荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

46 / 123
サブタイトル「プレアデスいじめ」
※リョナではないです。



荒野の災厄と戦闘メイド

「で、なんでこうなったか誰か説明してくれないか?」

 

 トールの拠点内にある大型闘技場。ローマのコロッセオをモデルに、レトロフューチャーなデザインで作られた広場の中心で、プレアデスの戦闘メイドを前にしたトールのぼやき。怒っている訳では無いが、ツアーの最中でのこの事態に困惑している。

 

 それぞれの創造主が申し訳無さそうにグループ会話。

 

「いやぁ、多分俺らが原因」と源次郎。

「メイド達との会話で、一回は必ずトールっちの話がな…」と獣王メコン川。

「ソリュシャンに聞かれて、色々話した結果なんです…」と、ヘロヘロ。

「遊んでもらってるから大丈夫と思ったんだけど」とガーネット。

「ナーベラルは…その、人間嫌いがこじれて」と弐式炎雷。

「ごめんトールさん、ボクが楽しそうにずっと話してたみたいで」と、やまいこ。

-

 状況を要約すると「主がトールと話すのが気に食わないので、実力を見ると理由をつけてボコりたい」である。

 

「オーケーわかった。ここはジェラシっ子パーク、把握した」

 

 おどけて言うと、ユリ・アルファの眉根が吊り上がる。ナーベラルは「こ、この○○が!」と小さな声で罵倒。ルプーは「おお、ユリ姉が…まあ気に食わないのは確かっすねー」という感じ。他の二人はノーコメントである。

 NPC達が自由意志を持ってまだ半年も経ってない訳で、知識と能力は与えられていても赤子も同然というのがトールの見解だ。ならば、致命的な怪我を与えないよう配慮して、実力を見せておくのもアリだなとトールは了承。

 

「いいのか? 大分、失礼な事をしているのは自覚しているが…」

「守護者の面々は凡そ把握というか、感じ取ってもらってるからいいとして、彼女達は接点少ないからな」

 

 モモンガさんの問いに余裕とも言える感じで答えたのもあり、火に油を注ぐという奴である。

 

「では、余興ということでよろし?」

「承諾した。ナザリック最後のエリアを守る戦闘メイドの力、見せてもらおうか!」

 

 どこから取り出したか、未来的で無骨な射撃武器を構えるトール。それに呼応してプレアデス達も…一部を除いて構えを取った。

 

「あ、あたしぃ、イチ抜けまーす」

「私も遠慮する」

 

 エントマとシズが離脱。

 

「え、二人共?」「ど、どうしたっすか!?」

 

 ユリが呆気にとられる。ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャンも驚いている。

-

 

-

 未練一つなく観客席に戻った二人に創造主が問うと、二人共あっさりと答える。

 

「トール様ってぇ、物凄く得体の知れない人ですけどぉ、私にも優しいしぃ、動物のお肉だけど低脂肪のダイエット食も用意してくれたしぃ、それに今度、源次郎様がお願いしてくれた、変身用のスキン?とかいうのを作ってくれるそうなのでぇ…」

 

 人肉嗜好だが、最近はダイエットと称して脂身の無い動物の肉をよく食すようになったエントマ。最近のお気に入りは、鳥ササミ肉、牛のフィレ肉、あとはトール拠点生産の、低脂肪サイコロステーキなどの減脂成型肉だ。成型肉を脂分を抜いて作るという高度な技術力の産物である。

 女性ギルメン達は「え、それ知らない!?」と後で確認しようと決めた。

 

「人化とは違うのそれ?」

「トールさんが作ってくれる予定のは、種族レベルを維持したまま、上から被る奴なんだ。触っても人の肌と見分けがつかない。色々外での任務を頼む時、異形種の能力も維持できるとなれば安全性が上がる」

 

