荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
捏造設定で、エンリの母上は元冒険者です。
皆様、感想ありがとうございます。評価点よりも励みになっています。
カルネ村の朝は早い。一日に家の中で使う水の用意の為、エンリ・エモットは細身では信じられない膂力で大きな水桶を小型の荷車に載せる。井戸周りには同じ様に、水桶を小型の荷車にそれぞれ載せる村人の姿がある。主婦やエンリのような若い娘が殆どだが、誰もが力を込めた様子も無く平気で四十キロ前後はある水桶を持ち上げていた。
「頑丈で軽いこれだけでも助かるわねぇ」
水運びは重要で重労働なのだが、この村においては一度に運べる量が桁違いのため女性達の憩いの場を兼ねている。村に在る水桶と小さな荷車は、始まりの九連星の一人が作ったもので、村人の自作の品と比べて頑丈で軽いため重宝されていた。各家に最低1つは荷車がある。
「そう言えば聞いたかい、エ・ランテルの噂」
「聞いたわよ、アインズ様が身分を隠して解決なすったんでしょ」
「その話じゃなくて、最初にアインズ様と一緒に来た鎧の護衛の方がおられたでしょ? 先日、あの光の船に乗って現れて、ラナー王女を殺したバカ王子とクソ貴族を蹴散らした話よ」
「ああ、それね。ジュゲムさん達が新しく現れたゴブリンさん達と、残党を…」
殆どの村人達は王国内での出来事と、エ・ランテルでの顛末は後から来た行商人や冒険者達からの又聞きだ。エンリはちょくちょく顔を見に来る薬師のンフィーレアから情報を仕入れている。ンフィーレアが憧れる始まりの九連星の話も込みで。先週は、新たな英雄モモンの話が追加された。妹のネムだけでなく、近所の子供達も大喜びだった。
「姐さん、おはようございやす」
「おはようございます、ジュゲムさん。いつもの巡回ですか?」
「ええ、俺らより強い連中が力を貸してくれるとはいえ、いざという時には仕事に集中して貰えるよう、こういう仕事は率先してやってまさぁ」
村人達に秘密にしているが、アインズ様から下賜されたマジックアイテム、ゴブリン将軍の角笛を使って最初に現れたのはジュゲム達、ゴブリンの一団だ。外部で現れるゴブリンより理知的で強く、もしかしたらゴブリンの中の上位種族ではないかと村に来る冒険者の一人は言っていた。
そして、先週ジュゲム達が緊張して伝えてきた元貴族兵の残党の襲撃は、もう一つ預っていたゴブリン将軍の角笛で呼び出された五千近くの整然と居並ぶゴブリン軍団に鎧袖一触と蹴散らされた。村人達は家族と村長一家を除いて誰も知らない間の出来事だ。村人達は、単にジュゲム達のお仲間が蹴散らしてくれた程度に思っている。
ただ、姐さんと呼ばれるのは百歩譲って承諾するとして、新たに現れたゴブリン軍団の面々が「将軍」と呼ぶのは勘弁して欲しい。
「他の皆さんも信頼していますが、付き合いの長い分、より頼りにしてるのはジュゲムさん達ですから、決して無理はしないで下さいね」
「ありがとうごぜぇやす。今日はナザリックから来られる方の許可の下、近くの荒れ地の開拓を軍師殿と詰める話のようなんで、昼の一番、同席をお願いできやせんか」
「わかりました」
いくつか、村長とエンリにだけ明かされている情報。偽装兵から村を守ったアインズ様は、実は別世界から来た皇帝陛下で、傭兵団と関わりのある皆さんはかつての仲間である事。そして、村に近い草原にかつての首都ナザリックごと現れた事だ。人の姿を捨てても穏やかで心優しい、慈悲深い方である。最近は身分を隠してモモンと名乗り、いくつもの偉業を成し遂げて最短でアダマンタイト級の冒険者となった。
「ふふ」
