荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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さあツアー、失意体前屈のお時間だ。


死の支配者と評議国の竜王

 ツアーこと、ツァインドルクス=ヴァイシオン。白金の竜王プラチナム・ドラゴンロードにして、アーグランド評議国永久評議員である、強大な力を持つ竜王の一体だ。彼は、王国の方面に存在を感知した、プレイヤーらしき強大な複数の気配を探し、できれば平穏な接触をと目論んで遠隔で操る鎧の姿でトブの大森林に向かって移動していた。

 

 だがその最中、世界が悲鳴を上げる程の魔力の増大を感知。しかも二回連続で。場所は確か、破滅の竜王が封印されていると言われている場所だ。法国も警戒していたというそれと、プレイヤーが激突した可能性がある。

 

 急いで向かった先、そこにはごっそりと森林が無くなって、穏やかな草原が湖の畔まで繋がっている。獣の姿は見えない。恐らく、ここであった何か、あるいはここに居た何かを恐れて逃げ出したのだろう。

 

「どういう、事だ?」

 

 だがあれだけの強大な魔力による破壊の跡は見当たらない。不自然に樹木の植生が円形を描いているが、わざわざ、破壊した所を直したのだろうか。破滅の竜王と呼ばれた魔樹の気配なぞ欠片も残っていない。

 

「そうか、法国の連中も来ていたのか」

 

 集団の足跡を発見。片方は法国側へ、もう片方は湖へ。集団の規模としては湖へ向かった方が大きい。それに、大きさや深さが様々で、異形種が多数居る事がわかった。

 

 確か、湖の周辺には魚を主食とするリザードマンが集落を作っていた筈である。まさか、彼らを害するために? ツアーは鎧を急がせた。

 

「いらっしゃいませ。招待状はお持ちでしょうか?」

 

 歓談らしき声が聞こえる場所に近づいた所で、自分の事を知るらしい見知らぬ…なんというか、空中を浮かぶ足の生えた丸い鉄の球が声をかけてきた。

 

「いや、招待状は持っていないのだが、プレイヤーが居ると知って、話をしたいと来てみたんだ。私はツアーという」

「左様でございますか。ご主人様並び、ギルドの方々に会談の可否について確認いたしますので、少々お待ち下さい」

 

 目らしき部位が三箇所。無機物であるにも関わらず、眉根のように稼働するそれは表情豊かだ。

 

「確認いたしました。皆様がお待ちです、どうぞこちらへ」

 

 この出会いが、叶うなら良きものであらんことを。ツアーは心からそう願いながら湖の畔へ出た。

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「ご主人様、アインズ様達と会談を希望された、竜王ツァインドルクス=ヴァイシオン様をお連れしました」

「ご苦労。下がっていい。来たようだぞ、アインズさん」

「ふむ、何らかの遠隔操作という事か。よく来たな、竜王ツァインドルクス=ヴァイシオン殿」

「ありがとう、私の事はツアーと呼んで欲しい。所で、君達はここで何をしているのだろうか?」

 

 ツアーの困惑気味の声。アインズさんとトールはしばし考える。そして周囲の様子を眺めてみた。

 

 様々な異形種や人間の姿をしたギルドメンバー達がおり、手に皿を持って料理を盛っては食したり、串焼きの肉や野菜を片手に談笑したり、向うではリザードマンが器を持ってこれまたギルメン達と酒盛りをしている。

 

「通常攻撃が連続攻撃でマップ兵器のお兄さんは好きですか?」

「あの人型(ひとがた)の兄さん、技も怖いんだよなぁ」

「お、ゼンベル、投げを食らったのを覚えてんのか」

「あれから腕は磨いてるが、戦いになる画も見えない」

「それはしゃーない」

「完全ガード可能なのが、物理無効化持ちのモモンガさんだけなんだよなぁ」

「それも、トールさんが戦闘モード起動したら貫通する」

「…まさか、かの拠点での試合は?」

「通常モード。ま、俺らとは別の次元で生きてる人だから」

「研究次第では次元を渡れるというか、既に世界を渡ってきた件」

「「「それな」」」

 

 側には会話に参加する守護者やシモベも居るが、外部の存在であってもぞんざいには扱わない。カワサキの食堂へ供給される一部の魚は、リザードマンが集めてくるのだから。

 

「何をしているかだと? ピクニックとバーベキューだが?」

「何それ?」

 

 思わず聞いてしまうツアー。

 