 あまのまひとつさん作成の変身用ベルト型魔道具は、外観は変わるが実物は変わらない為、触られたり幻術を破られるとバレる。その点、トールが用意する予定のスキンは、触られても大丈夫である。制限としては、人間とかけ離れた姿では無い事だ。

 

「成程。それで、シズちゃんの方はどうして?」

 

 いそいそと武器を格納していたシズ・デルタは、いつものドリンクをずびーと飲みながら答える。

 

「勝率を多角的に演算した結果、無理ゲー」

「無理ゲーてw」「いや実際、無理ゲーだけども」「あれはクソゲーだろ」

『聞こえてますからね?』

「「「サーセン」」」

「あと、博士とも拠点で一緒によく装備、武装を試して遊ぶ。楽しい」

 

 パワーアーマーのパーツを流用した、部位を取り外さずに武装を強化するプランにシズは目を輝かせて了承。ガーネットの厳選で、高機動型、重装型、偵察型、そういった装備をワンパッケージで換装できる物が用意できた。

 

「ジェットパック、可愛くて便利。オーバー○ウェポンは、ロマン」

「が、ガーネットさん?」

「いや、シズが喜ぶから、つい…」

 

 ジェットパックはパワーアーマーの流用で、短距離だが飛行できる。MOD由来のオーバードウェポ○は警告メッセージとかエフェクトが派手ながら、別段、腕が外れたりダメージが発生するとかは無い。アウトリガー固定などで一時的に身動きが取れなくなるが。アサルトバリアもどきもあるが、コ○マ技術ではないのでクリーンである。

 

 なんだか弛緩した雰囲気の観客席とは別に、闘技場内ではユリ達が闘志を燃やしている。

 

「人数減ったけど、どうする?」

「…か、構いません、そもそもボクが無理を言ってこの場を設けてもらった以上、ボク一人でもやる!」

 

 やる気が満ちて溢れて、ガントレットをガチンと鳴らす。やまいこのお下がりだが、その能力を知るギルメン達はびくりと震えた。

 観客席では、ユリ・アルファが発端で模擬戦のセッティングとなった事に驚いた面々が推察をし始めた。一番落ち着いていた筈の彼女が、なんで言い出したのか。

 

「最近、事あるごとにボクがトールさんの話をしちゃった気がするので、面白くなかったんじゃないかと…」

「あー、お母さんを取るな、的な?」

(成程、あちきはトール殿に良くしてもらってるでありんすから…)

(私めもっ、モモンガ様との歓談の機会によく同伴しておりますので)

 

 それが聞こえたのか、遠目にはわからないが、アンデッドである筈のユリの顔がほんのり赤くなる。ソリュシャンは「あらま」的に驚き、ルプーはからかおうとした所で、顔が赤いナーベラルに叩かれた。

 

「あら、それだけじゃないでしょう? 見定める意味もあってよ」

 

 名状しがたい空間が所々覗く、等身大のアンティーク人形の姿をしているスーラータンがいつものオネエ口調で楽しそうに言うと、全員が首を傾げた。しばしシンキングタイム。理解したメンバーは微笑みに変わる。解らない面々は首をかしげる。

 

「…な、なんてこったい!?」「え、どゆこと、え?」「まじかよトールさん」「CHA11は伊達じゃないのか」「レディキラー恐ろしす」「どういう事だってばよ!?」「人生経験の差か」「ねーちゃん…」「おい弟、まるで意味がわからんぞ!?」「一番歳上だもんな、前世込だと」「誰か説明求む!」「いやぁ、本人も自覚無いし?」「公開処刑になりかねないな」

 

 やいのやいの言うギルメン達。尚、モモンガさんと女性陣はわからない組である。

 

「な、なんで、ボクの方みて生暖かい笑顔が!?」

「さあ知ーらない。ま、ユリちゃん達の頑張りを今は応援しましょ」

 

 闘技場内にブザーが響く。お互い改めて戦闘姿勢を取ると、ゴングが鳴り模擬戦が始まった。

-

 

