荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
復興中のエ・ランテル。いつもは小うるさい貴族達は宮廷会議への出席に軒並み居ないので、大幅に工期が短縮できていると、都市長であるパナソレイはニコニコ顔である。
街並みが壊され、人死は無いにせよ市民の沈んだ気分を盛り上げる為、都市長パナソレイは復興の傍ら、楽士などを呼んで休憩中の作業員や市民に聞かせる活動をしていた。
批判もあったが、呼び寄せた中に法国にもあるという大きく様々な楽器を抱えた楽士達の一団がおり、彼らは主に夕方から演奏を行い、吟遊詩人の語る新たな英雄達の物語に合わせて、壮大かつ盛り上がる曲を演奏した。
いつしか彼らも受け入れられ、都市中央にほど近い位置で、畳んだ市場の広場か、壊れて無くなった店舗の土地で演奏を行う。夕方からは常に喧騒に包まれている都市の中にあって、誰が示し合わせたか、その最初の演奏のみ、周りは静かにして聞き入る。
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最近の流行は、新たな英雄、戦士モモンの活躍だ。王都に向かうと聞いた時はとても残念であったが、冒険者としての拠点は此方にすると約束してくれているので、パナソレイとアインザックは胸を撫で下ろしている。
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楽団の一斉演奏のその後は、数曲の様々な洗練された曲の披露の後、大楽器を持つ彼らは、それぞれの商売道具を手に様々な酒場や食事処、宿屋などで演奏を披露するのが定番となっていた。他の楽士や吟遊詩人は、これからの商売のタネと彼らに相談し、新たな曲や物語について語り合ったり、質は落ちるが法国由来の楽器を手に入れたりして、盛り上がっている。
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そして今日も、夕刻に差し掛かりいつものように演奏が始まる少し前、エ・ランテルに凶報が齎された。
「第一王子、バルブロが大半の貴族と共に謀反、ラナー王女を殺害後、私兵をかき集めてここに向かっているだと!?」
いつもの「ぷひー」とかいう行動は取らない。本人の優秀さをよく知る部下達も慣れっこである。
謀反の件は、情報を差し押さえようにも、同じような話が王都へ向かったはいいが逃げ帰ってきた旅人や行商人から齎されているので歯止めがきかない。
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すぐにアインザックや衛兵隊に部下を走らせ、門を半分閉めて城壁上に監視を立て、侵攻に備える。どの程度の兵力があるかは不明だが、六大貴族の内、三家と殆どの中小貴族が国家転覆を目論んだとなれば、帝国との戦役動員に匹敵する戦力が、ここエ・ランテルを取り囲む事になるだろう。アンデッド騒ぎも復興が完了していない中での新たな事態、泣きっ面に蜂である。
「斥候が来たか。王都とここへの街道沿いの村や街は、酷い事になっているだろうな…」
王都で王が編成できる戦力はどの程度だろうか。彼らが到着するまで耐えられるだろうか。パナソレイは都市運営連絡会の面々が集っても、執務室で額に手を当てて苦難に頭を抱えていた。
状況確認だけは早くしようと、アインザック達を伴い、王都側の門と城壁の所へ汗をかきかき登る。
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その最中、中央市場の広場に居た、大楽器を抱える楽団の面々が、音を一音、出した。それに答えるように、都市の様々な場所から、また一音が響く。音を合わせ、一斉の単音と、沈黙。
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そして、静かな演奏が始まった。最初は鍵盤を使うピアノとバイオリン、特有のフレーズが繰り返され、段々と参加する楽器が増える。魔法も併用されたかのように、音が、音楽が響く。誰も止めさせない。この曲は、心を鼓舞するように響いている。衛兵も冒険者も、バカ王子とバカ貴族が何するものぞ!という感じで城壁や門裏に陣取る。
曲がクライマックスに差し掛かる。そこで、城壁に立っていた衛兵の一人が、空を指差した。
「光る、光る船が、浮かんで此方に来る!」
何をバカなと見上げた先に、壮大な曲に見合うがごとく、その巨大な威容をみせつけ、空を飛ぶ船が現れた。
『王国の民よ! どうか恐れず、進路の妨げとならないでもらいたい!
我々に、無辜の民へ危害を加える意図はない!
我々は、アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国…「AOG」である!
我々は、王国へ友好の手を伸ばすために訪れた!
繰り返す!