「目的地まで景色を楽しんで歩いたら、弁当を食べながら景色を楽しむのがピクニック。バーベキューはまあ、少々大雑把な味付けの料理を行儀とか関係なく焼いて楽しんで食ったり飲んだりする会だ」

「今回は、ピクニックとバーベキューで、忙しかった皆を労う会だ。ようやく落ち着いて過ごせるからな。アインズさん、大丈夫そうだから向うに行ってるな」

「ああトール、同席させてすまなかった。楽しんでくれ」

 

 敵対的なら、待機させているリバティ・プライムを全機出撃させる手筈も整えていたトールだが、どうやらそういう方向では無いと判り、離れる事にする。網膜投影でのPip-boyの戦術判断プロトコルでも、中立を通り越してグリーン表示だ。

 

(他の面子と会話を見守ってフォローします、困ったら言って下さい)

(了解です)

 

 そんな短距離グループ会話は知らず、ツアーは努めて平坦な声で確認をする。

 

「草原からこちらまできたのがピクニックで」

「うむ。多少手間がかかったが、魔樹は滅ぼせた」

「ここでやってるのがバーベキュー」

「そうだ。仲間や配下、協力者を招いている」

「成程」

 

 ツアーはぽんと手を打った。成程、ピクニックやバーベキューの習慣はこの世界には無い。無いのだが…。

 

「ど、どうしたんだツアー、いきなり倒れ込んで?」

 

 操作者の心情をあらわしたかのように、鎧は地面に膝をついて両手を地面に付けた。所謂、失意体前屈、orzの姿勢である。

 

「私は、ここに出現を確認した三十人近くのプレイヤーの存在に、八欲王みたいだったらどうしようとか、色々考えてたんだよ…」

「あ、ああ」

「魔樹の気配とか魔力の巨大な気配とか、緊張しながら来たんだよ」

「あー、あれは消し飛ばしたので安心して欲しい。法国の者達にも確認して貰った。アフターケアとして、やつに荒らされた大地は草原に変えておいたぞ」

 

 骨なのにドヤ顔をしているのがわかる。というか、今の外見はスルシャーナと同じアンデッドの姿だが、何かの手段で幻術を纏っているように見える。

 暫く愚痴混じりで落ち込んでいたが、ようやく立ち上がる。

 

「そうか…。所で君は、アインズは人間なのかい?」

「む、魔道具は自信作だと言われていたが、流石に竜王はごまかせないか」

 

 骨とローブの境界線の所に手をかざすと、不思議な装飾がついたベルトが現れた。突起の部分を押すと、甲高い音が複数鳴ってオーバーロードの姿が消え失せ、涼し気な衣装を纏った優しい風貌の男が立っていた。

 

「私は実際はアンデッドだ。魔道具の力を使い、人化する事ができる。先程、そちらが来ると聞き及んでな、外見だけでも本来の異形種の姿で出迎えたと言う訳だ」

「なるほどね。人化するのは、料理を食べる為…そうか。なんだか君達は、スルシャーナよりも、穏やかで人間らしいね」

「人間らしいかは今もよくわからない。ただ、今は法国とよろしくない関係と聞いたが、スルシャーナとは交友があったのか」

「ああ友達さ。この世界を、自然を好きだと言っていた。なんだろう、君達の世界というかユグドラシルでは、アンデッドは穏やかな種族なのかい?」

 

 感慨深く言う。

 

「種族としては本来、この世界のアンデッド共と同じだろうさ。だがな、私は自分の意思で種族の呪いを無視している。

 私もこの世界の自然は美しいと思う。我が友の一人が殊更、自然を愛する男だ。彼と共に、自然と調和する在り方をしたいと常々、思っているよ」

「ありがとう。その言葉だけで、私が来た意味があった」

「ふむ、我々が敵たりえるか、見極めに来たか」

 

 敵たりえるか、というのは確かにそうだが、得手不得手はあろうが三ダース近くのプレイヤーに加え、従属神もこれまで見てきたそれらより余程強大でそもそもの数が多すぎる。こんなの全部と正面切って戦えるのは、我が父の竜帝位だろう。

 

「気分を害したようですまない。立場上、大手を振って歓迎とはいかないが、君のようなプレイヤーが来てくれたことを幸運に思う」

 

 心底そう思う。だが、続くアインズさんの話は少し厄介事だった。

 

「…一つ、法国から相談を受けた厄介事がある」

「なんだい?」

「神の血を強く引く子が居るそうだ。我々で預かろうと思う」

 