-

 最初に動いたのはユリ。一瞬の踏み込みでトールの目の前に。えぐりこむようなアッパーだったが、トールは両腕をクロスさせてジャストガード、攻撃を跳ね上げられたユリがたたらを踏む。そこに手刀を打ったが、ルプーがインターセプト。距離を取られる。そのまま、ナーベラルの魔法がトールへ打ち込まれる。

 

「…いい連携だ。ウェイストランドでは見なかったな」

 

 速度を重視したが、威力は普通の人間ならば耐えられない。が、トールは焦げ跡もなく涼しい顔だ。そこを背後から近づいてきたソリュシャンが、ショゴスの姿で包み込む。

 

「隙有り、ですわ」

 

 だが、ギルメン達は動かない。心配すらしていない。若干一名、ヘロヘロだけが「あわわ」と、ソリュシャン自身の事を心配中。

 

「え、この感触…ななな!?」

 

 ソリュシャンの身体が膨れて行く。人間体がなんというか、どすこーいと言った感じに膨らんだ。トールがすぽーんと飛び出してくる。

 

「えー、解説のガーネットさん、何が起こったんでしょう?」

「え、私が解説なんですか弐式炎雷さん? …まあいいでしょう。トールさんはユグドラシルの職業レベルの恩恵は最低限ですが、外見上も構造上も遺伝情報上も、一応は辛うじてなんとか人間カテゴリながら、魔法的恩恵のない物理的な存在としてはこれ以上ない最高水準の物体、構造体です。大抵の物理的攻撃は、水滴が複合装甲版を叩いた程度でしょう」

 

 物体って何だ物体って! という抗議は無視。

 

「ええ、それは皆、知っています。今の攻防の最後、ソリュシャンが膨れてしまったのは?」

「恐らくは高分子吸水ポリマーでしょう。拠点内でも色々と用途はありますが、最近は将来を見越して吸収能力がより高いものを研究していました」

「それって、紙おむつ等に使われる?」

「はい。ギルド長達は時間の問題だ、と嬉々として準備を」

(?どういう事、お姉ちゃん?)(え、ええと…子供ができるかもって事!)

 

 一斉に目線がモモンガさんへ向き、アルベドへ向かう。

 

「脱童貞か」「ふむ、バイコーンに乗れるようになったか」「あれの召喚能力わざとかw」

 

 モモンガさん、精神安定化発動。アルベドが両手を頬に当てて、笑み崩れる。嫉妬マスク同盟はやさぐれる。

 

「インベントリにあった大量のそれを、ソリュシャンに取り込まれた際に大量に散布したのでしょう。人間なら数体取り込んでも元の体型を維持できる、体型変化が自在な筈の彼女の動きが鈍っています」

 

 ソリュシャンはどすどすと後退り。取り込んだ吸収ポリマーを排出しようとするも、自らの流動成分から水が無くなり、あからさまにぎこちなくなる身体に驚愕している。このまま排出すれば、自分の体積が減ってちんまいサイズになってしまうだろう。それはそれでバードマンが反応するかもしれないが、ソリュシャンが愛情を注ぐ相手にはロリ嗜好は無い。

 

「一つ、意地悪をしよう。いいかな、ソリュシャン?」

 

 取り込まれた際の酸も意に介さず、とてもいい笑顔のトール。軽く手を払うだけでシュウシュウと煙が出ていた体から酸が全て払われた。すわ攻撃かと、ユリやナーベラル、ルプーは身構える。

 

「な、なんですの!?」

 

 発声部分も肥大化したせいか、わざとらしいデブ声になったソリュシャンは、笑顔の意味がわからず焦る。

 

「ヘロヘロさんが見てる」

 

 ソリュシャンが硬直。ぎぎぎと顔を向けると、観客席のヘロヘロと目が合う。ヘロヘロは「あー、やっぱりか…」と理想のメイド姿から悲しい変化をしてしまった彼女を居た堪れない目で見ている。いや異形種の姿では目は無いのだが。

