荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
元第一王位継承者にして、八本指に繋がり王国を蝕んでいたバルブロが、罪を暴かれ引っ立てられた宮廷会議において、拘束を逃れてランポッサ王を襲った。王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフは、バルブロに繋がりのある貴族達の妨害で飛び出せず、誰しも身動きが取れない中、凶刃から王を身を呈して守ったのは、ラナー王女だった。
「王女様ァ!」
邪魔をしたラナーを押し退け、正気の消えた目で更に王へ向かうバルブロを、騒ぎを聞きつけて駆け込んできたクライムが体当たりで弾き飛ばす。バルブロはそのまま逃走する。
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騒ぎの中、糾弾、断罪される筈だった貴族達が会議室内の配置から察したか、バルブロと揃ってこれも逃走。ガゼフが戦士団を率いて彼らを追うも、近衛内の不穏分子によりまた妨害、魔法の道具を使った攻撃で取り逃がしてしまう。
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宮廷会議の会場は、王と第二王子ザナック、レエブン候、ウロヴァーナ辺境伯、ペスペア侯達を中心に極僅かとなった貴族達が残っている。
辺境伯とペスペア候は、部下に命じて私兵団を逃走者達の追撃に当たらせた。レエブン侯は他の動揺する僅かな中小貴族達を宥め、王城内の不穏分子の確認と捕縛、または排除に当たらせる。
「申し訳、ございませぬ…!」
腹に剣を受け、ドレスを真っ赤に染めたラナーを壊れ物を扱うかのようにそっと抱き上げるクライム。周囲にはそれを沈痛そうな面持ちで見守る人々の姿。応急勤めの医務官は、もう手の施しようが無い事から首を振り、王もザナック王子も何もできる事無く立ち尽くす。高位の神官や治療師は、殆どが王都内で起きた一斉検挙で、被害者の治療に出払っているのだった。
「こんな…私の為に、泣いて、くれるの、ね…クラ、イム」
少年従士の大粒の涙を頬に受け、ただでさえ白い繊手を力なく彼の頬に伸ばすラナー王女。
「この生命、貴女の為にと、捧げた積りが、この体たらくッ!」
「いい、の…貴方は、悪く、無い…。
ね、え…クラ、イム、聞いて…くれ、る?」
「っ、何なりと!」
「愛して、いる…わ…、来世…が、あるな…ら…ま、た…私と…」
「はい…、私も、愛しています、ラナーっ!」
「約束…よ…、ずっと…一緒に…ね」
そう言い残し、ラナーは事切れた。クライムは絨毯の上に彼女を寝かせ瞼を閉じさせると、一つとして声も出さず、身体を戦慄かせながら立ち上がった。そして視線は、王へと向かう。
「王よ、この度は、ラナー王女を守りきれず、慙愧の念に耐えませぬ!
今すぐにも後を追いたき所ですが、今は有事。かの逆賊達を討った後に、奴等の素っ首と、私のこの命を持って、償いと弔いとさせて戴きたく存じます!」
「…わかった、従士クライム。お前をこれから編成する討伐隊に組み入れ、見事、あれらを討ち取ってみせよ」
もう身内の情も全て失せたのか、強張った表情で告げるランポッサ王。
「ザナック、残る貴族達の協力の下、クライムとガゼフと共に信用に足る者達を率いて、あ奴らを討ち果たせ。
これは、王命である!」
「「「ははっ」」」
悲劇と共に、決死の覚悟を持った復讐者が生まれ、逆賊を討つ為、真の愛国者達が手を携えて立ち上がる。繰り広げられた事実の前には、今あるどのような歌劇も心を打つには足りないだろう。
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ラナー王女が考えた筋書き通りという事実、それが表に出ないのであれば。
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王城内で悲しみと義憤が燃え盛る様子を、離れた場所で引きつった笑いを浮かべながら見る者達がいる。そしてその中にあって、これまで見たことのない晴れ晴れとした笑顔を浮かべる…ラナー王女がいた。
他は、王都に設けた隠れ家で、交代しつつ被害者救援や治安維持に協力していたナザリック勢+1である。シモベ達は情報収集要員を残して帰還。あとは最終段階の準備に追われている。
「如何でしたでしょうか、概ね、想定通りの展開です」
「見事です、私の想定した状況より手間が省けました」
「我々としては、少なからず見知った方々を騙した罪悪感があるがな」
「あら、我々のようなただの人間に共感頂けるとは、やはり皆様、優しくあられるのですね」
「ま、根っこはお互いの目的の為だ。だが後で理由はなんとでも付けるから、落ち着いたら家族や親しい人間にだけは、生きている事を告げるといい」
「ええ、そういたします。ご配慮、感謝いたしますわ」
ぷにっと萌えとウルベルトがラナーの相手をしている最中、離れた位置ではバルブロ達の動向が逐一報告され、それがまた事前の想定の通りの動きをしているのでもう、感心するやら呆れるやらである。