 住処でツアーは歯噛みした。だが同時に、目の前のアンデッドの姿も持つ男の意図がわからない。

 

「くっ、条約の裏をかいたか、あの厄介者共め。だがいいのかい、今それを明かすという事は、お互いが対立しかねない」

「八欲王とも戦った竜王との争い、心が踊らない訳ではないが、その気は無いよ。件の神人も私達の都市で、穏やかに過ごさせるさ。それに…」

「それに?」

 

 アインズさんの向けた視線の先、あるのは湖の上の空だけだ。ツアーは首を傾げたが、次の瞬間、住処で感知した巨大な気配に息を呑む。

 

 AOG用のプリドゥエン改級飛行船と、トールの拠点で製造していた二番艦と四番艦が現れた。それだけでも威圧的だったが、最後に湖全体を覆う巨大さの宇宙船…マザーシップが隠蔽を解除して空中にその威容を並べた。下手したら重力の変動が発生しかねない巨大さだが、音も無く静かに浮かんでおり、他に影響を及ぼしていない。

 

 この星どころか、遠くに見える恒星に匹敵するエネルギー量を内包する巨大な物体だ。これの前では、プレイヤー達が世界級と呼んでいるアイテムですら霞んで見えるだろう。それに恐らくこれは、この世界の産物ではない。ユグドラシルからのものですらない。世界が汚される前の道理を持って束ねて動く、星の海を渡る船だ。船であり小さな都市だ。

 

「これ…は…」

 

 マザーシップは、ナザリックが来る前にリザードマン達は見せて貰っているので、別段驚いてはいない。ギルメン達も同様で、ひさしぶりに見たなー程度の感想である。

 

(ハッタリに宇宙船ていうか母艦出すって言うから、電子書籍とかで見た少し大きいだけの奴だと思ってたんですけどぉ!?)

(ナザリック程の広さも無い小さな都市位ですよ。まあ地球侵略しにきた宇宙人の母艦でしたが、拾い物です)

(宇宙人のとか聞いてませんよ!? てか拾えるの!?)

 

 アインズさんとナザリックのシモベ達は初見で、内心では動揺していた。守護者達に対しては至高の御方々がフォローし、トールだからと納得させる。

 

「我々は、示せるだけでもこれだけの力を持つが、望みは住処における友や配下達との穏やかな日々と、世界の未知を探る冒険だ。異形種であるがゆえに人への干渉は最低限に留めておきたいし、自然や世界を手当り次第傷つける事を良しとするほど、傲慢では無いさ」

 

 営業職で培ったポーカーフェイス。人化している以上、動揺している所は見せられない。ツアーは暫く沈黙し、重苦しく口を開く。

 

「…わかった、法国の神人については、君達にお願いする。君達が善意からでも世界を改変するなら対立も致し方なしと思っていたけど、これだけの力を持ちながら、リーダー達と同じ様な事を言うんだ、信じよう」

「ありがとう、ツアー。お互い、穏やかな日々が続くよう努力と準備を続けよう。…帰るのか?」

「うん、途中で凄く驚いたけど、有意義な会談だった。それに、この鎧の姿では飲食ができないからね。我慢できなくなる前にお暇するよ」

「そうか。竜の好みは知らないが、これを持っていくといい」

 

 裏で会話し、エインズワースの一体に用意してもらったのは、カワサキのバーベキュー串をかなりの数焼いて放り込んだ魔法の背負い袋である。

 

「これは? 魔法の背負い袋のようだけど?」

「一度開けたら効果が失せる簡易版だ。その中に、我が拠点で食されている人気の肉類を今食べているように調理したものと、余っている人化の腕輪を用意した。気が向いたら食べた感想を聞かせて欲しい」

「ありがとう。ではアインズ、またどこかで」

「ああツアー、またどこかで」

 

 暫くは会う用事が無いといいな、などとお互い思っていたが、用事も無いのにお互い、とある場所で定期的に顔を会わせるようになるのは今は誰も知らない。

-

-

 所変わって、ツアーの住処。アインズとの会話も終わった所で丁度、来訪者が来ている。鎧の操作の比率を変え、客を出迎える。

 

「久し振りだね、リグリット。暇ができたか、あるいは用事かい?」

 

 リグリット・ベルスー・カウラウ。かつての一三英雄の一人。正体を明かした時はさんざん文句を言われた。今でも時折、チクチクと嫌味を言われるのは勘弁して欲しい。

 