 

「い、いやー!? 見ないで下さいましヘロヘロ様ー!? うわぁあああん!!」

 

 闘技場の控えエリアに重量音を立てて、ソリュシャンが逃げた。ヘロヘロは「慰めに行ってきます」と、そそくさと場を辞した。

 

「鬼畜ですトール選手! 異形種とはいえ、外観も含めて彼女の心は乙女、創造主の目の前で肥大化した姿は耐えられなかった!」

「一応これ、科学の勝利でしょうか?」

「酷い科学の勝利もあったもんだ」

 

 外野の声に苦笑しつつ、トールは残る武装メイド達に向き直る。

 

「これでまた一名。続けようか」

 

 トールの笑顔は特に愉悦などで歪んではいないが、それが逆に恐怖を煽る。ユリは連携内容を修正、ナーベラルの魔法を牽制に、ルプーとの同時攻撃に移る。

 

「ああこの辺、プログラムの戦術を応用してくれてるのか」

「もし誰かが欠けても、連携でカバーできるのは強みですよね」

 

 先程の奇襲のような攻撃でもトールは反応してきた。ならばとルプーが先制、死角からユリが攻撃する。

 

「はいっす!」

 

 武器で痛そうな所を振り抜く。それと同時にスカートのスリットから伸びた足で蹴りを放つルプー。トールはまたジャストガード。ルプーへの追い打ちは…ユリの打撃でできない。だが、人間を殴ったとは思えない硬質な音が響く。

 

「え?」

 

 クリーンヒットしたにも拘らず、まるで巨大な岩を叩いたかのような感触。そしてディザームなどのスキル類を食らった時のように、ユリのガントレットがスっぽ抜けた。がっちり固定してあった筈なのに。

 

「おおっと、ここでトール選手の装備にあるレジェンダリ効果が発動! 問答無用で装備武器が外れるー!」

「確率ではありますが、攻撃を当てた数だけ判定とか鬼畜効果です」

 

 トールはここで、ユリの腕を引っ張って思いっきり円心で回す。身体だけがくるくる回る。ユリの頭は、デュラハンのためそのままだが、ありえないパワーで回されたユリの身体はふらついた。

 

「おしおきだ」

 

 獣王メコン川さんには悪いが、と前置きして体勢を崩したまま戻っていないルプスレギナの足を払い、その大きなお尻に振りかぶって平手打ち。

 

「いったーいっ!?」

 

 ばっちーんといい音が響いた。跳ねるように仰け反るルプー。返す刀で、離れた位置にいるナーベラルに肉薄、瞬間移動まがいの速度に驚く彼女の腰を後ろから掴み、プロレス技のパワーボム。というかほぼパイルドライバー。ぐえ、とうめき声。

 

「え、えぐい…」

 

 創造主である弐式炎雷は、上下逆で地面に刺さるナーベラルの可愛そうな姿に呻く。トールは基本、戦闘での容赦は無い。

-

 再び神速の踏み込み。ユリは膝カックンで回転が中断と同時に、身体が倒れる。尻への衝撃から立ち直りかけたルプスレギナは、再び打ち込まれた平手の痛さにまた跳ぶ。さらなる追撃から逃れようと必死で地面を蹴るが、空中に飛んだのは悪手だ。地上に着地するまで都合、20回の平手打ちを尻に受け、地面にうつ伏せで臀部だけ突き出した姿勢で突っ伏す。

 

「う、ううっ、私、いじめるのが好きなのに、散々いじめられたっす、痛い場所が何度も叩かれたっす、お尻が腫れまくってるっす、情けない格好っす…、か、回復っす…!」

 

 と言ったが早いか、トールの平手打ち。

 

「またぁ!? い、痛いっす…え、いつの間にか手足が動かない!?」

「解説のガーネットさん、どうして動けなくなっているんでしょうか」

「手のナックルガードに付与された、膝砕きと腕折り(※オリジナル)のレジェンダリ効果でしょう。命中ごとに確率で武器を持つ腕か、移動の為の脚部が負傷状態で動かなくなります。負傷と共に呪いに似た効果が出るので、上位の回復系を使わないと復帰できないでしょう」

