が建物を包んでいる事に気づき、部下に何度も周囲を探らせては、何も無いとの報告を受けるという事を繰り返していた。
(娼婦共が死ななくなったのは利益に繋がるからいいとして、あいつら、どうしてあそこまで痛めつけられて生きてる?)
とある日を境に、客によっていくら痛めつけられても娼婦が死ななくなった。確かに客を取った後は息も絶え絶えで、顔も体も腫れ上がり変形しながらも、幾日か経てば治まるのだ。新たに購入…いや、雇い入れた娼婦もまた同じだ。
お陰で死体片付けを仕事にしていた連中が暇を持て余している。誰かが魔法などで治療した様子は無い。タレント等で治癒力が高まる物があるというが、一斉に目覚めるなどありえない。
(何かが、起きている。だが何だ、このヤバい気配がわからない!)
部下達は部屋からの死体運びが無くなって喜んでいるが、誰一人現状の異様さを気にしていない。顧客達は余計に気付いていない。今日はとても重要な客が大勢来ている日であり、失態は失脚と死のセットだ。八本指から幹部が来ている以上、無様な所は見せられない。
「なんだ、入り口が騒がしい?」
ぐるぐる回っていた思考を止め、女の悲鳴と客の嘲笑が響く廊下を歩いて行くと、そっと様子を窺う。部下が誰かに罵声を浴びせているようだが、あの老人は誰だ? それ以前に、扉はどこに行ったのだ?
「さて、先に伝えておきます。逃亡や抵抗はお勧めいたしません。速やかに…」
飛んできたクロスボウの矢を、白手袋の指先で摘む。何事も無かったかのように言葉を続ける老紳士。
「その場で後ろ手を組み、大人しく王国戦士団の捕縛を待つなら、痛い目に遭う事なく済むでしょう」
「ふ、ふざけやがって!」
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娼婦達は、入り口側の騒ぎに「予言の時は来た」と悟った。ある者は拳を握りしめ、ある者は目の前の汚いモノを掴み、ある者は口のモノを…。
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娼館内に、顧客達の聞くに堪えない悲鳴が響き渡る。どの部屋も例外なくだ。娼婦は初撃で満足も慢心もせず、下半身と足を中心に執拗に攻撃を続けた。のたうち回る男共が痙攣して暴れなくなったのを確認し、部屋の中にある大きな椅子をむんずとつかみ、ほぼ同時に扉へ叩きつけた。
「な、なんだぁ!?」
女の細腕で叩きつけられたとは思えない勢いで扉が破れる。だが娼館の従業員も荒事に慣れた破落戸である。すぐに現れた娼婦を叩き伏せようと襲いかかる。だが、最初に現れた娼婦…ツアレニーニャは、渾身の踏み込みを以て懐へ潜り込み、以前からそうしていたと言うような流れるような動作で、背中を用いた体当たりを食らわせた。
余りにも速く、余りにも流麗で一瞬のその一撃は、食らった男の一人の体を軽く浮かせた。弾き飛ばされた訳でもなく、浮いてからすぐに床に足をつけ、後退るようにしてから床に仰向けに倒れた。
「なんだお前、こんな女のぶつかりで…」
床の男が痙攣している。見れば、胸の辺りは不自然なほど厚みが無い。しまいには血を口から吐き出し、事切れた。破落戸のなけなしの野生の勘が、この女はやばいと判断し、小剣を抜いた。他の面々も同様だ。
「なんでこいつら、いきなり!?」
「ほ、他の女どももかよ!」
「お客様はどうした!」
他の娼婦たちは手に燭台や椅子の破片などを手に男たちを見ている。いつもの怯えきった態度が嘘だったかのように、震えも無くまっすぐ此方を見ていた。
(あれは家畜を、処分する家畜を見る目だ…!)
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セバスが後詰めのガゼフやクライムと合流し、個室の並ぶ廊下に向かった時、そこには傷だらけの娼婦達と、床に倒れ伏しても執拗に股間を狙われる破落戸の姿が廊下にあった。
手を止めて警戒する娼婦達だったが、ツアレニーニャが前に立ち、深くお辞儀をする。
「お待ちしておりました」
セバスは静かに頷くと、手持ちからバレアレ印のポーションを手渡す。ガゼフは追加で上がってきた部下に、女性団員を呼んで娼婦達を保護するように指示を出し、クライムと共に部屋の一つ一つを確認していく。
「辛うじて、生きてはいるようです」
「官司のスタッファンに、他は…くそ、こんなにも貴族が多いとは!」
極めつけは、股間を握りつぶされて痙攣するバルブロの姿である。以前から黒い噂が絶えなかった方だが、ここまで愚かとは!と王の心痛を考えてしまう。これで、先立って確認された反乱蜂起の文とあわせ、廃嫡は確実だろう。
様子を見に来たセバスは少し考えてから、預っていたスティムパックを手渡す。
「これは、深い傷にも効くものの、痛みが伴う…」
「ええ、効能の高いポーションで回復して抵抗されても厄介かと」
部位が残っているなら驚くほど回復する割に市販の高級ポーションよりは安く出回っている。当然、ル・シファー商会の扱いである。
だが、戦いに身を置く者達は知っている。途轍もなく痛いのだ。ガゼフはモンスター討伐時にお守り代わりに持っていったが、腕を骨が出る程かじられた際に使い、後悔した事を思い出した。
クライムは訓練で骨にヒビが入った際に使い、都合五分ほど悶絶し続けた事を思い出した。
((股間がこれで治癒されるとして…耐えられるのか?))
二人共、男であるからして、想像に股間がきゅっとなった。
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セバスはてきぱきと、倒れ伏して痙攣している客達を縛り上げては廊下に転がしている。平民も貴族も王族も関係なくだ。ガゼフは何かを思いついたか、入り口でみかけた袋を部下に持ってこさせ、その中に拘束したままのけが人共を居れさせた。
「成程、暴れる予測があればこその対処ですか」
ガゼフとクライムは、セバスと共に、これまでの報いとスティムパックを次々にぶっ刺した。口に布を咬ませてなければ、聞くに堪えない絶叫が響き渡った事だろう。
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建物から出ると、保護された娼婦の内、ツアレニーニャがまだ残っていた。横には女性の戦士団員が立っている。建物内の男たちが捕縛、連行され終え、娼婦たちがひとり残らず保護されるまで彼女はそこに立って見ていた。
最後に、スティムパックの治療でのたうちまわったバルブロが、顔に袋を被せられ、股間丸出しで連行されていく。
「おっと。大丈夫ですかな?」
「ありがとう、ございます…」
反乱し、拳を振るい、全てを見届けて気が抜けたのだろう。男性に触れられれば、実はまだ身体は震える。だが、目の前で抱きとめてくれた老紳士には、そんな震えは起きなかった。
「今はゆっくりお休みなさい。次起きた時、貴女達は自由です」
安心に瞼が閉じる前、ツアレニーニャは「お名前、は…」と問うと「セバス・チャンと言います」という返答を最後に、力強く暖かな腕の中で安らかな眠りについた。
(ここは流石はたっちさんの子、というべきか?)
(さすたっち。おおい、録画は…あ、ばっちり? よーしよし)
容赦なく録画はばっちりである。
後に「子は親に似る」と、たっち・みーの奥さんは自分との出会いを娘に話して笑い続けたという。
八本指の「宴」と、青の薔薇と、ラナーの偽装死を書いて、後はその後の概要書いたら王都でのあれこれはフィニッシュ予定。