荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
だが、オーバーロード二次創作でのチュートリアルはこれからだ!
・<遠見の鏡>の操作を模索→バンジャーイ
・偶然見つけた村、襲撃を受けているのを確認
・逃走する少女二人とゲス兵士
・モモンガさん出撃!
さて、この流れがトールの乱入でどう変わるのやら。
遠距離の監視を可能とするマジックアイテム<遠見の鏡>。ユグドラシルではすぐに対抗手段を取られて役に立たなくなってしまうそれも、カウンター系の知識や技術のほぼ無いこの世界においては、情報収集に際し魔力の消費も無い有効な手段だ。
ただ、ゲーム中でそんなに使ったことが無かった事や、転移してから操作方法が変わったらしい事も含め、死の支配者と迷彩柄の男が、鏡の前でそれぞれ、妙なポーズで踊るという奇妙な光景が繰り広げられた。
グリーンシークレットハウスの中、護衛のコキュートスと共に傍らに控えたセバスが、タイミングを見てトールの前に紅茶を差し入れている。尚、香りだけでも楽しめるのではと、トールの提言でモモンガさんの前にもカップが置かれている。
四苦八苦した後、モモンガさんの操作でタップ・ワイプなどが可能になった際、思わず「イェーイ!」→手パァン!とやってしまったのはご愛嬌か。
「はっ!? …んんっ、これでこのアイテムもナザリック防衛に役立てられるな」
「…おめでとうございます、随分と親密になられたようで」
抑揚の無い、静かな声音で言われるとなんだか責められてるような気がしてくる。本人にはそんな気は毛頭無いのだが。
「ははっ、目的達成の嬉しさから思わずやってしまったよ。すまないな、トール」
「まだ出会って間もないが、気安く接してくれるのは信頼の証と受け取っている」
NPCの反応が怖いなーとモモンガさんはコキュートス達をチラ見する。
「そうか。…っと、言っていたカルネ村とやらはこれか?」
「ああ、縁を結んだプレイヤー達と、仲良くなった現地の…!?」
トールの表情が強ばる。
村の上空映像を拡大すると、端の家屋から火の手が上がっていた。
村人たちは、木の板で作った盾を持って矢を防いでいるが、幾人もの負傷者が居るようだ。視点を変えれば、村を囲う粗末な塀の外から、揃いの鎧を着た幾人もの兵士らしき連中が、火矢を放っている。
戸板を使った盾で男たちは火矢を防ぎつつ、最も堅牢な村長の屋敷へ老人や女子供を誘導する。戦う意思を持った男たちは、急いで倉庫から槍と盾を持ち出している。
「…祭り、ではなさそうだな」
正直な所、人間が被害に遭っている姿を見ても心が動かされなかった。モモンガさんは、その事に少なからず動揺するも、極めて平静を保とうとする。
「すまない、今すぐに向かって対処しなければ危うい。モモンガさん達を友好的に歓迎してくれるだろう、数少ない現地の人々なんだ」
秘密の会話の中で、トールの配下には現地の亜人種なども居ると伝えていた。交易として彼らが時折、カルネ村に商談に来るとも。最初はお互い警戒していたが、トールやトールの友人というプレイヤー達が仲立をしてきた結果、王国領土の中では稀有な亜人とも共存する村となっている。
トールは急いでグリーンシークレットハウスから飛び出すと、外に待機状態になっているT-45fパワーアーマーを装着する。後部のバルブロックを解除、開くと同時に飛び込む。
装着完了後、腕につけたウェアラブルコンピュータ、Pip-boyとパワーアーマーが連動する。ヘルメット内の情報ディスプレイから、周辺MAPのファストトラベルビーコンを起動。拠点にある転送装置が、カルネ村へのガイド情報を算出する。
「…確か、それの転送装置は完了まで10分前後の遅れが出るのだったな。私が送ろう」
トールを追ってきたモモンガさんが<転移>と唱えると、漆黒の転移門が出現した。
モモンガは側に控えるセバスへ、アルベドを完全装備で呼ぶよう指示する。コキュートスにはナザリックへ戻り、防衛体制へ入るよう伝えた。
『ありがとう、助かる』
「何、これで恩を売る事ができるのなら安いものさ、さあ行こう」
その日は、季節に一度の特別な楽しい日になる予定だった。
竜王国へ遠征に出ていたあの人達。
エ・ランテルでお店をやっているあの人達。
彼らが、今日から一週間だけ戻ってきて、色々な話や美味しい物を作って食べさせてくれる日だった。妹もその友達と言った小さな子供達のみならず、村の大人達、皆が楽しみにしていた。