 

 残り耐久度に無関係で、腕や足を全損扱いの状態にする。しかも呪いっぽい効果のおまけつき。治癒させたとしても呪い効果が残っていると暫く動かすことができない。

 

「さて、動けない所すまんが…、獣王メコン川さんがガン見してるぞ」

 

 因みにガン見していた理由は、心配もそうだが彼の角度からは乱れたスカートのスリットから魅惑の太腿と付け根が見えていたからだ。黒である。異形種の野生の目は最高性能を発揮した。

 

「う、うわぁあああん!! こんな格好で申し訳ございません獣王メコン様ぁ!!」

「「「鬼か」」」

「異形種フレンズの面々に言われたくない」

「傍目には女性のヒップを散々平手打ちにして、泣いてるのを放置している鬼畜にしか見えません!」

「実際、平手打ちしたからな…。トールさん、Perkで打撃類は装甲貫通するから身体に響くんだよなぁ」

「トールさんをしてバグ技の、ヌカパンチでなかっただけマシです」

「あれか…。加減してすら攻撃系の超位魔法に匹敵する…、通常攻撃」

(((超位魔法に匹敵する通常攻撃ぃ!?)))

 

 Fallout3にあった、格闘の数値を上げる装備を頭部に複数装備できるバグ技が「核闘技」「Vault神拳」「ヌカパンチ」などとかつて呼ばれていた。能力の基本がFallout4仕様の所に3とNVの一部が混ざったトールもまた、行使が可能である。

-

 ゲームが重たくなるのが難点だった技で、現実化したウェイストランドでも空間の軋みが発生する上、程々の数値で止めておかないと、音速を超えた速度で繰り出される拳で周囲に衝撃波が発生する。本人に怪我などは無いのが理不尽だ。理論上は、核融合反応が起こせる危険な大技である。尚、101のアイツはベヘモスやデスクローを軽々倒せると喜んで使っていた。どこの「笑顔付○」だろうか。

-

 ギルメン達の前で披露したのはお互い変身ベルトで姿を偽った竜王国の戦線だったが、一番槍と突っ込んだトールの一撃は洒落になっていなかった。視認範囲であればV.A.T.S.の格闘攻撃を可能にするMODで、数百メートルを音速を超えて一気に加速して接近。攻撃開始距離に応じて打撃の威力が増すPerk「Blitz LV2」は桁の違う威力を開放。拳の衝撃で砕かれたビーストマンが衛星周回軌道のデブリ並の速度で前方に拡散、塵になりながら衝撃波を伴って軍勢がひしめいていた草原の端まで破壊したのである。どこのサイタ○先生かマクロ○ライバーだろうかこの男は。

 尚、次のターゲットは死んだと言うか消滅していたので、行動予約をしていた連続攻撃が不発になった事を話したら、ギルメン達は戦慄していた。

 閑話休題。

-

 サディストであり享楽的な側面があるルプスレギナだが、いじめられることには耐性がない。あまりのショックに、自分が信仰系魔法を使えるのも忘れて、地面にうつ伏せで突っ伏している。

 

「どんな姿になっても獣王メコン川さんは気にしない。後で存分に慰めてもらえ、俺からも強くお願いしておく」

「うう、戦った相手に気遣われたっす、屈辱っす…」

 

 網膜投影での反応はまだ赤、敵対だ。それに獣王メコン川から聞いている設定では、狼なのに猫っぽい嗜虐趣味だ。悪戯好きの犬…じゃない、狼は躾ける必要があるなと判断する。

 

「もう一度尻叩きを食らうか? 今度は回数3倍で」

「堪忍っす! トールさんは鬼畜っす! 獣王メコン川様助けてぇ!」

 