「用事さ。厄介事、という程ではないが王国の状況を教えに来た」

「王国? キーノからかな」

「そうだね。インベルンの嬢​ちゃんは現地でプレイヤーに遭遇したらしい。片方はアダマンタイト級に最短昇格したモモンという戦士、もう片方は始まりの九連星の団長、タッチだったそうだ」

 

 確か、代表のプレイヤーは「モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック」とやたら長い名を名乗っていた。恐らく戦士モモンは、アインズの変装だろうと当たりをつける。

 

「ああ、二人共少し前にトブの方で会って挨拶した。彼らは自分達の群れが基準だが、害が無い限りはとても穏やかな異形種のプレイヤー達だったよ」

「んん? モモンもタッチも、インベルンの嬢​ちゃんが見た限りは人間だったようだけど、異形種だったってのかい」

 

 それぞれの認識に違いがある。方や人間種のプレイヤーとして確認したようだが、ツアーは異形種の姿も見ている。

 

「ああ。魔道具やスキルの力で人化しているそうだ。私と会った時は、仲間や従属神達と共に、湖畔で食事を楽しんでいたよ」

 

 その時の心情は隠す。長い竜生の中、あの衝撃と脱力感はあれが最大のものだ。キーノことイビルアイとツアーをいじり倒す事を余生の楽しみにしていそうなこの老婆は、それを知ったら死ぬまでいじり続けるだろう。

 尚、ツアーは漏らさなかったが、後にエ・ランテルを訪ねてきたリグリットは、食堂で応対したカワサキから一連の経緯を聞いて大爆笑した。

 

「なんともまあ、優雅な話だね。…所でツアー、プレイヤーの気配を感じたのは最近だね?」

「ああ、そうだけど」

「始まりの九連星が傭兵として活動し始めたのは八年前だ。団長のタッチ、副長のウルベルト、団員達も同郷だと言う話さ。竜王国の戦線で有名になった。謎の異形種が現れたのもその頃だ」

 

 ツアーは竜の顔を呆然とさせた。探知には自信があっただけに、衝撃具合が半端ではなかった。一度感知すれば追跡は可能ではあるのだが。

 

「…十年近く前から、プレイヤーは現れてたことになる。しかも、私の感知を掻い潜って。どうやったんだ一体」

「あはははっ、こりゃ一本取られたね。インベルンの嬢ちゃん曰く、二人共高度な魔道具で能力を隠蔽していたって話さ。魔道具を外した時の気配は、そういうのに敏感な元イジャニーヤの二人が、驚かされた猫みたいに飛び上がったって言ってたよ」

「感知できて、消えて、それが二回か。ねえリグリット、なんだか自信が無くなってきたよ」

「しっかりおし竜王様。いやぁ、また今度嬢ちゃんと会う時、話をするのが楽しみだ」

 

 心底楽しそうに笑うリグリット。ツアーはそっぽを向いてしかめっ面である。

 

「私は面白くないんだが。…まあ、一つだけ、楽しみはできたかな」

「ほお、世界を憂う竜王様の楽しみかい?」

「今派遣している鎧の一体が、彼らの料理を人化の魔道具と一緒に預って戻ろうとしている。人化の魔道具は動作するかはわからないけど、彼らが楽しんでいた料理は少し楽しみだ」

「お、ご相伴に預っても?」

「…少しだけなら」

 

 竜王の所へデリバリーされた各種のバーベキューは、人化したツアーとリグリットに絶賛された。食事がほぼ必要ない筈のツアーだったが、味わったことのない料理の美味さに思わず吠えてしまったらしい。

 後にエ・ランテルの「食堂」がアインズさん達の一人が経営しており、バーベキューの味付けを担当したと知るや、定期的に鎧を派遣して料理を購入するようになったという。

 

「ま、こっちは嬢ちゃんに会うついでに、食堂で直接色々と楽しませて貰うんだけどね。このポンシュなる酒も美味いね、神の国かいここは!」

「ぐぬぬ」

「なんだか元気なばーさまだなぁ…」

 




AOG所属ではないですが、ハッタリも大事と完成済みのプリドゥエン改を追加で二隻、トールが保管していた宇宙人のマザーシップを配置してみました。恒星間航行できる訳で、内部にはブラックホール炉とか色々あるだろーなと、恒星級のエネルギーを持ってるとか捏造をば。

アンケートを実施、本編的な話以外の幕間な感じで見たい話があったらご要望いただければ。
ただ時間的に書けるかは不明。アイディアには必ず使わせて頂きます

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