だけど、狩人のおじさんが怪我をして村の門から帰ってきた。息も絶え絶えで、肩から血が滲んでいる。
「門を閉めろ! 男たちは槍と板を、女達は子供と老人をお屋敷へ! 急げ急げ!」
物見台で遠くを見張っていたおじさんが叫ぶ。
私は騒然とした情景に、手桶を取り落してしまう。
「エンリちゃん! 噂になってた帝国兵の連中かもしれない! 急いで避難するんだ!」
カルネ村のような開拓村に帝国兵の攪乱部隊らしき連中が、野盗のように襲いかかってきた話が出ていた。数少ない生き残りが周囲の開拓村に逃げ込んできたという話を、行商人のおじさんが話していた。
「わ、わかりまし…あれ、ネム、見ませんでしたか!?」
今日は森の浅い所へ香草を取りに行く予定だった。エ・ランテルで食堂を開いているあの人達の一人は、料理が得意で、見たことも聞いたこともない料理を作ってくれる。
香草は頼まれていたものでは無いけれど、来てくれたときに渡すといつも喜んでくれて、お肉やその他、お料理に使って振る舞ってくれる。
トブの大森林は奥に入れば魔獣達の住処。だけどカルネ村は近くに森の賢王の縄張りがあり、比較的安全だった。森と村の堺にある塀の外を肝試しに歩くのは、村の男の子達の定番の度胸試しだ。ただし、その後に親御さんのゲンコツがセットになっている。
「まさかまだ、門の外に!?」
血の気が引く。崩折れそうになる膝を奮い立たせ、妹のネムと約束していた方へ私は走り出す。
「私、探してきます!」
「おい、待って、待つんだ!」
魔法の門を通り抜けると、見慣れたトブの大森林の植生が出迎えた。少し開けたこの先に、トールが懇意にしているカルネ村がある。
ただ、目の前には村の裏手から襲撃しようとした兵士達と、彼らに切りつけられた少女、その彼女を庇うように抱きしめられている幼女がいる。
兵士の一人は、思ったよりも腰の入った少女の拳、その一撃を顔面に食らっていた。殴られた仕返しに止めの一撃をと剣を振りかぶっている兵士が、驚愕に目を見開く。
「<心臓掌握>」
少女を害さんとしていた兵士はその場に崩折れた。残る兵士は恐怖に顔を歪め尻餅をついてずりずりと後ずさる。
「エンリ、ネム、無事か!?」
「は、はい、トールさん。ネムと森の出入り口で待ち合わせしているときに…」
エンリは、切られた痛みも忘れて目の前の知り合い、トールに現状を伝える。ネムは一生懸命我慢して、泣き出さないようにしている。
トールの後ろに居るのは、何かわからない巨大な死の気配を纏ったアンデッドだ。普通、この世界におけるアンデッドは生者への憎しみに満ちている。そんなアンデッドの、死そのものといった強大な気配を持った存在が居るため、エンリはカタカタと身体を震わせる。
「ふむ、この程度か。事前に聞いていたが、一般的な兵士ではこんなものか」
モモンガさんは、死の支配者ロールを表向きは続けていた。
(モモンガさん、使った位階はいくつなんです?)
(えーと、第9位階です。抵抗されるとちょっとだけ行動阻害効果があるんですよ)
(抵抗失敗で即死とか、凶悪過ぎフイタ。第三位階位で十分ですよ)
(試したかったけど仕方ないかー)
意識がトール達に向いていると判断した兵士達は、静かに立ち上がると我先にと逃げ出す。
「<鈍足>、…完全に止まる程か。ではさらばだ名も知らぬ兵士達よ<魔法の矢>」
「な…ん……うごけ…ぷぎゃ!」
動作を鈍化させる魔法で止まったと思える程遅くなった後、モモンガさんの周囲に浮かんだ十ほどの魔法の矢は、狙い能わず兵士二人に殺到。物言わぬ躯と化した。
「さてトールよ、回復手段は持っているか?」
「あるにはあるが、現地の人達には不評でな…」
トールの居た世界では、スティムパックという緊急造血・補修用の医療キットがある。注射をぶっ刺す仕様と、回復まで時間がかかる点、あと怪我の度合いによっては痛い事もあって、専ら自分用である。生きてさえいれば手足や頭部、胴体の重症も跡形なく治癒できる優れものではあるのだが。
見れば、エンリもトールの治療薬については遠慮したい素振りのようだ。懐からモモンガさんは赤い液体が入った小瓶を取り出す。
「これを飲ませろ、治療薬だ」
血のような赤いそれをトールは受け取る。ユグドラシルの低級ポーションである。
「この方は、見目は凄く怖いが、とても理知的で優しい」
「と、トールさんがそう仰るのなら…」
聞き慣れた優しい声を信頼して意を決し飲むと、どうした事か切られた衣服ごと治った。
(ユグドラシルのポーションすげぇ!? 防具は無理そうとしても、一瞬でこれかよ!)