 じりじり近づきながら手のスナップを利かせてみたら、泣いた。ガチ泣きである。反応は中立から緑。動けない手足を懸命にずりずりと動かして後退するも、距離はすぐ近づく。ルプスレギナはいつもの飄々とした感じはどこへやら、絶望にギャン泣きする。

 

「あんまりルプーをいじめないでやってくれ。ほら、ルプスレギナ、運んでやるから」

「えぐっ…、えぐっ…メコン川様ぁ…」

 

 獣王メコン川は試合の途中だったがルプスレギナを回収。トールも流石に追撃はしない。

 ただこれ、物事を深く考えず趣味を優先しがちなルプーの性格に悩んだ獣王メコン川が「そんな事をすると、トールっちの尻叩きだぞ?」と、叱る手段の確保を望んで相談した為だったりする。尚、この日以降の獣王メコン川とルプスレギナの夜の生活には、ソフトなスパンキングが追加された。爆発しろ。

 閑話休題。

-

 その間、ガントレットを装着し直したユリと、地面に叩きつけられた屈辱に震えるナーベラルが復帰。尻叩きの痛さに恐怖したルプスレギナは創造主に連れられて離脱したので残るは二名。

 

「勝ち目は無いのは解っていてもぉ!」

「皆の心証もあるので、これで終わりにしようか」

 

 なんというか、友人の子とか嫁とかをいじめてる気分であった。トールはV.A.T.Sを起動。魔法の<時間停止>内でも何ら障害無く攻撃が行えるそれは、ウェイストランドでトールに「雷神」とも渾名がつくようになったその能力を遺憾なく発揮した。

 

「相手が爆散するPerkなどは一時的にカットできるとはいえ、格闘攻撃なのは、やっぱハンデ?」

「連鎖爆発したら惨事すぐるわw」

((相手が爆散する特殊能力!? しかも連鎖!?))

「凶悪な数々の射撃武器を使わないのはまあ、そういう事でしょう」

「避けられない隙間無い防げない容赦無いレーザーの乱舞とかは、試合の場にはそぐわないからな」

(((至高の御方すら避けれない攻撃!?)))

 

 んで、闘技場で最終的に立っていたのはトールだ。ギルメン達からすれば妥当な内容である。

 ナーベラルは立ち上がる度に再び地面にパワーボムというか、開脚パイルドライバーで突き刺さり、弐式炎雷に幾度も情けなくも恥ずかしい体勢を見せる事となって、試合終了後、膝を抱えて蹲っていた。

 

「最後…硬いメイド装備がめくれて、パンツ見えたからな…」

「ううっ、ううう、うーっ!!」

 

 ナーベラルはぽかぽかと弐式炎雷の胸を叩いて抗議していた。因みに戦闘メイド服は下着を見せないデザインだったので、発注時に仮で設定していたクマさんパンツである。立っている彼女のスカートを下から覗く無謀な奴が居たとしても、暗くて見えない位置だ。

 

「ああ、忘れてたんだよな」

「…後で、要望のデザインに変えときますね?」

「頼む」

 

 試合も終わったという事で、予定していたツアーの再開が通知される。

 

「ごめんな、やまいこさん。加減はしたが、諦めない彼女を止めるにはこうするしか」

「いいですよ、トールさん。ボクが彼女をほったらかしにしたのが発端ですから」

 

 ナーベラルが魔力枯渇で魔法を撃てなくなる直前、直撃した雷鳴に妨害されてトールは聞こえなかったようだが、やまいこだけはユリの叫びを聞いた。

 

「やまいこ様が気になっていて、やまいこ様を任せられる人、そんな事はボクだって解っているんだぁ!!」

 

 幾度も攻めては攻撃を喰らい、トールが攻撃に込めた気絶値が限界を超えたせいで、アンデッドのデュラハンであるにも拘らず気絶したユリ。

 ネフィリムの姿で、ユリの身体を大事に抱き上げ、外れてしまった顔を子供にするように撫でるやまいこ。容姿はリアルの頃の昔の自分だ。今はなぜか若返った姿で人化できるので、二人並べばかろうじて姉妹に見えるかもしれない。

