荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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先に懺悔しときますと、10月後半から農繁期ですので更新速度は遅くなります。


死の支配者と漆黒聖典

 ザイトルクワエvs階層守護者達(一部除く)は、判定では勝利ではあったが、アルベド達はお通夜ムードである。流石にこの状態で法国の面々に会わせる訳にも行かなかったので、ギルメン達と打ち合わせの上で、軽く威圧した上で漆黒聖典の面々にはお帰り頂く事に。

 

「我らが力、理解したな?

 …この力は、我らすら恐れる。人の強者を自覚する貴様らも恐れを抱いただろう。この地に暮らす者達は言わずもがなだ。

 だが我々はそうと知り、その上で仲間と子供達と、穏やかな暮らしを望んでいる。

 人、亜人、異形、我々には等しく、同じ命だ。無理に親しくなれとは言わぬ、譲れない事もある、価値観の違いでぶつかる事もあろう。

 故に距離を置き、理解を広げろ。その上で、お前達ヒトが今の勢力を保ち、手を取り合う者達と穏やかな明日を迎えたいと言うのなら、我らも対話のできぬ理不尽には、人知れず力を示そう。

 行くが良い、スルシャーナ達が残した愛し子達よ。帝国は既に良き主を戴き、王国は我らの手で大きな汚れは拭った。あとはお前達次第だ」

 

 なんだか色々言ってるが、こっちはのんびりしたいので、そちらは独り立ちしてんだから頼らないでねって事である。まあ厄介な案件は、気付いたら対処するけどねとフォローはするが。

 尚、絶望のオーラLV1をマイルド気味に放ったのは、実はうっかりであるのだが、適度な神のプレッシャーぽくなったので結果オーライ。

 

「番外席次だったか…、その者については、後に使いを出す。会話の結果次第で、わが国へ迎え入れる。

 先程も言った通り、等しく命なのだ。竜王とも向かい合い、死を持っての最後とならぬよう、取り計らおう」

 

 漆黒聖典の面々は「ありがとうございます。他は、神々のお手を煩わせる事なきよう努めさせていただきます」という感じで去ろうとする。

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 ただ、わざわざ人類の脅威になる破滅の竜王に対処しに来た訳だし、世界級アイテム2つ戴いておいてこのまま帰すだけというのもなぁという事で、中位程度で使い勝手が良いデータクリスタルを入れた装備を下賜する事になっている。

 漆黒聖典の装備はプレイヤー用であったらしく、隊長を除いてレベル制限にひっかかっていて、聖遺物級としての本来の性能を発揮できていない。それでも現地的には強力なのだが。

 

「神の遺産であるその装備に見合う格に至るまでは、これらを使うといい」

 

 そんな感じで、あまのひとつ制作、デザインは弐式炎雷やペロロンチーノによる遺産級と最上級の装備を一揃い下賜した。間に合わせ品の為、実はニグンに渡した奴よりも性能が落ちる。

 

(おまっ!? 愚弟、あの女の子達の露出デザ、お前だな!?)

(一般ゲーの装備デザから色変えてトゲトゲとか抜いた奴だもーん)

(下は履き忘れ? レオタだからいいのあれ?)

(着るのに難儀するデザインばっかりだったので、最終的にあれで…)

 

 こんなギルメン達の会話は知らず、第7席次と第11席次の二人は、多少の露出はあるもののマントとケープはあるし、デザインも統一されたし、ずれずに動きやすいし、何より花摘みで再度纏うのに四苦八苦しなくて良くなった事に喜んでいたりする。騙されてるぞ。特に肩と北半球的と履き忘れ的な意味で。

 不幸だったのは第四席次である。以前より露出が増えた。少し体型がだらしなく、見えてしまうと他と比べてムチムチ感がある。法国に戻ってから鬼気迫る勢いで運動を始めたらしい。

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 男性陣に至っては、インナーのデザインが統一され、防具の類も黒を基調とした威圧的ながらも落ち着いた意匠となり、レベルが適合した事による動きやすさ、許しを得て振るった武器の威力の高さ、身体能力や耐性を今まで以上に向上させる装備の性能に、高揚していた。

 

「至らぬ我らが為に過分な褒章を戴き、感謝の念に絶えません!」

「よい。追い詰められた故の作戦と、その上の不幸な遭遇でもあった。我々の誠意だ、励めよ?」

 

 そうして漆黒聖典と陽光聖典の一人は去っていった。送迎役のニグンとクレマンティーヌが、クアイエッセと少々ゴタゴタがあったようだが、漆黒聖典の隊長と格段にレベルを上げたクレマンティーヌの手加減で収まったという。

 

「何故貴様が神々の御許に! この出来損ないの罪人がぁ!」

「出来損ないで…っ」

「ぐはっ!?」

「…罪人だからだよ」

 

 今の彼女の装備は、まるで町娘のような衣装だ。侮るのも仕方無いのだろう。だが、トールの手持ちにあったドイツはミュンヘンの民族衣装「ディドゥル」をベースに、バリスティックウィーブで強化、レジェンダリを付与した代物だ。これで食堂での給仕も行っている。

 

 性能としては、AGI+2に「決闘者」と「スプリンター」が二重に付与されている。近接、遠距離、魔法問わず下手に攻撃を当てれば確率で強制的に武器を取り落とさせ、装備しているだけで移動力が10%向上する。