そんなアインズ様、いやモモン様の事を最近来る度に熱を帯びて語るンフィーレアは、髪に隠れた目がキラキラしている。事実を知っている自分はちょっとずるいのかもしれない。ただ、エンリと懇意にしているからと、始まりの九連星の方が彼を鍛えている話を聞いて、自分としてはモヤモヤっとしてしまう。
「私の事なんかどうでもいいのかな」
などと言ってみて自分でびっくりしてしまった。どうやら、ンフィーレアの目が他に向いている事に、寂しさと嫉妬心を感じている。
-
とはいえ、ンフィーレアがちょくちょく薬草採取と称して冒険者と一緒に村に来るのも、始まりの九連星の面々に目をかけられて鍛えて貰っているのも、英雄モモンの話をするのも、全てはエンリが気になっての事である。
ギルメン達としては、ユグドラシル産ポーションの研究をこっそりと委託しているバレアレ家に対し、対価の意味も含めて全てのマジックアイテムが使用可能という破格のタレント持ちの孫の保護を考えての行動だ。やや気弱だが、悪くない真っ直ぐな気質の持ち主である事も含めて。
「メカクレで希少タレント持ちで気になる女子が居る…」
「妹の世話する素朴な村娘への恋心」
「紛うことなきエロゲ主人公ですな」「普通に主人公じゃねえのかよw」
「若く美人なお母さんも居る」「お母さんからアプローチだった模様」
「NTR不可避」「やめて、夫が居るんです…!」「ちょwww茶釜さんwwww」「おいばかやめろ」
眼鏡に適うお相手が居なくて、仮想空間であるトランキルレーン常連が多かったギルメン達の中には、謎の結論から暴走をした挙げ句、ンフィーレアとエンリのもどかしい関係に業を煮やして、進展計画を本気で練る連中も居た。モモンガさん達の出現で有耶無耶になったが。
「…今度、聞いてみよっと」
開拓村も含め、この世界での人間種の出産適齢期は十代中盤以降だ。生物としては正しいサイクルである。既にエンリの同年代全て、結婚して子供も居たりする。
「父さん達も友達も特に圧力は無いけど、ネムがおねーちゃんお相手いないの? とか聞いてくるのがきつい…」
母親は冒険者から引退して開拓村に志願した際、不慣れな開拓で四苦八苦していた中、見捨てずに優しくして貰った父親にころっと落ちて、機会を狙って押し倒した後になし崩し的に結婚にもつれ込ませたらしい。
「よ、よし、私だって」
ちょっとはンフィーレアだって気にしてくれてる筈。なら、勢いと今の腕力でキセージジツ?を作ってしまえば、優しく責任感のある彼の事だから、責任を取ってくれるだろう。何よりよく考えたら開拓村には無い優良物件である。逃す話は無い。よし、やってやるぞ! と気合を入れる。誰だ「既成事実」とか教えたのは。
-
こうして、肉食系のエンリ将軍が爆誕。ターゲットはンフィーレア。身体性能の高いエンリに抗し切れるわけもなく、彼はエンリを娶ってカルネ村に移住する事になった。奥手であった孫が嫁をゲットした事に、リィジーは大いに喜んだ。
朝は毎度疲れているンフィーレアの為、トールにお願いして健康薬(EXP薬)をエンリは飲ませ、数日に一度だった所、どうにか毎晩満足行く結果に持ち込めるようになった(意味深)。
祖母のリィジーは、優秀な助手であったンフィーレアの移住でポーション研究が滞るかと思いきや、ナザリックから派遣された錬金術師の傭兵モンスター「偽パラケルスス」達の協力により研究は加速度的に進んだ。
「神の血の完成、私の代で目にできるとは…」
王国の事情が落ち着いて魔導皇国よりエ・ランテルに駐在大使が派遣された日、
リィジーはひ孫の誕生の知らせを受けると同時に、低級の赤ポーションを完成させたそうな。
行為が数日に一度だったのか、満足できるのが数日に一度だったかはご想像にお任せします(殴
本編敵ではない話で見てみたい話はありますでしょうか。書けるかは未知数
-
ウェイストランドの話
-
ナザリック内での話
-
ナザリック外での話
-
ナザリックに関係した人の話
-
ナザリックに無関係な話