 

「子供の癇癪を受け止めるのは大人の役目、か。今回、受け止めてもらったのはトールさんですけどね」

「これで落ち着いたらそれでオールオーケー。ま、性格も好みな美人親子というか美人姉妹のお相手ですから、役得ですよ。今度は殺伐としないやりとりがいいですけどね」

「…もう、そういう所ですよ」

「え、やばいな、何かはわからないけど自覚症状無しですか私?」

「というか、今のボクはネフィリムの姿ですからね」

「? 仕草と所作、可愛いじゃないですか」

「だからもう、ほんとに…」

 

 無線に呼び出し音が鳴る。

 

「…ん、了解だエインズワース。すいませんやまいこさん、俺はこれで」

 

 トールは軽く会釈をして離れ、エインズワースとツアー内容の調整をし始めた。やまいこと寝ているユリが残されている。他のギルメン達は、プレアデス達の連携内容を称賛、シズやエントマが加わった場合の連携についてあれやこれや話を続けている。

-

-

「ボクが、この歳、この姿になって、恋だなんて…びっくりだ」

「自覚されたのですね、やまいこ様」

 

 びっくーんと、大きな体を硬直させるやまいこ。

 

「!? お、おお、起きてたのかい!?」

「はい…。ボクとしては複雑ですが、おめでとうございます?」

「え、なんで疑問形なのさ」

「その、私もあの方が気になってしまいまして…」

 

 流石は自分の若い頃の姿を持つ娘というか。嗜好も同じく、頼れる歳上男性だったらしい。

 

「でも、お互い退く選択肢はありえません。どうせなら一緒に責任を取って戴きましょう」

 

 頭が離れているが、合体していたら眼鏡がキラーンとか無駄に光っていただろう。

 

「ま、まじで?」

「はい、まじで。後付ですが、より強く縛り付けられれば、ナザリックの利益にもなりますから」

「うわドライな意見きたよ。…まあ、そういうのは無くても、彼なら隣に居てくれそうだけどね」

「ええ、全く。困った事に」

 

 この日から少し経った後、やまいこは意を決しトールに交際を申し込んだ。人化して何年ぶりかの化粧をして、ユリも一緒にである。トールは「私でいいんですか?」と演技も忘れて素の喋りになったが、二人の微笑みながらの肯定に、躊躇無く交際を承諾した。妹のアケミは自分の事のように祝福した上で「そっか、リアルじゃないから一人でなくてもいいよね」と言ってクレマンティーヌと相談を始めた。

 既に察していた男性メンバーも大いに祝福したが、シモベ含め、現在は適齢の相手が居ないギルメン達(一名除く)に衝撃走る。

 

「巨乳親子丼!?」

「おいそこのエロゲバードマン」

「ねーちゃん、最大の優良物件が持ってかれちまったぞ!」

「おう愚弟それ以上私達を追い込むようならこの茶釜容赦はせんぞ泣くぞかなり本気で」

「ナチュラルに私も追い込まれてる扱いなの!? 追い込まれてるけど!」

「「「自覚あるんかいっ」」」

「じ、時間は沢山あると思うので、じっくりお探しになられては…」

 

 やいのやいの。今日もナザリックは平和です。

 




やまいこさんをヒロインに。弱いながらも伏線は張ってありました。ユリも一緒。
アンケートを実施、本編的な話以外の幕間な感じで見たい話があったらご要望いただければ。
ただ時間的に書けるかは不明。アイディアには必ず使わせて頂きます

本編敵ではない話で見てみたい話はありますでしょうか。書けるかは未知数

  • ウェイストランドの話
  • ナザリック内での話
  • ナザリック外での話
  • ナザリックに関係した人の話
  • ナザリックに無関係な話
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。