「…末恐ろしいわ、心の異形種ってまじやん」
「これがまた、クライム君と結ばれる為だってんだから凄い」
「愛ゆえに、だな。そうだよな? 愛だよね?」
「「愛、怖いなぁ!?」」
「うぉい、あのカワサキさんがリアルでのトラウマ抉られてブツブツ言い始めたぞー?」
さて今回の状況だが、ラナー王女は、ナザリック勢が供出したとある課金ガチャ(ハズレ)アイテムを所持していた。事前に作成、登録されていた「瀕死」の拠点配置オブジェクトと、攻撃をトリガーに交代したのである。遠隔操作で連動させていたのと、操作に不慣れであった事から思った以上に動き難かったようだが、それが奏功したか、死の際の演出に一役買った状態である。完全に死体となったオブジェクトはもう用済みであるが、後に国葬されると思うのでそのままだ。尚、拠点用配置オブジェクトは腐らないのを忘れていたので、後の時代に美しいままで残る姫の遺骸として有名になっちゃったりする。
「所で、遠い目してどしました、モモンガさん?」
「デミウルゴスに、王女の細やかな願いは叶えてやれ、って言った俺の自業自得ですね。もう俺、出番無いと思ってたんですが…」
「皇帝だもんね、ちかたないね。あと一回だ、がんばろ?」
「私達も同行するんで、元気だして。大丈夫? おっぱい揉む? …アルベドの」
「セクハラですよ茶釜さん!?」
転移直後、アルベドのおっぱいをガン揉みした事は心の棚に置いたらしいギルド長である。
「親としては一向に構わんっ!」
「いいのか」「後はギルマス次第ですしおすし」
「そこは自分のじゃねぇのかよ姉ちゃん…あ、察し」
「おう愚弟、人化した私のどこ見て何思った?」
「どうどう茶釜ちゃん、どうどう…」
「あっても重たいだけだから、ね?」
「持てる者の余裕かちくせう!」
「あーもうめちゃくちゃだよw」
そんなやり取りの脇、王城での推移を見守っていた他の面子が、次段階の為に状況を再確認。
「えーと、とりあえずコメントに困るやり取りは置いとく。とばっちりは勘弁だ。逃走したバルブロと元貴族共の戦力は?」
「私兵の中でも、権力とか権益とかズブズブの連中だけ付いてく感じ。思ったよりも、盲目的についてく奴は居ないね」
「あらー、止めようとしたまだまともな家臣を手打ちにしてる奴が多いわ。まだ生きてるようなら、監視のシモベにポーション使わせといて」
「了解ーっと。集まる速度、戦士団とか王派の私兵とか、追い込みの動きは想定通り?」
「想定通りっと。向かう先はエ・ランテルでおk?」
「エ・ランテルでおk」
宮廷会議開催中に今更来た早馬が、王都の元貴族達の所に到着し、領地の惨状を伝えている頃合いだ。領地に戻れないとなると、立て籠もりも再起も不可能となる。潔く沙汰をと進言する比較的まともか諦めた家臣は、殴られるのはいい方で、手打ちにされる方が多い。
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彼らは今、名誉も命も財産も失う瀬戸際だ。人望は最初から無いが。
その中で、起死回生の策がブルムラシューの「帝国へ手土産持っての帰順」である。アンデッド騒ぎがあったとはいえ、復興の為に物資の供給が一番多くなっているエ・ランテルを元貴族達と共に制圧すれば、王国と帝国の境にある事を利用して、帝国に寝返る事もできる…と、安易に考える。
「デミデミ達と同じ結論とかやばすぎ吹いたw」
「さすデミ」「さすラナ」「さすパン」「さすベド」
さすデミとさすラナは兎も角、後半はゴロが悪い。
「なんでまあ、安易に制圧できるとか考えちゃうのだろう」
「ま、そうは問屋が大根おろしってね」
何人かは、晩飯はサンマっぽい魚の塩焼きだなとか考えてたりする。
「トールさん、最後の大トリに協力してもらってすいません…」
「あれ、るし★ふぁーさんの依頼で建造してた奴です」
「「「何してくれてんだ荒野の災厄!」」」
「私悪くないよね!?w」
いつもツッコミを入れているので、とばちっちりを食らうトール。
「すまんつい」「うっかり」「では改めて」
「「「何やってんだ墳墓の遊び人!」」」
「私費で注文できるなら、したいじゃない…商人だし?」
モモンガさんをして苦手と言い切る、稀代の遊び人というか悪戯に全力を傾けるのが「るし★ふぁー」である。今件は役に立つし、ナザリックの資材を勝手に流用した訳でも無いので大人しい部類だ。
「お高いんでしょう?」
「それなりに。でもま、AOGの長旅用にこっそり相談受けて作った奴で、資材もお金も戴いてるので追加の支払いは無いですよ」
「まじか! ああ、遠くの冒険とか、今から楽しみだなぁ」
「帝国と竜王国しか、実際問題、足を伸ばしてませんからね」
「今回は私が操船しますけど、皆さんのおでかけ用にイマジナリ・ニューへ航法と操船、インスコしときます」
ここで聞いた範囲では、船のようなものを用意させたらしい。Fallout4ではお馴染みのあれだが、その出番は後に語る。
BGM 「Fallout4 メインテーマ」をご用意戴き、次回をご覧頂けるとより場面が盛り上がります(殴