(わー、こんな風に効くのか)
因みにトールはFalloutで取得できるPerkという特殊能力の中の、太陽光を浴びていれば徐々に体力が回復する能力を持つため、余程の負傷でも無い限り治療薬を使わない。
(トールさん、やっぱ俺、異形種の姿の影響受けまくってます…)
(あー、人間やっちゃっても、なんの感慨も無い感じですか)
(ですです…どうしたもんかなー)
兵士をぶち殺しても、何の感情も沸かない。強いて言えば、鬱陶しい虫を処分して少しスッキリした感じという点も、モモンガさんにとっては悩むポイントである。
「…遅れて申し訳ございません。して、私はこの眼の前の羽虫を殺せば良いのですか?」
「まてアルベドよ。この者は、来客であったトール。そしてこちらの娘は、彼が懇意にしている村の住人だ」
全身鎧の兜の奥から値踏みするような視線。アルベドは極めて平静な声で答える。
「失礼いたしました」
「これより、村を襲撃する不逞の賊を排除する。トールへ追加の恩を売るつもりなのだよ」
「かしこまりました。至高なる御方の敵を殲滅いたします」
「あー、程々にな。私の直衛としてつけ」
到着するなりいきなり物騒な守護者統括である。
(…深刻ですね、人間嫌い)
(わかってくれました? 至高なる御方とか、慈悲深き支配者とか、ただのオーバーロードだってのに…)
念話系の秘密会話であったが「至高の」と「オーバーロード」というワードが揃った所で、若干肩が震えている。
(あーもう、教えて貰ったジャブスコ司令のネタと絡めて笑わないで下さいよ!)
ジャブスコ司令官。Fallout3での初期の日本語珍訳として名高いそれ。
「 至高のオーバーロード・ジャブスコ 」
至高のオーバーロードときたもんだ。余りにも妙な翻訳だった事を反省してか、後のアップデートで修正された。だが、いつまでも彼は、Fallout3日本語プレイヤーの中で「至高のオーバーロード」である。
(ごめんなさい。でも、至高のオーバーロード…モモンガさん…)
(やめて!?)
落ち着いた所でモモンガさんは何か考えるフリをしつつ、トールと<伝言>で会話を再開。トールもトールでポーカーフェイスを保ちながらである。外面を取り繕うスキルは、二人共高い。
緊急ではあったが、トールが事前に村で準備、貸与していた装備や医薬品などのお陰で、けが人は居ても死者は居ない様子。村内に設置したモニタリング機器は、兵士達が正面からは攻めあぐねていることをデータとして知らせていたため、ほっと胸を撫で下ろす。
「<中位アンデッド作成>」
モモンガさんは、死んだ兵士を触媒に死の騎士を作成。村を襲う兵士を無力化するよう指示するが、盾モンスにも関わらず走って村へ向かってしまった。
(優秀な盾モンスターなんですよ。…って、どこいくんだよ!?)
どすどすと豪快に足音を響かせ、攻めきれない兵士の怒号と士気の高い村民達の叫びが溢れる最中へ。
「黒幕を吐かせる。無闇に殺すな!」
聞いているのか居ないのか、死の騎士は一声叫んで走り去った。
(LV差、結構絶望的かもしれないから、何人か死んじゃうかもなー)
(あーまあそこは、奴等の自業自得って事で…あと、仕様が色々変わってると思うんで、取得魔法の効果、全部確かめた方がいいかもしれないですね)
(俺、七百位、魔法覚えてるんですが…)
(デジマ!? 魔法職のカンストプレイヤーでも半分位って聞いてますよ!? パネぇな非公式魔王!)
表向きモモンガさんは無言、隣を歩くトールも無言。示し合わせたように歩き出す。
二人は目配せして頷き合ったりするのだが、斜め後ろに控えるアルベドは、モモンガ様カッケェ!と思うと同時に、何か目と目で通じ合ってしまっているトールに嫉妬している。
(キィ! 何なのこの男は!? モモンガ様と親しげに頷き合ったりしてぇええええええ!)
ネムを背負ったエンリを側にかばいつつ、村へ進む一行。死の騎士が突入したタイミングで一瞬、静寂が訪れ、今度は村人以外の阿鼻叫喚が響いていた。
村人たちは、いきなり現れた死の騎士に恐怖したが、死の騎士は間近の村人を一瞥すると、叫び声を上げながら兵士達へ向かっていった。
全ては至高なる御方の為。直接、かの方が手ずから生み出してくださったのだ。全力を持って事にあたろうと、死の騎士の心は歓喜に満たされていた。
後に、死の騎士を間近で見た村人はこう話す。
「今じゃもう見慣れてしまいましたけど、あの時、俺は死んだと思いましたね、オーガ並みの大きさでしかもあの叫び声とか、実はちょっとちびる位、びびってましたよ、ええ。
思い起こしてみると、あの方の為、死の騎士さんも全力だったんでしょうね。今じゃ、大まかですが言ってる意味とかあの叫び声で判断つくようになっちゃいましたよ、はっはっは」
NEXT
→モモンガさん、トールと共に村長と村人達から感謝を受ける
→戦士団と、プレイヤーの傭兵団が到着
あからさまに過剰戦力。
ニグンさんと陽光聖典はこの先生き残れるのか