 ユグドラシル的な補正で言えば、素早さ+20%、最終的な移動力が10%向上し、一撃を狙わないと武器を取り落して隙ができる装備か。

 

「因みに、トールさんのAGI値って?」

「素で11、標準装備で16?」

「素早さ160換算かよ…」

 

 得意とする刺突も使わずにクエイアッセの攻撃を悠々と避け、投げ飛ばしたクレマンティーヌ。兄は落下の角度がまずかったのか、腕を折った。クレマンティーヌは舌打ちして秘匿していた神聖魔法を使って兄を癒やす。呆然とする兄を他の漆黒聖典の面々が連れ、それぞれ複雑な表情で一礼して去っていく。

 

「じゃあね、アタシのクソッタレな過去(兄貴)。アタシは、お救い下すった神々の下で、罪人として罪を償い続けるから」

 

 とは言ったものの、それ以上にあのワイルドな料理人にゾッコンであり、あの番外席次のようで癪だが、子を孕みたいと思っていたりする。いや絶対、そうしよう、うん。

 

「…っくし! んん?」

 

 湖畔である準備を進める男は、感じたことのなかった悪寒にぶるりと身体を震わせていた。

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 さて、破滅の竜王の反省会であるが、この世界での生活の長いギルメン達はともかく、モモンガさんは上機嫌であった。

 

「さて、守護者達よ。この度の戦い、ご苦労であった。内容に納得が行かない者もいるだろう。だが、私はとても嬉しい事に気付いた」

 

 事前にギルメン達には説明済で「ああ、そういう事か!」と納得して貰ったので、今は静かにして貰っている。

 

「身体的強さ、それ自体は既に存在の限界に至り、望めない事は事前にわかっている。だがそれ以外の面、戦い自体への理解と経験、これを覚え体感していく事で、より効率的に効果的に行う事ができる」

 

 お前達は、まだ成長できるのだ。その事が嬉しいと。そうモモンガさんが優しい声で伝えた。

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 守護者達は項垂れていた顔を上げ、自らの創造主、そしてモモンガさんの顔を見る。骨なので表情はわからないが、明らかに喜色を感じ取る事ができた。感動に震え、嗚咽が漏れる。

 

「さあ、既に反省点は見え、お前達もそれを自覚した。個別の戦いではなく、最後に見せた連携で成長の兆しを見せた。この話はもう終わりだ、涙を拭き、顔を上げろ。後はお楽しみと行こう」

 

 そう言って、話の最初で隠蔽していた魔法陣を見せる。

 

「超位魔法<天地改変>!」

 

 辺り一面、破滅の竜王の捕食や養分の吸収により荒れ地と化していた場所が、穏やかに均された草原に変わる。

 

「さあ行こうか皆よ、ピクニックというやつだ。この先の湖の畔で、カワサキさん達が料理を沢山作って待っているぞ」

 

 ブルー・プラネット監修による、トブの大森林に合致する草原。植生などを映像で確認してイメージを作り上げたそれは、微かな草木、花の香りを漂わせている。

 いつの間にか隣に来たアルベドの手を取り、目的地へ。わざわざ歩いての移動だが、創造主との歓談をしながらという事で、逆にこの道のりが楽しく感じられる。

 

「リザードマンの領域が目的地だ。あまり遠くは無いが、ピクニックの目的地としては妥当だろう」

「ピクニック、ですか? 制圧用戦力の準備は終えておりますが?」

 

 いきなりぶっこんできた守護者統括。

 

「まてまてまて、リザードマンは特に敵対もしていないし、何よりカルネ村やブルー・プラネットさん、カワサキさんと友誼を結んでいる。何を焦っているんだ、違うからな?」

「も、申し訳ございません。その…ピクニック、という物が何か、私どもは誰もわからなかったのです」

 

 モモンガさんだって言葉しかしらないが、色々な本と用語とが収められている最古図書館に無かったというのは驚きである。ただこれ、リアルでの用語としてはピクニックは既に死語であるため、各種の辞書を収めておいた最古図書館では形容詞扱いでしかない悲劇である。

 

「私も聞いているだけで、参加は初めてだが、景色の良い所に仲の良い面々と連れ立って赴き、現地で食事を楽しんだりする行事だ」

「なんと…。私共が確認できた物語の記述では、戦場のピクニックなるタイトルがございました」

「…ああ、その、なんだ。戦場という言葉と、長閑に楽しむ意味でのピクニックを合わせて、不条理な状況を示すとかそんな内容だろうな」

 

 アルベドは目を見開いて「まあ」と言う感じで驚く。

 

「徒歩で向かうというのも、無駄ではなく我々の余裕の表れだ。楽しんで歩いて行こう、いいか、アルベド?」

「…はい」

 

 幸せな、花の咲くような笑顔で答える魔王様の伴侶である。お互い少しぎこちない所がポイントだろう。

 そんな初心者カップルモードの二人を直視してしまったギルメン達は、口から砂糖が出そうだったとか後に述懐したそうな。

 




ペロロンチーノの決めたデザイン元は違ったりするのですが、結果的にはドルアーガの塔(アニメ)のファティナさんがイメージ。
野郎共? 黒インナー統一以外は普通じゃね??(適当

クレマンティーヌが何故神聖魔法を使えたかといえば、別世界線の聖女よろしく、適正があったので成長に伴い職業が生えました。

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