王国の民よ! どうか…』
声を増幅する魔法を使っているのか、演奏される曲の中であっても不思議とエ・ランテル中の人々の耳にその言葉は聞こえた。耳聡い者であれば、それは物腰が柔らかく丁寧な英雄モモンの声音に似ていると考えただろうが、気付く者は皆無だった。
これまで見たこともないそれは、船のようでいて船には見えない。いやそもそも、船だとしても余りにも巨大だ。浮いている巨体の各所からは、光が周囲を照らすように伸びていて、地上や空中を探るように照らし、光の帯を形作る。
そして、船の脇にある開口部から、光る羽を持った無数の天使、数々の飛竜や小柄の竜種が、ゆったりとした速度で飛び立ち、周囲を守るように飛んでいる。
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まるで、神話の軍勢が神の乗る船と共に現れたかのようだ。そして、船が名乗った国名に、パナソレイ達は心当たりがあった。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国…!? まさか、あの三男坊の与太話が本当であったとは! それではモモン殿は!」
窓や通りを見上げれば見える荘厳な光景に、エ・ランテルの人々の殆どが目を奪われた。そして曲が終わり、神話の船は言葉を繰り返すのをやめ、トブの大森林側の門を過ぎて都市の上空で止まる。
「はっ!? 謀反を起こした連中の斥候は!?」
「あそこで呆然としてます。あ、本隊の連中も来たみたいですな」
暗がりではあるが、日の沈みきっていない空際線に呆然と馬上で此方を見る兵の姿があった。その後ろから統制の取れていない元王子と元貴族の私兵が現れるが、エ・ランテルの方面を見て動揺し、団子状態になっている。
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羽ばたく音が聞こえた。パナソレイが振り返ると、美しい姿の飛竜が城壁の上に器用に下り、その前に角と黒羽という異形を備えつつも、白い豪奢な衣装を纏った嫋やかな絶世の美女が現れた。
「貴方達が、エ・ランテルの運営に携わる方々ですね?」
「は、はい」
美女は穏やかに微笑み、手を胸の上に置いて名乗る。アインザックは鋼の精神で視線を胸から引き剥がしたが、全体を見る視野を分析する脳内は、見るもたわわなおっぱいに占領されている。
「私はアルベド。アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国宰相の一人にして、モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック魔導皇帝の伴侶。
我が偉大にして、…んっ、私が心より愛するアインズ様の名代として参りました」
なんかちょっと言い直した。中継を見ているモモンガさん達は、丁度人化していて赤くなった顔を覆い隠すモモンガさん以外は大盛りあがりである。タブラは愛娘の姿にうんうん頷き、ウルベルト他、嫉妬マスク同盟は脱退者にやさぐれ、やまいこと餡ころもっちもちはきゃーきゃー異形種の姿で騒ぎ、ペロロンチーノはバシバシ叩く姉の手に涙目である。
宰相は事前に決まっていたが、別途、伴侶を名乗ることをモモンガさんが正式に許可したので、アルベドは愛しさ天元突破しつつ今回の任務に全力投球である。
主なロールは、アインズ皇帝を支える宰相にして伴侶であり、皇帝が持つ慈悲深さや優しさを等しく持ち合わせる国母、外交官ポジである。タブラ氏が「これしかない」とモモンガさんを説き伏せた。
「私はパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア、都市長にして代表を務めております。かような場所でのご挨拶となり、大変申し訳ございません」
「構いません。危急の事態であるとアインズ様が聞き、私達を派遣したのですから」
「ま、まさか、あの船と共に周囲の戦力を、振るって頂ける、と!?」
「ええ。これから変わろうとしている王国と我が国の友好です。あのような些事に、お互い躓いている時間は無駄ですから」
ちなみに友好だのなんだの言ってるが、王国民というか人間の事はなんとも思って無い。路傍の石と同じである。その辺はおくびにも出さないのがナザリックのシモベクォリティだが。
「衛兵や冒険者の方々は、城門、城壁上で防備を固めて下さい。我々が大方を蹴散らして参ります」
「全滅はさせないのですな?」
「ええ。知らせによれば、王都から討伐軍が出撃したとの事。王国側への一方的な貸しは、軋轢を生む可能性がありますから」
ただその分派手に蹴散らしますので、と付け加える。
「彼らには皆様、色々思う所があるでしょうから、城壁から観覧されると良いかもしれませんね」
そう言ってアルベドは微笑んだ。遠く視線を向けた先には、よたよたと陣を組もうとする有象無象の群れがいる。
彼女は優しい笑顔で見ていた。全てが終わった者達へ向ける、何の感慨も持たない、とても透明な笑顔だ。美女の笑顔は、怒り顔よりも恐ろしいと、パナソレイ達は語った。
空飛ぶ船の登場シーンと船からのメッセージ音声は、Fallout4のBOS本隊登場時のパロディです