荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
今日も今日とて、ゆったりと執務室で過ごすモモンガさん。時折、気分転換に冒険者として活躍し、余暇だと称してカルネ村に赴いてみたり、首都ナザリックでアルベドを伴ってデートをしたりと、なんだかリアルに居た頃より充実してたりする。
今の確認書類は、ギルメン達の承認が完了した魔導皇国の憲法だ。形式的文体の下に、日本語で解説文が書かれている。
「急造ではあるが、死獣天朱雀さん達の協力で憲法と国内法も大まかに用意できた。リアルにおける少し前の、まだまともな法律を最古図書館に残して貰っていたのは有り難い話だ」
アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国の憲法は、リアルにおける二一世紀前半までの日本国憲法の内、天皇家の扱いと戦争に関する法律を除き、大体がそのままである。
モモンガさん含むギルメン達こと四一皇の権力はアメリカ憲法の上院議員をより強力にしたものでそれぞれ同格の権力を持つが、大きな案件は合議する。そして、アインズ皇帝が最終的に拒否した場合はそれを優先する形だ。
戦争については言わずもがな。この世界では人間同士、異形種同士、あるいは人間と異形種の争いが周囲では絶えない訳で、戦力放棄なんてのは絵に描いた餅か狂人すら言わない戯言である。
法律面においては、これまた二一世紀前半のまだマシだった頃の日本の法律を多く転用している。財産周りで大きな差異としては、土地絡みが大きく異り、リアルでの共産中国と似る形になった。首都ナザリック自体はアインズ皇帝の所有物で、都市管理行政が許可したならある程度自由に空き地への建築などが行える。ただし、使用権利を借り受ける形のため、土地の売買はできない。建築物の販売や貸与、譲渡は可能だ。
ただ、現時点での首都ナザリックの居住者は地下大墳墓のシモベ達であるため、実際には商業活動自体が行われていない。限度はあるが、AOG所属ならどこの店舗もタダで商品を貰える状態だ。段階的に、新造した通貨を流通させて都市としての体裁を整える必要があるだろう。
閑話休題。
他、法律周りは21世紀前半の記憶があるトールにも目を通して貰っている。一通り解説文に目を通して承認の判を押して決裁箱へ。
「プリドゥエン改型飛行船の追加購入?」
ウェイストランドで建造されたのを一番艦、トール拠点の最初の艦を弐番艦、AOGというかル・シファー商会で購入したのが参番艦、トール拠点の二隻目が四番艦である。
未知のエリアへの探索に、交代で運用できる飛行船の準備が必要と要望が出ていた。次回の議題にする前の決裁だ。
「メンテナンスも含めて交代制が望ましい、できれば三交代か…」
となると二隻の追加発注である。問題は対価だ。基本的にほぼ材料費か、ユグドラシルで微妙な扱いのマジックアイテムばかりを希望するので、いつもなんだか申し訳ない気になる。
「効果的にウェイストランドで珍しい方が喜ばれたな」
ユグドラシル内の効果としては被っていても、フレーバーテキストが異なるなら対価として受け取っていた。パンドラズ・アクターに相談して、微妙なものであっても説明文や効果が珍しいものを中心に見繕って貰うことにする。
「これは承認と…」
次の書類はまた飛行船の話だった。
「ああそうか、名前を決めて無かったな」
次回の合議の際、議題として上げるようだ。初めて見た時、わくわく逆さ船とか言ってみたら、戦慄の表情で他のギルメン達に止められた。トールは大爆笑していた。解せぬ。
「今日の分は終了です、お疲れ様でしたモモンガ様」
「うむ。茶をくれ」
重要事項の全ての決裁を終え、凝ってはいないのだが凝りを解すように椅子の上で伸びをするモモンガさん。
アルベドが控えている一般メイドに目配せ。緑茶の入った湯呑を用意される。少しぞんざいな感じで受け取るとウケがいいが、その感性がわからない。
今は人化状態に異業種の幻影を被っているので、お骨様の姿でお茶を飲む事ができる。ナザリックギアはとても便利であった。
「そういえば、他の皆は先程報告を受けたが、トールは今日、何をしている?」
「マーレに協力を要請してお茶の木を育てているとか」
(何してるんだトールさん…)
「たしか高級茶の育て方をいくつか覚えてるそうで、上手く行ったら魔導皇国の特産品にどうかと言う話です」
トールは、魔法の大釜から出てきた食材を加工するか食した後に出る種等を譲り受け、マーレに頼んで育成を試している。育成が軌道に乗るならナザリック農場で育成法を転用してもいい。今は内需が主だが、将来的に食料を高級品を中心に輸出し、外部活動に必要な外貨を稼ぐのがいいだろうという目論見だ。
「成程な、守護者達次第だが自由にやってもらって構わん。ナザリックの利益になる」
「はい、そのように伝えておきます」
「上がってくる情報に、大きな動きは無いか。国がどこか動かん限りは、今の態勢を維持するとしよう」
王国各地に散った恐怖公の眷属達、影の悪魔による諜報網は、王国外までそのネットワークを伸ばし、帝国と法国、竜王国、聖王国まで把握できるようになってきた。諜報網と防諜は高い水準で、防衛に関しても首都ナザリックで大抵は対処できるし、いざという時は地下墳墓で迎え撃てる。
帝国はまだ行った事が無いので、モモンとして訪れてみようかなと考える。あれやこれやとやること山盛りでない事を、心底有り難いと思う。
「さて、アルベド。お前の午後の予定は?」
「まあ、ご存知でしょうに」
「ふふ、そうだったな。今日は甘味フェアがあるそうだ、都市部へ赴くぞ」
ついこの間まで童貞だったとは思えない自然な流れである。
甘味と聞いて、種族ペナルティで沢山食事を摂る一般メイドが、気付かないうちに生ツバを飲み込んでいた。
「あー、そのな、後で一揃い土産を貰ってくる」
「宅配も請け負ってるそうですから、41人分で多めに注文しておくわね?」
「も、申し訳ございません…イタダキマス」
恥ずかしそうに縮こまる一般メイドに、アルベドと顔を見合わせて笑ってしまう二人であった。
次回以降、ジルジル登場かしら。
本編敵ではない話で見てみたい話はありますでしょうか。書けるかは未知数
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